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五章仮面ユ・カイダー爆誕
5ー11
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あーねみい。
昨日、遅くまでゲームしたせいで眠気がいつもよりひどいぜ。
生徒達が三々五々登校してくる学校前をあくびしながら歩く。いつもと違って校門前付近は騒がしかった。正門からは見渡す事の出来ない曲がり角に、数人ずつの淀みができては消えていく。教師たちが抜き打ちの服装チェックをしているようだった。
うわ、面倒くせー。こういう時に限ってかよ。
今日は寝癖と制服のヨレヨレさがいつもよりだらしないので、何か文句は言われるだろうな。
「はい、次ー。えーとスカート丈は……」
担任の万里ちゃん先生も服装チェックに駆り出されたのか朝から忙しない様子だ。朝の早くから呼び出されて先生も大変だな。
制服を正しく着ているか、変な装飾を身に着けていないかの検査は他校のしているものとそう変わりない。変わりないが、そもそも服装チェックとやらがある割に、Sクラスの令息令嬢に対しては完全スルーなのが納得いかない。というか不公平である。
あんなキラキラなネクタイやらジャラジャラつけているのにお咎めなしなんだぜ?さすが上級国民様だよな。
中世みたいなお貴族様優遇ってわけで我々平民はやってらんねーよ。これだから金持ちっつうか上級国民様は嫌いだ。
四天王なんていつも私服で制服ですらないけどさ。奴等らに今さら制服なんて似合わないから着なくてもいいんだけど、不公平感は否めない。
つーかこの頃頻繁にチェックが行われている気がする。
たしかにこの学校は金持ち学園ではあるがいろんな不良が多いと思うし、暴走族のチーマーやらやくざモンの子息とかが生徒の中には存在しているわけだが、日本一金持ちで有名な開星学園としての外からの品行方正のイメージを保ちたいのだろうな。ひどい学園カーストがまかり通り、秘密の花園という犯罪行為をしているくせに白々しい真面目学校アピールである。
「もーこれくらいで文句言いすぎだし」
「化粧くらい今時のJKならだれでもするっつうの」
他所の下級クラスの女子達がそれぞれ文句を愚痴っている。
女子に至ってはスカート丈の長さや、化粧をしているかなどのチェックまでされるので、女子達が一様にうんざりした様子でスカート丈を伸ばしている。男子は女子ほど厳重ではないので、染髪や装飾さえ付けていなければあっさり解放される。俺に至ってはEクラスなのでより厳重に検査されるけどな。身分差別乙である。
「架谷くんは髪の毛の寝癖が一段と今日はすごいですね。あと制服着崩しすぎです。ちゃんとネクタイ着けてボタンをとめなさい」
万里ちゃん先生だけだよな。SクラスだとかEクラスだからって分け隔てなく検査するのは。
他のバカ教師共なんてSクラスとか上級クラスばかり優遇して見て見ぬふり。この学校の教師は万里ちゃん先生以外はクソしかいねーな。
「遅刻しそうになってさ、整える時間がなかったんだ」
「言い訳は生活指導室で聞きます」
「へいへい」
「そういえばもうすぐ期末テストだけど、ちゃんと勉強しているの?」
万里ちゃん先生が一週間後の期末テストの事を訊いてきた。うわ、俺にとっての地雷質問である。
「え、ああ、まあー……ぼちぼちでんな~」
目を泳がせる俺に先生は「してないのね」と言わんばかりに深いため息を吐いていた。
たしかにほとんど勉強していないというかこの俺がするわけがなかろう。開き直るなとか言われそうだが、裏社会との戦いやら、じいちゃんとの修行やら、やりたいゲームやらが貯まっててさ、勉強する時間なんてないに等しいんだよねー。えへん。
「今回のテストで夏の補習が決まるから……ちょっとは勉強しておかないとだめですよもう」
「げ、補習……そんなもんあるんだった……!」
完全に忘れていたぜ。あと先日やった数学の小テストはものの見事に一桁の点数だったのは予想通り。0点じゃないだけ奇跡である。
「せめて数学じゃなくてもいいから少しは勉強しなさい。留年になっても知りませんよ」
金を払えばどうって事ないこの学園も、あまりに成績がひどいと留年の危機がある。
つまり、開星学園で留年するイコール相当バカって意味なので、留年しないためにも他の教科の勉強くらいはしようかなとかさすがに考えておるよ。気が進まないけど。たぶん健一を筆頭とする落ちこぼれバスターズの皆も同じことを言われただろうと思うので、今度みんなで嫌々ながら勉強大会だ。
「っ……わ、わかってるよ。勉強はする……よ。それより先生のまわりは平和になったのかよ。浅井みたいなヤツとかに絡まれてない?」
「ふふ、あなたのおかげであれから平和になりましたから大丈夫です。もし何かあったら報告しますから」
「そうしてくれ。浅井を預かってる身としては責任があるからな」
先生との会話を終えて下駄箱へ向かう途中、背後にいる生徒達の声が一際大きくなった。
「菜月君だ」
「菜月くーん!」
「会長様ー!」
「相変わらず可愛いー!」
遠巻きに囁かれる絶賛の声。うっとりして見惚れて立ち止っている生徒達が続出している。
みんなの視線の先には、フワフワした蜜蜂色の髪に華奢な背格好の男子生徒が立っていた。
「なんだあのモヤシみたいな男」
俺がぼうっと騒がれているモヤシ男子を眺める。腕がひょろひょろで女みたいである。
あの女顔の宮本くんの方がまだ細腕でありながら筋肉がありそうに見えるくらいだ。その宮本くんは最近強くなりたい一身で俺のじいちゃんの弟子がやっている近所の道場に通いだしたと聞いた。毎日筋トレと修行をかかさないようで、少しずつ見違えるようになってきている。喜ばしい事だ。
「あら甲斐ってば知らないの?会長だよ」と、横にいた由希が教えてくれた。
「え、あれ生徒会長なのか。初めて知った」
「名前は草加菜月。Sクラスで、親がファッションやコスメ系の会社を経営している四天王の次に人気な生徒だよ。で、四天王の親衛隊長でもある」
「親衛隊長……ってそんなのいるのかよ。あと四天王の隊長って男なんだな」
俺をいつも陥れようと嫌がらせしてくるモン共の隊長か。そりゃくせ者だな。
「彼は四天王ファンクラブ第一号だから隊長らしいわ。特に矢崎直にお熱って噂よ」
「……そうなんだ。矢崎にお熱ねー。でもあいつ男だよな。男なのに四天王のファン第一号なのか?」
「同性だけど同性のファンくらいいるでしょ。草加がゲイかホモかは知らないけど」
「ふーん……ファンクラブ第一号ねー」
なんだかちょっとだけ心の奥がもやっとしたがなんでだろう。気のせいかな。
ぼーっとしていると、女子の黄色い声援が先程より数倍大きくなった。
校舎のVIP専用入り口に細長いリムジンが停車する。執事のご老人と秘書の久瀬さんが降りてきたのでもう誰かなんて言わずもがな。
「きゃああ!直様ーっ!」
「直ーっ!」
「超カッコいいいい!!」
「きゃーー今日も超絶イケメンすぎいいい!!」
「おはようございますううう!!」
あーうるせー。四天王出待ちの儀式みたいなもんに遭遇してしまったよ。運悪ぃなって事で早々に避難だ。興味のない野郎共からすれば騒音以外の何物でもないのではやく教室に行こう。
下駄箱に靴を入れながらもう一度チラリと向こうの方を眺めると、草加が頬を染めながら矢崎に話しているのが見えた。仲が良さそうなのか話が弾んでいるようである。
ふむ、矢崎に仲がいい奴ができるのは良い事だ。
「あの二人、いろんな意味で危険だよねー」
「ねー!なんかお似合いだよねー」
一部の女子達が頬を染めて特殊な想像をしている。どんな意味で危険なんだか。俺は腐男子じゃねーので想像したくねーわ。
「架谷!」
「ひっ!」
俺は教室へ向かおうとした矢先、油断していたせいかびくっとして悲鳴をあげてしまった。まさかこんな人の往来で話しかけてくるとは思わず、あたふたと慌てる。
「来てたんだな」
矢崎がなぜか上機嫌に近寄ってきた。
おいお前さんよ、学校では話しかけてくるなと前に言わなかったか?俺とお前は学園では身分差があるんですぞ。ってことで他人のふり。
「人違いです。俺は弱田雑魚次郎です。架谷じゃありません。従者としてパシリたいならまた後でに……」
俺は慌てて頭に手拭いを巻き付けて鼻眼鏡を素早くかけた。今からドジョウすくい踊りでもするような顔で。
そして、くるっと背中を向けて現実から逃げることにした。
こんなみんなの前で堂々と会話をしていたら、親衛隊にまたイチャモンつけられて嫌がらせがひどくなるし、Eクラスのみんなへの嫌がらせもプラスされるので勘弁してもらいたい。
昨日、遅くまでゲームしたせいで眠気がいつもよりひどいぜ。
生徒達が三々五々登校してくる学校前をあくびしながら歩く。いつもと違って校門前付近は騒がしかった。正門からは見渡す事の出来ない曲がり角に、数人ずつの淀みができては消えていく。教師たちが抜き打ちの服装チェックをしているようだった。
うわ、面倒くせー。こういう時に限ってかよ。
今日は寝癖と制服のヨレヨレさがいつもよりだらしないので、何か文句は言われるだろうな。
「はい、次ー。えーとスカート丈は……」
担任の万里ちゃん先生も服装チェックに駆り出されたのか朝から忙しない様子だ。朝の早くから呼び出されて先生も大変だな。
制服を正しく着ているか、変な装飾を身に着けていないかの検査は他校のしているものとそう変わりない。変わりないが、そもそも服装チェックとやらがある割に、Sクラスの令息令嬢に対しては完全スルーなのが納得いかない。というか不公平である。
あんなキラキラなネクタイやらジャラジャラつけているのにお咎めなしなんだぜ?さすが上級国民様だよな。
中世みたいなお貴族様優遇ってわけで我々平民はやってらんねーよ。これだから金持ちっつうか上級国民様は嫌いだ。
四天王なんていつも私服で制服ですらないけどさ。奴等らに今さら制服なんて似合わないから着なくてもいいんだけど、不公平感は否めない。
つーかこの頃頻繁にチェックが行われている気がする。
たしかにこの学校は金持ち学園ではあるがいろんな不良が多いと思うし、暴走族のチーマーやらやくざモンの子息とかが生徒の中には存在しているわけだが、日本一金持ちで有名な開星学園としての外からの品行方正のイメージを保ちたいのだろうな。ひどい学園カーストがまかり通り、秘密の花園という犯罪行為をしているくせに白々しい真面目学校アピールである。
「もーこれくらいで文句言いすぎだし」
「化粧くらい今時のJKならだれでもするっつうの」
他所の下級クラスの女子達がそれぞれ文句を愚痴っている。
女子に至ってはスカート丈の長さや、化粧をしているかなどのチェックまでされるので、女子達が一様にうんざりした様子でスカート丈を伸ばしている。男子は女子ほど厳重ではないので、染髪や装飾さえ付けていなければあっさり解放される。俺に至ってはEクラスなのでより厳重に検査されるけどな。身分差別乙である。
「架谷くんは髪の毛の寝癖が一段と今日はすごいですね。あと制服着崩しすぎです。ちゃんとネクタイ着けてボタンをとめなさい」
万里ちゃん先生だけだよな。SクラスだとかEクラスだからって分け隔てなく検査するのは。
他のバカ教師共なんてSクラスとか上級クラスばかり優遇して見て見ぬふり。この学校の教師は万里ちゃん先生以外はクソしかいねーな。
「遅刻しそうになってさ、整える時間がなかったんだ」
「言い訳は生活指導室で聞きます」
「へいへい」
「そういえばもうすぐ期末テストだけど、ちゃんと勉強しているの?」
万里ちゃん先生が一週間後の期末テストの事を訊いてきた。うわ、俺にとっての地雷質問である。
「え、ああ、まあー……ぼちぼちでんな~」
目を泳がせる俺に先生は「してないのね」と言わんばかりに深いため息を吐いていた。
たしかにほとんど勉強していないというかこの俺がするわけがなかろう。開き直るなとか言われそうだが、裏社会との戦いやら、じいちゃんとの修行やら、やりたいゲームやらが貯まっててさ、勉強する時間なんてないに等しいんだよねー。えへん。
「今回のテストで夏の補習が決まるから……ちょっとは勉強しておかないとだめですよもう」
「げ、補習……そんなもんあるんだった……!」
完全に忘れていたぜ。あと先日やった数学の小テストはものの見事に一桁の点数だったのは予想通り。0点じゃないだけ奇跡である。
「せめて数学じゃなくてもいいから少しは勉強しなさい。留年になっても知りませんよ」
金を払えばどうって事ないこの学園も、あまりに成績がひどいと留年の危機がある。
つまり、開星学園で留年するイコール相当バカって意味なので、留年しないためにも他の教科の勉強くらいはしようかなとかさすがに考えておるよ。気が進まないけど。たぶん健一を筆頭とする落ちこぼれバスターズの皆も同じことを言われただろうと思うので、今度みんなで嫌々ながら勉強大会だ。
「っ……わ、わかってるよ。勉強はする……よ。それより先生のまわりは平和になったのかよ。浅井みたいなヤツとかに絡まれてない?」
「ふふ、あなたのおかげであれから平和になりましたから大丈夫です。もし何かあったら報告しますから」
「そうしてくれ。浅井を預かってる身としては責任があるからな」
先生との会話を終えて下駄箱へ向かう途中、背後にいる生徒達の声が一際大きくなった。
「菜月君だ」
「菜月くーん!」
「会長様ー!」
「相変わらず可愛いー!」
遠巻きに囁かれる絶賛の声。うっとりして見惚れて立ち止っている生徒達が続出している。
みんなの視線の先には、フワフワした蜜蜂色の髪に華奢な背格好の男子生徒が立っていた。
「なんだあのモヤシみたいな男」
俺がぼうっと騒がれているモヤシ男子を眺める。腕がひょろひょろで女みたいである。
あの女顔の宮本くんの方がまだ細腕でありながら筋肉がありそうに見えるくらいだ。その宮本くんは最近強くなりたい一身で俺のじいちゃんの弟子がやっている近所の道場に通いだしたと聞いた。毎日筋トレと修行をかかさないようで、少しずつ見違えるようになってきている。喜ばしい事だ。
「あら甲斐ってば知らないの?会長だよ」と、横にいた由希が教えてくれた。
「え、あれ生徒会長なのか。初めて知った」
「名前は草加菜月。Sクラスで、親がファッションやコスメ系の会社を経営している四天王の次に人気な生徒だよ。で、四天王の親衛隊長でもある」
「親衛隊長……ってそんなのいるのかよ。あと四天王の隊長って男なんだな」
俺をいつも陥れようと嫌がらせしてくるモン共の隊長か。そりゃくせ者だな。
「彼は四天王ファンクラブ第一号だから隊長らしいわ。特に矢崎直にお熱って噂よ」
「……そうなんだ。矢崎にお熱ねー。でもあいつ男だよな。男なのに四天王のファン第一号なのか?」
「同性だけど同性のファンくらいいるでしょ。草加がゲイかホモかは知らないけど」
「ふーん……ファンクラブ第一号ねー」
なんだかちょっとだけ心の奥がもやっとしたがなんでだろう。気のせいかな。
ぼーっとしていると、女子の黄色い声援が先程より数倍大きくなった。
校舎のVIP専用入り口に細長いリムジンが停車する。執事のご老人と秘書の久瀬さんが降りてきたのでもう誰かなんて言わずもがな。
「きゃああ!直様ーっ!」
「直ーっ!」
「超カッコいいいい!!」
「きゃーー今日も超絶イケメンすぎいいい!!」
「おはようございますううう!!」
あーうるせー。四天王出待ちの儀式みたいなもんに遭遇してしまったよ。運悪ぃなって事で早々に避難だ。興味のない野郎共からすれば騒音以外の何物でもないのではやく教室に行こう。
下駄箱に靴を入れながらもう一度チラリと向こうの方を眺めると、草加が頬を染めながら矢崎に話しているのが見えた。仲が良さそうなのか話が弾んでいるようである。
ふむ、矢崎に仲がいい奴ができるのは良い事だ。
「あの二人、いろんな意味で危険だよねー」
「ねー!なんかお似合いだよねー」
一部の女子達が頬を染めて特殊な想像をしている。どんな意味で危険なんだか。俺は腐男子じゃねーので想像したくねーわ。
「架谷!」
「ひっ!」
俺は教室へ向かおうとした矢先、油断していたせいかびくっとして悲鳴をあげてしまった。まさかこんな人の往来で話しかけてくるとは思わず、あたふたと慌てる。
「来てたんだな」
矢崎がなぜか上機嫌に近寄ってきた。
おいお前さんよ、学校では話しかけてくるなと前に言わなかったか?俺とお前は学園では身分差があるんですぞ。ってことで他人のふり。
「人違いです。俺は弱田雑魚次郎です。架谷じゃありません。従者としてパシリたいならまた後でに……」
俺は慌てて頭に手拭いを巻き付けて鼻眼鏡を素早くかけた。今からドジョウすくい踊りでもするような顔で。
そして、くるっと背中を向けて現実から逃げることにした。
こんなみんなの前で堂々と会話をしていたら、親衛隊にまたイチャモンつけられて嫌がらせがひどくなるし、Eクラスのみんなへの嫌がらせもプラスされるので勘弁してもらいたい。
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