学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

六章/派遣学生と交流会

４０．ペア

　＊

　一方、四天王もラウンジで体育祭のしおりを眺めていた。

「まさか僕達も競技に参加する事になるとはねー」
「去年までは当然学校行事はサボっていたようなものだが、今回はそうもいかないだろうな」と、ハル。

　事実上の開星四天王VS無才百合ノ宮連合なのだから、四天王が参加する事に意味があるのである。宣戦布告したのは自分たちなのだから当然のこと。

「直は何出場するのー？」
「コスプレ障害物とリレー」
「へぇ、コスプレ障害物かァ」

　四天王は問答無用でラストのリレーに参加が決まっている。最後の見せ場ではかかせない競技のためらしい。

「コスプレ障害物ってコスプレしながらペアで走るっていう無才学園からの企画競技でしょ？たしか甲斐君も参加するんだっけ。いいなあ、直君。もしかして甲斐君とペアとか言わないよねー？」
「しるか」

　そう言いながらも、しおりには架谷甲斐の名前の横に直の名前が載っている。

「あー！やっぱり直ってば甲斐ちゃんとペアじゃんか！ずっるーい！俺だって甲斐ちゃんとコスプレ障害物のペアで出たいのにいい！」
「ほんと、直君だけ抜け駆けずるいよね。一番甲斐君の事悪く言いながら一番気に入っているの直君だし」
「ふざけた事言うな！だれがあんなクソ貧乏人を気に入るか！」

　そう言いながらも直の顔は動揺しながら赤くなっている。珍しい顔である。そこを見逃さない相田と穂高はにやりと笑った。

「でも体育委員脅したの直君でしょー？」
「そうそう、甲斐ちゃんと一緒なペアにしてくれって言ったんでしょ。いーけないんだーいけないんだー！悠里ちゃんに言いつけちゃうぞーっと」
「うっせぇな貴様ら！このオレがンな面倒な細工なんぞするか！」

　本当に何も細工はしていない。
　運がいいのか悪いのか、甲斐と直は同じペアになってしまったのである。運動能力的に同じレベルだから自動的にペアにされたのかもしれない。自動ＡＩが参加競技などを決めたのだから。

「しかも、コスプレのお題は愛しあう王子と姫の恋物語とか書いてあるし！」
「へぇ、甲斐君のお姫様姿とかなんかわくわくしちゃうなァ。直君から略奪しちゃいたいなあ」
「アハハ！直が王子役ならオイラだって本気で略奪しちゃいたいよ。特に直から奪うってのがなんか日頃の恨みを発散できそうで楽しそう」
「だよねー」
「貴様らマジぶっ殺されてぇようだな」

　そしてキレる直。と、それを溜息交じりにおさえるハル。
　対決前だと言うのに平常運転の四天王であった。

　＊

　体育祭まであと数日、出場する競技の練習を一日かけてする事になった。甲斐にとっては授業がないのでラッキーな反面、どうも腑に落ちない事があった。

　それはコスプレ障害物という謎めいた競技の事である。
　コスプレしながら障害物を乗り越えて走るというのは名前通りだが、そのコスプレをしながらその役になりきって、相方と演技をしながら走るというのが意味が分からない。

　しかも、お題は王子と姫の恋物語との事。
　そのペアの相手がまさかのアイツで――

「最悪なんだが」

　矢崎直という名前を見た途端、頭を抱えてしおりをゴミに投げ捨てたくなった。

「……たしかに、甲斐にとっては最悪だね。でも、矢崎直とペアになりたい子って死ぬほどいると思うから、世間で言えばすっごくうらやましい事だと思うよ。逆に喜んだ方が得じゃない？将来の思い出になるかもしれないし」

　そう言う由希と小川は「尊い」なんて呟いている。
　おいおい、他人事だと思って楽しんでやがってさ。なにが尊いだ。BLの読みすぎだっつうの。

「思い出どころか黒歴史にしかならなさそうなんだけどな。しかもせっかく矢崎と関わらないようにしてたのに、ペアになったんじゃあ親衛隊にまた目ぇつけられそうだしな」
「まあ、な。でも大丈夫じゃないか。出場ペア考えたの運動能力が同等な者達と当たるようにした自動ＡＩなんだろう？甲斐と矢崎直は同レベルの運動神経なんだし、他に見合う人間なんていないからそう決まったわけで、そんなに文句言われないと思うぞ」と、本木
「それに、今回は無才百合ノ宮との真剣勝負だから絶対勝たなきゃいけないわけじゃん。負けたら相手の事実上の下僕校になっちゃうんだ。だからみんな真剣だし、今回ばかりはあんまり親衛隊も言ってこないって」と、健一が励ました。
「……だといいけどな」

　ちなみに男子のコスプレ障害物の出場者には、甲斐と直を除いて他ペア二組と、天草会長と日下部もいるようだ。

「架谷クン」

　声と共に振り向くと会長の草加菜月だった。会長としてバタバタしていて忙しそうである。彼も出場競技があるというのに仕事熱心だ。

「なんか用か？」
「ちょっとここじゃ人目がつくからこっち来て」

　甲斐は菜月に連れられて校舎裏に移動した。

「今回のコスプレ障害物の事知ってるよね。キミと直がペアな事」

　校舎裏はひっそり静まり返っていた。皆は体育祭の練習や準備で忙しく、ここを通る者はほとんどいない。

「あ、ああ。知ってるぜ。さっき知って……」
「お願い、確実に勝って」

　いつになく真剣な表情の菜月は、甲斐に縋るように訴えた。
　ここへ来る前、もしかして校舎裏での制裁かと身構えたが、どうやらそうではないらしい。このコスプレ障害のペアを考えたのは自動ＡＩだという事を思い出す。

「キミを選んだのはＡＩじゃない。開星を確実に勝利に導くために、あえてキミと直を選んだのはボクなんだ。架谷君の運動神経と腕っぷしの強さは、あの四天王と同等の実力だって球技大会とかで知ったからね。キミは直と選ばれて嫌かもしれないけど、今回だけはどうか我慢してほしいんだ」
「草加……」
「キミと直がペアになった事でまた親衛隊が騒ぎ出しているけれど、そういう理由だからキミは気にしないで勝利だけを考えてほしい。負ければ開星始まって以来の最大の汚点と屈辱だって言われているし、あの王者的存在である四天王がたかが成金学園の下僕に成り下がるなんて、僕もだけどみんなだって見たくない。だから、確実に勝ってほしい」

　そう訴える菜月の顔は、本当に開星や四天王の将来の事を想っているようだ。

「ま、まあ……俺もたしかに四天王が他の生徒会に頭を下げる所なんていろんな意味で見たくないから頑張るけど……でもさ、このコスプレ障害のお題……なんとかなんない？」
「それは無理だよ。向こうが決めた事だから。天草生徒会長と日下部はこの競技のお題に張り切ってるみたいだしね」
「……そう、そうですか……」

　やだな、このお題で走るなんて。しかも矢崎と。
　今時、王子と姫なんて夢見がちである。お笑いをとる的な意味で考えたならまだわかるけど、どうせ向こうは真剣そのものでこの競技を考えたのだろう。
　百合ノ宮が考えたのならともかく、無才が考えたなんて気色悪いにもほどがある。