学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

いとこんドリア

文字の大きさ
上 下
114 / 222
十三章/初デート

110.海

しおりを挟む
 もはやキモオタ童貞と言われてもなんとも思わなくなってしまった。言われすぎててそれがどうしたと思わんばかりだ。慣れってこわいもんである。

「お、美少女ドエロ戦士キャロリンちゃんのタペストリーが飾られている」
「なんだそれ」
「俺がやってるエロゲの推しキャラだ。貧乳だが金髪美少女でツンデレ。エロシーンがエロすぎて抜ける俺の嫁その1」
「…………」
「そんなジト目で見んじゃねえ!」

 憐れむような、ドン引きしている直の視線に耐えかねて、甲斐は店内を進む。
 特大美少女タペストリーキャロリンちゃんが飾りとしてよく見える。近くの棚にはフィギュアコーナーが立ち並び、どれもが普通のフィギュアではなくて、18歳未満は購入できない肌色満載なもの。
 という事で、とっととお目当てのフィギュアを購入して早々に店を出た。直が気分悪そうにしていたので、直が倒れる前に退散だ。

「お前はあの手の奴らのなんだな」
「同胞ではあるが、真の仲間扱いはよしてくれたまえ。俺の真の仲間はEクラスのキモオタ達だからな」
「ドスケベ具合にオレもお手上げだ。さすが童貞不潔のEクラス」
「フ、お誉めの言葉を頂戴しておこう。ドスケベ度(未経験)ではさすがのお前も俺には敵うまい」

 どうせ神(一生彼女いない暦年齢)になるつもりなので、一生二次元に生きるよ。

「そんでこれからどうするんだ?」
「んー……いつもならゲーセン行くか同人ショップのハシゴをして……ん」

 丁度通りかかった旅行代理店前には、海と祭りのポップアートが飾られている。その海辺の近くで花火も上がるらしく、それをじっと見ていたら直が口を開いた。

「海、行ってみたい。花火も……」
「え、海と花火って」
「だめ?」
「うーん」

 今から行くと確実に夜遅くになってしまう。ここから海のある駅までは二時間半以上はかかるのだ。

「お前と見てみたいから。海と花火」
「いやでも……」
「また仕事が忙しくなったら、当分の間行けなくなる。甲斐と二人きりにもなれなくなる。だから今しかない」
「直……」
「オレを連れてってくれよ、甲斐」
 
 直が切実に訴える。なかなか逢えなくなるなら今しかない。帰りが遅くなるのに尻込みするが、海と花火の誘惑には勝てなかった。

 流されるままに電車に乗った。海岸へ向かうために乗り換えを経て、ローカル線になると人はまばらになっていく。乗客はあまりいない。向かい合わせの座席はほとんど貸切状態で、つい警戒心を薄めて微睡む。

「眠くなっちまった」

 ウトウトしていた矢先、直は甲斐の膝を枕にして横になった。

「おい、お前……」
「あー楽だな。お前の膝枕。いい気分」
「俺の膝は女と違って固いだろ」
「固いが気分は幸福に近いよ」

 窓を少し開けると、隙間から涼しげな風が流れ込んでくる。直はすっかり安心したように眠っていて、その寝顔に目を奪われた。深海の瞳は隠れているが、サラサラの髪が揺れる度に香水とは別なシャンプーのいい匂いがした。

 なんだか信じられない姿だな……。
 あの四天王の矢崎直が自分の膝の上で穏やかに眠っているのが。可愛い寝顔晒しちまってさ、寝顔はまんまガキだ。

 可愛い奴……。

 時間が流れてしばらく、目的の海の駅に到着した。停留所に下りて辺りを見渡すと、すぐ駅を隔てた向こうには美しい絶景が広がっている。テンションが高くなって浜辺に向かって走る。
 甲斐は勢いよく靴を脱いで、足だけを海水につけた。

「うお~海だぜえええ!久しぶりだな~!」

 つい、子供のように無邪気にはしゃいでしまう。だって海だ。久しぶりなんだ。
 そんな直はゆっくり歩いてきて、甲斐を微笑ましく見ていた。これじゃあ自分の方がガキみたいだ。しかし、ガキならガキらしく騒がせてもらおうではないか。

「うりゃ」

 甲斐は隙ありとばかりに、直に海水を思いっきりかけてやった。

「つめてッ」
「ぎゃーははは!オメーの顔びしょぬれ~!ざまあ~!」

 俺はしてやったりな顔で笑う。

「テメエ……」

 直が一気に俺を睨みつつ、倍にしてやり返してきた。半ば本気で海水をかけてくる。

「ひえ!」

 冷たい。くそう。服が濡れちまった。

「さあ、覚悟してもらおうか。テメエは全身びしょ濡れ覚悟になってもらう」
「ふん、今更俺様モードで言っても怖くねーぞ。お前が全身ずぶ濡れになれや。くらえええ!うらあああ!」

 二人(本気で)海水を掛け合った。後半は海水の掛け合いというよりプロレスごっこみたいになってしまい、子供の喧嘩になってしまった。
 奇声やら笑い声やら怒声やらの声が辺りに響き渡り、ガキ以上にガキのように遊びまくった。

 案外楽しいもんだな。直もより自然体に笑えていて楽しそうだ。
 もっと見せてくれよ、お前の笑顔を……。

「ずっと……この時間が続けばいいのに。今が永遠に続けばいいのに」

 遊び疲れた二人は、びしょぬれのまま浜辺に寝転がっている。静かに打ち寄せる波の音を聞きながら。

「そしたらオレ、どんな辛い事があっても耐えられる。お前がそばにいて笑ってくれさえすればそれだけで満足なんだ。だけどそのうち自由がなくなるから」

 直は世を儚んだ顔で一言呟く。 

「オレは矢崎家のトップとして本格的に自由がなくなる。いつになるかはわからないけど、お前ともほとんど会えなくなるだろう」
「っ……」

 寂しい意味でぎゅっと胸が締め付けられた。

「だから、自由の利く学生のうちだけは幸せな思い出を刻んでおきたい。少しでも今しかできない経験をしてみたい」
「直……お前……」
「永遠に逢えなくなるわけじゃない。だけど、オレは寂しいのは嫌だから。一度逢ってしまえばそばにいたいと思う気持ちに歯止めがきかなくなるから。だから、学生が終わればもうお前には……」

 逢わない。そう言いたいのだろう。
 楽しかった先ほどの時間がしんみりとしたものに変わってしまっていた。
 直とはほとんど逢えなくなる……そっか。

「そのうち留学させられて、好きでもない女とも結婚させられる……」

 いずれ離れる事になるだろうとわかっていた。でも、改めて言葉に出されるとショックが大きかった。

「だから……オレにお前との思い出をたくさんほしい」

 さあっと哀切を帯びたような風がなびいた。
 心の中にある寂しいという気持ちが急激に大きくなっては止まらない。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺

高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!

あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。 かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き) けれど… 高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは─── 「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」 ブリッコキャラだった!!どういうこと!? 弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。 ───────誰にも渡さねぇ。」 弟×兄、弟がヤンデレの物語です。 この作品はpixivにも記載されています。

どうしょういむ

田原摩耶
BL
苦手な性格正反対の難あり双子の幼馴染と一週間ひとつ屋根の下で過ごす羽目になる受けの話。 穏やか優男風過保護双子の兄+粗暴口悪サディスト遊び人双子の弟×内弁慶いじめられっ子体質の卑屈平凡受け←親友攻め 学生/執着攻め/三角関係/幼馴染/親友攻め/受けが可哀想な目に遭いがち 美甘遠(みかもとおい) 受け。幼い頃から双子たちに玩具にされてきたため、双子が嫌い。でも逆らえないので渋々言うこと聞いてる。内弁慶。 慈光宋都(じこうさんと) 双子の弟。いい加減で大雑把で自己中で乱暴者。美甘のことは可愛がってるつもりだが雑。 慈光燕斗(じこうえんと) 双子の兄。優しくて穏やかだが性格が捩れてる。美甘に甘いようで甘くない。 君完(きみさだ) 通称サダ。同じ中学校。高校にあがってから美甘と仲良くなった親友。美甘に同情してる。

眠りに落ちると、俺にキスをする男がいる

ぽぽ
BL
就寝後、毎日のように自分にキスをする男がいる事に気付いた男。容疑者は同室の相手である三人。誰が犯人なのか。平凡な男は悩むのだった。 総受けです。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

処理中です...