学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

いとこんドリア

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幕間/直と黒崎家

177.黒崎家の団らん

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★幕間なので今回は甲斐は出てきません

 直と鈴木カレンの婚約発表はなくなり、誠一郎達の根回しのおかげでなんとか破棄に持ち込むことができた。
 世間からすれば記者会見があるという情報は知っていたが、急に中止になった事を不思議に思うだけに済んだ。当然渡米の話もなくなり、開星の退学もなくなった。
 引き続き直は卒業まで開星に通う事になって安堵のため息。

 数ヶ月後、直は黒崎家で過ごすようになり、ゆっくり16年の時間を取り戻し始めている。最初は気まずさと気恥ずかしさがあって遠慮がちだったが、次第にこの生活にも慣れてきて、笑顔もそれなりに見せるようになった。

「直、いいところにいたわ」
「お母さん……?」

 直が自室から出ると、早苗が掃除をしながら声を掛けてきた。
 眼鏡にラフなスエット姿の直は、最近家の中ではこの格好をよくするようになっていた。どこからどう見ても普通の男子がくつろいでいる姿にしか見えないが、たった今矢崎直としての顔でリモート会議を終えたばかり。

「今度の日曜日にみんなでショッピングモールに買い物に行かないかって思って。悠里も友里香もその日は予定が何もないって言っていたから」
「それはいいですね」
「直、いつも言っているけど、敬語はなしって言ったでしょう?」
「あ……すみま、ごめんなさい」
「こっちこそごめんね。やっぱり子供達には他人行儀に話してほしくないから。でも直にも都合があるよね。ゆっくりでいいって言ったのに私ったら……」
「オレ……早く気兼ねなく話せるよう、がんばるよ」
「肩の力は抜いていいんだからね」

 本当に打ち解けるまではまだ時間がかかりそうだ。それでも確実に関係は深まっている。

「買い物……お母さんは何かほしいものでもあるの?」
「直の服とか日用品とか一緒に買いに行こうと思って」
「オレ、服ならたくさんあるよ」

 主に自社の広告塔として出演したCMでのブランドものや、デザイナーや専属のスタイリストが自分に似合うとよく送られてくるものを着ていた。あまりにたくさんあるので、一度着たらもう二度と袖を通すことがなくそのままオークションやどこかの団体に寄付しているくらいだ。
 今でも未着用のものが自社の倉庫のクローゼットに保管されているはず。秘書の久瀬に欲しいものを言えば取り寄せてくれるだろう。

「それは私達が買ったものじゃないでしょう。ちゃんと直のプライベートでの服やほしいものを親として買ってあげたいの。悠里とはよくショッピングに行くようになったけど、直とはまだどこにも行ったことがないし、あなたの欲しいものとか教えてほしいなって思って」
「……オレのほしいものは今は特にないよ。母さんたちがいてくれるだけでオレは満足だから」

 実際その通りだ。ほしいものはもう手元に全てある。恋人も、家族も、親友も、全部。
 これ以上ほしいものなんてないし、お金で買えるものなら自分の稼いだ莫大な財産でいくらでも購入できてしまえる。たぶん自分の口座には国家予算並みの金があるはずだ。自分で働いた金プラス株などで荒稼ぎしたものが。
 一生遊んで暮らしても使い切れない額なので、いらない分はどこかの団体に寄付でもしたいと思っている。

「それは嬉しいけれど、私が買ってあげたいの。直にちゃんと似合う服を」
「似合う服?いつも着ている服は自社の宣伝のために用意されたものだから……」
「どうりで似合っているんだけど、直の雰囲気にはあわないかなって思っていたのよ。もっと落ち着いたものがいいなって」
「じゃあ、母さんが選んでほしい。オレ、そういうのよくわからないから」
「うん、お母さんに任せて」

 夕刻を過ぎた頃、悠里が塾から帰宅。そのすぐ後に父の一樹と祖父の勝も帰宅した。
 各々着替えてダイニングに集まってくると、テーブルには早苗お手製の家庭料理が並んでいた。勝が美味そうだなとつまみ食いしようとした所を悠里に「おじいちゃんみっともない」と腕を叩かれていた。

「直、味はどう?」
「とっても美味しいよ」

 黒崎家の食事は用事がない限り家族みんなで取ることが多い。大きなテーブルをはさんで右側に両親の早苗と一樹。もう一方に直と悠里が座る。そして北側の大黒柱の席には祖父の勝が座り、テレビをつけながら今日あった事などを話し合いながら夕食を楽しむ。
 
「いっぱいあるからたくさん食べてね」
「うん。おかわりできそう」

 愛する恋人の作る料理と同じで温かみを感じる味だ。かの有名なおふくろの味というのかこれが。
 矢崎邸にいた頃は食事は誰かと食べる事なく毒見をされた味気のないもので、そばにマニュアル通りの動きしかしない側近と小間使い兼監視のような者が複数いるのみ。
 今思えば囚人と看守のような息苦しい時間だったように思う。なんて味気のない淋しい食生活をしていたものだと笑いたくなってくるものだ。

「特にこのカレー風味の唐揚げが美味しい」
「ありがとう、直」
「私もいろいろ手伝ったんだけどなー」

 妹の悠里がジト目でこちらを睨んできた。

「どうせ大した事してないだろ」
「失礼だね。味噌汁とごはん炊いたの私なんだけど」
「……どうりで少しご飯が固くて味噌汁がくどいわけだ」
「文句言うなら食わないでくれるかなぁ(#^ω^)」
「こらこら、食事中に兄妹喧嘩するんじゃないぞ」

 と、いいながらも愉快だとがはは笑う勝。そしてニコニコしている一樹。ここへ住み始めてまだ短いが、家族仲はとても良好だ。

「母さん、おかわり」
「はい、今よそうわね」
 
 早苗の作る料理はどれも絶品だ。一樹も勝も美味い美味いと口々に呟いておかわりを要求している。

「お母さん私もおかわり」
「あんまり食うとデブになってもしらないぞ。昨日の夜体重計に乗って叫んでたの聞こえたし」
「デリカシーのない兄を持つと苦労するなぁ。この前、洗剤入れすぎて泡だらけにして洗濯機ぶっ壊そうとしたくせに」
「チッ……覚えてやがった」
「こーら!もう言い争いはよしなさい」

 兄妹らしい口喧嘩も黒崎家の名物の一つとなった。

「ねえお母さん、私そろそろ新しいパジャマがほしいんだけど……日曜日に……だめかな」
「もちろんいいに決まってるじゃない。悠里はいつも遠慮してほしいものを言ってこないからたまには贅沢しなさいね」
「じゃあ僕は新しい釣り道具がほしくて……」
「もう一樹さん。先月新しい釣り竿買ったばかりでしょう」
「あれ、そ、そ、そうだっけ」
「そうですっ!あまり無駄遣いしちゃ今月のお小遣いはその分減らします」
「うう!そ、それは勘弁をっ」
「あはは、お父さんてばお母さんには頭が上がらないね」

 一樹の趣味は釣りだ。今度、一樹と勝とで釣りに行こうと誘われているのをふと思い出す。直は釣りをほとんどしたことがないので、一緒に釣りに出かけられるのを楽しみにしている。

「直もほしいもの考えておいてね」
「オレ、やっぱりほしいものあまり思い浮かばなくて……」
「じゃあ甲斐君のお土産とかおそろいのとかでもいいんじゃないの?」

 隣の悠里がちらっとこちらを見て名案を口にした。

「生意気な妹にしてはいいアイディアだ」
「冴えない兄を持つと困るもんね。私がしっかりしなきゃ甲斐君が大変だもん」
「おせっかい」
「甲斐君にだけはお節介上等だから」
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