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八章御三家と球技大会とアンチ王道

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 一方その頃、Eクラスの女子達もバレーの試合で百合ノ宮二年を下していた。

「さすが悠里のレシーブね」
「一応バレー部だったからね。みんなより経験ある分活躍しなきゃ。身長が低いせいでアタッカーには向いてなかったけど、ボールを拾う事だけはがんばったから」
「あら、あたしも活躍したじゃないの!ちゃんと試合に出場したわよぉ?」

 どや顔で私のおかげよと言わんばかりの態度にせせら笑いを浮かべる面々。花野は女子達の間でも関わると面倒な子だと思われているので、それぞれが適当に相槌を打つ。

「そうね。総子ちゃんも出場してくれてありがとう」
「ぐふふ、あたしは出場するだけで勝ち運をあげる女だからぁ!愛する甲斐君のために人肌脱がなくっちゃ!うふふふふ」

 傲慢な花野の笑みに、あんたボールから「きゃんコワい」と逃げてるだけで何もしてねーだろ……と、突っ込みたいEクラス女子一同。

「それにしても、いつも球技大会さぼる恵梨ちゃんも出場してくれるなんて驚いたよ。最近珍しく学校にも毎日来るようになってるし」

 悠里が恵梨に感謝を述べると、篠宮は照れたように飲料水を飲む。

「ただの気まぐれに決まってんだろ。サボっても暇だし、架谷や宮本を見てたらなんかおもしろそーかなって思っただけ」
「それでも助かっちゃった。人数不足で参加できないとなっちゃうと優勝できないしね」
「そんな事言って、あんたはクラスの事より架谷のためにしか考えてなさそうだよね」

 篠宮の悪戯っ子のような流し目に、拒否するまでもなく悠里は照れた笑みを浮かべる。

「それはもちろん……でもクラスの事も少しだけ考えてるのは本当だよ。最近のクラス内って纏まってきてる感じがするし。……ねえ、恵梨ちゃん」
「何……」
「恵梨ちゃんはさ、甲斐くんの事、好きなの?」
「…………はっ?」

 悠里の唐突な場違いな質問に唖然として飲料水を落としそうになる。その顔は徐々に焦りのようなものが見えて、少しの感情の変化でも悠里は脈がありそうだと判断した。

「だって、何かと恵梨ちゃんて甲斐くんに対してだけ心を開いている感じだし、最近仲よさそうだし、どうなのかなって。宮本くんとも仲がいいけどさ」
「なんともないに決まってんでしょ!誰があんなキモオタなんか!」
「本当に?本当になの?顔赤いけど」
「あ、赤いのは驚いたからだろ!あと今日は暑いし!そんな事より、あっち見てみな」

 篠宮がちらりと指指す先には、ちょうど男子バスケの二年Eクラスの試合が始まっている。

「あ、もう甲斐くんの試合始まってる!」
「あんたが大好きな架谷の試合でしょ。見たかったんだろ」
「……うん」

 頬を初々しい少女のように染めている悠里。

「恋する乙女って顔しちゃって……おめでたい女」

 悠里と恵梨の視線の先には、甲斐が汗をかきながら颯爽とドリブルしている姿が映る。同じ学校の三年Aクラス相手でも全く引けを取らないどころか、甲斐の素早い動きに相手は全く追いついてこれない様子だった。

 甲斐は小学校時代は運動神経が鈍いスポーツ嫌いであったが、修行を経て精神的にも肉体的にも強靭となり、体を動かす事が好きになったんだとか。そんな彼女の贔屓目から見える甲斐の今の姿は、どんなイケメン俳優なんかより素敵で魅力的に映っている。

 そして、甲斐が目の前に迫るゴールネットに豪快にダンクシュートを決めた。

「きゃああ!甲斐くんってばカッコイイっ!」
「あいつ……」
「あー!恵梨ちゃん今甲斐君の事カッコイイとかときめいたでしょ!?」
「思うかっ!」
「その動揺してる顔がそう見えるよっ!」
「お前の思い違いだバカ!」

 篠宮の心中は果たして本当のところはどうなのか悠里も把握できなかったが、やはり脈はあるようだなとダークホース的存在に油断はできないと判断した。二人のそんなやり取りを露知らず、当の本人の甲斐はダンクを決めた時にすら脳内は二次元美少女のエロ妄想で覆いつくされていたのであった。


 *

 バスケの方も三年Aクラス相手に快勝した。
 Aクラスってだけで結構強敵だったが、箱入りの金持ちのお坊ちゃんだらけなのでどうってことはない。最近やったエロゲの内容を考えるほどにはまだまだ余裕があったしな。脳内だけはスポーツマンシップにのっとってはいないが、妄想だけは自由だ。許せ。

「お前の中二病も役に立ったな竜ケ崎」
「ぼくは伝説の邪神竜なので当然だ!きりっ」
「ならば今後次第でがんばって魔界の王にでもなってくれよ」

 最初はあれほど球技大会に参加したくないと中二用語で喚いていた竜ケ崎も、なんだかんだ言って活躍してくれたんだなこれが。こんな奴でも使いようによってはいいディフェンスになってくれる。ほとんど奴の中二演技で三年Aクラス連中を引き付けてくれたおかげだ。

 え、どういう事かって?あーゆー事よ。

 バスケ二試合目は無才学園の1年Sクラス。無能でムサイと言われている無才とはいえ、Sクラスなので結構強敵なのだが、竜ケ崎がやってくれたのだ。

「おれの野生の魂よ!我が前にて姿を現しこの運動場世界に終焉をおおお!!」
「ぎえええ!なんだこいつ!」
「ワールドオブデス!ワールドオブデース!!」

 呪いの言葉のように世界崩壊を呟きながらドリブルをする姿は、相手からすればさぞや不気味で恐ろしいようで、無才の連中はビビって一瞬だけ動けなくなるのだ。

 最初は俺も意味がわからなかったが、こいつがボールを持つ度に(世界崩壊の呟きを見て)相手が勝手に怯むようになり、咄嗟にこれは使える!と判断した俺達は竜ケ崎に(わざと)パスを出しまくった。おかげで前半は竜ケ崎の独壇場となり、無才はガクブル状態。

 こいつ頭いかれてんのかと茶々を入れようものなら、その形相を見て茶々を入れた奴が今度は戦慄するそうだ。え、意味がわからんって?俺もやっぱりわからんよ。

 試合が進むたびに竜ケ崎の呟きも慣れてくると思いきや、今度はボールを持った相手に向かって「お前は悪魔だ!」とか「悪魔悪魔サタンサタンサタンよ去れ!悪霊退散!」と、指をさしてひたすら連呼してくるようになり、もう無才は恐怖でお手上げ状態。

 奴を止められないどころか恐ろしくなってついボールをパス(敵に)してしまうらしい。なんか……同情するわ……。

 他人事みたいに聞いている分には大げさだなって思うかもしれんが、ところがどっこい。悪魔だなんだを言うだけなら大した事はないが、何かに取り憑かれたような形相をして追いかけてくる所がポイント。まるで鬼や般若か大蛇かそんな顔の類に見えたんだ。それで悪霊退散だサタンよ去れだとか鬼気迫った顔で言われてみろ。そう言ってるお前が悪霊なんじゃねーの?ってな。

 竜ヶ崎が本当に悪霊に取り憑かれたんじゃね?って心配するほどに肝が冷えたっつーか、中二病がますますこじれそうだなとか、まあとにかく味方でよかったデス、はい。

 中二病もここまでくると現実味を帯びてくるのだろうか。どっかの宗教団体の勧誘を追い払う時に「サタンよ去れ!」は役に立ちそうだな。


「ひいい!こいつ頭いかれてんじゃねーのか!?」
「つーか開星の奴らって基地外多すぎー!」
「はあ……なんかぼくやーめた!あんな基地相手にするくらいなら四天王様や生徒会長の天草様追いかけるし~」

 無才のナヨナヨした野郎共はもはや戦意喪失して化粧直しに興じている。こいつらにスポーツをやる資格などないわ!カマホモ共め!

「よし、屯田林!あのスポーツを冒涜するカマホモ共にトドメさしてこい!」

 俺が命令を出すと、巨漢の屯田林は「ガッテン承知の助!」と大声で応答。

「うおおおおくらうがいい!悪臭の呼吸、拾壱の型、激臭パンツドリブルだあああ!!」

 屯田林がオタ熊と自分の二週間は風呂に入っていなかった時のパンツをジャージの上に穿き、ドリブルをしながらそのまま特攻した。ナヨナヨした野郎共を一気に地獄へ叩き落とすドリブル(もはや攻撃)である。

「ぎょええええ!くっせえええ!!」
「おええええええ!!」
「し、しぬううう!!」

 俺達選手どころか観客すら臭そうにしているそのパンツの威力は、もはや野原ひ●しの靴下並みに凶器であり、カマホモかゲイしかいねえ無才の奴らですら翻弄する。さすがにオタ熊と屯田林の二週間放置パンツは俺でさえも鼻をつまむレベルだ。激臭で嘔吐しそうになる、おええええっ。不潔キモオタナンバーワンの称号は奴らにくれてやろう。お前らがナンバーワンだ!

「いや~順調順調!天晴れじゃ!」
「これも個性的な俺達Eクラスの団結力のおかげだな」
「食堂タダ券のために命かけてる奴もいるしな、当然よ」

 バスケもサッカーも女子のバレーも順当に勝ち進み、準決勝の試合前という所で女子の黄色い悲鳴が響いてきた。いい気分で勝利に浸ってたのにうっせぇなあ。どうせ天草がカッコツケマン演じたんだろうなとスルーしていたら、そうではなかった。

「きゃああ!直様とハル様がいらっしゃるわ!」
「うそー!直様とハル様がいらっしゃるなんてっ!」

 女子達が一斉に奴らが現れた先へ雪崩のように走っていく。どっかのアイドルのコンサート会場みたいなノリに早変わりし、相変わらずというかなんというか……つーかあいつらきてんのかよ!なんで球技大会なんかに?と、詳細を確かめるべくこっそり遠くから眺めると、本当に矢崎直と久瀬晴也が来てやがった。まじかよ。

「なあ、まずくね?まさかの四天王が参加って優勝が危ういぞ」

 なっちや吉村がどうしようと慌てだす。 

「いや、ただ見に来てるだけかもしれんし……」
「でも、あの二人ジャージ着てるぞ」
「「…………」」

 オーノーっ!!

 なんであいつらたかが球技大会ごときに参加すんだよ!!仕事じゃなかったのかーー!?

 しょ、食堂のタダ券獲得が難しくなるではないかぁああ!

 ほとんどの観客が四天王の方に流れていき、全校生徒の大半と無才と百合ノ宮の四天王ファンもそちらに大集結していた。ここで今から武道館ライブすんのかよってくらいの熱気と人数の多さに俺達Eクラスはドン引き。四天王を見たいがためにそこだけ二千人くらいは集まっているのだ。準決勝から参加とか、地味に美味しい所を持っていく気なのが腹立つ。なんでいんだよお前ら。

「きゃー!ハル様ああ!」
「かっこいいいい!!」

 久瀬がボールを手にすると、華麗に鮮やかに次々と敵である無才の連中を抜いていき、スリーポイントシュートを決める。途端にミーハーな女子の甲高い悲鳴が今までで一番大きく響いた。

 さすがにうまいな。今まで戦った奴らが全員雑魚中の雑魚に見える動きだ。

 一方で矢崎といえば、ゴール前で腕を組んで突っ立っているだけである。何しに参加したんだよお前は。そんなに食堂のタダ券がほしいのか?いや、それはありえないか。あんな超大金持ちが食堂タダ券なんぞ雑草以下の価値だろうし、じゃあなんで参加を……?

 もしかして……決勝戦でMVPになるとキスできる権利目当て……?

 損得でしか動かない奴の理由なんぞそれしか考えられない。久瀬は矢崎に仕方なく誘われてとかそういうのだろうけど。

 まじか。そんなにも俺とのキス券を頂きたいのかこの野郎。いつでもできる距離にいながらもあいつめ。

 俺は矢崎が考えている事がわかってしまい、これは参ったなぁと頭をかいた。

「ん、どうしたんだよ甲斐。顔赤いぞ」
「あ、いや、なんでもない」

 矢崎が俺のキス目当てだとしたら、なんか……胸がぎゅっと締め付けられて、ドキドキしてしまった。乙女か。きめえな最近の俺って思うのに、あいつの前だと妙に自分が女のように思えてきて、普段の自分と矢崎の前にいる自分の人格が全く違ってきている気がするよ。

 俺、こんな乙女志向だったっけ。
 だって、矢崎に想われて嬉しいとか……いろいろ思っちまって……。

 あーうーもう、直のばか……。キスくらい……いつでもしてくれていいのに。もう…………好きだよばかぁ。

 
「あ、直様にボールが渡ったわ!」

 ゴール前に突っ立っていただけの矢崎の方にボールが流れてくる。すぐに無才の生徒が手を伸ばそうとするが、

「ひぃっ!!」

 矢崎の鋭い殺気が、ボールを拾おうとした生徒を動けなくさせた。恐ろしい眼力に怖気づき、金縛りにかかったのである。

 うわーご愁傷様。あいつの眼力と威圧感は俺以上なのでそこは仕方がない。とりあえず動けるまでドンマイ。

 ボールはそのままコロコロと転がり、あっさり久瀬の元へ戻る。そして、ドリブルからのレイアップシュートでまた点数を量産した。矢崎は腕を組んだまま全く動かなかった。
 
「なんで直様は活躍なされないのかしらー」
「きっと決勝戦まで温存されているのよ。ハル様だけで充分だって判断されたのかも」

 それは一理ありそうだ。 

「そうよねーハル様だけで十分ってことよね。あの二方はとっても運動神経抜群でオリンピック選手レベルだって聞いているもの。はああん、さすが私達の直様とハル様だわーきゃー!」
「穂高様と拓実様はお仕事で来られないみたいで残念だけど、あのお二方を見られただけでも儲けものよ!あー美しい男子二人……目の保養になるぅ」

 穂高と相田か。道理であのうるさい二人がいないと思ったら仕事でいないのか。俺的に静かでいいのでよかった。

「くそ!このおれが四天王の矢崎と久瀬の人気に負けているだなんてっ!」
「あいつら、じげん、ちがう」

 会計の田所という奴と書記の篠田ってのが二人がかりでも久瀬相手に手も足も出ないようだった。しかも、矢崎と久瀬に母校ファンを取られてしまったようで、その本人達はもう見る影もなく悔しさに打ち震えている。試合においても品格においてもボロ負けもいい所で、自分達のファンですら流れてしまう始末だ。この場がもう公開処刑と化している状態である。

 ふむ、イケメン同士の覇権争いも見るからに負けを晒されると惨めなものではあるな。厳しい世界である。

 当然、試合も矢崎と久瀬率いる開星Sクラスが圧勝して決勝に進んだようだ。サッカーの方は四天王は参加していないので無才に負けたようだけどな。

 ふう、つくづく相田と穂高がいなくてよかったっ。

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