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ストーカー撃退編
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その後、暴漢男を捕まえたと警察に連絡を入れて身柄を引き渡した後、少しだけ事情聴取を受けてそのまま解放された。長い事情聴取で疲れたけど、やっと暴漢男が逮捕されて平和が訪れた事にホッとする。
警察署から出ると、同じタイミングでもう一人出てくる。
「あ……あの……」
ぼくはおずおずとその人に近づき、なんて言っていいかわらずに口ごもる。
恋人のアオだ。アオが、助けてくれたんだ。ぼくのために……。
「彼方……」
そんなアオはぼくに気づいていたようで足を止めていた。
いろいろ思う事があるのか寂しそうにこちらを見つめているだけで、ぼくに近づく事もなく、離れる事もなく、やや遠目から何かを訴えたいようにして見ている。
「あ……えっと……」
なんだか今はぼく達二人の間に物理的距離がある気がして、お互いに少し躊躇いがちだ。
きっとぼくが連絡を無視し続けていたせいだよね。アオにこんな悲しそうな顔をさせちゃダメなのに。
はやく謝らなきゃ。はやく安心させなきゃ。
「あ、アオ……っ」
気が付けば涙声になっていた。恐怖から解放された事とアオが来てくれた事、アオの浮気疑惑など、いろいろ思うことがあり、脳内はキャパオーバーになっていた。
「あ、あの、ひっ……く、ひっく、ううう、うっええええええんっ!」
そして、恥も外聞もなく、ぼくは子供のように泣いてしまった。
「か、彼方……っ」
そんなアオは慌てだす。泣いているぼくをどうしようかとまごまごしている様子で、最初は恐る恐るだったけど、でも次第に意を決したのか何も言わずにぼくを抱きしめてくれた。強く、優しく。
ぼくは余計に涙腺が止まりそうもなくなって、嗚咽をこらえるのに必死でアオにしがみついた。
「泣くな、彼方」
「ひっく。ふっ……ご、ごめ……夜中に、メッセして、っき、きてくれて、ひっく……うれ、うれしか、た」
「大丈夫。もう大丈夫だから。お前を傷つける奴はいない。オレがいる」
「アオ……うん」
まるで幼い子供が恐怖に震えて泣いているみたいに、ぼくは震えがなかなか止まらなかった。
それでもアオはぼくが落ち着くまでずっとそうしてくれて、背中をさすったり、頭を撫でてくれたり、その存在感にとても救われて安心した。
「ごめん、ね……アオ。返事……遅くなって……ぼく「いいんだ」
「え……」
「嫌われたんだと……思って……」
寂しそうな顔をしているアオ。違うのに。
そんな事あるはずがないのに。そりゃあ、女の人と一緒に楽しそうに歩いているのを見ちゃったから気が気じゃなかったけど、でも……今は……
「嫌うなんてないよ!ぼくはアオが大好きだよっ!」
改めてめいいっぱい告白した。
どんなアオでもやっぱり大好きだよ。たとえ、本当に別な女の人の所へ行っちゃっても、ピンチには駆けつけてくれる頼れるカッコイイ先輩だから、嫌いになんてなれない。それくらい、アオの事がどうしようもなく好きなんだよ。好きで好きで大好きなんだよ。
「彼方……本当に?」
「本当だよ。ただ、嫉妬していたんだ。アオ、数日前に女の人と一緒に腕を組んで歩いていたから、もうぼくには興味なくなったのかなって、好きな人でも出来たのかなって気が気じゃなくt「彼方」
「彼方、あれはそういう人じゃない。オレの母親だ」
「…………え」
好きな人どころか妹や姉とかいう落ちでもなく、母親?
え、ええええ!?
「その、母さんが久しぶりに日本に来ていたから、街を案内していたんだよ。母さんはスキンシップが息子相手でも激しくてさ、あれでもまだ抑えた方なんだ。今でも俺にべったりでさ……」
「お、お母さんだったの!?うそ!すっごく綺麗で若そうだし!」
「よく言われる。母さんは見た目は20代みたいだからな。俺を生んだのも16だって言ってたから」
「そ、そんな早くに!?」
「若い頃いろいろヤンチャして、無能な父親との遊びが原因で俺がデキちゃったみたいでさ……。その後はやっぱり男に逃げられて、離婚して、母子家庭ながらも俺を頑張って育ててくれた。俺が中学終わる頃まではいろいろ喧嘩して、思う事がたくさんあったけど、一人でここまで育ててくれた恩はあるから比較的仲良くはやってる。母さんが俺にべったりなのは、たった一人の息子って事で子離れ出来てないからなんだ」
「そう、だったんだ……ごめん……。誤解してたし、変な事聞いちゃったね」
「いいんだ。母さんと歩いていたら彼方が誤解するのも無理はないし、嫉妬してくれて嬉しいって気持ちもあったから」
「アオ……」
その後の言葉は続かず、ただ抱きしめている腕だけが強まった。
しばらく無言で抱きしめあい、沈黙という時間の中でも気持ちが通じ合っていると感じられて、ぼくはとても心が満たされた。
「彼方」
「ん……」
抱擁を解いて、ぼくはアオを見上げる。アオの優しい瞳と視線が絡んだ。
「早く返事してあげられなくて……ごめんな。スマホ壊しちまって修理に出していたんだ。おかげで番号もアドレスもわからなくて悶々としてて、ゲームのフレンド機能にメッセージを送れる事に気づいて、それなら見てくれるかなって……送ったんだけど……気づかなかった?」
「あ……」
たしかに据え置きゲームの機能で、フレンドになりあうとメッセージが送れる機能があるんだった!
うわーん!そんな機能がある事を知っているくせになんでこんな事に気づかなかったんだろ。ぼく、バカだ。バカバカバカーっ!
しかし何にせよ、ゲームなんてしている暇も余裕もなかったから、メッセージには気づけなかった確率が高いんだけどね。
「今じゃスマホも治ったし、これでやっといつでもお前に連絡が取れる。また壊れた時のために連絡先は控えておかないとな。ちゃんと電話番号の方も」
「そうだね。ぼくもそうする。でも、なんでスマホ壊れたの?」
「……あんまり言いたくねーんだけど、昔の奴らに絡まれちまってさ。やりあってたら壊れたんだ。……半分俺の八つ当たりだけど」
「え……八つ当たり?」
「あーまあ……今となっては彼方が俺の事を嫌ってなくてよかったって事だ」
「アオ……」
ぼくのために、すごく悩んでいたんだね。
うう、ぼくってホント早とちりだ。すぐにアオに事情を訊いておけばよかったのに、イライラとショックで問題を先送りにしちゃっていたせいだよ。
「これからは、なんかあったらすぐ言えよ」
「うん。アオはとっても頼りになるから、なんでも相談する。もう早とちりしないようにする」
これからは困った時は、イの一番にアオに相談した方がいいね。だってぼくの自慢の恋人だから。助けてくれるって信じているから。
「今日は彼方を一人にしておけないから泊っていく」
「ほ、ほんと?それなら心強いや。愛犬のプリンとだと心細かったから」
「じゃあ俺が彼方のボディーガードを含めてそばにいるよ。それと……一緒にふろに入って……一緒に、寝たいんだけど」
「っ……い、いいよ。アオといっぱい……一緒にいたいから」
一緒にお風呂かぁ。実はまだ一緒に入った事がないから恥ずかしいけどちょっと楽しみだったりする。それに一緒に寝る事も。
この時のぼくは、お風呂も一緒に寝るという意味も、てっきり何事もなくそのまんまの意味と捉えていたんだけど、アオにとっては違っていたために、いろんな意味で辛い思いをさせてしまったのを知るのは翌日の事。
きっとその晩はぼくのせいであまり眠れなかっただろうなあって思う。同じ男目線だからこそ性的な辛さってわかっちゃうんだよね。ほんと何から何までごめんね、アオ。
でも次こそは……心の準備して覚悟しておくからねっ。
だから、それまでアオ……お預けだよ。
完
警察署から出ると、同じタイミングでもう一人出てくる。
「あ……あの……」
ぼくはおずおずとその人に近づき、なんて言っていいかわらずに口ごもる。
恋人のアオだ。アオが、助けてくれたんだ。ぼくのために……。
「彼方……」
そんなアオはぼくに気づいていたようで足を止めていた。
いろいろ思う事があるのか寂しそうにこちらを見つめているだけで、ぼくに近づく事もなく、離れる事もなく、やや遠目から何かを訴えたいようにして見ている。
「あ……えっと……」
なんだか今はぼく達二人の間に物理的距離がある気がして、お互いに少し躊躇いがちだ。
きっとぼくが連絡を無視し続けていたせいだよね。アオにこんな悲しそうな顔をさせちゃダメなのに。
はやく謝らなきゃ。はやく安心させなきゃ。
「あ、アオ……っ」
気が付けば涙声になっていた。恐怖から解放された事とアオが来てくれた事、アオの浮気疑惑など、いろいろ思うことがあり、脳内はキャパオーバーになっていた。
「あ、あの、ひっ……く、ひっく、ううう、うっええええええんっ!」
そして、恥も外聞もなく、ぼくは子供のように泣いてしまった。
「か、彼方……っ」
そんなアオは慌てだす。泣いているぼくをどうしようかとまごまごしている様子で、最初は恐る恐るだったけど、でも次第に意を決したのか何も言わずにぼくを抱きしめてくれた。強く、優しく。
ぼくは余計に涙腺が止まりそうもなくなって、嗚咽をこらえるのに必死でアオにしがみついた。
「泣くな、彼方」
「ひっく。ふっ……ご、ごめ……夜中に、メッセして、っき、きてくれて、ひっく……うれ、うれしか、た」
「大丈夫。もう大丈夫だから。お前を傷つける奴はいない。オレがいる」
「アオ……うん」
まるで幼い子供が恐怖に震えて泣いているみたいに、ぼくは震えがなかなか止まらなかった。
それでもアオはぼくが落ち着くまでずっとそうしてくれて、背中をさすったり、頭を撫でてくれたり、その存在感にとても救われて安心した。
「ごめん、ね……アオ。返事……遅くなって……ぼく「いいんだ」
「え……」
「嫌われたんだと……思って……」
寂しそうな顔をしているアオ。違うのに。
そんな事あるはずがないのに。そりゃあ、女の人と一緒に楽しそうに歩いているのを見ちゃったから気が気じゃなかったけど、でも……今は……
「嫌うなんてないよ!ぼくはアオが大好きだよっ!」
改めてめいいっぱい告白した。
どんなアオでもやっぱり大好きだよ。たとえ、本当に別な女の人の所へ行っちゃっても、ピンチには駆けつけてくれる頼れるカッコイイ先輩だから、嫌いになんてなれない。それくらい、アオの事がどうしようもなく好きなんだよ。好きで好きで大好きなんだよ。
「彼方……本当に?」
「本当だよ。ただ、嫉妬していたんだ。アオ、数日前に女の人と一緒に腕を組んで歩いていたから、もうぼくには興味なくなったのかなって、好きな人でも出来たのかなって気が気じゃなくt「彼方」
「彼方、あれはそういう人じゃない。オレの母親だ」
「…………え」
好きな人どころか妹や姉とかいう落ちでもなく、母親?
え、ええええ!?
「その、母さんが久しぶりに日本に来ていたから、街を案内していたんだよ。母さんはスキンシップが息子相手でも激しくてさ、あれでもまだ抑えた方なんだ。今でも俺にべったりでさ……」
「お、お母さんだったの!?うそ!すっごく綺麗で若そうだし!」
「よく言われる。母さんは見た目は20代みたいだからな。俺を生んだのも16だって言ってたから」
「そ、そんな早くに!?」
「若い頃いろいろヤンチャして、無能な父親との遊びが原因で俺がデキちゃったみたいでさ……。その後はやっぱり男に逃げられて、離婚して、母子家庭ながらも俺を頑張って育ててくれた。俺が中学終わる頃まではいろいろ喧嘩して、思う事がたくさんあったけど、一人でここまで育ててくれた恩はあるから比較的仲良くはやってる。母さんが俺にべったりなのは、たった一人の息子って事で子離れ出来てないからなんだ」
「そう、だったんだ……ごめん……。誤解してたし、変な事聞いちゃったね」
「いいんだ。母さんと歩いていたら彼方が誤解するのも無理はないし、嫉妬してくれて嬉しいって気持ちもあったから」
「アオ……」
その後の言葉は続かず、ただ抱きしめている腕だけが強まった。
しばらく無言で抱きしめあい、沈黙という時間の中でも気持ちが通じ合っていると感じられて、ぼくはとても心が満たされた。
「彼方」
「ん……」
抱擁を解いて、ぼくはアオを見上げる。アオの優しい瞳と視線が絡んだ。
「早く返事してあげられなくて……ごめんな。スマホ壊しちまって修理に出していたんだ。おかげで番号もアドレスもわからなくて悶々としてて、ゲームのフレンド機能にメッセージを送れる事に気づいて、それなら見てくれるかなって……送ったんだけど……気づかなかった?」
「あ……」
たしかに据え置きゲームの機能で、フレンドになりあうとメッセージが送れる機能があるんだった!
うわーん!そんな機能がある事を知っているくせになんでこんな事に気づかなかったんだろ。ぼく、バカだ。バカバカバカーっ!
しかし何にせよ、ゲームなんてしている暇も余裕もなかったから、メッセージには気づけなかった確率が高いんだけどね。
「今じゃスマホも治ったし、これでやっといつでもお前に連絡が取れる。また壊れた時のために連絡先は控えておかないとな。ちゃんと電話番号の方も」
「そうだね。ぼくもそうする。でも、なんでスマホ壊れたの?」
「……あんまり言いたくねーんだけど、昔の奴らに絡まれちまってさ。やりあってたら壊れたんだ。……半分俺の八つ当たりだけど」
「え……八つ当たり?」
「あーまあ……今となっては彼方が俺の事を嫌ってなくてよかったって事だ」
「アオ……」
ぼくのために、すごく悩んでいたんだね。
うう、ぼくってホント早とちりだ。すぐにアオに事情を訊いておけばよかったのに、イライラとショックで問題を先送りにしちゃっていたせいだよ。
「これからは、なんかあったらすぐ言えよ」
「うん。アオはとっても頼りになるから、なんでも相談する。もう早とちりしないようにする」
これからは困った時は、イの一番にアオに相談した方がいいね。だってぼくの自慢の恋人だから。助けてくれるって信じているから。
「今日は彼方を一人にしておけないから泊っていく」
「ほ、ほんと?それなら心強いや。愛犬のプリンとだと心細かったから」
「じゃあ俺が彼方のボディーガードを含めてそばにいるよ。それと……一緒にふろに入って……一緒に、寝たいんだけど」
「っ……い、いいよ。アオといっぱい……一緒にいたいから」
一緒にお風呂かぁ。実はまだ一緒に入った事がないから恥ずかしいけどちょっと楽しみだったりする。それに一緒に寝る事も。
この時のぼくは、お風呂も一緒に寝るという意味も、てっきり何事もなくそのまんまの意味と捉えていたんだけど、アオにとっては違っていたために、いろんな意味で辛い思いをさせてしまったのを知るのは翌日の事。
きっとその晩はぼくのせいであまり眠れなかっただろうなあって思う。同じ男目線だからこそ性的な辛さってわかっちゃうんだよね。ほんと何から何までごめんね、アオ。
でも次こそは……心の準備して覚悟しておくからねっ。
だから、それまでアオ……お預けだよ。
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