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十五章/最大の敵
130.矢崎財閥という呪い
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「学校では俺様鬼畜の直様が実は寂しがり屋の甘えん坊だったなんて大したギャップだよ。作られたキャラとはいえこんな一面を知ったらみんな驚くだろうな」
「世間に弱い所を見せるわけにはいかないから。こんな素のオレを見せるのは甲斐と親友にだけ」
甲斐の手をとって掌を何度も口づける直。掌がなんだかくすぐったい。
「そりゃあ光栄ですこと。天下の直様にそう言われるなんてさ。離れがたくなっちまう」
「いつか……離れるの、か……?」
直は急激に寂しげな表情になった。甲斐は慌てて否定する。
「あ、いや、そういう意味じゃ「でもいずれそうなるんだろう?オレの前からいなくなるんだろ……?」
「直、今はまだわからない。あのバカ社長がお前を支配しようとするなら俺は「どうすればいいんだよ」
直はがたがた小刻みに震える。
「甲斐がいなくなったらオレはどうすればいい?どうやって生きていけばいいんだよ」
その顔は不安で不安でたまらない子供のような顔だった。
「もうよそう。今はこんな話。陰気くさくなるからさ」
甲斐はこの不安定な直を見ていられなくて、話題を切り替えようとする。が、
「オレをひとりにする」
その直の声はますます震えていた。
「直?」
「お前も同じ。オレをひとりにする。どうせオレを置いていくんだろ」
「何言ってんだよ。一体どうしたって……」
「みんないなくなる。昭弘もあずみも……どうせ甲斐もいつか離れていく。オレが好きになった人はみんないなくなるんだよ。あいつのせいで……」
「あいつ……バカ社長か」
「あいつはオレがどこへ逃げても地の果てまでも追いかけてくる。オレがどこで何をしてどうしようが逐一監視を付けてオレに干渉してくる。次期後継者ってだけで、自分の都合のいい木偶の坊にするつもりだ。そんな自分の人生は呪われているって思うようになって、昔は何度も死のうとした」
「っ……」
「何度か首を吊ろうとして側近や久瀬に止められて、無駄に生き永らえている」
甲斐は言葉を失った。そこまで思い詰めるほど矢崎財閥での生活は地獄だったのか。
華やかなセレブの世界、何不自由のない生活、どんな相手でも跪かせる権力、日本中から持て囃される日々。その裏は自由のない過干渉と四六時中付きまとわれる監視付きの地獄のような生活だった。
「昭弘とあずみを遠くへ飛ばした事だけでも死ぬほど許せないのに、下手をすれば殺されていた事も考えられていたから。だから、陰から援助する事しかできなかった」
「奴はそこまでするのか。息子の親友二人すらも手を掛けようと……」
ぎりっと拳に自然と力が入った。甲斐の中で怒りが膨れ上がる。それと同時に、直は自分の知らない所で相当辛い思いをしていた事にも気づかない自分にも腹が立った。
「俺さ、最初は直の事をなんて奴だって思ってた」
突如として話題を切り替えた甲斐はぽつりと今の気持ちを話し始めた。
「傍若無人の傲慢な奴だって呆れてた。本当に出会った頃は大嫌いだった」
「オレの事……大嫌い……?」
「ばか。そんな顔するな。あくまで最初の頃だから」
いくら過去の事とはいえ悲しそうな顔をする直に苦笑する。
「お前は本当は不満を周りにぶつけていただけの事。俺様っていう偽りのキャラを作って強がって見せてるけど、本当は誰よりも傷つきやすくて、寂しがり屋で、素直な奴だって知った。金持ち大貴族の中でもこんな風に辛い思いを抱えて生きている人もいるんだってよくわかった。お前と出会わなければ、俺は身勝手な金持ち連中の事を誤解したままだったよ。金持ち貴族ってだけで僻み根性で忌み嫌って過ごしていたと思うんだよね。だから、お前の事を知れて嬉しい」
「嬉しい……?」
「うん。お前の事は全部知りたい。好きな人の事を知って力になりたいと思うのは自然の事だから」
これから戦いが始まる。矢崎財閥との大きな戦いが。
*
「……何か御用か、暇人社長」
直と別れて寮へ帰る途中、甲斐は背後に複数いる気配に冷たい視線を向けていた。
「さすがだね。エリート軍人の精鋭部隊を選りすぐった者を連れているのだが、私達の気配に気づいているとは」
社長が数人の黒服護衛を引き連れて目の前に現れた。深夜の暗闇の中で待機していたらしい。
「これでも死ぬほど鍛えられているんで、軍人程度で舐めてもらっちゃあ困るな」
「キミは性懲りもなく直に近づいて、よほど私を怒らせたいようだね」
「たかが誰かと会うだけでそう怒りなさんなバカ社長さんよ。神経質すぎてハゲてもしらねーぞ」
「つまらない会話をしに来たわけではないんだがな。直はキミと会うとおかしくなる。社長としての仕事をしなくなる。許嫁のカレンさんに対してもひどい対応だ。悪影響もいい所。だからいっその事ここで消す事だって考えているよ」
「悪影響なのはお宅だろ。過干渉の毒親が。それに言ったはずだ。お前が会うなと言っても俺は今後も勝手にあんたの息子と会うと。俺はお前らの圧力や武力行使には屈しないんで」
そう言った途端、殺気立って護衛の数人がいきなり発砲してきた。
甲斐は銃弾の嵐を颯爽と走り抜け、前転しながら柱に身を隠す。路地の外壁や街路樹などに風穴が開き、通りすがりのサラリーマンが悲鳴をあげている。
本当に撃つとは沸点の低い野郎だ。民間人の迷惑を考えない最低な連中である。
「直に二度と会わないと約束するなら今の威嚇だけで済ませてやる。どうする?」
「それはできないおプロミスだな。俺、偉そうに命令してくるてめえみたいな貴族や上級国民が大っ嫌いでね、簡単には屈しない事を覚えておくがいい。あといずれ、お前ら悪党の悪事も白日の下に晒してやる。首を洗って待っていやがれ、クソ矢崎財閥。地獄に落ちろ」
柱で身を寄せながら甲斐は鋭く奴らを射抜く。他の奴らは震え上がらせたが、社長はさすがトップなだけあって甲斐の殺気にもそこまで動揺しない。
「威勢のいい事だ。やれるものならやってみるがいい。我々も全力でキミを殺しにかかるとしよう。次は容赦はしない」
「上等だ。直を必ずてめえという監獄から助け出す!いつでもかかってくるがいい!」
かくして、甲斐と矢崎財閥との戦いが始まった。
十五章 完
「世間に弱い所を見せるわけにはいかないから。こんな素のオレを見せるのは甲斐と親友にだけ」
甲斐の手をとって掌を何度も口づける直。掌がなんだかくすぐったい。
「そりゃあ光栄ですこと。天下の直様にそう言われるなんてさ。離れがたくなっちまう」
「いつか……離れるの、か……?」
直は急激に寂しげな表情になった。甲斐は慌てて否定する。
「あ、いや、そういう意味じゃ「でもいずれそうなるんだろう?オレの前からいなくなるんだろ……?」
「直、今はまだわからない。あのバカ社長がお前を支配しようとするなら俺は「どうすればいいんだよ」
直はがたがた小刻みに震える。
「甲斐がいなくなったらオレはどうすればいい?どうやって生きていけばいいんだよ」
その顔は不安で不安でたまらない子供のような顔だった。
「もうよそう。今はこんな話。陰気くさくなるからさ」
甲斐はこの不安定な直を見ていられなくて、話題を切り替えようとする。が、
「オレをひとりにする」
その直の声はますます震えていた。
「直?」
「お前も同じ。オレをひとりにする。どうせオレを置いていくんだろ」
「何言ってんだよ。一体どうしたって……」
「みんないなくなる。昭弘もあずみも……どうせ甲斐もいつか離れていく。オレが好きになった人はみんないなくなるんだよ。あいつのせいで……」
「あいつ……バカ社長か」
「あいつはオレがどこへ逃げても地の果てまでも追いかけてくる。オレがどこで何をしてどうしようが逐一監視を付けてオレに干渉してくる。次期後継者ってだけで、自分の都合のいい木偶の坊にするつもりだ。そんな自分の人生は呪われているって思うようになって、昔は何度も死のうとした」
「っ……」
「何度か首を吊ろうとして側近や久瀬に止められて、無駄に生き永らえている」
甲斐は言葉を失った。そこまで思い詰めるほど矢崎財閥での生活は地獄だったのか。
華やかなセレブの世界、何不自由のない生活、どんな相手でも跪かせる権力、日本中から持て囃される日々。その裏は自由のない過干渉と四六時中付きまとわれる監視付きの地獄のような生活だった。
「昭弘とあずみを遠くへ飛ばした事だけでも死ぬほど許せないのに、下手をすれば殺されていた事も考えられていたから。だから、陰から援助する事しかできなかった」
「奴はそこまでするのか。息子の親友二人すらも手を掛けようと……」
ぎりっと拳に自然と力が入った。甲斐の中で怒りが膨れ上がる。それと同時に、直は自分の知らない所で相当辛い思いをしていた事にも気づかない自分にも腹が立った。
「俺さ、最初は直の事をなんて奴だって思ってた」
突如として話題を切り替えた甲斐はぽつりと今の気持ちを話し始めた。
「傍若無人の傲慢な奴だって呆れてた。本当に出会った頃は大嫌いだった」
「オレの事……大嫌い……?」
「ばか。そんな顔するな。あくまで最初の頃だから」
いくら過去の事とはいえ悲しそうな顔をする直に苦笑する。
「お前は本当は不満を周りにぶつけていただけの事。俺様っていう偽りのキャラを作って強がって見せてるけど、本当は誰よりも傷つきやすくて、寂しがり屋で、素直な奴だって知った。金持ち大貴族の中でもこんな風に辛い思いを抱えて生きている人もいるんだってよくわかった。お前と出会わなければ、俺は身勝手な金持ち連中の事を誤解したままだったよ。金持ち貴族ってだけで僻み根性で忌み嫌って過ごしていたと思うんだよね。だから、お前の事を知れて嬉しい」
「嬉しい……?」
「うん。お前の事は全部知りたい。好きな人の事を知って力になりたいと思うのは自然の事だから」
これから戦いが始まる。矢崎財閥との大きな戦いが。
*
「……何か御用か、暇人社長」
直と別れて寮へ帰る途中、甲斐は背後に複数いる気配に冷たい視線を向けていた。
「さすがだね。エリート軍人の精鋭部隊を選りすぐった者を連れているのだが、私達の気配に気づいているとは」
社長が数人の黒服護衛を引き連れて目の前に現れた。深夜の暗闇の中で待機していたらしい。
「これでも死ぬほど鍛えられているんで、軍人程度で舐めてもらっちゃあ困るな」
「キミは性懲りもなく直に近づいて、よほど私を怒らせたいようだね」
「たかが誰かと会うだけでそう怒りなさんなバカ社長さんよ。神経質すぎてハゲてもしらねーぞ」
「つまらない会話をしに来たわけではないんだがな。直はキミと会うとおかしくなる。社長としての仕事をしなくなる。許嫁のカレンさんに対してもひどい対応だ。悪影響もいい所。だからいっその事ここで消す事だって考えているよ」
「悪影響なのはお宅だろ。過干渉の毒親が。それに言ったはずだ。お前が会うなと言っても俺は今後も勝手にあんたの息子と会うと。俺はお前らの圧力や武力行使には屈しないんで」
そう言った途端、殺気立って護衛の数人がいきなり発砲してきた。
甲斐は銃弾の嵐を颯爽と走り抜け、前転しながら柱に身を隠す。路地の外壁や街路樹などに風穴が開き、通りすがりのサラリーマンが悲鳴をあげている。
本当に撃つとは沸点の低い野郎だ。民間人の迷惑を考えない最低な連中である。
「直に二度と会わないと約束するなら今の威嚇だけで済ませてやる。どうする?」
「それはできないおプロミスだな。俺、偉そうに命令してくるてめえみたいな貴族や上級国民が大っ嫌いでね、簡単には屈しない事を覚えておくがいい。あといずれ、お前ら悪党の悪事も白日の下に晒してやる。首を洗って待っていやがれ、クソ矢崎財閥。地獄に落ちろ」
柱で身を寄せながら甲斐は鋭く奴らを射抜く。他の奴らは震え上がらせたが、社長はさすがトップなだけあって甲斐の殺気にもそこまで動揺しない。
「威勢のいい事だ。やれるものならやってみるがいい。我々も全力でキミを殺しにかかるとしよう。次は容赦はしない」
「上等だ。直を必ずてめえという監獄から助け出す!いつでもかかってくるがいい!」
かくして、甲斐と矢崎財閥との戦いが始まった。
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