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三章/球技大会
22.デートの約束2
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*
甲斐は悠里と別れた後、バイト先へ向かった。
もうすぐ未来の誕生日だから久しぶりにいいものをプレゼントしてやろうとバイトに勤しむ。友里香に立て替えてもらったと言っても借金がなくなったわけではないので、大半は返済に持って行かれるけれど、一応少しだけは自分のお小遣いが存在する。
「架谷くんは本当によく働いてくれるね。開星学園の生徒なのに真面目なんだね」
「バイトはここで働く前にそれなりに経験しているんで。あと何度も言いますが俺は金持ちじゃないですよ」
開星学園に通っているというだけで金持ちの目で見られるが、Eクラスの生徒はほぼ一般中流家庭の者だけなので、甲斐のような真面目で素朴な生徒に驚くようだ。
「架谷君くらいの真面目で好少年なら、金持ちの可愛い子も放っておかないでしょ。彼女とかいるんじゃないの?」
「そんな事ないっすよ。やっぱり金持ちは金持ち異性同士惹かれるみたいです。それに俺、女の子と付き合った事ないですもん」
中学の時に告白された事があったくらいだろうか。結構美少女と呼ばれていた女の子に。
その時は恋愛とかあんまり興味がなかったし、自分の事で精一杯だったからごめんなさいと断った事が記憶によみがえる。当時、傷害事件で逮捕されたのでそれどころじゃなかったのもあった。
「なら、きっとこれからだと思うよ。架谷君の真面目で誠実な中身を知れば、慕う人間はおのずと現れてくれるはずだ。むしろ、私の娘を紹介してやりたいくらいだね」
「買いかぶりですよ。俺は男として未熟なんでお付き合いとかなんてまだ想像すらつきません」
そんな時、ふと脳裏に厭味ったらしくて我儘なアイツの顔。矢崎直の姿が浮かんだ。
バカ。ちがう!なんであいつなんかの顔なんて浮かぶんだよ。
俺が今悩んでいるのはアイツの事じゃなくて、週末の事だ。神山さんとデートの事。
まさか彼女のような絶世の美少女からデートに誘われるなんて、自分のようなモテないキモオタ男子は落ち着かない。だって女の子とデートなんて一度もした事がないし、いろいろと不安と緊張が大きい。しかも相手は普通の女の子じゃなくて神山家の令嬢だ。
敷居が高すぎるというか、恐れ多いというか、むしろ自分でいいのかと問いたい。いろいろと恥かきそうで今からでも断りたい気分である。
でも、彼女は俺の恩人だから断るわけにもいかなかったし、特に予定もなかったからデートにOKしたわけだけど、何を着ていけばいいんだろう。あとどこに行けばいいんだろう。全くわからん。
やっぱりデートに誘われるって事は、そういう目で見ているって事なんだろうか。
ただ元気づけるために誘ってくれたのかもしれないし……まあ、考えても仕方ない。いつも通りで行こうっと。
*
「悠里、何読んでんだよ」
下校時、久瀬が運転する車に乗っている最中、隣に座っていた悠里が雑誌を読んでいた。悠里にしては妙に派手な雑誌を読むものだと気になった直が声を掛けた。
「直にはつまんない雑誌だよ」
視線すら合わせず、そのそっけない返答にムッとした直は、上から悠里の持っている雑誌をひょいと取り上げた。
「あ、ちょっと返してよ!」
「……デート、特集?」
読んでいたページを確認すれば、真面目な悠里らしからぬ内容のものだった。最近の女子高生が読むような薄っぺらくてバカっぽいと評判の雑誌である。
くわしい中身といえば、イケてる女になるためのモテカワグッズ特集やら、カッコいいイケメン彼氏と釣り合うオシャレの仕方やら、間違えないデートコースやら、他には街角で見たイケメン特集など、あの淑女のような実の妹がこんな低俗なものを進んで読むのかと、兄としてはいろいろとショックであった。
そもそも、雑誌に載っているこの程度のイケメン特集など、直からすれば中の上レベルくらいで話にならない。
「お前、いつからこんなくだらねーモン読むようになったんだよ。バカなクソ女が読むような低能花畑雑誌じゃねぇか」
「だから直にはつまんない雑誌だって言ったじゃん。返して」
「返さねえよ」
悠里が手を伸ばすも、直は頭上へ掲げてしまう。
「お前、こんなの読んで何しようっての。まさかデートでもするんじゃねぇだろうな」
「……だったらなんだっていうのかな」
悠里の顔が真剣だった。
「マジな話かよ……」
一体どこのどいつだろうと考えれば、おのずと答えはあっさり導き出される。
「架谷とデートすんのかよお前」
カマをかけるように名前を出すと、悠里は肯定するように目を細める。
「……直には関係ない。恋愛の事は放っておいてほしい」
この話は終わりと一方的に終了させる悠里に、直は話を終わらせる気はない。
「そうはいかねぇよ。お前がアイツに惚れた時点で間違いだからな。あいつはいろんな意味で邪魔な存在なもんでね」
「なんで?なんで架谷くんにいつもひどい事するの。あの人が直に何をしたって言うの!」
「ウザいんだよアイツ」
今まで誰一人として自分の心の中に住みついた者なんていなかった。どんな人間も金さえあれば掌返して尻尾を振る奴らばかりだったからだ。
しかし、架谷甲斐は危険だと思った。
金や地位に全くなびかない貧乏人。悠里や友里香が気に入ってしまう気持ちもわからなくもない。それどころか、この自分でさえもあのしたたかさに、あの笑顔に、知らず知らずのうちに転がり落ちてしまいそうになる。
妹達や親しい者以外は誰にも頼らずにいた自分が、いろんな意味で瓦解しそうになる。
だからこそ危険だと自分自身の心が警戒している。
これ以上アイツを見ていると、オレは本当におかしくなる。
「とにかく、お前がどうしても架谷とデートするってんなら、こちらにも考えがある」
それをぶち壊すまでだ。
三章 完
甲斐は悠里と別れた後、バイト先へ向かった。
もうすぐ未来の誕生日だから久しぶりにいいものをプレゼントしてやろうとバイトに勤しむ。友里香に立て替えてもらったと言っても借金がなくなったわけではないので、大半は返済に持って行かれるけれど、一応少しだけは自分のお小遣いが存在する。
「架谷くんは本当によく働いてくれるね。開星学園の生徒なのに真面目なんだね」
「バイトはここで働く前にそれなりに経験しているんで。あと何度も言いますが俺は金持ちじゃないですよ」
開星学園に通っているというだけで金持ちの目で見られるが、Eクラスの生徒はほぼ一般中流家庭の者だけなので、甲斐のような真面目で素朴な生徒に驚くようだ。
「架谷君くらいの真面目で好少年なら、金持ちの可愛い子も放っておかないでしょ。彼女とかいるんじゃないの?」
「そんな事ないっすよ。やっぱり金持ちは金持ち異性同士惹かれるみたいです。それに俺、女の子と付き合った事ないですもん」
中学の時に告白された事があったくらいだろうか。結構美少女と呼ばれていた女の子に。
その時は恋愛とかあんまり興味がなかったし、自分の事で精一杯だったからごめんなさいと断った事が記憶によみがえる。当時、傷害事件で逮捕されたのでそれどころじゃなかったのもあった。
「なら、きっとこれからだと思うよ。架谷君の真面目で誠実な中身を知れば、慕う人間はおのずと現れてくれるはずだ。むしろ、私の娘を紹介してやりたいくらいだね」
「買いかぶりですよ。俺は男として未熟なんでお付き合いとかなんてまだ想像すらつきません」
そんな時、ふと脳裏に厭味ったらしくて我儘なアイツの顔。矢崎直の姿が浮かんだ。
バカ。ちがう!なんであいつなんかの顔なんて浮かぶんだよ。
俺が今悩んでいるのはアイツの事じゃなくて、週末の事だ。神山さんとデートの事。
まさか彼女のような絶世の美少女からデートに誘われるなんて、自分のようなモテないキモオタ男子は落ち着かない。だって女の子とデートなんて一度もした事がないし、いろいろと不安と緊張が大きい。しかも相手は普通の女の子じゃなくて神山家の令嬢だ。
敷居が高すぎるというか、恐れ多いというか、むしろ自分でいいのかと問いたい。いろいろと恥かきそうで今からでも断りたい気分である。
でも、彼女は俺の恩人だから断るわけにもいかなかったし、特に予定もなかったからデートにOKしたわけだけど、何を着ていけばいいんだろう。あとどこに行けばいいんだろう。全くわからん。
やっぱりデートに誘われるって事は、そういう目で見ているって事なんだろうか。
ただ元気づけるために誘ってくれたのかもしれないし……まあ、考えても仕方ない。いつも通りで行こうっと。
*
「悠里、何読んでんだよ」
下校時、久瀬が運転する車に乗っている最中、隣に座っていた悠里が雑誌を読んでいた。悠里にしては妙に派手な雑誌を読むものだと気になった直が声を掛けた。
「直にはつまんない雑誌だよ」
視線すら合わせず、そのそっけない返答にムッとした直は、上から悠里の持っている雑誌をひょいと取り上げた。
「あ、ちょっと返してよ!」
「……デート、特集?」
読んでいたページを確認すれば、真面目な悠里らしからぬ内容のものだった。最近の女子高生が読むような薄っぺらくてバカっぽいと評判の雑誌である。
くわしい中身といえば、イケてる女になるためのモテカワグッズ特集やら、カッコいいイケメン彼氏と釣り合うオシャレの仕方やら、間違えないデートコースやら、他には街角で見たイケメン特集など、あの淑女のような実の妹がこんな低俗なものを進んで読むのかと、兄としてはいろいろとショックであった。
そもそも、雑誌に載っているこの程度のイケメン特集など、直からすれば中の上レベルくらいで話にならない。
「お前、いつからこんなくだらねーモン読むようになったんだよ。バカなクソ女が読むような低能花畑雑誌じゃねぇか」
「だから直にはつまんない雑誌だって言ったじゃん。返して」
「返さねえよ」
悠里が手を伸ばすも、直は頭上へ掲げてしまう。
「お前、こんなの読んで何しようっての。まさかデートでもするんじゃねぇだろうな」
「……だったらなんだっていうのかな」
悠里の顔が真剣だった。
「マジな話かよ……」
一体どこのどいつだろうと考えれば、おのずと答えはあっさり導き出される。
「架谷とデートすんのかよお前」
カマをかけるように名前を出すと、悠里は肯定するように目を細める。
「……直には関係ない。恋愛の事は放っておいてほしい」
この話は終わりと一方的に終了させる悠里に、直は話を終わらせる気はない。
「そうはいかねぇよ。お前がアイツに惚れた時点で間違いだからな。あいつはいろんな意味で邪魔な存在なもんでね」
「なんで?なんで架谷くんにいつもひどい事するの。あの人が直に何をしたって言うの!」
「ウザいんだよアイツ」
今まで誰一人として自分の心の中に住みついた者なんていなかった。どんな人間も金さえあれば掌返して尻尾を振る奴らばかりだったからだ。
しかし、架谷甲斐は危険だと思った。
金や地位に全くなびかない貧乏人。悠里や友里香が気に入ってしまう気持ちもわからなくもない。それどころか、この自分でさえもあのしたたかさに、あの笑顔に、知らず知らずのうちに転がり落ちてしまいそうになる。
妹達や親しい者以外は誰にも頼らずにいた自分が、いろんな意味で瓦解しそうになる。
だからこそ危険だと自分自身の心が警戒している。
これ以上アイツを見ていると、オレは本当におかしくなる。
「とにかく、お前がどうしても架谷とデートするってんなら、こちらにも考えがある」
それをぶち壊すまでだ。
三章 完
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