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三章Eクラスのヒーロー

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 Eクラスのオタメンバーは顔はブサメンで女にはモテないが全員いい奴だ。俺と同じ趣味だからっていうのもあるが、純粋な奴が多いのだ。童貞なのもあるけどな。

 一部に幼女好きな危ないロリオタや熟女好きオタもいるが、Aクラスや理事長共をこらしめてやるっていう悔しさを持っているのには変わりないので、共に倒すという利害が一致し、派閥があるクラス内でもそれなりに協力しあっている。Eクラスって言われているだけあって一癖も二癖もあるけどな。
 それにしても、人間てのはある意味この世で最も恐ろしい生物なのかもしれない。いきなりこんな話で何言ってんだって話だが、この学校の現状を見てりゃあその恐さの縮図が出来上がっているなぁと思ってしまうのだよ。
 
 中世のお貴族様かって思うようなリアル身分制度やら学園カーストやら、それに異を唱えるものは理不尽に制裁され、断罪される。一種の魔女狩りのように思う。それが今のこの学校の成れの果てと言うべきか。そのおかげかまともだった者が学園の暗黙の制度によって無意識にフォースの暗黒面に落ちていき、次第にAクラスみたいな考えの人間が大半を占めるようになると。元凶はあの理事長共なのだろうが、四天王という存在が出来てしまっているのも原因の一部だろう。

 この学園を根本的に変えない限り、この学園のひどい身分差別は消えないだろうな。やはり理事長共の秘密の花園の壊滅と矢崎の更正は大事になってくるようだ。毎日苦労しているEクラス達の平和を守るイコール俺の平和だからな。

 あー面倒くせーな。俺としてはただ平和的にのんびり学園生活送りたいだけなのにー。クラスメートの野郎共とキモオタライフ満喫して過ごしたいだけなのに、毎日戦いに巻き込まれる俺って不運だ。だけどお人好しの血が流れる俺はEクラスを放っておけないので、今後も俺の腑に落ちない活躍は続くのである。あー人間やめたい。
 そんな風に悶々と今後の事にため息を吐いていると、そこらで転がっていたAクラスのレスラー軍団が起き上がった。Eクラスのオタ達が「ひっ」と上ずった声でビビるので俺が腕を組んで手前に出る。

「ん、まだ遊びたいのか?」
 俺としてはエロゲして遊びたいよ。
「よ、よしてくれ。俺たちはもうお前と戦うつもりはねーよっ」
「あらそう。ならよい」

 こいつらはもう戦意喪失しているようだ。特にリーダー格にはキンタマに結構ダメージを与えたので心のダメージも大きそうだ。今後は男じゃなくて漢女になるだろう。

「お、お前みたいに強い奴がいるってわかってどうやらおれらは得意気になっていたみたいでな……自惚れていたようだ。トレーニングをやり直そうと思う」
「それはいい心がけだが、お前らAクラスのくせして弱いものから金せびろうとはどういう思考回路してんだ」
「そ、それはただ……す、す、好きな子がお金に困ってて、助けてやりたいと思って手っ取り早く金をEクラスから巻き上げようと」
「は……?なんだそれ」

 俺はあきれて物も言えなかった。そして沸々と怒りがわいてきて、気がつけば怒りと呆れでリーダー格のナニをガシっとつかんでいた。途端に「おぎょえ!」って変な声を出した。

「そのてめえの好きな子とやらがな、奪い取った金をもらって嬉しいと思うか?あ?このダラボケがよ!!」

 ぎりぎりとこいつのナニを掴む俺って事情を知らない奴から見れば変態以外の何者でもない。でも怒りを抑えられないんだ。眠気もあるし。

「ひ、ひいいい!き、キンタマにぎるのやめてけれえええええ」
「痛いか?そら痛いだろうな。キンタマ握られりゃあな。だがな、EクラスのみんなはてめえらAクラスの仕打ちにそれ以上に傷ついてたんだ。裸でボコボコにした上に金をとろうとはてめえには良心てのがねぇのか!ああ!?」

 言いながらどんどん俺は握る手を強めた。

「おぎやああ!」と、悲鳴をあげる目の前の野郎。俺自身もやってて自分のキンタマがヒュンってなってきたので名残惜しいがこれで手放してやった。男からすれば痛々しい行為だからな。あと野郎のキンタマ握ってる自分がキモいと思ったからだ。あー俺って何やってんだろ。ばかみたい。と、自己嫌悪に陥りながら握ったこいつを見下ろすと泡を吹いてピクピクしている。
 今後、こいつらがまた悪さしかねないので脅しという意味でこの屈辱的姿を写真におさめておく。何事も抑止力というのは大事である。

「お、お前は、す、好きな子のために何かしてやりたいって気持ちが理解できないのかっ!この鬼悪魔!キンタマ握るなんてそれでも一介の男か!」

 俺の残虐行為を見ていた残りのレスラーがキンタマを押さえながらブーイングしてきた。
 今さら何言ってやがる。黙ってびびって見ていたくせにな。なので、お前がその女の立場だったら巻き上げた金もらって嬉しいか?と、殺気を倍増させて何度も訊ねて見たところ黙った。失禁しながら。

「だ、だって……ひっく……ひっく……り、リーダーが……篠宮が金に困ってたから……金やれば喜んでくれるかと思ってとか話してて……ひっく……でも俺は清純そうな神山悠里派だし……仕方なくリーダーにしたがって……うえええん」
「おれだって本当は万里ちゃん先生派なんだけどリーダーに付き合わされて……あうう……うわーん」

 高校生にもなってこいつらはガキのように泣き始めた。俺の殺気にあてられたようで、ちょっと強く威圧感を出しすぎたようだ。そんでもって俺はそいつらの言葉が気になった。もちろん後者ではなく前者の篠宮って所に。こいつらの好みが三人ともEクラスってのがなんとも滑稽な話だしね。

「犯行動機が好きな子のためって所はともかく、そのやり方が非道すぎて共感できんわ」
「な、なんだよぉ……ひっく……て、てめーには関係ねーだろぉ。俺達の女神であり高嶺の花なんだからよぉ……。こうでもしないとアプローチできないだろぉ……うええん」
「三人とも俺らと同じEクラスだけど?」
「う、うるさいっ!俺達からすればSクラス級なんだもん!てめえら薄汚い根っからのEクラスと一緒にするなぁ!覚えてろよおおお!うわーーーん!!」

 駄々っ子のようにレスラー軍団達は泡を吹いているリーダーを担いで逃亡していった。
 変なの。Eクラスだのなんだの馬鹿にするくせにその3人だけは関係ないってご都合主義なやつら。
 それにしても篠宮か……。話をしてみたいと思っていたからちょっと絡んでみるか。




「恵梨ちゃん、これ今日の分」
「ありがと、おじさん」

 愛想よく万札数枚を受けとると、羽振りの良さそうなおじさんは高級車に乗って颯爽と走っていく。
 今日はたったの八万か。まあ、ただのお食事デートだけだったしこんなもの。ちょっと少ないけどこれで今月はみんなの教材を買ってあげられる。

 本当は一晩付き合ってあげれば十万以上は一気に稼げるけど、さすがに脂ぎったキモいオヤジに抱かれるのは今は勘弁。たとえ相手がお医者さんや弁護士や議員さん相手でも、私はそこらの女より高い方だ。この容姿は自分でもいい方だと自覚しているから、そこらの野郎相手になんて簡単には抱かれてあげない。

 このあたしと一緒にお食事して会話してあげたんだからそれで十分でしょうって。少し前の私だったら躊躇いもなくカラダを売る事もしていただろうけど。
 少し前のあたしは自暴自棄で、死んじゃってもいいやってくらいぼーっとしてて、廃人みたいに来るもの拒まずって感じで遊び歩いていた。あたしが好きだった直と別れた直後の時だったかな。きっと二度と直以上に一言一言が心に響くような事を言う人なんて現れないと思っていた。思っていたのに……

『自分をもっと大事にしろよ。たかが俺みたいな童貞キモオタにそう簡単にカラダを開くんじゃねえ。あんたにそんな事してほしくない』

 あの時の台詞がチラつく。あの童貞で強姦魔って言われていたアイツが言った事。
 今時馬鹿じゃないのって思った。真面目ぶっていい子ちゃんぶってるのかって。あほじゃね?って私が何しようがお前に関係あんのってさ。だから気にせず翌日から片っ端から金持ってそうなオヤジ相手にパパ活始めてたけど、その日を境にアイツの台詞がリフレインして頭から離れなくなった。

 最悪。直以外の奴がどんな事言ってこようが心になんて一切響かなかったのに、アイツのもっと自分を大事にしろって言葉が無意識に抑止力となってしまって何もできない。おかげでデートはしてもカラダを売ることはしなくなった。今はそれがいけないような気がして踏み込めなくなった。

 気にくわない。
 私が唯一心に響いたのは直だけだと思っていたのに。なんでたかがあの童貞ヤローのアイツが言ったことを守ってんだよって自分でも思う。直と別れてからあたし、おかしくなったのかな……。


「イカガワシイ遊びしてなさそうでホッとした。といってもパパ活もよくないぞ、と」


 背後からそんな声が聞こえてハッとした。思わず振り返ると、制服のズボンポケットに手を突っ込んで立っている強姦魔のアイツだった。

「それにこんな夜中に女の子の一人歩きは危険じゃないか?」

 いつの間にってくらい全く気配を感じなかった。私の背後をとるなんて。
 こいつの実力は相当なものだとは思っていたが、まさかここまでとは……。あたしだってそれなりに護身術をやってきたけれど、この男には到底敵いそうもない事を悟る。あのクラブで出会った時も、全く息を切らせずに赤子を捻るかのごとく全員を手刀一発で眠らせていた。まるで、アイツみたい。

 まるで直みたいで……ドキリとしてしまった。
 直と同等……いや、それ以上の強さ……?ないない。あんな童貞平凡ヤローが直以上だなんて。
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