学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

いとこんドリア

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十六章/トラウマ

145.黒崎家に

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「ねえ、悠里ちゃん」

 ある程度楽しい会話もそこそこに、黒崎夫妻が視線を一度合わせてから一間おいて、急に真剣な表情になった。

「早苗さん?」
「あのね、私たちと一緒に暮らさないかな」
「え……」
「女中として働いていた時からあなたの家の事情はなんとなくわかっていたわ。両親の事も。あなたが苦しんでいる事も」

 昔、悠里が世話になった女中は彼女だった事に驚きながらも納得した。
 あの変な両親とは違っていい子に育った事は、早苗の教育のおかげ。本当に優しくて厳しくて出来た人だ。

 そんな自分の母親は怒りんぼなので、ちょっとは慈愛の精神を身に付け……なんて言えば蹴とばされるのでノーコメント。
 とにかく、彼女に教育されたなら間違いないって事だ。

「もうそんな所にあなたを置いてはおけない。女中の時からこうすべきだったのに、神山家の圧力であなたに近づけなかった。何度も助けようとあなたの家に行ったけれど門前払いされたわ。あなたが中学になる頃にすぐに引っ越しまでされて、行方すらわからなくなってしまってね……。言い訳にすぎないけれど、なんとかしてあなたを神山家から救ってあげたかったの」
「早苗さん……」
「言い訳なんかじゃないですよ」

 直が横から口を挟んだ。

「少なくとも神山父は本社で働く人間です。オレからすればただの平社員にすぎませんが、庶民からすればお役所官僚と立場が同じです。もし無理に逆らおうものなら逆にあなたの立場が悪くなるだけ。どんなひどいことも平気でするのも中にはいます。特に神山父は頭はバカですが人を陥れる事に長ける人間。むしろ無理強いしなくてよかったと思います」

 まるでそれを経験したかのように説明する。
 バカ社長に親友と離れ離れにされたもんな。その辛さをよくわかっていると思う。

「直くん……気遣ってくれているのね」

 早苗がありがとうと微笑むと、直は照れたようにそっぽを向く。かわいい奴だな。

「でもね……苦しんでいる悠里ちゃんをそのままにしていた事には変わりないわ。もっと工夫していればとか、あの時ああしていればもっと早く助け出せたのにとか、後悔はつきないの。だから、今こそあなたをあの家から救い出したい。もちろん最終的にどうしたいか決めるのはあなただけれどね」

 丁度よい話だと思う。
 あんな両親のそばにいさせるわけにはいかない。悠里があの両親の影響を受けずにまともでいい子に育ったのは早苗のおかげ。
 ある意味、早苗が悠里の母親同然だろうと思った。

「ありがとうございます。でも……私が急に黒崎家になってもいいんでしょうか。私がそちらの家でお世話になる事によって、黒崎家が目をつけられないか心配で……」
「それなら心配いらない」

 腕を組んでいる直が自信満々に言う。

「城山は黒崎家などに手出しどころか悠里に近づく暇すらなくなる。いろいろ神山夫婦と悪さをしていたようだし、神山夫婦が反社と裏で癒着があったのもどうやら本当のようだった。正之……いや、社長が絡んでいるかは依然と不明だが、他の反社の人間が城山らに対してまず黙っちゃいない。城山も神山夫婦もただでは済まないだろう。まあ公になれば逮捕はされるだろうが」
「逮捕……」

 あんな両親だけど悠里の表情が暗くなる。ひどい両親だったのに心配する辺り優しい。

「両親が逮捕されても君は堂々としていればいい」

 彼女の義両親があんなクズだとしても。

「中にはそれをダシにからかってくる奴や、中傷してくる者もいるかもしれないが、君は何も悪い事をしていないんだから。周りに流されないようにな。もし文句のある奴がいるなら俺やEクラスのみんなが黙っちゃいない」
「甲斐くん……」
「悪い奴は俺がぶん殴りに行く。絶対に守って見せる。どんと任せときなよ」

 悠里に危害を加える奴がいるなら、俺がおしりペンペンの刑にしてやるつもりだ。城山の時は散々だったが、もうあんな目にあわないようにメンタルを鍛える。
 そして、最終的にバカ社長もボコボコにする。

「そうよ。とっても強いから心強いの」
「うん、便りになるよ甲斐くんや架谷一家は」
「……ありがとう。前向きに考えてみます」

 悠里は神山家の事で誰かに頼るなんて選択ができなかったんだろう。だから自分でいろいろな悩みを溜め込んでいた。あんなクズ両親でも育ての親ではあるからな。
 これからは何かあったら遠慮なく吐き出してほしい。犯罪から守るためにはまずは誰かに相談だと思う。相談できる環境ってのも大事だ。

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