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十二章/修学旅行(後編)
100.圧倒的権力
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「宿に潜入した貴様らを見逃した事をとても後悔しているよ」
直が腕を組みながら背後にいる黒服達に顎で合図を送ると、黒服達は双子らを取り囲み、羽交い絞めにして取り押さえた。
「ちょ、ちょっと何をするの!」
「僕タン達にこんな真似してタダで済むと思ってるの!?」
「それはこっちのセリフだ」
目で人を殺せるんじゃないかという眼光を双子に向けた。瞳孔が開いた目は周りをすくみ上がらせる。
「オレの甲斐を二度も愚弄した。それはオレに対する愚弄も一緒。つまり、貴様らはオレを怒らせた。それがどういう事かわかるな」
殺気を纏った直の雰囲気と曰くありげな言葉。上流階級の世界では『矢崎財閥と矢崎直には手を出すな』という暗黙のルールがあり、今一度それが呼び起こされる。
手を出す、つまり怒らせるなという意味合いのそれをふと思い出し、やっとどれだけの大罪を犯したかを理解すると、双子達は次第に恐怖に戦慄する。
「ゆ、ゆるして……っ」
「お願い、します……も、もう、何もいたしませんから……」
双子は気の毒な程怯えて青ざめている。死刑宣告でも受けたかのように土下座までし始めて、半泣きに頭を下げている。
直を怒らせたらどういう末路を辿るかわかっており、ひたすら許しを請う姿に一同は茫然。
誰であろうと彼の怒りにふれた時、一族もろとも社会的に死を意味するのだから。
「泣いて謝って後悔しても遅い。今の事がなくても、勝手に宿に潜入した事などで貴様ら双子やその親会社には制裁を加えるつもりだった」
だから先ほどまで仕事の話し合いをしていたのかと妙に納得する。しかし、この重苦しくて絶望的な空気はどういう事だろうと甲斐は思う。
そんなに直が怖いのだろうか。背後の矢崎財閥という巨大な組織が。
「お、おい。こいつらどうする気だよ」
不穏な空気を感じ取った甲斐が慌てて直に訊いた。
「お前は気にしなくていい」
「いや、気にしなくていいって逆に気になるから。大体なんなんだよこの黒服の奴らは。お前の部下だろうけど」
「黒服はオレの部下でもあり、拓実の部下でもある」
「相田の?」
てことは反社関連か。そこまでする程の事か。たしかにこの双子共には腹が立ったが、所詮はちょっとした学生同士のいざこざにすぎないというのに。
そんな当の本人の直はせせら笑っていた。子供のように無邪気さを含んで、ただただ口の端を不気味に持ち上げていた。
「もしかしてこいつらに手荒な真似をするのか。やめとけよ。さすがにそこまでしなくていいから。オーバーキルすぎる」
「お人好しだな、オレの愛しい甲斐ちゃんは。安心しろよ。こいつらには仕事をさせるだけだ。決して手荒な真似はしないと約束する」
「……仕事?本当かよ」
「本当だ」
「……約束だからな」
甲斐は鋭く直を見つめると、直は静かに頷く。
「ああ、約束」
確かに手荒な真似はしない。オレ自身は。
仮にオレがこいつらを許しても、その周りは許しはしないだろうから、慈悲は与えられないだろう。
金と権力の世界は生易しい制裁で終わらせれば奴らはすぐに図に乗る事が目に見えている。だから、目に物を言わせて黙らせて、完膚なきまで地に落とさなければこの手の連中は懲りないのだ。
「つれてけ」
「「はっ」」
直が命令すると、忠実に黒服達は動き、双子と篠崎の三人を強引に車に乗せていく。周りの無才の取り巻き達は、怯えて動く事もできずにそれを傍観しているだけ。
双子は聞くに堪えない程ひどく泣きわめいて暴れている様子だったが、黒服達は無理やり大人しくさせている。
やっぱりひどい事をされるんじゃないかと危惧した甲斐は、止めようとしたが車はもう発車して行ってしまった後だった。
*
その晩、直と相田はある要塞の地下室の前にいた。
要塞の地下室は研究所のような真っ白い空間で、どこまでも無機質だった。
「返り血ついてんぞ」
「ごめん。別件で別の奴を拷問してたらこうなっちゃった。てへ」
相田の頬には真新しい血痕が付いていた。まだ乾いて間もないものである。
「……殺したのか?」
無表情で問う直。
「いや、いろいろ使い道はあるだろうから生かしてる」
愉しそうに返す相田。
二人はある部屋の重い扉の前にいる。決して関係者以外は立ち入る事のできない領域で、微かに扉の奥から何者かの奇声やら叫び声が漏れている。二人にとってなんの感慨もわかない声であった。
「生き地獄を与える気満々だな」
「当然でしょ。死ぬより時としてそれが一番の苦痛だって事、直も知ってるくせに」
彼らの周りには黒服と白衣の研究者の者が何人かいる。
彼らは顔色一つ変えずに、淡々とこの場所で今しがた行われていた事を報告しあう。決して世間には公にできない闇の所業を。
「それが次期トップのお望みならそう動くのがオイラの役目でしょ」
華やかな世界に住まう矢崎家にも黒い繋がりは当然存在する。
時には裏社会のトップの孫である相田拓実と共謀して、裏と表の秩序を乱す人間を始末するのも彼らの役目。
直と相田。幼い頃からの腐れ縁といえど、裏のビジネスパートナーとしても深く繋がっているのだ。
「それで例の双子共の様子は?」
「今もその手の男達に遊ばれてるんじゃない?あいつら無駄に綺麗な顔してんじゃん。だから可愛い美少年好きなその手の男らにモテモテで、マワサレまくって数時間くらいしたらあっさり従順になってメス化されてる。青龍会の研究員が開発した新薬のおかげで、もう幸せそうな顔してヤラレまくってるよ。快感地獄に昇天前って所かな。近々その子達のフィルムが出回るっしょ。いい稼ぎにはなりそうで感謝してるワー」
裏社会に生きる相田の口調はいつもの軽いノリではあるが、目はギラギラしている。
今しがた暴力を振るってきた者特有の殺気を放ちながら、裏の絶対的な支配者の顔を窺わせた。
直が腕を組みながら背後にいる黒服達に顎で合図を送ると、黒服達は双子らを取り囲み、羽交い絞めにして取り押さえた。
「ちょ、ちょっと何をするの!」
「僕タン達にこんな真似してタダで済むと思ってるの!?」
「それはこっちのセリフだ」
目で人を殺せるんじゃないかという眼光を双子に向けた。瞳孔が開いた目は周りをすくみ上がらせる。
「オレの甲斐を二度も愚弄した。それはオレに対する愚弄も一緒。つまり、貴様らはオレを怒らせた。それがどういう事かわかるな」
殺気を纏った直の雰囲気と曰くありげな言葉。上流階級の世界では『矢崎財閥と矢崎直には手を出すな』という暗黙のルールがあり、今一度それが呼び起こされる。
手を出す、つまり怒らせるなという意味合いのそれをふと思い出し、やっとどれだけの大罪を犯したかを理解すると、双子達は次第に恐怖に戦慄する。
「ゆ、ゆるして……っ」
「お願い、します……も、もう、何もいたしませんから……」
双子は気の毒な程怯えて青ざめている。死刑宣告でも受けたかのように土下座までし始めて、半泣きに頭を下げている。
直を怒らせたらどういう末路を辿るかわかっており、ひたすら許しを請う姿に一同は茫然。
誰であろうと彼の怒りにふれた時、一族もろとも社会的に死を意味するのだから。
「泣いて謝って後悔しても遅い。今の事がなくても、勝手に宿に潜入した事などで貴様ら双子やその親会社には制裁を加えるつもりだった」
だから先ほどまで仕事の話し合いをしていたのかと妙に納得する。しかし、この重苦しくて絶望的な空気はどういう事だろうと甲斐は思う。
そんなに直が怖いのだろうか。背後の矢崎財閥という巨大な組織が。
「お、おい。こいつらどうする気だよ」
不穏な空気を感じ取った甲斐が慌てて直に訊いた。
「お前は気にしなくていい」
「いや、気にしなくていいって逆に気になるから。大体なんなんだよこの黒服の奴らは。お前の部下だろうけど」
「黒服はオレの部下でもあり、拓実の部下でもある」
「相田の?」
てことは反社関連か。そこまでする程の事か。たしかにこの双子共には腹が立ったが、所詮はちょっとした学生同士のいざこざにすぎないというのに。
そんな当の本人の直はせせら笑っていた。子供のように無邪気さを含んで、ただただ口の端を不気味に持ち上げていた。
「もしかしてこいつらに手荒な真似をするのか。やめとけよ。さすがにそこまでしなくていいから。オーバーキルすぎる」
「お人好しだな、オレの愛しい甲斐ちゃんは。安心しろよ。こいつらには仕事をさせるだけだ。決して手荒な真似はしないと約束する」
「……仕事?本当かよ」
「本当だ」
「……約束だからな」
甲斐は鋭く直を見つめると、直は静かに頷く。
「ああ、約束」
確かに手荒な真似はしない。オレ自身は。
仮にオレがこいつらを許しても、その周りは許しはしないだろうから、慈悲は与えられないだろう。
金と権力の世界は生易しい制裁で終わらせれば奴らはすぐに図に乗る事が目に見えている。だから、目に物を言わせて黙らせて、完膚なきまで地に落とさなければこの手の連中は懲りないのだ。
「つれてけ」
「「はっ」」
直が命令すると、忠実に黒服達は動き、双子と篠崎の三人を強引に車に乗せていく。周りの無才の取り巻き達は、怯えて動く事もできずにそれを傍観しているだけ。
双子は聞くに堪えない程ひどく泣きわめいて暴れている様子だったが、黒服達は無理やり大人しくさせている。
やっぱりひどい事をされるんじゃないかと危惧した甲斐は、止めようとしたが車はもう発車して行ってしまった後だった。
*
その晩、直と相田はある要塞の地下室の前にいた。
要塞の地下室は研究所のような真っ白い空間で、どこまでも無機質だった。
「返り血ついてんぞ」
「ごめん。別件で別の奴を拷問してたらこうなっちゃった。てへ」
相田の頬には真新しい血痕が付いていた。まだ乾いて間もないものである。
「……殺したのか?」
無表情で問う直。
「いや、いろいろ使い道はあるだろうから生かしてる」
愉しそうに返す相田。
二人はある部屋の重い扉の前にいる。決して関係者以外は立ち入る事のできない領域で、微かに扉の奥から何者かの奇声やら叫び声が漏れている。二人にとってなんの感慨もわかない声であった。
「生き地獄を与える気満々だな」
「当然でしょ。死ぬより時としてそれが一番の苦痛だって事、直も知ってるくせに」
彼らの周りには黒服と白衣の研究者の者が何人かいる。
彼らは顔色一つ変えずに、淡々とこの場所で今しがた行われていた事を報告しあう。決して世間には公にできない闇の所業を。
「それが次期トップのお望みならそう動くのがオイラの役目でしょ」
華やかな世界に住まう矢崎家にも黒い繋がりは当然存在する。
時には裏社会のトップの孫である相田拓実と共謀して、裏と表の秩序を乱す人間を始末するのも彼らの役目。
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