164 / 222
十八章/黒崎家
159.黒崎家の過去3
しおりを挟む
『なんだその目は!なんだその言い草は!私がどれだけ努力をしてここまで会社を大きくさせたと思っているんだ!私の稼ぎがあったからこそお前は今まで裕福な生活ができていたんだぞ!わかっているのか!なんの取り柄もない箱入り娘だったお前を……っ!』
興奮が止められない父はさらにこぶしを振り上げる。
『あなたっ!やめて!』
興奮する父を横から止めるようにしがみつく母。
『早苗の気持ちもわからなくもないわ。私たちは会社の事ばかりだったから、何も親らしい事をしてあげられなかったのは事実。それに早苗の大事な息子。私達からすれば孫でしょう』
『何を言っている。娘が親に反抗するようになったのは元はと言えばお前の責任だろう!ちゃんと早苗の面倒を見ていなかったからこうなったんだ!なんでそんな落ち着いていられる!?ああ、あんな貧乏庶民の男と出会ったばかりにこんな親に反抗するような娘になってしまったのか!』
『一樹さんを悪く言わないでよ!!』
『そうよあなた。さすがに今のは言いすぎで『うるさい!お前が、お前が早苗を放置したせいだぞッ』
今度は父は母の両肩に掴みかかり、激しくゆさぶる。母は罪悪感からかされるがままになっている。
『もうやめてよ!!』
私は激しく怒鳴った。会社の事から始まり、直を差し出せと命令するのみならず、一樹さんを悪く言いながら母に全て責任転嫁をさせるこの父にますます失望感が止まらない。
『帰って』
私は震える声で呟く。
『なに?』
『帰ってください!』
こんな醜い争いをしている自分達親子が情けなくて仕方がない。
『そして二度と私の前に姿を見せないでください!あなた方の事はもう両親だとは思いません!』
私は半ば強引に父と母の背中を押して玄関の外へ追い出した。
『直は絶対に渡しませんから!大事な可愛い息子をあなた方には絶対に!』
悲しみと怒りと、渡さないという強い意志が綯い交ぜになったようにそう決意する。
しばらく両親は黙っていた。玄関の戸をすぐに閉めたにも関わらず、家の外ではまだ両親の気配が遠ざからないので、私はどうしようかと玄関前で立ち尽くした。
『早苗』
長い沈黙から唐突に名前を呼ばれて肩がびくつく。私が聞き耳を立てていると予測して声をかけたのだろう。
『ここでお前が養子に出すのを断れば、お前や私達は一生矢崎財閥から目をつけられ、犬畜生のように扱われた末に社会から抹殺されるだろう』
私は黙って聞いている。
『そういう連中なんだ矢崎財閥は。華やかなトップの顔しか知らないだろうが、今の矢崎財閥は冷酷無慈悲の組織だ。特に新社長になったばかりの矢崎正之は、ほしいモノがあればどんな事をしてでも手に入れる狡猾な人間。たとえ凶悪犯罪を犯してでも、目先の欲のためなら悪魔に魂すら売れる考えの持ち主だ。つまり、お前が養子に出すのを断ろうが逃れようが、地の果てまでも追いかけてくるだろう。お前に選択の余地はないに等しい。そろそろお前の息子を手に入れようと向かって来る頃だろうからな』
『ッ……』
その言葉に息をのんでぞっとする。
『きっとお前は息子を養子に差し出さないといけなくなる。矢崎の恐ろしさを身をもって知り、手放さなければならなくなる。悲惨な目に遭いたくなければ、その息子を抵抗せずに差し出した方が身のためだぞ。でないと……』
父が間をおいて静かに言う。
『矢崎財閥に一族諸共殺されるだけだ』
まるで脅すように言った父の言葉に震える。ただのこけ脅しには思えない。恐怖に身がすくんだ。
まさか本当に抵抗すれば殺されるとでも言うのだろうか。そこまで筋を通さない理不尽な連中だと言うのだろうか。
父はそれだけ言うと母と共に静かに去って行った。私は玄関扉に寄りかかりながらズルズルと床に崩れ落ちた。これからの事を考えると不安が不安を呼び、直を失ってしまうのではないかと恐怖に泣き震えた。
『……ま、ま』
そんな時、ふと聞こえてきた自分を呼ぶ声に、思い出したように奥の部屋へ向かった。
『直!』
部屋で寝ていたはずの直は起きて半泣きにオロオロしていた。隣で双子の妹の悠里も不安で泣きそうになっている。さっきの揉め事で起こしてしまって、起きたらそばに誰もいない事で寂しくなったのだろう。
私は直と悠里を同時に抱き上げた。
『ふええええん!』
『マンマぁああ!』
『直、悠里、ごめんね。寂しくさせちゃって』
抱き上げてヨシヨシとなだめると可愛い二人は泣き止み、次第に笑顔になっていく。泣き虫で寂しがり屋な直と、しっかり者であまり泣かない悠里。本当に愛おしくて、大事な大事な子供達だ。母親ならこの二人を守らなくちゃ。
私は涙ぐみながら、強く強く二人をめいいっぱい抱きしめた。
『どうしたんだい、早苗』
その夜、一樹さんが帰宅し、様子のおかしい私を見て心配していた。そばで直と悠里が無邪気におもちゃで遊んでいるのを見守りながら。
興奮が止められない父はさらにこぶしを振り上げる。
『あなたっ!やめて!』
興奮する父を横から止めるようにしがみつく母。
『早苗の気持ちもわからなくもないわ。私たちは会社の事ばかりだったから、何も親らしい事をしてあげられなかったのは事実。それに早苗の大事な息子。私達からすれば孫でしょう』
『何を言っている。娘が親に反抗するようになったのは元はと言えばお前の責任だろう!ちゃんと早苗の面倒を見ていなかったからこうなったんだ!なんでそんな落ち着いていられる!?ああ、あんな貧乏庶民の男と出会ったばかりにこんな親に反抗するような娘になってしまったのか!』
『一樹さんを悪く言わないでよ!!』
『そうよあなた。さすがに今のは言いすぎで『うるさい!お前が、お前が早苗を放置したせいだぞッ』
今度は父は母の両肩に掴みかかり、激しくゆさぶる。母は罪悪感からかされるがままになっている。
『もうやめてよ!!』
私は激しく怒鳴った。会社の事から始まり、直を差し出せと命令するのみならず、一樹さんを悪く言いながら母に全て責任転嫁をさせるこの父にますます失望感が止まらない。
『帰って』
私は震える声で呟く。
『なに?』
『帰ってください!』
こんな醜い争いをしている自分達親子が情けなくて仕方がない。
『そして二度と私の前に姿を見せないでください!あなた方の事はもう両親だとは思いません!』
私は半ば強引に父と母の背中を押して玄関の外へ追い出した。
『直は絶対に渡しませんから!大事な可愛い息子をあなた方には絶対に!』
悲しみと怒りと、渡さないという強い意志が綯い交ぜになったようにそう決意する。
しばらく両親は黙っていた。玄関の戸をすぐに閉めたにも関わらず、家の外ではまだ両親の気配が遠ざからないので、私はどうしようかと玄関前で立ち尽くした。
『早苗』
長い沈黙から唐突に名前を呼ばれて肩がびくつく。私が聞き耳を立てていると予測して声をかけたのだろう。
『ここでお前が養子に出すのを断れば、お前や私達は一生矢崎財閥から目をつけられ、犬畜生のように扱われた末に社会から抹殺されるだろう』
私は黙って聞いている。
『そういう連中なんだ矢崎財閥は。華やかなトップの顔しか知らないだろうが、今の矢崎財閥は冷酷無慈悲の組織だ。特に新社長になったばかりの矢崎正之は、ほしいモノがあればどんな事をしてでも手に入れる狡猾な人間。たとえ凶悪犯罪を犯してでも、目先の欲のためなら悪魔に魂すら売れる考えの持ち主だ。つまり、お前が養子に出すのを断ろうが逃れようが、地の果てまでも追いかけてくるだろう。お前に選択の余地はないに等しい。そろそろお前の息子を手に入れようと向かって来る頃だろうからな』
『ッ……』
その言葉に息をのんでぞっとする。
『きっとお前は息子を養子に差し出さないといけなくなる。矢崎の恐ろしさを身をもって知り、手放さなければならなくなる。悲惨な目に遭いたくなければ、その息子を抵抗せずに差し出した方が身のためだぞ。でないと……』
父が間をおいて静かに言う。
『矢崎財閥に一族諸共殺されるだけだ』
まるで脅すように言った父の言葉に震える。ただのこけ脅しには思えない。恐怖に身がすくんだ。
まさか本当に抵抗すれば殺されるとでも言うのだろうか。そこまで筋を通さない理不尽な連中だと言うのだろうか。
父はそれだけ言うと母と共に静かに去って行った。私は玄関扉に寄りかかりながらズルズルと床に崩れ落ちた。これからの事を考えると不安が不安を呼び、直を失ってしまうのではないかと恐怖に泣き震えた。
『……ま、ま』
そんな時、ふと聞こえてきた自分を呼ぶ声に、思い出したように奥の部屋へ向かった。
『直!』
部屋で寝ていたはずの直は起きて半泣きにオロオロしていた。隣で双子の妹の悠里も不安で泣きそうになっている。さっきの揉め事で起こしてしまって、起きたらそばに誰もいない事で寂しくなったのだろう。
私は直と悠里を同時に抱き上げた。
『ふええええん!』
『マンマぁああ!』
『直、悠里、ごめんね。寂しくさせちゃって』
抱き上げてヨシヨシとなだめると可愛い二人は泣き止み、次第に笑顔になっていく。泣き虫で寂しがり屋な直と、しっかり者であまり泣かない悠里。本当に愛おしくて、大事な大事な子供達だ。母親ならこの二人を守らなくちゃ。
私は涙ぐみながら、強く強く二人をめいいっぱい抱きしめた。
『どうしたんだい、早苗』
その夜、一樹さんが帰宅し、様子のおかしい私を見て心配していた。そばで直と悠里が無邪気におもちゃで遊んでいるのを見守りながら。
1
お気に入りに追加
509
あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!
あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。
かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き)
けれど…
高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは───
「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」
ブリッコキャラだった!!どういうこと!?
弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。
───────誰にも渡さねぇ。」
弟×兄、弟がヤンデレの物語です。
この作品はpixivにも記載されています。
どうしょういむ
田原摩耶
BL
苦手な性格正反対の難あり双子の幼馴染と一週間ひとつ屋根の下で過ごす羽目になる受けの話。
穏やか優男風過保護双子の兄+粗暴口悪サディスト遊び人双子の弟×内弁慶いじめられっ子体質の卑屈平凡受け←親友攻め
学生/執着攻め/三角関係/幼馴染/親友攻め/受けが可哀想な目に遭いがち
美甘遠(みかもとおい)
受け。幼い頃から双子たちに玩具にされてきたため、双子が嫌い。でも逆らえないので渋々言うこと聞いてる。内弁慶。
慈光宋都(じこうさんと)
双子の弟。いい加減で大雑把で自己中で乱暴者。美甘のことは可愛がってるつもりだが雑。
慈光燕斗(じこうえんと)
双子の兄。優しくて穏やかだが性格が捩れてる。美甘に甘いようで甘くない。
君完(きみさだ)
通称サダ。同じ中学校。高校にあがってから美甘と仲良くなった親友。美甘に同情してる。


【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる