【完】ぼくの恋人

いとこんドリア

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災難編

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 廃墟の工場跡には、下品に快哉に笑う声が響きわたっていた。
 ぼくがおかしな声を出すだけで周りの怖そうな人たちは盛んに囃し立ててきて、一層盛り上がる。今から大道芸の一興でも始まるかのごとく、肌が少しずつ露になる度に笑い声はより大きくなっていった。
 何が楽しいの。なんでこんな事をして平気な顔をしていられるの。
 ぼくを手籠めにしてこんな事。ねえ、なんで……?
 そりゃさっき暁さんの服装がダサすぎて笑ったのはよくないと思ったよ。思ったけど、いくらなんでも男なのに、こんな辱めなんてひどい……。やっぱり、罰を受けているのかな。笑ったから。
 ごめんなさい。反省しています。申し訳ございません。だからどうか早く終わって。もう厨二病で二度と笑いませんから。

 アオ……心配してるかな……。
 だって待ち合わせからもう一時間以上は経っているんだから、もしかしてぼくの事……探してくれているかもしれない。
 だけど、ごめんね……アオ。
 ぼく、こんな状態じゃ行けそうもないし、来ないでほしいとも思う。こんなカッコ見られたくないもの。
 恥ずかしくて、屈辱的なこんな姿を。
 性的なものより、まだ暴力的な痛みの方がましだと思う。痛いの嫌だけど、女の子が襲われるみたいなレイプなんてもっとシャレにならないくらい嫌。男が男に襲われているなんて、屈辱的すぎるよ。
 だからね……来ないで。ぼくの事を今だけ忘れて。厨二で笑った罪深きぼくの事を。

「っいや……だ……やめっ……てっ……痛いっ……!」
 ぼく、アオ以外の人に体を触られているんだ……。
 自分じゃないような変な声を出して、汚らしい。嫌なのに、娼婦みたいな声を出してて笑える。
 こんな事を考えられる余裕があるって事は、まだぼくには理性が残っているって事だよね……。それも、いつ壊れるかわかんないけど……
「っ……い、ああぁっ!」
 体が大きな振動で揺れる。
 ナニコレ……苦しい。痛い。気持ち悪い。お尻が裂けちゃう……!
 今ぼくは、ほぼ全裸で、カエルみたいな恥ずかしい体勢にさせられて、臀部にはローターのようなものを半ば無理やり埋め込まれている。振動が強になる度にびくんびくん自信が揺れて、汗と涙と白濁と血のようなものが飛び散る。それと同時にまた周りの不躾な観客達に笑われる。
「あ、ああぁあっ……ああ……っ」
「感度がいいね、彼方君て。見ているだけでオモシロイ」
 
 二次元でしか見た事がない大人のおもちゃを突っ込まれているぼく……。
 そりゃあただ見ている人達からすればこの上なく興味をそそられて面白いだろう。自分の今の姿を想像するだけで吐き気のようなものがこみあげてきて、最低な気持ちになってくる。恥辱と屈辱で涙もとめどなくこぼれてくる。
 まるでどこのAVの撮影だ?って思うくらいひどいプレイを今ぼくは強要させられているのだ。初めてでこんなプレイをさせられるなんて上級者向けもいい所だよ。無理やり系のAVなんてぼくはまだ観たことはないけどね。それどころか、観るどころかその当事者になるなんて人生の中でさすがに思わなかったけれど。

「やめて、やめ、てぇ、くださ、い」
「やめてといいながら、ほら、ココは振動の刺激でトロトロだぜ?」
「ひ、あっ」
 暁さんの手がぼくの先端を親指で爪を立てた。どくりと不本意ながら飛沫が飛んだ。
「ううう……」
「気持ちいいからこんなのが出るんだろ。え?違うのか」
 そんなわけない。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ちよくなんて全然ない。むしろ痛い。
 そう思わなければ、ぼくの理性がとうの昔に崩壊してしまっているだろう。快楽に流されてしまえば終わりだって、そう危機を感じているから。心が壊れてしまうから。
「思ったより感じやすい躰だな。処女の癖に」
「感じてなんて……な……い、です……気持ち……悪い……痛い……」

 ぼくは唇を噛みしめて、何度もかぶりを振りながら必死で抗い続ける。
 いつぼくが理性を失うか見ものだとでも言わんばかりに、ぼくの抵抗にあわせて周りはまた大いに盛り上がる。
 快楽で理性を失い、気持ちの良さに流されたが最期だ。きっともうぼくは普通じゃいられなくなる。だから、意地でも負けない。快楽に流されない。カラダは好きにされているかもしれないけれど、心だけは自分を強く持たなければっ。
 そんなぼくのしたたかであろうとする意志を逆撫でするように、嘲け嗤うような顔で暁さんはぼくにさらに密着してくる。埋め込まれたローターを引き抜かれて、苦しかった圧迫感から解放される。やっとこれで終わったなんて到底ありえず、ぼくはさらに恐怖に戦慄する羽目になる。
 暁さんはベルトをかちゃりと外し、手には自らの隆起したものをジッパーを開いて取り出していたのだ。
 ぼくは背筋が凍った。あんなの……イレラレる?いやだ。

「いやだ!いやだぁっ!!」
 恐怖と嫌悪する涙が頬を伝い、ぼくは足をばたつかせる。アオ以外の人を受け付けるなんて死んでも耐えられない。気持ちが悪い。
 もしそれを受け入れてしまったら、ぼくは本当に心が壊れてしまう気がする。もう二度とアオにすら会えないとすら思ってしまう。初めてはアオがいいのに。
「いい泣き顔だね、彼方君。どんなに泣き叫んでも、そういうの逆効果なんだよ」
 黒瀬さんがこれから始まる一興を愉しそうに眺めている。
「本当にお前処女だったんだなあ。この入り口の狭さと痛がりよう。あの手の早い柏木がまだヤッテないのが不思議だったよ」
 手の早い……?
 そうなんだ……アオが……
 暁さんの熱いものがぼくの割れ目に宛がわれて、ああもう駄目だと思った時――


「総長!」
 ぼんやりした意識の中で、gazelleの仲間の一人が慌てた様子でやってきたのを捉える。
「奴が……柏木……が……ぐふ」
 最後まで言う前に背後からの不意打ちをくらったのか倒れた。
 連中は騒然として、暁さんと黒瀬さんだけは不敵に笑ったまま狼狽えない。
「彼方を返してもらおうか」
 向こうから、アオのもの凄い殺気を含んだしゃがれ声が響いていた。
 入口からの夕日の光がアオの輪郭をより深く、美しく照らし出す。
 ああ、来ちゃったんだ。アオ……。
 ぼくは嬉しいのと恥ずかしいのとこんな姿が屈辱なのとでパニックになり、キャパオーバーしてゆっくり意識が途切れていった。


 *


「ついに来たか。そんな焦った表情を見せて、それほどまでにコイツが大事と思える」
 蒼は一歩踏み出す。彼方のあられもない姿を視界に入れた途端、血が出る程拳を握りしめていた。その顔は怒りという名の無の表情であった。
「コイツ……感度がよさそうだよ。俺はそっちの趣味はねーが、コイツ案外可愛らしい顔をしているからやれない事もない。それにお前の屈伏する顔が見れるなら、いくらでもコイツを滅茶苦茶にしていいと思えた。嫌がるこいつお前の弱点を無理やりなんて……超愉しそうだしなあ」
 煽る暁に対し、蒼の雰囲気にさらに怒りが孕む。
「一度も誰かに触れられた事なんてねえって躰してやがる。ただの処女なんかより、綺麗でうまそうだ。最初はコイツを散々虐め犯して、ボロボロになった姿をてめえの前に差し出して、てめえの反応を見て愉しむつもりだったが、接するうちに考えが変わった」
 暁の表情が邪悪に歪み、芽生えた欲望を口にする。
「こいつをいたく気に入ってしまった。つまりは……俺のものにしたくなった。くくく」
 彼方の頬を撫でながら冷え冷えと嗤う。
「暁君だけじゃないよ。ぼくも彼方君の事気に入ったよ。ぶるぶる震えている所がイジメがいありそうだし」
 同じく黒瀬も不気味に笑いつつ、彼方の魅力に取りつかれた。
「ふざけるな。彼方はオレのものだ。貴様らみたいなクソ外道に渡すか。彼方を付け狙う野郎がいるなら容赦なく……殺す」
 蒼は静かに鋭く言い放った。
「それだけこいつが本気の本命のようだな、柏木よ。今まで一度たりとも誰かに執着した相手などいなかったお前が」
「どこにでもいる平凡地味なのに……妙に気になるよね。だから惚れちゃったってやつかな。まあ、いいや。せっかく単身で来てくれたんだ。楽しんで行けば~?ちょうどヒマしてたし。ねえ?総長」
「そうだな。久しぶりに手合わせしてやるよ。大勢で」
 暁が手で合図を送ると、たくさんの金属棒を持った男達が蒼を取り囲んだ。
「てめぇの今の怒りを発散させてくれる野郎共を用意してやった。感謝しろよな」
 連中は一斉に蒼に襲い掛かった。


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