学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

いとこんドリア

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十九章/全面対決

171.友里香の思い

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 *

「少し疲れたな。今何階?」
「まだ45階ですね」
「先は長いーっ。足が棒になりそう~」
「だらしないわよ未来。そんなんじゃ五輪で金メダルなんて無理じゃない?」
「そんな事ないもん。ちょっと口に出ただけで~」
「ふふ、過去さんてば口に出した本音も隠せないなんてまだまだですわね」
「なんだとー!」
「まあまあ」

 足腰が重くなってきた所で変わりばんこで休憩を挟む。が、次々と敵がやってくるので休む暇はない。50階に差し掛かる手前、足元の床に風穴があいた。

「ここから先は通さねえぜ」

 先ほどの社員よりかはさらに人相が悪い男数人が立ちはだかった。手にはそれぞれあらゆる飛び道具を持っている。

「うわ、さっきとは違うのがきた」
「この先はプロの殺し屋や傭兵が相手のようです。社長が雇ったそれなりの実力者達でしょう」
「そいつらを倒さないと先に進めないわけだな」
「あんた達、先に行きなさい」
「え、母ちゃん?」

 状況を察して唯が指示を出す。

「ここはあたし達が食い止める。あんたと友里香ちゃんと相沢先生は行って。未来がどうも疲れたみたいだからちょっと休憩しながら戦闘しようと思って」
「もーそんな事ないってばお母さん」

 そい言いながらも少し息があがっている未来。

「この先何が起こるかわからないからこそ二手に分かれるのよ。てことで、あたしがバカ社長を殴るところもちゃんと残しときなさいよ。16年分の恨みを溜めてたんだから」
「へいへい、わかってるよ。じゃあ行くぞ二人とも」
「「はい!」」

 三人にその場を任せて甲斐と友里香と相沢はさらに上を昇る。その間にも雑魚社員を適当にあしらいながら進んだ。

「友里香ちゃんも相沢先生もこんなにも強いなんて思わなかったよ。頼りになる」
「私は元裏社会に身を置いておりましたが、今は矢崎財閥で腕を磨いています。誠一郎様を守る側近として」
「わたくしは自分で鍛えました。ほとんど我流に近いですわ。愚父などを見ているとどうも気が滅入ってしまっていたので、知り合いに槍術師を紹介してもらったんです。そこであの愚父に気持ちで負けないようにと、いずれあの父を倒す時が来るんじゃないかという日に備えて習っていたのです」
「そうだったのか。本当にそうなりそうだよな今日で」
「絶対そうなるのです。今日でもうあの男を社長の椅子から引きずり下ろす。あの男の処遇はどうなるかわかりませんが、できればこの私が……」
「奴を殺すのか」

 含みのある言葉尻に甲斐は改まって訊ねる。

「……本当は殺したいくらい憎いです。憎いですが……正直迷っています。奴を殺しても今までの事や恨みが消えるわけでもないですし、殺したとしても自分がこれまで通り普通に生きていけるとも思えない」

 だからと言って、奴を野放しになんてできないし、これまでの事を水に流すなんて冗談じゃない。どうしたらこの心の内の闇を緩和できるのだろうかと常に彼女は悩んでいた。

「友里香ちゃん、キミが今までの人生でどれだけ辛く苦しい思いをしてきたかわからないし、出しゃばった言い方かもしれないけど、俺はキミに手を汚してほしくないよ」
「甲斐様」
「誠一郎さんが言っていたように、キミの心が壊れてしまうのは見たくない」

 いくら奴が最低最悪な人間とはいえ、彼女からすれば実の父親でもあるのだ。罪悪感や後悔などがいつか必ず自らを蝕むのは目に見えている。そして苦しんだ末に壊れてしまうなんて見ていられない。

「私も友里香様には手を汚してほしくありません。あなたはこれから幸せにならなくてはならないお方。元裏社会に身を置いていた私が言うのもあれですが、人を殺したらもう二度とシロには戻りません。まともな人間ほどそれが付きまとい、忘れられなくなるのです。私も今でも初めて人を殺した時の感触が忘れられず、眠れない夜を過ごす日もあります」
「………」
「あなたはあの父親のために罪を背負うことはありません。あんな父親だからこそ、殺す価値もないのです。あらゆる場所から恨みを買い過ぎており、放っておいてもいい死に方はしません。今までしてきたたくさんの殺しや犯罪をなかった事にして幸せに生きていけるわけなどないのですから。必ず報いを受けます。だからあなたはあの男が転落していく様子を高見の見物でもしていればいいくらいです」
「相沢さん……」
「それでも何もしないのは納得できないだろうからさ、満足するまでボコボコにはしてやらないと気が済まないだろ。顔面整形はまず決定として、あとは髪を全部つるっぱげにして、全裸にして亀甲縛りして写真撮ってあいつの取引先全部に写真送信とかいいかもしれない。こいつは最低最悪な悪さをした極悪人ですって説明書き付けてな。その上で逮捕してもらって、日本全国に奴の無様な姿をカメラ前でさらしてやればいいよ。全国のお茶の間のお笑いになろうがネットにおもちゃにされようが奴の自業自得なんだしさ。殺すよりよほど溜飲が下がると思うぜ」

 甲斐の子供のような悪戯の提案に友里香も相沢も噴出す。

「甲斐様ったら……殺す以上に屈辱的な方法をたくさん知っていらっしゃるのですね」
「殺すだなんて勿体ない。一番嫌がる方法で世界の笑い者にするのが一番の屈辱だろ。そうして盛大に爆笑してやれば友里香ちゃんの胸の内もスッキリするんじゃないかな。笑って大団円で終われるんだから」
「ふふ、たしかにそうですね。そうしたらこの身に宿る恨みも笑いで消えそうな気がします」

 そこまで追い詰めるまでは難しいかもしれないが、甲斐がいるならきっと大丈夫。優しくて、頼もしくて、ユーモアあふれる人で、自分が好きになった殿方。常に真っすぐで前を向いている。
 やっぱり自分の目に狂いはなかった。この人が好きだなと友里香は改めて思った。

「甲斐様に出会えて私、よかったです」
「ははは、それは大げさだ。話はあのバカ社長を追い詰めてからだ。いくぞ」

 
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