【短編】若頭とぼく

いとこんドリア

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若頭とぼく

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「てめぇ…さっきから人の事じろじろ見てきやがって、文句あるようだな!ああ?」
「ひっ…ご、ごめんなさいっごめんなさいっ」

 童顔で平凡な中学生【杉野勇気(すぎのゆうき】はひたすら謝罪していた。
 

 最悪だ――。
 帰り道にまさか不良とからまれてしまうなんて、運が悪いにもほどがある。
 ただちょっと好奇心で見ていただけで、ガンつけられたと向こうは勘違いして、あっという間に怖そうな連中に取り囲まれてしまった。
 見てくれからして強面。いかにも人相が悪くて、黒スーツを着ていて、サングラスなんかかけていて、服やら鎖骨の下からは竜のような入れ墨が見えた。これは触れてはならないどこかの極道の者なんじゃないだろうかとそう考えただけで小便をちびりそうなほど恐ろしくなる。

「本当にごめんなさいっ」

 名前負けしているような少年勇気はただただ謝罪するほかなかった。
 下手な事を言って余計に怒りを駆り立ててしまうくらいなら、無様であろうとも謝罪するほかないのだ。
 謝罪してなんとか見逃してくれればいいが、そうでなければ殴られて、蹴られて、監禁されて、パシリにされて、金を恐喝されて……
 翌日の新聞には【中学三年の男子、やくざの抗争に巻き込まれ死亡】なんて報道されそうでシャレにならない…。

「どうした?」

 そんな時、ふと低い男の声がした。
 声の主は、一癖も二癖もある威厳がありそうな男で、勇気をいびろうとした黒スーツの連中が一様に頭を下げている。どうやら位が高い男らしい。
 たばこを吸いながら近くのコンビニから出てきた。
 髪は金髪でだぼだぼな紺のズボンに、洒落た模様の白いTシャツ、首や手首にはジャラジャラしたメンズ系のアクセサリーを身につけている。
 独特な香水の香りを漂わせて、スボンの真横ポケットに片手を突っ込んでいる。
 見た目の年は二十歳前後だろうか。
 他の男とは比べ物にならないくらい、端正な顔立ちで超がつくほど美形顔だった。

「あ、若頭さん!その…このクソガキがおれ達をみてきやがりまして」
 他の男より若いが、若頭と聞いて組長的な存在だろうと思った。
 てことは、こんな男と遭遇してしまってもうおしまいもいい所。万事休すじゃないか。
 勇気は事件に巻き込まれる覚悟をした。

「オマエ…」
「え……」

 美形のリーダー格の男が勇気に近づいた。
 手を伸ばされ、殴られると勘違いしてびくりと体が強張ったが、殴るわけでもなく頬を触ったり、体をぺたぺた触れたり、目を凝らしてジッと勇気を眺めている。
 まるで品定めでもしているかのように。
 何を見ているんだろう。ぼくなんて見てもおもしろくないのに。
 ただの平凡な学生ですよ?だからはやく帰して~……

「いいな…こいつ」
 美形の男がそう言ってにやりと笑った。
 勇気は「え……」と、呆然。
「わ、若頭さん、そのガキをどうするんです?まさかまた…」
「あ?なんか文句あんのかてめぇら」
 ギロっと威嚇するように睨めば、たちまち格下の男達は慌てている。
「い、いえ…!とんでもありません!」
 鋭い目線だけで人一倍人相の悪いやくざを黙らせるこの男。やはり只者ではない。
 やくざの親分とか。うう、最悪だよお。
「あ、あの……おれをどうするんですか?」
 体を震わせながら、勇気は恐る恐る訊ねた。
「そうびびんなって。オレがお前を可愛がってやんの。ボウヤちゃん」

 ボウヤという年でもないが、向こうからすれば自分などボウヤ同然だろう。
 ビビり屋って言葉がよく似合うほど、ただの雑魚い不良相手にペコペコするビビりなんだから。それにしても……

「可愛がるって、どういう事かよくわからないんですけど」
 それには答えず、男は黙ってヘルメットを差し出した。
 訳もわからずに受け取る勇気。
「それかぶって後ろにケツのせろ」
 男は派手なバイクに乗りこみ、後ろに乗れと促した。
 ヘルメットを持たされた勇気は茫然と立ち尽くしている。
「え……そのバイクにですか?でも……」
 こんなぼくがいいのかなと、いろいろな意味で躊躇う。
「いいからはやく乗れっつってンだろーが。おせぇんだよ!」
「は、はいぃ……っ」

 鷹のような鋭い目に強く促されて、怯えて勇気は脱兎のごとく乗り込んだ。
 言う事をきかないと何をされるかわかったものではないので、一先ず従うほかなかった。
 男はバイクを勢いよく走らせ、一目散にその場から消える。
 残りの男達は呆気にとられながらその様子を最後まで見届けていた。

「しっかし、若頭さんは相変わらずっスね」
「大のおとなしそうな少年好きっていう変わったご趣味をお持ちだからな。きっとお帰りになるのは明日の昼ごろだろう」
「って事は、あのガキは晴れて童貞卒業ってこったな。あ、童貞じゃなくて処女だけどよ、アハハ」
 男達は勇気の今後の行く末を想像しながらいつまでも笑っていた。



「しっかりつかまってないと振り落とされるぜ。ボウヤ」
「っうう、こわいよーー!こわいよおおおお!!ひえええええー!」

 バイクを走らせてから数分、勇気は涙目で絶叫をあげていた。
 ものすごいスピードで道路を疾走する。
 怖くて目をあけていられないくらい、風がびゅんびゅんと吹く。一体何キロだしているんだか見るのも恐ろしい。
 声にもならない悲鳴をあげながら、ひたすら男の腰周りにしがみついていた。
 そして十分後、やっと恐怖のドライブショーが終了を告げてバイクを見知らぬ場所にとめた。

「ほら、もう手を離していぜ。怖くないからよ」
 先ほどとはうって変わって優しく声をかける男。
「ほ、ほんとに……?いきなり発車とかなしですよ?そんなのやですよ?」

 念入りに確認をする勇気は声が裏返っていた。
 本当に怖かったようで、未だにブルブルと体を小動物のように震わせている。
 あのやくざのリーダー格という立場をすっかり忘れて、勇気は男にしがみついては離れない。

「大丈夫だ。目的の場所に着いたからな。つーかオマエ、泣いちゃってホントカワイーね」
「う……ご、ごめんなさい。みっともないですよね。か、可愛いだなんておれ男なのに」

 すぐにぱっと離れて距離をおいた。
 男に可愛いと言われてよくわからない。それくらい子供って事だろうか。
 まあ、童顔ってよく言われるし、向こうからしたらこちらなど子供も一緒か。

「ずっと抱きついてていいのにな。喜んで抱きしめ返してやんのに」
「か、からかわないでくださいよ」

 落ち着きを取り戻した勇気は、歩きはじめた男の後ろをチョコチョコついていく。
 男は何も言わないまま、背中を向けて歩いている。
 一体ここはどこなんだろう。広いどこかの敷地みたいで、立派な日本庭園が広がっている。

「あの、ここは?」
「オレの別荘」

 そう答えると、目と鼻の先には大きな和風の屋敷が建っていた。
 目を見張るほどの大きな豪邸だ。
 もしかして、とんでもなく金持ちで権力があるのだろうかこの男のやくざの家系は。

「どうして、ここにおれを連れて……?」
「知りたい?それより、あがれよ」
 立派な戸を開けて、玄関に入れと促す。
「あがっていいのですか?」
「ああ。そのために連れてきたんだろ」
 
 中はとにかく広い。
 どこがどこなのかよくわからないほどに、座敷の部屋がたくさんある。
 誘導されないと迷わざるを得なくて、女中らしき人が一番前を歩いて部屋を案内した。
 やがて、広い廊下を歩いて着いた先は、大きなキングサイズのベッドがある寝室だった。豪勢なソファにアンティークの家具が並んでいる。

「ちゃんと洋風の部屋まであるんですね」
「和風より洋風の方が好きだからオレの部屋だけこうなんだ。で、はじめるか」
「え?あ、あの、なにを……」
 腕を掴まれ、引き寄せられるがままベッドに仰向けに落とされた。
「ホント、無垢なんだな、オマエ。ここまできてまだわかんない?セックスだよセックス!」
「え……せ、セックス?せ、せ…せっくすってっ!」
 想像して、見る見るうちにボッと火照ったように頬が熱くなった。
 なんでそんな事っ。
「そう、セックス。もしかして、知らないとか言うんじゃないだろうな?」
「そ、そんな事、さすがにないです……」
「じゃあ、わかるよな?」
「……は、はい」

 いや、しかし。なぜ男同士で?そもそも、男同士で出来る行為なのかと勇気は疑問に思っていた。

「あの、どうしておれはあなたとセックスなんて……」
「お前がタイプだと思ったから。いい声で鳴きそうだと思ったから。それが理由だ。てことで、ヤラせろよ」
「や、ヤラせろだなんてっ!お、男同士のえ、えっちの仕方なんて、おれしらな……んンっ」

 最後まで言わせてはくれず、唇を奪われた。
 勇気にとってのファーストキスだった。
 そして、首筋、うなじ、胸の突起に口づけを落していく。
 勇気は抵抗をするも弱弱しくて。されるがままついていくのがやっとで。逆らえば何をされるかと思うと強く抵抗できない。

「んっ……あの、やめ、て……ひっ、あぁ」
「やめて?嘘だろ。こんなに下は勃ちあがってんのに?」
 ズボン越しからふくらみのある股間を撫でられる。
「や、どこ触って……」

 たちまち頬を真っ赤にさせて顔を横に振る。
 ああ、その反応がいいんだ――と、身をよじらす仕草でさえこの男からすれば欲情しかしない。

「どうして、こんな事っ」
「お前がタイプだって言っただろ。ってことで、最後までやらせねえと帰らせねえからな」
「そ、そんな……」
「腹くくれよ」

 男はこの上ない極上の笑顔で微笑み、いろんな意味で泣き喚く勇気を滅茶苦茶にして喘がせたのだった。


「悪い。三回もつきあわせちゃって。さすがに気絶するわな……ははは」
 おどけながら、ベッドで放心状態な勇気に口づける。
「も、動けない……です……」

 腰が痛くて一歩も動けない。とりあえず今日は帰れない事をやっと両親に電話を入れる事ができたので、ちょっとほっとした。思ったほど、この男は悪い人間ではなさそうだけれど、とは言ってもヤクザの若頭ではあるから恐怖がきえたわけではない。

「なあ……今さらだけど、オマエの名前教えろよ」
「え、う……悪用しないで下さいよ。ユウキ、杉野勇気です…」
「勇気ね。オレはタクマ。これからは呼び捨てで呼びな。タメ口もオマエだけなら許す。いいな?」
「は、はい……た、タクマ……さん」
 さすがにまだ慣れないために、つい遠慮がちに言ってしまった。
「呼び捨てのタメ口って言っただろうが」
「あう、は、はい。けど、まだ出会ったばかりですし、おれはまだあなたの事わからない部分も大きいので……で、でもどうしてもと言うならそれでいいんですけどっ」
 若頭相手に意見なんてできる身分じゃあないのでさりげなくそう伝える。
「ふーん……ま、それも一理あるな。じゃあ一週間だけそれな。んで、一週間経ったら呼び捨てで敬語もなしでいいからな。もし一週間経ってさん付や敬語使ってやがったら殺すからな」
「は、はひぃ!?」

 こ、殺す!?殺すってやっぱりいい!?
 東京湾に捨てられるんですかァ?ドラム缶で沈められるんですか!?ぼく粛清されるんですかああ!??
 青い顔してパニくる勇気を見て、クスクス笑うタクマという男。

「……んなビビんなよ。本当に殺す事ァないって。言葉のあやだ。冗談だって。まあ、殺す事ァないがそれなりのお仕置きはするけどよ。っつーことでお前は今日からオレのオンナだから。ま、よろしくな」
「は、はい、オンナですね。オンナ………オンナ?お、オンナって……ええええ?」
 オンナっていうのは、女の代わりというやつですか?
「あ?なんか不服でもあンのか?」
 ギロりと睨んだ顔が恐ろしく怖い。
「い、いえ、滅相もございません!こ、光栄に存じますですマスうううう!」
「なら、いいがよ。あーちなみにオンナってのはオレの恋人になるって事だ。いーっぱい気持ちよくさせて幸せにしてやるから、オレを愛せよな?」
「は、はいぃ、よ、よろしくおねがいしますぅ……」

 まさかのやくざのオンナにされるとは……これから先、おれはどうなる事やら……。



to be continued…?
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