学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

いとこんドリア

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十九章/全面対決

176.親子の対面

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 数日後、直は悠里と共に改めて黒崎夫妻と対面した。
 彼らが実の自分達の両親だという事、16年前の事を知った上での再会なので、悠里は嬉しそうだが直はどこか気まずさがある様子だった。
 なんせ16年も離れ離れだったのだ。どう接していいかわからず、自分からはなかなか話しかけられなかった。
 
「直、悠里、あの時はあなた達を助けてあげられなくて本当にごめんね。二人に辛い人生を歩ませてしまって、ずっとずっと心残りだった。助けてあげたかったのに……」

 改めて涙ぐんで謝罪をする早苗に、直も悠里も同時に顔を振る。

「……いいんです。無理に助け出そうとすればあなた方に危害が及ぶかもしれませんから。もし両親に何かあったら、こうして再会なんて叶わなかった。だから、あなた方を守るためには結果的にこれでよかったのです」

 直が両親が気を使わないように穏やかに話す。

「うん。お父さんとお母さんが16年の間無事でよかった。辛くなかったといえば嘘になるけど、直のいう通り二人を守るためにはこれでよかったんだって思う。いっぱい苦労して、いっぱい辛い思いをして、そうした上で何もかも乗り越えて解決できて、こうして16年ぶりに再会できたのはご褒美だと思う事にしてる」
「悠里、でも……」
「それより、あなた方は何度か矢崎財閥のビルに訪れたことがありますか」
「直?」
「蕎麦屋で会った時、早苗さんの事をどこかで見た記憶があるなって思っていたんです」 

 ふと早苗や一樹に過去の光景が思い浮かぶ。何度も何度も矢崎財閥のビルへ赴いたあの頃を。
 当然ながら全て門前払いされて、怖いやくざのような輩に目を付けられて暴力を振るわれた事もあった。それでも諦めきれなくて、しまいにはブラックリスト化されて出禁。命を狙われそうになった事もあった。

「うる覚えですけど。たしか……日本の小学校へ通い出した時、自分に矢崎の血が流れていない事をどこからか聞いて知りました。その時はとても疎外感を感じて、自分だけが矢崎じゃない別の人間なんだって思い悩んでいました。そんな時、偶然あなた方に似た人が矢崎の本社を訪れていたのを見たことがあったんです」

 まだ10歳の時、スイスから帰国したばかりだった。
 自分に矢崎の血が流れていない事実を知ってから孤独を感じ、毎日の絶え間ない家庭教師からの罵倒や英才教育に参っていた時だった。

「そのあなた方に似た人達は、正之に何度も『息子を返してください』と訴えていました。オレはなんとなく気になって見ていただけでしたけど、あまりに悲痛な様子にオレはもしかしてって思って声を掛けようとしました。ですが、オレは正之の側近に退場させられてそれっきり。それからずっと、ずっと気になっていました。あなた方の事を。もしかして、本当のお父さんとお母さんがオレを迎えに来てくれていたんじゃないかって」
「……っ」

 早苗も一樹も一気に涙腺が緩んだ。
 あの時、もう少し歯車が違っていたら再会できたかもしれなかったのに。

「それからずっとあなた方の事を探していました。なぜ矢崎に養子に出したのかという事も含めて、自分で調べようとしました。でも、正之や矢崎の連中がその話題を避けるようにしてタブー扱いにし、オレに生い立ちの事や両親の事をわからなくさせて、今まで有耶無耶にされました。わかったのは悠里が双子の妹という事実だけ。きっと矢崎側にしたら知られたくない事実だから隠したんでしょう。でも、自分の力で見つけられなくて悔しかった」

 自分がもう少ししっかりしていればとか、正之を出し抜いて探し尽くせばよかったとか、直の方も後悔が尽きない。
 
「お二人は危険を顧みずにオレを取り返しに来てくれたんですよね。何度も何度も矢崎の本社に来てくれていたんですよね。嬉しかった……お父さん、お母さん」
「直、私達の事をそう呼んでくれるの?」
「まだ、違和感はありますけど、二人がお父さんとお母さんには変わりありません。普通にそう呼べるまでしばらくは時間がかかると思いますが……待っててくれますか」
「ああ、直……もちろんだ」
「ゆっくり、ゆっくりでいいからね」

 一樹と早苗が直を抱きしめる。随分大きくなったなと子供の成長を見れなかった事に悲しさはあるが、それでもこうして再会できてよかったと心から思う。

「お父さん、お母さん、ありがとう……」

 直も抱きしめ返した。そこには矢崎直ではなく、黒崎直という年相応の照れた泣き笑いを見せた。

「お兄様……よかったですわね。実のご両親と再会できて」

 その背後で、友里香が羨ましそうに微笑していた。
 温かくて優しい両親。いつも偉そうで大人びていた義兄があんな顔をするなんて珍しいと思いながらも、今の直が本当の姿なのだろうと理解した。
 自分にも欲しかった。両親の存在が。親の温もりとやさしさが。
 親の温かさを知らない自分がひどく哀れに思えた。

「キミも僕たちの娘だよ」

 そんな寂しそうな友里香を見かねて、一樹が声を掛けた。

「ですが、わたくしの両親は……」

 もういない。祖父の誠一郎はいるとはいえ、会う機会が少ないから天涯孤独に近い。おまけに最低最悪な父の血を引く娘だ。こんな呪われた血を持つ自分と一緒にいると、あんな素敵なご両親が穢れてしまわないだろうか。

「直のもう一人の妹なら、私たちの娘同然よ。私達を本当の親だと思っていいの」
「でも……」
「子供は遠慮するもんじゃないよ。友里香」
「っ……!」

 友里香は涙ぐむと、一樹と早苗は友里香も抱きしめた。一気に涙腺が緩んで涙がこぼれる。
 初めて感じる親の温かさに、友里香は子供のように声をあげてわんわん泣いた。

「友里香のやつ、あんな風に泣くんだね。鼻水すっげぇ出てるしウケる」と、未来。
「そりゃ親の愛を知らないからこそ、初めてその温かさに触れる事ができたんだ。ギャン泣きもするよ」

 見守っていた甲斐と未来。昭弘とあずみもやってきた。

「しかも親友もこうして戻って来た。いう事なしだよな」

 甲斐が笑顔で天晴じゃと言う。

「直のパパとママってすっごく若作りだね。しかも超美人夫婦だし、妹の悠里ちゃんも友里香ちゃんも可愛いし。一気に二人の妹と家族ができたって感じだね」
「今までいっぱい苦労したんだ。これからはめいいっぱい幸せになってくれないとな。直、これからは俺達もついてるからなんでも相談してくれよ」
「そうだよ。もう一人で悩みとかを全部抱えないでよね。中学の頃にあれだけ心配させたんだから」
「うん……昭弘もあずみもありがとう。これからも頼りにしてる」

 二人は島から出てこれからまた開星に通うとの事。誠一郎が二人の親族に頭を下げて面倒を見ることを約束してきたらしい。島民からはそれはもう反発に遭い大変だったようだが、二人も真摯に説得してなんとか出戻ってくる事ができた。

「全部ひっくるめて甲斐のおかげだ」

 直が慈愛に満ちた顔で言う。

「あ?何で俺なんだよ。直が頑張ったからだろ」
「いや、甲斐がオレに幸運を運んでくれたんだよ。甲斐と出会ってから運気が上がったから」
「なんだそりゃ。幸運を運ぶキモオタとかキモイからやめてくれよ」
「キモくなんてない。甲斐はオレの天使だ」
「だーもう天使とか恥ずかしいな。そんな冗談言ってないでこれからしっかりしろよな次期社長様」

 はにかんだ甲斐の顔を見て、改めて直は思う。やっぱり甲斐のおかげだって。
 甲斐がいた事により人生が180度変わった。
 そんな事ないなんて甲斐は全力で謙遜するが、それが真実なのだから否定はさせない。

「甲斐、大好きだよ」
「……っ、俺も大好きだ」

 十九章 完
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