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三章/球技大会

18.球技大会2

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 翌日、球技大会は生徒会長の開催宣言で始まった。
 生徒会長は草加菜月くさかなつきという男にしては女のような可愛い子のようで、ごつい男子達から野太い声が上がっている。菜月はから絶大な人気のようだ。

 そういえば生徒会長って初めて見た。
 四天王のインパクトがありすぎて生徒会がかすんで見えてしまうって相当だ。

「キャアア!」
「超カッコいいー!!」
「キャアア抱いてぇええ!」

 騒がしくなった声援を聞けば、誰がやってきたかなんて手に取るようにわかる。
 四天王あいつらってイベント系はいつもサボってるって聞いていたが、なんでここにいるんだよ。もしかして球技大会に出場しますとかそんな冗談は顔だけにしてほしい冗談言いに来たのか。

 やめてくれ。あいつらと関わるとロクな事にならないじゃん、Eクラスが。俺が。
 相田拓実と穂高尚也はおもちゃみたいに触ってくるし、久瀬ハルヤはともかくとして、矢崎直は言うまでもなく一番最悪。奴にキスされたし、忘れたい黒歴史である。

 あーとにかくアイツラあっち行ってほしいなァ、シッシッ。虫よけスプレーならぬ四天王よけスプレーがほしい。


「えーと……サッカーの第一試合はDクラスだってよ」
「なーんだDか。俺達とそんな成績変わらねー奴らの集まりじゃん」

 さっそくサッカーでの一回戦に出場する甲斐とEクラスの面々。試合前のウォーミングアップをするために各自シュートの練習を重ねる。

「なあ甲斐。どういう風の吹き回しかわからねーけど四天王の連中……やっぱ参加するらしいぜ」

 情報屋の健一がいち早く伝えにやってきた。

「げ……やっぱり?」
「うん……」

 Eクラスのやる気は一気にガタ落ちになった。

「四天王っていやァ運動神経も恐ろしくあるって聞くからよ。優勝はやべーな」
「もーなんでこういう時に限って出場する気になったんだか」
「まあ、出場したならしたで仕方ないよ。全力でやるしかないし。とりあえず明るく行こうよ明るく!落ち込んだってはじまらないし、さっ!」

 語尾を強調したと同時に甲斐は強烈なシュートを放った。その直後、激突した音と共に「いてぇえ!!」という痛々しい声が響き渡った。コロコロとボールが転がり、その近くで誰かが頭を押さえてしゃがみこんでいる。

 やっべ……調子に乗って前向いて蹴ってなかった。

「ご……ごめんなさい。決してわざとでは……」

 あ、この後ろ姿ってもしかして。
 頭を押さえている人物が立ちあがって振り向くと、恐ろしい鬼の形相をした四天王の一人。

「あー……矢崎直さん、ですかー」

 まさかの人物に言葉に詰まった。
 でもちょっとざまあみろと思ったのはここだけの話だ。日ごろの行いがひどいから天罰が下ったのだと思いたいが、ここは故意ではないとはいえ自分に非があるので謝っておかなければ。

「あの、ごめん。わざとじゃないんだ。決して悪意はなくてだな……」
「ぎゃーはははははは!直ってば甲斐ちゃんにボールぶつけられてやんのー!ひゃはははーいーひひひひ!おっかしいいい!甲斐ちゃんさいっこーー!あははは!」

 そばにいた相田は抱腹絶倒している。地面をバンバン叩いて腹いてぇとか叫んでいる。

「とにかくまじでごめん!不可抗力で「貴様は後で覚えてろよ」

 睨んだ顔で一言そう言うと、直は頭を押さえて向こうの方へ行ってしまった。相田はまだ笑っている。いつまで笑ってんだと突っ込みたい。
 それにしても四天王も出場するとなると厄介である。ジャージを着ていたので恐らくそうなのだろう。

 
 一回戦のDクラスとの試合はあっさりと勝った。甲斐のドリブルで突破し、なっちの絶妙なセンタリングを甲斐のランニングシュートであわせて決めた。二点目はサッカー部出身の前田がヘディングで決めて二点目。三点目は健一のコロコロシュートで決め、二回戦進出。

 同じく、女子の方のバレーも悠里が活躍したようである。中学時代はバレー部だったらしく、レシーブ力がすごかったのだとか。Eクラスは女子が少ないために、バレーしか参加できなかったのが残念だ。

「次はバスケだな」
「げ……バスケの一回戦はAクラスだってよ。二年Aクラスっていやァバスケ部出身が何人かいるとか聞いた」

 ついでにあのレスラー軍団の一部も参加しているらしいので、甲斐に対してリベンジに燃えている事だろう。

「でも開星のバスケ部って弱小だって聞いたけど」
「弱小らしいが、個々の能力がすごいって噂だ」

 そんな話し合いをしながらバスケ一回戦が始まった。
 ジャンプボールは身長が180以上ある山田が制し、ボールを甲斐が持つ。ドリブルを開始。やはりAクラスの声援の方がよく聞こえる。まあ、当然といえば当然。貧乏人の集まりと評されるEクラスを応援する者など皆無に等しいのだ。

「架谷甲斐!先日の借りを返してやるぜ!」

 レスラー男とバスケ部の連中の一人がボールを執拗に奪いにくる。甲斐も奪われまいと必死でボールを操りながら進む。身長は当然向こうの方が高いからこそスピードで勝負だ。

「ボールをよこせ!」
「そうはイカ焼き」

 甲斐は一瞬の隙をついて相手の一歩先に出たと同時にシュートした。一か八かの3ポイント狙いだ。
 そんなボールはゴールリングに吸い込まれるようにふぁさりと入った。直後、敵味方関係なく「おお」という声が漏れた。美しい放物線を描いた3ポイントが決まったのである。

「おおお!さっすが甲斐だぜー!」

 Eクラスのチームメイトが喜びに駆け寄ってきた。

「どうしてもバスケって身長が重要になってくるからさ。そこはスピードで補うさ」
「頼りにしてるぜ、架谷」

 そんな時、向こうのコートで体育館中をどよもす大歓声が響き渡った。

「なんだ?」
「四天王だよ。甲斐君達が試合している最中に四天王が交代で出場したんだよ。誰か活躍したのかも」

 宮本が説明してくれた。
 どうりで向こうの方のコートに大勢の観客、いやミーハー集団が集結しているわけである。ほとんど女子で埋め尽くされているが、男子も一割ほどいる。全校生徒の半数はあっちのコートにいるんじゃないだろうか。

 そんな中で、四天王の事など気にせず、甲斐たちはAクラス相手に全力で挑んだのだった。

「直様のダンクシュート滅茶苦茶カッコよかったァ!!」
「超しびれたよねぇ!もう最っ高ー!」
「あたしはハル君の綺麗な3ポイントシュートがスッキリしてて見惚れちゃったぁ」

 そう話しながら歩いてくる大勢の女子達。向こうの試合は終了したようで、みんな顔はウットリしていて頬を紅潮させて満足気。

「相変わらずイケメン野郎どもは人気だな。球技大会で活躍するだけでニュースになってやがる」

 吉村がスマホで四天王の速報が出ているのを確認している。

「バスケは矢崎と久瀬が出場して、バレーは穂高尚也。サッカーは相田拓実が出てるみたいだな……ってやべえ!次のサッカーの試合Sクラスと当たるぜ」
「てことは、相田拓実がいるんだっけ」
「そうそう。相田がサッカーしてるとこ見た事ねーから実力わからねーけど、油断するなよ」

 二回戦のサッカーの試合はその通り相田拓実率いるSクラスが相手であった。周りは相田拓実見たさに相田の親衛隊やらファン達が観客として集まっていた。当然それだけですごい生徒の数である。完全にアウェー状態だった。
 センターサークルに集合して礼をすると、相田と目があう。

「よろしくねー。オイラ甲斐ちゃんと戯れるの楽しみにしてたのよ」
「戯れるって……あんたは何しにこの球技大会に出場してんだよ」
「んー甲斐ちゃんと一緒に遊べるだけで嬉しいから~とりあえずサッカーにしてみただけー」
「あんた、サッカーできんのかよ」
「んーそれなりにちょっとかな」

 そのちょっとがどれくらいかは未知数だが、とりあえず勝つ事だけを考えて挑む事にした。
 試合開始のホイッスルが鳴り、甲斐は相手陣営へドリブルで突き進んだ。その手前には相田拓実が立ちはだかる。

「ねーねー甲斐ちゃん。オイラと遊んでくれたらこの試合勝たせてあげるよ」
「何言ってんだよ。遊ぶだなんてサッカー以外ではお断りだ!」
「え~~待って甲斐ちゃーん」

 相田はいきなり近づいて甲斐をぎゅっと正面から抱きしめてきた。見ていた観客達から嫉妬を含んだ悲鳴が聞こえる。

「ひいっ!ちょ、は、はなせってばああ!なんで抱きついてくんだてめえ!」
「あー甲斐ちゃん抱きしめるとめっちゃ安心するぅ。もう可愛いくってたまんなーい」
「はなせって!あんたは一体何がしたいんだッ!」

 じたばたと暴れるも強い力で抱きしめられているので外れない。おまけにボールはその隙に奪われてしまう。これは架谷甲斐を封じ込める向こうの作戦か。

「言ったじゃない。甲斐ちゃんとお戯れしたいって」
「今はお戯れする時間じゃねーだろ!とにかくサッカーしろサッカー!」
「えー……まあ、そこまで言うならしてあげてもいいかなー」
 
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