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災難編
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なんだろう……心地いい。
まるでゆりかごに寝かせられているみたいですごく安心する。やわらかくて、たくましくて、いい匂いがして、温かいなぁ。さっきまで酷い目にあったのに、一転して居心地がいいなんてぼくは今天国にいるのかも。
「ん……う……」
ゆっくり目を覚ますと、愛しい人の端正な顔がすぐに見えた。
「アオ……」
「目が覚めたか…」
ぼくはアオに軽々と横抱きにされていた。ゆらゆらと揺れている浮遊感に気持ちのよさを感じていたみたいだ。
そういえばぼくはあの時、周りの人達に見られながら暁さんにひどい目にあわされて、それで間一髪という所でアオが来てくれて、気を失ったんだっけ。
乱された衣服は元通りに直されていて、破けた部分はアオの上着で隠されている。だけど、この状況はさすがに狼狽えちゃう。こんな場所でお姫様抱っこは勘弁だよ。
「お、おろしてほしい。恥ずかしいよアオ」
ぼくは顔を真っ赤にさせて降りようとするけど、アオは降ろしてはくれない。
う、うれしいけど恥ずかしい。学校の誰かに見られでもすればいろんな噂が飛んじゃうじゃんか。
「腰痛いくせに無理するな」
「無理なんてしてないよっ。だってお姫様抱っこなんて……あうううう」
ぼくは恥ずかしさに両手で顔面を覆い隠す。いくら人通りが少ない住宅街の中でも、男が男に抱っこされているなんて普通じゃありえないし、いつ誰に見られるかと思うと落ち着かない。何度降ろしてと言ってもアオは聞いてはくれないので、もうそのまま開き直る事にした。
「あの、あ、あの人たちは……?」
ふと暁さんと黒瀬さん達の顔が浮かぶ。あの後どうなったんだろう。
「あいつらは逃げやがった。奴らの雑魚共を倒した後で殺り……いや、倒そうと思ったが、逃げ足だけは早かった。今度会ったら必ずぶちのめして彼方が受けた屈辱を倍にして返す予定だ」
「アオ……」
彼は今もこの行き場のない怒りを孕んでいる。ぼくのために想像以上に怒ってくれている。
アオに助けられたんだ。戦ってくれた……。
「今からオレの家にお前を連れて行く。いろいろと手当てして消毒しないとな」
「消毒?」
そんな怪我はしていないと思う。無理やりとはいえ殴る蹴る等の事はされなかったはずだ。あえて言うならお尻の所がローターのせいで少し裂けたくらいか。それを怪我といえるのかわからないけれど、今はあんまりそんな所を見られたくはない。
「触られたところ……確認したい」
「っ……」
恥ずかしい気持ちと、見られたくない気持ちと、触れられた気持ちの悪さとが綯い交ぜになって、ぼくは視線をそらして黙ってしまった。暁さんにされた行為に今更ながら恐怖を感じて、震える体を落ち着かせるので精一杯だった。
アオの家に行くまでの間、終始沈黙が続いたのだった。
「きゃーあなたが彼方君!?やだー可愛い子じゃないのっ!」
この間見た綺麗な女性……いや、アオのお義母さんがハイテンションで出迎えてくれた。
近くで見ると本当に綺麗な人だなあ。アオのお義母さんだからこそ美形なところとか目元が似ている。
笑顔で挨拶とかしたいのに、今は挨拶すらままならないほど気分が落ち込んでいて、頭をぺこりと下げる事しかできない。
「母さん、はしゃぐ前に彼方が少しケガをしているから救急箱用意してほしいんだが」
「あ、ああ。そうね。もー彼方君てば大変な目にあったみたいで可哀想っ。次あいつら見かけたら私もぶん殴っといてあげる。もちろんコテンパンにして仕返ししといてあげるから!」
「え、お、お義母さんがそんな「大丈夫だ」と、アオ。
「母さんは元極道の娘でキックボクシングの達人だ。俺に戦い方を教えたのも母さんなんだよ」
「え!そ、そうなの!戦い方を!?」
女性なのに強いんだ。しかもアオに戦い方を教えたって相当達人って事なのかな。すごいや。
それに引き換えぼくって男なのにてんで弱くて情けないや……はあ。
「じゃあ、とりあえず俺の部屋に行くぞ」
「……う、うん」
「これがアオの部屋なんだね」
アオに連れてこられた部屋は、ゲームの大会のトロフィーやゲームソフトが棚いっぱいにびっしり並んでいて圧倒された。
うわーたくさんゲームあるなあ。レトロゲーから最新機種まで棚に分別されて保管してあって、その数は千くらいは軽くありそうでゲームオタとしては感動しちゃう。しかもマニアがほしがるレアゲーもあるし。うわーいいないいなー。
ゲームを除けば、パソコンにシンプルなテーブルやソファ、ランプ、本棚、絨毯、大きめサイズのベットで、オシャレさを重視した部屋になっていた。綺麗な部屋な上に住みやすそうだなあ。まさしくお洒落なゲーム部屋って感じ。うらやましい。
「ゲームの宝庫って感じ」
それにアオの匂いがいっぱいするし、なんかドキドキしちゃうなあ。
「ゲームと寝るくらいしか利用しないけどな。……んじゃ、さっそく……」
「え……」
ビクつくぼくをソファに座らせ、アオが近づいてくる。
「あ、アオ……」
ぼくはちょっと表情を引きつらせて恐怖を感じてしまった。
さっきのひどい目にあった出来事のせいで、無意識に体が強張ってしまっていたみたいだ。
ごめん。ごめんね。ぼく……アオを一瞬でも怖いと思っちゃうなんて最低だよね。
「ご、ごめんなさい……ぼく……」
「大丈夫。傷の手当てをするだけだ。怖がらせてすまない」
「う、ううん。アオが助けてくれたから。怖くない怖くないから」
お尻の怪我以外はないと思っていても、意外に抵抗した手首の痕とか爪で引っかかれた傷とかがあって、アオに傷の手当を任せた。
手当てをされている最中でも、ぼくはキョロキョロしてしまい落ち付かない。
先ほどのされた行為をどんどん思い出し、気分が悪くなって無意識にガタガタ震えてしまう動作までしてしまう。
トラウマなのかな。くそう、おさまれってばこの体っ。アオ相手に震えるなんてダメなのに。
「あ、あの……ぼく……」
「傷は大したことなくてよかった」
まごまごしているぼくをよそに、アオはさらに細かく傷を注視している。
「アオ……ぼく、汚くなっちゃったかな」
こんな時にこんな事を聞いてはダメだと思うのに、震える自分の体を見て我慢ならなかった。
「……どうしてそう思う」
「だって……ぼく、アオ以外の人にキスされた上にあいつらに体触られて……なんだか嫌悪感を感じちゃって……」
自分が汚いと潜在的に思っちゃって、アオに申し訳ないと思ってしまう。アオに触られる資格さえないって、変に罪悪感すら感じてしまうのだ。
「今から……ちゃんと消毒するから」
「え……」
今までがそうじゃなかったんだろうか。
「ダメか?俺が彼方につけられた汚れを改めてマーキングする」
「アオ……」
「オレが彼方を綺麗にしたい……オレ自身の手で」
アオが顔を近づけてくる。距離が縮まるお互いの顔と顔。絡み合う指と指。
ぼくは震える体を我慢して抵抗をせず、流されるまま目を閉じてそれを受け入れた。
「ん……」
暁さんに無理やりされたキスと違って、蕩けそうなくらい心地がいい瞬間。柔らかな一瞬だけの感触が魔法が解けたように震えが消えていく。あれ……。
今しがたあんなにぶるぶる震えて、アオでさえ恐怖を感じてしまっていたのに、簡単なキス一つでぴたりと震えが止んだではないか。
「ンふ……んぅ」
不思議だなって思いながらも徐々に気持ちが昂ぶり、求め合うように舌を絡めあっていた。
アオが好き。大好き。キス、気持ちいいよぅ……。
暁さんに無理やりされた時は嫌だったのに、アオだったら全然大丈夫で、むしろなんか浄化されていく感じがする。もっと……もっとほしい……。
アオからの全部がほしい。
「アオ……抱いて、ほしい」
「彼方……。もうあと戻り、できないよ?」
「いいよ。綺麗に、してくれるんでしょ?」
「そうだな……」
そのままソファーにぼくをゆっくり押し倒すアオ。
ドキドキと緊張が止まらないけど、でも早く欲しくてたまらない。股間が熱くなって体が疼くんだ。
「ん、ん、ふ……ぁ」
もう一度キスをしながら、アオはぼくの服のボタンをゆっくり解いていく。優しい手がぼくの股間を撫でまわし、鳥肌がぞわぞわして歓喜の意味で全身が栗立つ。
アオ……アオ……キス、気持ちいいよ……。
「なあ……彼方」
呼吸を荒くしながら唇を離すアオが、真剣な表情でぼくを見つめる。ん、どうしたの?
「本当のオレを知っても……嫌いにならないでくれるか?」
アオの瞳が不安で揺れている。
「え……?」
「オレ……彼方が思ってるほどいい人間じゃないし、いい男でもないし、優しいわけでもない。本性は狂暴で、残忍で、手の付けられない悪党だ。もしかして、今後それを知って彼方に幻滅されるかもしれない。嫌われるかもしれない。だけど……もしそれでも受け止めてくれるなら……本当のオレを知った時、変わらず想っててくれるか?」
一体、アオが何を言っているのかよくわからないけれど、彼の救いを求めるような眼差しは切実に哀願を求めている事だけはわかった。
ぼくがアオを嫌いになるわけないじゃない。
こんなにも大好きなのに。いつもぼくを助けてくれる彼を、どうして幻滅するというのだろう。
「もちろんだよ。当然じゃんか。アオが大好きなのに。アオがたとえ化け物だとしても拒絶なんてしないよ」
アオをずっとずっと想える自身があるんだから。だから、アオが何か困っていたら今度はぼくが手を差し伸べてあげたい。アオが苦しんでいたら支えてあげたい。何が何でも、ぼくだけはアオの味方だからね。
「彼方……好きだ。オレを……嫌いにならないでくれよな……」
「ならない。ならないから。大好き……アオ」
まるでゆりかごに寝かせられているみたいですごく安心する。やわらかくて、たくましくて、いい匂いがして、温かいなぁ。さっきまで酷い目にあったのに、一転して居心地がいいなんてぼくは今天国にいるのかも。
「ん……う……」
ゆっくり目を覚ますと、愛しい人の端正な顔がすぐに見えた。
「アオ……」
「目が覚めたか…」
ぼくはアオに軽々と横抱きにされていた。ゆらゆらと揺れている浮遊感に気持ちのよさを感じていたみたいだ。
そういえばぼくはあの時、周りの人達に見られながら暁さんにひどい目にあわされて、それで間一髪という所でアオが来てくれて、気を失ったんだっけ。
乱された衣服は元通りに直されていて、破けた部分はアオの上着で隠されている。だけど、この状況はさすがに狼狽えちゃう。こんな場所でお姫様抱っこは勘弁だよ。
「お、おろしてほしい。恥ずかしいよアオ」
ぼくは顔を真っ赤にさせて降りようとするけど、アオは降ろしてはくれない。
う、うれしいけど恥ずかしい。学校の誰かに見られでもすればいろんな噂が飛んじゃうじゃんか。
「腰痛いくせに無理するな」
「無理なんてしてないよっ。だってお姫様抱っこなんて……あうううう」
ぼくは恥ずかしさに両手で顔面を覆い隠す。いくら人通りが少ない住宅街の中でも、男が男に抱っこされているなんて普通じゃありえないし、いつ誰に見られるかと思うと落ち着かない。何度降ろしてと言ってもアオは聞いてはくれないので、もうそのまま開き直る事にした。
「あの、あ、あの人たちは……?」
ふと暁さんと黒瀬さん達の顔が浮かぶ。あの後どうなったんだろう。
「あいつらは逃げやがった。奴らの雑魚共を倒した後で殺り……いや、倒そうと思ったが、逃げ足だけは早かった。今度会ったら必ずぶちのめして彼方が受けた屈辱を倍にして返す予定だ」
「アオ……」
彼は今もこの行き場のない怒りを孕んでいる。ぼくのために想像以上に怒ってくれている。
アオに助けられたんだ。戦ってくれた……。
「今からオレの家にお前を連れて行く。いろいろと手当てして消毒しないとな」
「消毒?」
そんな怪我はしていないと思う。無理やりとはいえ殴る蹴る等の事はされなかったはずだ。あえて言うならお尻の所がローターのせいで少し裂けたくらいか。それを怪我といえるのかわからないけれど、今はあんまりそんな所を見られたくはない。
「触られたところ……確認したい」
「っ……」
恥ずかしい気持ちと、見られたくない気持ちと、触れられた気持ちの悪さとが綯い交ぜになって、ぼくは視線をそらして黙ってしまった。暁さんにされた行為に今更ながら恐怖を感じて、震える体を落ち着かせるので精一杯だった。
アオの家に行くまでの間、終始沈黙が続いたのだった。
「きゃーあなたが彼方君!?やだー可愛い子じゃないのっ!」
この間見た綺麗な女性……いや、アオのお義母さんがハイテンションで出迎えてくれた。
近くで見ると本当に綺麗な人だなあ。アオのお義母さんだからこそ美形なところとか目元が似ている。
笑顔で挨拶とかしたいのに、今は挨拶すらままならないほど気分が落ち込んでいて、頭をぺこりと下げる事しかできない。
「母さん、はしゃぐ前に彼方が少しケガをしているから救急箱用意してほしいんだが」
「あ、ああ。そうね。もー彼方君てば大変な目にあったみたいで可哀想っ。次あいつら見かけたら私もぶん殴っといてあげる。もちろんコテンパンにして仕返ししといてあげるから!」
「え、お、お義母さんがそんな「大丈夫だ」と、アオ。
「母さんは元極道の娘でキックボクシングの達人だ。俺に戦い方を教えたのも母さんなんだよ」
「え!そ、そうなの!戦い方を!?」
女性なのに強いんだ。しかもアオに戦い方を教えたって相当達人って事なのかな。すごいや。
それに引き換えぼくって男なのにてんで弱くて情けないや……はあ。
「じゃあ、とりあえず俺の部屋に行くぞ」
「……う、うん」
「これがアオの部屋なんだね」
アオに連れてこられた部屋は、ゲームの大会のトロフィーやゲームソフトが棚いっぱいにびっしり並んでいて圧倒された。
うわーたくさんゲームあるなあ。レトロゲーから最新機種まで棚に分別されて保管してあって、その数は千くらいは軽くありそうでゲームオタとしては感動しちゃう。しかもマニアがほしがるレアゲーもあるし。うわーいいないいなー。
ゲームを除けば、パソコンにシンプルなテーブルやソファ、ランプ、本棚、絨毯、大きめサイズのベットで、オシャレさを重視した部屋になっていた。綺麗な部屋な上に住みやすそうだなあ。まさしくお洒落なゲーム部屋って感じ。うらやましい。
「ゲームの宝庫って感じ」
それにアオの匂いがいっぱいするし、なんかドキドキしちゃうなあ。
「ゲームと寝るくらいしか利用しないけどな。……んじゃ、さっそく……」
「え……」
ビクつくぼくをソファに座らせ、アオが近づいてくる。
「あ、アオ……」
ぼくはちょっと表情を引きつらせて恐怖を感じてしまった。
さっきのひどい目にあった出来事のせいで、無意識に体が強張ってしまっていたみたいだ。
ごめん。ごめんね。ぼく……アオを一瞬でも怖いと思っちゃうなんて最低だよね。
「ご、ごめんなさい……ぼく……」
「大丈夫。傷の手当てをするだけだ。怖がらせてすまない」
「う、ううん。アオが助けてくれたから。怖くない怖くないから」
お尻の怪我以外はないと思っていても、意外に抵抗した手首の痕とか爪で引っかかれた傷とかがあって、アオに傷の手当を任せた。
手当てをされている最中でも、ぼくはキョロキョロしてしまい落ち付かない。
先ほどのされた行為をどんどん思い出し、気分が悪くなって無意識にガタガタ震えてしまう動作までしてしまう。
トラウマなのかな。くそう、おさまれってばこの体っ。アオ相手に震えるなんてダメなのに。
「あ、あの……ぼく……」
「傷は大したことなくてよかった」
まごまごしているぼくをよそに、アオはさらに細かく傷を注視している。
「アオ……ぼく、汚くなっちゃったかな」
こんな時にこんな事を聞いてはダメだと思うのに、震える自分の体を見て我慢ならなかった。
「……どうしてそう思う」
「だって……ぼく、アオ以外の人にキスされた上にあいつらに体触られて……なんだか嫌悪感を感じちゃって……」
自分が汚いと潜在的に思っちゃって、アオに申し訳ないと思ってしまう。アオに触られる資格さえないって、変に罪悪感すら感じてしまうのだ。
「今から……ちゃんと消毒するから」
「え……」
今までがそうじゃなかったんだろうか。
「ダメか?俺が彼方につけられた汚れを改めてマーキングする」
「アオ……」
「オレが彼方を綺麗にしたい……オレ自身の手で」
アオが顔を近づけてくる。距離が縮まるお互いの顔と顔。絡み合う指と指。
ぼくは震える体を我慢して抵抗をせず、流されるまま目を閉じてそれを受け入れた。
「ん……」
暁さんに無理やりされたキスと違って、蕩けそうなくらい心地がいい瞬間。柔らかな一瞬だけの感触が魔法が解けたように震えが消えていく。あれ……。
今しがたあんなにぶるぶる震えて、アオでさえ恐怖を感じてしまっていたのに、簡単なキス一つでぴたりと震えが止んだではないか。
「ンふ……んぅ」
不思議だなって思いながらも徐々に気持ちが昂ぶり、求め合うように舌を絡めあっていた。
アオが好き。大好き。キス、気持ちいいよぅ……。
暁さんに無理やりされた時は嫌だったのに、アオだったら全然大丈夫で、むしろなんか浄化されていく感じがする。もっと……もっとほしい……。
アオからの全部がほしい。
「アオ……抱いて、ほしい」
「彼方……。もうあと戻り、できないよ?」
「いいよ。綺麗に、してくれるんでしょ?」
「そうだな……」
そのままソファーにぼくをゆっくり押し倒すアオ。
ドキドキと緊張が止まらないけど、でも早く欲しくてたまらない。股間が熱くなって体が疼くんだ。
「ん、ん、ふ……ぁ」
もう一度キスをしながら、アオはぼくの服のボタンをゆっくり解いていく。優しい手がぼくの股間を撫でまわし、鳥肌がぞわぞわして歓喜の意味で全身が栗立つ。
アオ……アオ……キス、気持ちいいよ……。
「なあ……彼方」
呼吸を荒くしながら唇を離すアオが、真剣な表情でぼくを見つめる。ん、どうしたの?
「本当のオレを知っても……嫌いにならないでくれるか?」
アオの瞳が不安で揺れている。
「え……?」
「オレ……彼方が思ってるほどいい人間じゃないし、いい男でもないし、優しいわけでもない。本性は狂暴で、残忍で、手の付けられない悪党だ。もしかして、今後それを知って彼方に幻滅されるかもしれない。嫌われるかもしれない。だけど……もしそれでも受け止めてくれるなら……本当のオレを知った時、変わらず想っててくれるか?」
一体、アオが何を言っているのかよくわからないけれど、彼の救いを求めるような眼差しは切実に哀願を求めている事だけはわかった。
ぼくがアオを嫌いになるわけないじゃない。
こんなにも大好きなのに。いつもぼくを助けてくれる彼を、どうして幻滅するというのだろう。
「もちろんだよ。当然じゃんか。アオが大好きなのに。アオがたとえ化け物だとしても拒絶なんてしないよ」
アオをずっとずっと想える自身があるんだから。だから、アオが何か困っていたら今度はぼくが手を差し伸べてあげたい。アオが苦しんでいたら支えてあげたい。何が何でも、ぼくだけはアオの味方だからね。
「彼方……好きだ。オレを……嫌いにならないでくれよな……」
「ならない。ならないから。大好き……アオ」
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