学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

いとこんドリア

文字の大きさ
上 下
93 / 222
十一章/修学旅行(前編)

89.ささやかな幸せ

しおりを挟む
 しばらくしてから起き上がり、身支度を整えて別室の座敷の席についた。もう朝食の準備ができていて、女将や従業員が頭をぺこりと下げて出て行った。
 さすがは京都である。名物の湯葉を中心に使った豆腐料理や焼き魚や煮物が並んでいる。プロが作ったものだからそりゃあ味は保証済み。とてもうまそうだ。それにやはり朝食は御飯に限るなあと甲斐は両手をあわせた。

「いっただきまーす!」

 甲斐は御飯大盛りの茶碗を持ち、がつがつと喉へかきこんだ。もちもちしていてとてもふっくらな御飯である。

「お前、意地汚い食べ方だな。育ちの悪さが一目でわかる。なあ貧乏人」
「うるせーな。貧乏人は腹減ってたんだよ。こんな朝食滅多に食べれないからこそ御飯だけ10杯くらいおかわりしないと勿体ない。もぐもぐがつがつ。あーうまうま」

 甲斐は何度もご飯のお代わりを要求する。十杯どころか二十杯はいきそうである。見ていた直はあまりの甲斐の食べっぷりにしばらく我を忘れて眺めている程だった。

「貧乏人は大食いが多いよな」

 そんな直はチビチビと綺麗な箸遣いで優美に食べている。

「おめーは身長高いくせに少食すぎだよな。どーやったらそこまで伸びんのか知りたいもんだ」
「余計な添加物とかまず食べねーからなオレは。ぜーんぶ栄養士やら主治医が健康管理してくれているからそんな事考えた事ねぇ」
「んまあ!金持ち様は健康面に徹底していますこと。贅沢三昧してりゃあ雑草もカップラーメンの美味さもわかりませんことよねー」
「げ……テメエ、雑草まで食ってたのかよ」

 驚いた様子で直は持っていた茶碗を落としそうになった。

「まあ、中学時代にちょっとな」

 自分が傷害事件を起こして前歴持ちになった後に父の借金問題でてんやわんやしていた頃だ。

「1000円で一か月過ごさなきゃなんねー時があって、やむを得ず道端のザリガニと雑草を採ってた時があって、一か月雑草生活してたんだよ。あん時は大丈夫だと思って食べたフキノトウのせいで腹壊して大変だったし、おまけに病院行くどころか服やら雑貨買う金もなくて、ごみ処理場を漁った事もある。アパートの家賃払うのも苦労したなぁ。いやーあん時はマジでホームレスの気持ちがようわかってさ、ホームレスのおっちゃんからパンの耳をもらった時は大層喜んだものさ」

 爪楊枝を歯の間でぐりぐりしながらしみじみと二、三年前の事を思い出す甲斐。それを聞いて直は、

「お前……」

 箸を静かに置いて視線を合わせた。

「すげぇ貧乏人だ貧乏人だとは思ってたが、まさかそこまで貧乏人だったとはマジ驚いた。究極の貧乏人ホームレスだったんだなおまえ」
「一時期な。今更だろ」

 驚いたような、でもドン引きするような、尊敬するような、複雑に綯い交ぜになった癪に障る直の顔がそこにあった。

「いやな、本やドラマで見るような究極の貧乏人が現実にいたんだなって思ったんだよ。ここまでくるとお前の事をいろんな意味で尊敬するっつうかなんかオレ……お前の見る目がまた変わりそうだわ」
「なんだそりゃ。見る目って今までどんな風に見ててこれからまたどんな目で見るんだよ。あとその言い方とそのドン引き顔……すげームカつくんですけど」
「でも……そんな究極の貧乏人でもオレはお前の事が好きなんだよ」
「……っ」
「好きで好きでたまらないんだ」

 急に優しい顔で求愛されて顔にボッと火が着いた。

「なあ、オレの事……好き?」
「……い、言わなくてもわかんだろ」

 なんか急に周囲がピンク色に染まった気がする。

「それでも何度でも聞きたい。お前の事。全部知りたい。なあ、甲斐」
「お前はっ……ったく!

 仕方ないとばかりに甲斐は茶碗と箸を置いた。言わなきゃこいつは納得しないだろうし。

「えー……好きだ、直。お前が一番……す、好き」

 両想いだとわかっているのに、好きという二文字を伝えるのは今更ながらとても照れくさい。
 そう言った矢先、直の腕が伸びてきた。

「オレも甲斐が好き。大好きだよ」

 瑞々しい直の笑顔と共に強く抱きしめられた。
 いつまでこんなやりとりができるのかわからないけれど、できれば少しでも長く、この幸せな時間が続けばいいと思う。せめて、学生でいられる時間の間だけでも、幸せな夢を見れたらなと思う。
 
 朝食後、何事もなかったかのようにEクラスが泊まっている旅館へ送迎してもらい、クラスメートとこっそり合流。本日の観光予定地へバスで向かった。
 その途中のバスの中で「昨晩はどうだったわけ?」と、篠宮に話をふられて困ってしまった。
 どうだったかと訊かれても特に何もなかったと思う。別に変な事はされなかったし、キスはまあいつもの事。
 
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺

高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!

あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。 かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き) けれど… 高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは─── 「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」 ブリッコキャラだった!!どういうこと!? 弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。 ───────誰にも渡さねぇ。」 弟×兄、弟がヤンデレの物語です。 この作品はpixivにも記載されています。

どうしょういむ

田原摩耶
BL
苦手な性格正反対の難あり双子の幼馴染と一週間ひとつ屋根の下で過ごす羽目になる受けの話。 穏やか優男風過保護双子の兄+粗暴口悪サディスト遊び人双子の弟×内弁慶いじめられっ子体質の卑屈平凡受け←親友攻め 学生/執着攻め/三角関係/幼馴染/親友攻め/受けが可哀想な目に遭いがち 美甘遠(みかもとおい) 受け。幼い頃から双子たちに玩具にされてきたため、双子が嫌い。でも逆らえないので渋々言うこと聞いてる。内弁慶。 慈光宋都(じこうさんと) 双子の弟。いい加減で大雑把で自己中で乱暴者。美甘のことは可愛がってるつもりだが雑。 慈光燕斗(じこうえんと) 双子の兄。優しくて穏やかだが性格が捩れてる。美甘に甘いようで甘くない。 君完(きみさだ) 通称サダ。同じ中学校。高校にあがってから美甘と仲良くなった親友。美甘に同情してる。

眠りに落ちると、俺にキスをする男がいる

ぽぽ
BL
就寝後、毎日のように自分にキスをする男がいる事に気付いた男。容疑者は同室の相手である三人。誰が犯人なのか。平凡な男は悩むのだった。 総受けです。

【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢
BL
2023/01/27 完結!全117話 【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】 孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。 しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。 その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。 組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。 失敗続きにも関わらず対等な仲間として扱われていくうちに、ライルの心の傷が癒やされていく。 鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。 ★・★・★・★・★・★・★・★ 無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。 感想ありましたら是非お寄せください。作者が喜びます♡

処理中です...