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十九章/全面対決
172.最強の殺し屋
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*
「探せ」
「直様を探して捕らえるのだ。そして会見場所へ急行せよとの命令だ」
「手掛かりは血痕を辿れ。直様と逃げた秘書はどうせ重傷だ。殺しても構わん」
直は川田を連れて狭い倉庫に身を潜めていた。逃げた自分達を捕えようと社員達が慌ただしく走り回っている。正之から新たな指令を受けたようで、意地でも自分を捕えて記者会見の場へ連行させる気だ。会見さえ開いてしまえば逃げられないと考えての事だろう。
浅はかな連中だ。捕まえてしまえば諦めて従順になると思ったら大間違いであるというのに。
最悪捕まったとしたら、会見場であの女との結婚を否定し続ける。その上で自分が正之に無理やり養子にされた事、その自由のない箱庭生活で悲惨な目にあってきた事、矢崎財閥の腐敗の内情、包み隠さず全て暴露してやるつもりだ。
そうなってしまえば矢崎財閥も正之も終わりだ。とはいえ、捕まればこいつが殺されてしまうので意地でも逃げるしかない。
幸い今いるこの倉庫内には日用品や事務用品が揃っており、それなりに使えそうな道具で川田の手当てを行った。怪我の応急処置は家庭教師から習った程度で拙いが、トイレットペーパーで止血して包帯替わりにできたのは上出来。ただ、腹部に弾が残っているので早く病院に連れて行かなければ危険だ。
「直様……おれ、死ぬんですかね」
川田は荒い呼吸を吐きながら笑っている。
「あの程度撃たれたくらいで弱音を吐くな田舎者」
「ですが……なんか体がだるくて動けないです」
「そりゃあ撃たれたんだからダルイだろ。意地でも動け。矢崎財閥が変わる所を見たいんだろ」
「……そうですね。せっかくこんな立派な所に就職できたんですもんね。クリーンな矢崎財閥で働いて、田舎に帰って自慢して、錦を飾るのが夢ですから。こんなところで弱音なんて吐けませんよね」
「そうだ。オレが矢崎財閥を変えて見せるから、お前は久瀬と一緒にオレを支えろ。お前には秘書としてやってほしい事が山程あるんだ」
ここもじきに見つかってしまうだろう。急いで別の場所に移らなければ。
直は再び川田の腕と肩を支えて歩き出す。下に行けば敵も多いが味方と遭遇する確率も高い。きっと甲斐達もいる。
「くたばるんじゃないぞ、川田」
*
やっと65階層にやってくると、下とはだいぶ雰囲気が変わり、厳かできらびやかな空間に出た。ガラスの外はとても高くていい眺め。ゆっくり眺望したいところだが、一際重量感ありそうな人影が通せんぼした。
「お前がターゲットの架谷甲斐か。どこからどう見ても普通の子供のようだがツワモノだと聞き及んでいる」
重低音の声に顔には刀傷があり、つんつん逆立つ短髪に、鋭すぎる目つき、盛り上がった大胸筋、極太の二の腕。どこの戦闘民族の傭兵だよってくらい筋肉質な強面だった。
「なんですの、あの男。いかついですわね」
「裏の世界で見た事があります。それなりに有名な顔だろうと思うので、たぶん社長が雇った中では最大に実力があるプロの殺し屋だと思います」
ついに最強の殺し屋がご登場らしい。その顔は普通の人が見たら強面すぎて慄くだろう。子供なんかみたら半泣き以上は確定で、下手をすれば失禁でもして気絶はするんじゃないだろうか。おまけに2M超えの大柄な長身。迫力のある容貌に、まるで某漫画の殺し屋を連想させる。
もしかしてこの男がEクラスを襲った此処壱っていう暴走族の親玉じゃないだろうか。クラスメートがゴルゴに似ていたとか言っていたのでこいつかもしれない。そう思案していると、友里香が前に出た。
「先手必勝ですわ」
「あ、よせ!」
彼女が槍をもってけしかける。しかし、大男は軽々と槍の先端を掴んで、逆に遠心力で彼女を振り回して吹き飛ばす。
「きゃあぁ!」
「友里香ちゃん!」
壁際に吹っ飛ばされ、友里香は壁にもんどりうって失神。
続けて相沢が持っている銃で大男の肉体を撃つが、全然貫通しない。それどころか弾丸を弾く肉体だなんて驚きだ。二次元かよと突っ込みたいが、本当にはじいて弾が床にパラパラ落ちている。皮膚が頑丈になる改造手術でも施したようだ。
「この程度で俺に挑んでくるとは笑止」
「う、ぐあ」
相沢も奴に膝蹴りを受けて殴り飛ばされ、壁に激しく激突。背中を強く打ったらしく血を吐いていた。
「俺は外野には興味ない。興味があるのは一番厄介だと言われている貴様だ。架谷甲斐」
そう言いながら、こちらに詰め寄ってくる。
「っ、早い!」
巨漢のくせして素早さは自分に匹敵する。しかも、何発もの突きが甲斐の顔面スレスレで空を切っていった。局地的に風がぶわりとなびき、甲斐の髪が何本かはらりと落ちる。反射神経が働いたおかげで間一髪避けることが出来た。
やはり最強のプロの殺し屋は伊達じゃない。改めて気を引き締めて動くことにする。侮ると確実に死ぬだろうと思ったのだ。もし侮った上に反射神経が働かなかったら確実に死んでいた。
「あんた名前は」
甲斐は不敵に微笑んで訊ねた。
「これから死ぬ奴に言っても意味がない」
「あら残念。そんな見た目だからシュワちゃんかターミネーターとかって名前かと思ったのに」
今度は甲斐から仕掛けた。奴の膝に蹴りをいれてバランスを崩させてかかとを落とすが避けられる。が、落としたかかとを真横に払い蹴り。奴の頬をかすめた。そのまま反転して裏拳ラリアット。ラリアットは元プロレスラーの太郎直伝である。
頬に甲斐の裏拳を受けた大男はふっとばされるが、かろうじて転ばずに持ちこたえた。鼻からは血が出て、初めてこいつの表情が変わったのを見た。
無表情だったのが今は鬼みたいな顔をしてこちらを睨んでいる。
「探せ」
「直様を探して捕らえるのだ。そして会見場所へ急行せよとの命令だ」
「手掛かりは血痕を辿れ。直様と逃げた秘書はどうせ重傷だ。殺しても構わん」
直は川田を連れて狭い倉庫に身を潜めていた。逃げた自分達を捕えようと社員達が慌ただしく走り回っている。正之から新たな指令を受けたようで、意地でも自分を捕えて記者会見の場へ連行させる気だ。会見さえ開いてしまえば逃げられないと考えての事だろう。
浅はかな連中だ。捕まえてしまえば諦めて従順になると思ったら大間違いであるというのに。
最悪捕まったとしたら、会見場であの女との結婚を否定し続ける。その上で自分が正之に無理やり養子にされた事、その自由のない箱庭生活で悲惨な目にあってきた事、矢崎財閥の腐敗の内情、包み隠さず全て暴露してやるつもりだ。
そうなってしまえば矢崎財閥も正之も終わりだ。とはいえ、捕まればこいつが殺されてしまうので意地でも逃げるしかない。
幸い今いるこの倉庫内には日用品や事務用品が揃っており、それなりに使えそうな道具で川田の手当てを行った。怪我の応急処置は家庭教師から習った程度で拙いが、トイレットペーパーで止血して包帯替わりにできたのは上出来。ただ、腹部に弾が残っているので早く病院に連れて行かなければ危険だ。
「直様……おれ、死ぬんですかね」
川田は荒い呼吸を吐きながら笑っている。
「あの程度撃たれたくらいで弱音を吐くな田舎者」
「ですが……なんか体がだるくて動けないです」
「そりゃあ撃たれたんだからダルイだろ。意地でも動け。矢崎財閥が変わる所を見たいんだろ」
「……そうですね。せっかくこんな立派な所に就職できたんですもんね。クリーンな矢崎財閥で働いて、田舎に帰って自慢して、錦を飾るのが夢ですから。こんなところで弱音なんて吐けませんよね」
「そうだ。オレが矢崎財閥を変えて見せるから、お前は久瀬と一緒にオレを支えろ。お前には秘書としてやってほしい事が山程あるんだ」
ここもじきに見つかってしまうだろう。急いで別の場所に移らなければ。
直は再び川田の腕と肩を支えて歩き出す。下に行けば敵も多いが味方と遭遇する確率も高い。きっと甲斐達もいる。
「くたばるんじゃないぞ、川田」
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やっと65階層にやってくると、下とはだいぶ雰囲気が変わり、厳かできらびやかな空間に出た。ガラスの外はとても高くていい眺め。ゆっくり眺望したいところだが、一際重量感ありそうな人影が通せんぼした。
「お前がターゲットの架谷甲斐か。どこからどう見ても普通の子供のようだがツワモノだと聞き及んでいる」
重低音の声に顔には刀傷があり、つんつん逆立つ短髪に、鋭すぎる目つき、盛り上がった大胸筋、極太の二の腕。どこの戦闘民族の傭兵だよってくらい筋肉質な強面だった。
「なんですの、あの男。いかついですわね」
「裏の世界で見た事があります。それなりに有名な顔だろうと思うので、たぶん社長が雇った中では最大に実力があるプロの殺し屋だと思います」
ついに最強の殺し屋がご登場らしい。その顔は普通の人が見たら強面すぎて慄くだろう。子供なんかみたら半泣き以上は確定で、下手をすれば失禁でもして気絶はするんじゃないだろうか。おまけに2M超えの大柄な長身。迫力のある容貌に、まるで某漫画の殺し屋を連想させる。
もしかしてこの男がEクラスを襲った此処壱っていう暴走族の親玉じゃないだろうか。クラスメートがゴルゴに似ていたとか言っていたのでこいつかもしれない。そう思案していると、友里香が前に出た。
「先手必勝ですわ」
「あ、よせ!」
彼女が槍をもってけしかける。しかし、大男は軽々と槍の先端を掴んで、逆に遠心力で彼女を振り回して吹き飛ばす。
「きゃあぁ!」
「友里香ちゃん!」
壁際に吹っ飛ばされ、友里香は壁にもんどりうって失神。
続けて相沢が持っている銃で大男の肉体を撃つが、全然貫通しない。それどころか弾丸を弾く肉体だなんて驚きだ。二次元かよと突っ込みたいが、本当にはじいて弾が床にパラパラ落ちている。皮膚が頑丈になる改造手術でも施したようだ。
「この程度で俺に挑んでくるとは笑止」
「う、ぐあ」
相沢も奴に膝蹴りを受けて殴り飛ばされ、壁に激しく激突。背中を強く打ったらしく血を吐いていた。
「俺は外野には興味ない。興味があるのは一番厄介だと言われている貴様だ。架谷甲斐」
そう言いながら、こちらに詰め寄ってくる。
「っ、早い!」
巨漢のくせして素早さは自分に匹敵する。しかも、何発もの突きが甲斐の顔面スレスレで空を切っていった。局地的に風がぶわりとなびき、甲斐の髪が何本かはらりと落ちる。反射神経が働いたおかげで間一髪避けることが出来た。
やはり最強のプロの殺し屋は伊達じゃない。改めて気を引き締めて動くことにする。侮ると確実に死ぬだろうと思ったのだ。もし侮った上に反射神経が働かなかったら確実に死んでいた。
「あんた名前は」
甲斐は不敵に微笑んで訊ねた。
「これから死ぬ奴に言っても意味がない」
「あら残念。そんな見た目だからシュワちゃんかターミネーターとかって名前かと思ったのに」
今度は甲斐から仕掛けた。奴の膝に蹴りをいれてバランスを崩させてかかとを落とすが避けられる。が、落としたかかとを真横に払い蹴り。奴の頬をかすめた。そのまま反転して裏拳ラリアット。ラリアットは元プロレスラーの太郎直伝である。
頬に甲斐の裏拳を受けた大男はふっとばされるが、かろうじて転ばずに持ちこたえた。鼻からは血が出て、初めてこいつの表情が変わったのを見た。
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