学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

いとこんドリア

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十六章/トラウマ

137.トラウマ

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 そんな兄妹二人は今まで傷をなめあいながら陰で励ましあい、違う家柄同士でも頑張ってきたのだという。
 しかし、今は兄の圧力をものともせずに悠里の婚約を決めてきた不届き者がいる。
 矢崎正之。自分や直を困らせるためにわざとそう仕組んだに違いない。奴が全ての元凶だろう。

「婚約者は城山金太郎。あなたをいじめた張本人の男。最初はもちろん私も婚約に反発したよ。死んでもお断りだって。甲斐くんをいじめたあいつを許せなかったもの。でも、おかしな圧力が働いたのもあって逆らえなかった。父もホワイトコーポレーションの幹部の子息という魅力にとりつかれて、私の意思なんて全く無視で、その方がお前のためになるとか同じことを言うばかり。このまま婚約されてしまうと辛くてどうしていいかわからなかった。兄に相談しようにも兄も兄で仕事を増やされてそれどころじゃなくて、連絡できずにどうしようかって悩んでた」
「でも、さっきキミのお兄さんはキミを助けるために動いてくれた。キミの危機だと知ってあの両親に圧力をかけてくれた」

 さすがにあんな城山なんかと婚約だなんて妹じゃなくても全力で阻止したくなる。数年会ってはいないが、話を聞く限り何も変わってはなさそうだ。

「だけど私、助けられてばかりだな。兄や甲斐君達に」
「いいんだよ。妹は少しくらい兄に迷惑かけても。俺も16年兄ちゃんやってるけど、兄っていうのは妹に頼られると嬉しいもんなんだ。そんな俺は妹の未来にしょっちゅう迷惑かけられてるけど、悪くないって思っちゃってるし。そんなお兄さんもそれくらい悠里を大切に思ってる。たった一人の血の繋がりを持つ者同士だ。気にする必要はない。あとでめいいっぱい妹として兄を労わってやればいい」
「甲斐くん……そうだね」
「あんな両親のためにもう我慢する必要はない。両親はあんなんでも、あんたは曲がることなくその女中さんの教育のおかげで優しい子に育ったじゃないか。あの両親に対しては育ててもらった恩はあれど、それ以上に両親に苦しめられたのも事実だろう?あんたはこれからその両親に縛られる事はない。あんな家から逃げてもいい。俺もいるし、お兄さんだっている。全然頼っていいんだ。悠里は小学校の時、俺をパンツを盗んだ犯人じゃないって最後まで信じてくれたから」

 小学校時代、冤罪を最後まで信じてくれて、それ以前にも自分に話しかけてくれた事は今でも感謝したい。彼女がいなかったら、自分は今でも弱虫のままで情けない男だったと思うから。むしろいじめを苦に自殺すらしていたかもしれない。

「甲斐くんて……やっぱり優しいね」

 悠里は流れる涙を拭って微笑む。

「キミは誰よりも強いじゃないか。キミがいたから俺はここまで強くなれた。だから……その時の恩返しがしたい。今度は俺がキミを助ける」

 ずっと思ってた。彼女にお返しができたらなって。今がその時だ。

「もう一人で悩むな。俺だけじゃない。頼りになるお兄さんやEクラスのみんなだっているから。一人の知恵より、何人かの知恵を借りればどうにかなる。案外なんとかなるもんなんだよ」
「甲斐くん……ありがとう」

 昔助けてくれた彼女だからこそ、辛い思いなんてしてほしくない。助けてやりたいと思う。
 そうして彼女のために何ができるかを思案している時、向こうから誰かの気配を感じた。

「悠里、おれ以外の男としゃべっているなんていらぬ噂が立ったらどうするつもりだ」

 向こうから男の姿が現れてこちらを睨んでいる。悠里を名前で呼ぶそいつの声と顔つきには覚えがあった。
 一目見ただけで忘れやしない。
 いじめられた時の光景が一気に脳裏をよぎる。自分を見下す顔と下品に笑う声が響いてきて、フラッシュバックする。

「城山、くん……」

 悠里の顔色が悪くなり、怯えたような表情になっていた。

「帰ってまた躾てやらないとな。なぁに可愛い顔には傷はつけねーよ。お前の父にも言われたからな。服の下ならいくらでも躾てくれて構わないって」

 なんでこいつがここになんて思うより先に、甲斐は拳を強く握りしめていた。まとわりつくような、ねっとりとした視線で彼女を見ているのもあるし、それと同時に奴の発言も聞き捨てならない。

「家でたっぷり可愛がってやる。おれから離れた罰だからな」

 ちょっとでもまともになっていたらと願っていたが、それもむなしくあの時と何も変わっちゃいない様子にさらに失望を感じずにはいられない。

「……悠里、とりあえずここを離れよう。今はちょっと……」

 気がついたらかなり汗ばんでいた。どうやら自分の中で苛められていた記憶がかなりトラウマ化しているのか、頭の中で城山の笑い声が響いてきて、やられた数々のいじめが頭の中でループし続けている。このままじゃよくない気がする。

「甲斐くん?」
「あの時の事を思い出して気持ち悪くなっちゃって、余裕がないんだ」

 喉もカラカラになって大量に汗をかいて、髪の毛がこめかみ等にはりついて気持ちが悪い。トラウマがすべて怒りに変わっていくせいか、気を抜けば理性が飛ぶかもしれない不安定な状態だ。

「だ、大丈夫なの?」
「とりあえず逃げよう」

 悠里の手を強引にとってその場から立ち去ろうとした。このままあいつを見ているとおかしくなりそうだ。
 汗ばんだ手だけどごめん。

「おいてめえ!!何おれ様の女を連れ去ろうとしてんだよ!!」

 城山の反応は見ての通りそれを許さない様子だ。でも完全無視。相手にすると時間の無駄でもあるし、今はここを離れるのが先決。

「無視すんじゃねえ!」

 城山がいきり立って襲いかかってくる。どうせこの手の奴は沸点が低いだろうとわかっているので、城山の方を向かないで殺気をこめた。強めに。

「な……!」

 背後から襲いかからんとしていた城山の動きが急激に止まる。
 これだけの殺気を背後から放ったので、奴は触れることも近づくこともできないだろう。まるで蛇に睨まれたカエル状態に近く、あまりに強い殺気は怯えさせるどころか縛られたように動けなくなるのだ。
 むろん、彼女にはわからない程度のほんの一瞬だけ一気に放ったに過ぎない。城山を動けなくさせるには十分だろう。

 一歩も動くな。もし一歩でも動けばお前を殺す。

「ひいっ……」

 微かに城山の悲鳴が聞こえた気がした。念のためにもう一度鋭い視線を横目に殺気を放つと、城山は恐怖に黙ったまま甲斐と悠里が立ち去るまで見ているだけであった。
 
「はあ……」

 一先ず、奴がいる場所から遠くに退くことができてほっとする。理性が壊れるのを防ぐので精一杯で、緊張感から呼吸すら仕方を忘れちまう所だった。思った以上に城山への恨みを持っていたようだ。

「甲斐くん大丈夫?」

 ぐったりして座り込んでいる甲斐の様子を心配そうに見ている。

「俺はもう大丈夫。アイツの気配が消えたから。それより、君こそ顔色が悪い……」
「私も大丈夫。甲斐くんがそばにいるから。それにこうして手を握ってくれている」

 今更ながらそれに気づいて「あ、ごめん」と手を放す。

「別に放さなくていいのに」
「や、俺……汗かいてるし、臭いし」
「全然気にしないのに。甲斐くんの汗なら全然ハアハアしてくんかくんかしちゃうのに」
「……え」

 今とんでもない事言わなかった?

「あ、な、なんでもない」

 彼女の変な台詞は置いておいて、今日帰ったらメンタルトレーニングをしておこう。城山一人に動揺しすぎだ。

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