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十二章/修学旅行(後編)
101.不安な涙
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「気の毒なほど幸せな末路で双子共もそれはそれは満足だろ。で、双子の一族の会社はどうだ?」
「たかが中の上くらいのアパレル会社だったかなぁ。あいつら結構前から悪どい事してたみたいだから、遅かれ早かれ身の破滅は決定してたと思うよ。矢崎と青龍会の名前を出した途端に目の色変えてさ、私達には一切関係ありませんので、息子らは煮るなり焼くなり好きにしていいから会社だけはお許しを~なんつってた。薄情な親だよね。自分達の懐のためなら息子らをあっさり見捨てるんだから」
「成金の親ってそんなもんだろ」
あの義父も血も涙もない業績目当ての冷酷非情な奴だ。そして、その姉も。
「ちなみに篠崎って野郎はもう芸能界に戻れない顔面になってたから、いろんな使い道を与えてあげたよ。甲斐ちゃんが一撃で顔を崩壊させてくれたからね」
「残念だな。オレもそいつをボコボコにしてやりたかったが、生憎甲斐と手荒な真似はしないって約束をしたばかり」
「じゃあ彼ピとして約束は守ってあげないとね」
相田はクスクス無邪気に笑う。
「そろそろオレは行く。後の始末は任せた」
「ハイハイ。甲斐ちゃんによろしくね」
所詮は無才の連中レベルなど格下どころか石ころレベルだ。
その石ころがあろう事か甲斐を侮辱し、オレの逆鱗に触れた。
石ころ風情が実に愚かな事だ。普通なら万死に値したい所だろう。だが、甲斐との約束はちゃんと守らなければならないから、仕方なくオレ抜きで生き地獄を味わって頂く事で納得した。
もし今後また同じように甲斐を愚弄する者が現れた時は、同じように淡々と地獄へ送るだけ。
「直様、お車の準備ができました」
「今行く。だがその前に……」
篠崎なんかをトップ俳優にしている芸能界や事務所にも苦言を呈しておくか。今後あんな低レベルなのをメディアなんかで見かけるだけで虫唾が走るからな。甲斐に危害を加えそうな奴らは一匹たりとも潰しておかなければ。
*
本日泊まる宿に帰ってくると、甲斐はすでに布団の上ですやすや眠っていた。
TVが付けっぱなしだったので、直を待っている最中に知らず知らずのうちに眠ってしまったのだろう。
幼い寝顔は今に始まった事ではないが、浴衣がはだけていて鎖骨や胸肌がこれでもかと見えている。妙に色気が放たれているその姿に手を出しそうになったが、甲斐に嫌われたくないのでなんとか我慢した。
いつか、ヤラセテくれないものか。
性欲旺盛な自分がここまで我慢している事を褒めてほしいものだ。
甲斐と両想いになる前までは体がよさそうな女を片っ端からヤッテいたし、時には草加菜月を相手にする事もあった。すべて自分本位で、我慢できない性欲処理のために無理やり。
しかし、甲斐は性欲処理者とはわけがちがう。
本当に好きで、愛しくて、大切にしたいから、甲斐がいいって言うまで手は出さないようにはしている。でも、いつまで我慢ができるだろうか。時々手を出しそうになったのは何度かあって我慢するのも辛い。
できれば、離れ離れになる前に心も体も全て欲しい。
離れ離れだなんて考えたくないが、甲斐を思い出に残せたらと思う。
一生忘れられないくらいに。しかし、
「甲斐……」
いつか離れてしまうと思うと、自分が自分でいられなくなってしまうような気がする。
怖い。離れる事なんてできるのか、本当に。
甲斐を手放すなんてオレには……
無意識にぎゅっと震える唇を噛みしめて、甲斐の頬に触れた。
次第に目頭が熱くなって、鼻がツンと痛くなる。不安と寂しさがこみあげてきて、情けないとわかっていながらも無意識に生暖かいものが流れ落ちて、眠っている甲斐の頬に一つ、二つと零れ落ちた。
「ん……」
生暖かい滴の感触に甲斐がピクリと動き出して、眠そうに瞼を開けた。
「直……?」
視界には涙ぐんだ直の顔が見えて、甲斐は驚いて目を一瞬で覚醒させた。
「どうしたんだよ」
「……なんでもねぇ」
すぐにそっぽを向く直。柄にもなく涙を流している姿が恥ずかしかったのだろう。
甲斐は直の姿を思案顔で眺めて、それからそっと直の手に自分のを重ねた。
「本当に寂しがり屋で泣き虫だな」
「テメエのせいだろ」
「そうかもしんない」
苦笑する甲斐を横目で眺めて、直は甲斐の手を握り絡め返して正面に引き寄せた。
「うわ」
あまりにも勢いが強すぎたせいで、甲斐は自然と直の胸にぽすんと収まる。
「ヤりたいんだけど」
「は……」
なにが?と訊く前に答えは返ってくる。
「セックス」
「っ……」
包み隠さず堂々と言われると恥ずかしい。
「ま、まだ、む、無理っす」
「じゃあ、いつなんだよ」
「い、いつってそんなの、心の準備ができたらでっ」
「じゃあ、一か月以内に心の準備を済ませておけよ」
「はい?」
「男なら性欲我慢する辛さがわかるだろ。いつまでも待てるわけじゃねーんだから」
いつまでもお預けされて、辛い気持ちは甲斐も男だからこそよくわかるわけで、だからと言って男同士でスルのは女相手とするのとはわけが違う。
「ぅう、ケツ穴確定……」
想像したらいろんな意味で死ぬかも。ていうかやっぱ俺が下なのだろうか。やっぱ下だよな……ははは。
「痛くねぇようにするから」
「痛くねぇようにって痛いのかよ」
「下手な奴がすればな」
「……そ、そーですか」
そうは言ってもケツが心配だ。こいつが百戦錬磨で巧そうな奴だとしても。
「その前にデートしたいな」
「デートって」
「お前と二人だけで遊びに行きたい。もっと楽しいを共有したい」
十二話 完
「たかが中の上くらいのアパレル会社だったかなぁ。あいつら結構前から悪どい事してたみたいだから、遅かれ早かれ身の破滅は決定してたと思うよ。矢崎と青龍会の名前を出した途端に目の色変えてさ、私達には一切関係ありませんので、息子らは煮るなり焼くなり好きにしていいから会社だけはお許しを~なんつってた。薄情な親だよね。自分達の懐のためなら息子らをあっさり見捨てるんだから」
「成金の親ってそんなもんだろ」
あの義父も血も涙もない業績目当ての冷酷非情な奴だ。そして、その姉も。
「ちなみに篠崎って野郎はもう芸能界に戻れない顔面になってたから、いろんな使い道を与えてあげたよ。甲斐ちゃんが一撃で顔を崩壊させてくれたからね」
「残念だな。オレもそいつをボコボコにしてやりたかったが、生憎甲斐と手荒な真似はしないって約束をしたばかり」
「じゃあ彼ピとして約束は守ってあげないとね」
相田はクスクス無邪気に笑う。
「そろそろオレは行く。後の始末は任せた」
「ハイハイ。甲斐ちゃんによろしくね」
所詮は無才の連中レベルなど格下どころか石ころレベルだ。
その石ころがあろう事か甲斐を侮辱し、オレの逆鱗に触れた。
石ころ風情が実に愚かな事だ。普通なら万死に値したい所だろう。だが、甲斐との約束はちゃんと守らなければならないから、仕方なくオレ抜きで生き地獄を味わって頂く事で納得した。
もし今後また同じように甲斐を愚弄する者が現れた時は、同じように淡々と地獄へ送るだけ。
「直様、お車の準備ができました」
「今行く。だがその前に……」
篠崎なんかをトップ俳優にしている芸能界や事務所にも苦言を呈しておくか。今後あんな低レベルなのをメディアなんかで見かけるだけで虫唾が走るからな。甲斐に危害を加えそうな奴らは一匹たりとも潰しておかなければ。
*
本日泊まる宿に帰ってくると、甲斐はすでに布団の上ですやすや眠っていた。
TVが付けっぱなしだったので、直を待っている最中に知らず知らずのうちに眠ってしまったのだろう。
幼い寝顔は今に始まった事ではないが、浴衣がはだけていて鎖骨や胸肌がこれでもかと見えている。妙に色気が放たれているその姿に手を出しそうになったが、甲斐に嫌われたくないのでなんとか我慢した。
いつか、ヤラセテくれないものか。
性欲旺盛な自分がここまで我慢している事を褒めてほしいものだ。
甲斐と両想いになる前までは体がよさそうな女を片っ端からヤッテいたし、時には草加菜月を相手にする事もあった。すべて自分本位で、我慢できない性欲処理のために無理やり。
しかし、甲斐は性欲処理者とはわけがちがう。
本当に好きで、愛しくて、大切にしたいから、甲斐がいいって言うまで手は出さないようにはしている。でも、いつまで我慢ができるだろうか。時々手を出しそうになったのは何度かあって我慢するのも辛い。
できれば、離れ離れになる前に心も体も全て欲しい。
離れ離れだなんて考えたくないが、甲斐を思い出に残せたらと思う。
一生忘れられないくらいに。しかし、
「甲斐……」
いつか離れてしまうと思うと、自分が自分でいられなくなってしまうような気がする。
怖い。離れる事なんてできるのか、本当に。
甲斐を手放すなんてオレには……
無意識にぎゅっと震える唇を噛みしめて、甲斐の頬に触れた。
次第に目頭が熱くなって、鼻がツンと痛くなる。不安と寂しさがこみあげてきて、情けないとわかっていながらも無意識に生暖かいものが流れ落ちて、眠っている甲斐の頬に一つ、二つと零れ落ちた。
「ん……」
生暖かい滴の感触に甲斐がピクリと動き出して、眠そうに瞼を開けた。
「直……?」
視界には涙ぐんだ直の顔が見えて、甲斐は驚いて目を一瞬で覚醒させた。
「どうしたんだよ」
「……なんでもねぇ」
すぐにそっぽを向く直。柄にもなく涙を流している姿が恥ずかしかったのだろう。
甲斐は直の姿を思案顔で眺めて、それからそっと直の手に自分のを重ねた。
「本当に寂しがり屋で泣き虫だな」
「テメエのせいだろ」
「そうかもしんない」
苦笑する甲斐を横目で眺めて、直は甲斐の手を握り絡め返して正面に引き寄せた。
「うわ」
あまりにも勢いが強すぎたせいで、甲斐は自然と直の胸にぽすんと収まる。
「ヤりたいんだけど」
「は……」
なにが?と訊く前に答えは返ってくる。
「セックス」
「っ……」
包み隠さず堂々と言われると恥ずかしい。
「ま、まだ、む、無理っす」
「じゃあ、いつなんだよ」
「い、いつってそんなの、心の準備ができたらでっ」
「じゃあ、一か月以内に心の準備を済ませておけよ」
「はい?」
「男なら性欲我慢する辛さがわかるだろ。いつまでも待てるわけじゃねーんだから」
いつまでもお預けされて、辛い気持ちは甲斐も男だからこそよくわかるわけで、だからと言って男同士でスルのは女相手とするのとはわけが違う。
「ぅう、ケツ穴確定……」
想像したらいろんな意味で死ぬかも。ていうかやっぱ俺が下なのだろうか。やっぱ下だよな……ははは。
「痛くねぇようにするから」
「痛くねぇようにって痛いのかよ」
「下手な奴がすればな」
「……そ、そーですか」
そうは言ってもケツが心配だ。こいつが百戦錬磨で巧そうな奴だとしても。
「その前にデートしたいな」
「デートって」
「お前と二人だけで遊びに行きたい。もっと楽しいを共有したい」
十二話 完
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