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十章/さみしがりや
79.縁談
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昨日の夜、自分宛に届いたSNSには、甲斐とEクラス達が仲良く談笑しているものや、笑顔で至近距離でくっついている画像が添付されていた。
送信者は草加菜月からで、丁度彼らがいた所を見かけたから報告がてらに送ってきたという。
自分と甲斐の関係を知ってのあてつけか、嫉妬かはわからないが、意地の悪いものを送ってくるものだ。
*
「今日は早く帰るんだね」
放課後、すぐに甲斐は帰り支度を行った。今日はバイトを休んでまで寮でする事がある。
「帰って急いでケーキ作りに取り掛かるんだ。それに明日明後日は修学旅行前で忙しいし、今日中に仕上げて持って行こうと思って」
「誕生日プレゼントか。そういえば矢崎直も明日は誕生日で親衛隊達はりきってたね。誕プレで」
直の親衛隊達はいつにも増してソワソワしているのはそのためなのはわかっていた。自分も少しソワソワしていたけれど。
いらないなんて言われるかもしれないし、食い物なんて重いとか言われて捨てられるかもしれないけど、やっぱり心を込めた物を手渡すだけでいい。自己満かもしれないけど。
ただ、アイツが喜んでくれたらこっちも嬉しい。
*
鈴木グループが経営する【プリンス桜花ホテル】では、矢崎と鈴木の両親族達が集まり、貸切として使っている鳳凰の間で身振り手振りで話し合っていた。
親族同士向かい合うように細長いテーブルに着席し、好き勝手に話す父親の正之は息子の直に目もくれず、相手の母親とひたすら経営について談笑しあっている。
直も令嬢であるカレンも一言も話さず、目をあわせればとりあえず愛想笑いを浮かべて頭を下げるだけ。正之と相手の母親二人だけの独壇場で、本人たちはただの飾り状態。
所詮は見合いという名の上辺だけの形式なのが見て取れる。
金持ち同士の見合いにはよくある事。
目的は将来的に会社を有利にするためのものなのだから。
「女性を夢中にさせるその美しい容姿もさることながら、頭もよく、運動神経もよく、上に立つ威厳もおありになる。直さんは本当に私の娘には勿体ないくらいのお方ですわぁ。あの矢崎グループとの繋がりがあるというだけで私共も鼻高々で……」
相手の母親が媚び諂うようにこちらを持ち上げる発言を繰り返している。
ああ、うざったい。
所詮は権力と財産と矢崎というブランド目当てなくせに。強欲ババアが。
「ねえ、カレンもそう思うでしょう?」
母親が娘に視線を向けて同意を求めている。
「……はい、とっても素敵な男性です。四天王の事は以前から知っていましたが、特に直様は誠実そうで、前からお会いしたかったのですわ」
令嬢であるカレンは頬を染めている。
雰囲気からしておとなしそうな女である。うるさい上にプロポーションをこれでもかと武器にしてくる女や、化粧臭いギャル女よりかは幾分マシだが、こういう至って特徴のない女も微妙だ。
たしかに美少女だとは思うが、それ以外に魅かれるものなどなさそうだ。
ただ、少し顔があいつに似ているだけ。甲斐に。
「ははは、カレンさんがそう言ってくれてこちらとしては嬉しいですよ。ではそろそろ我々は別室に移りますか。あとはお若いお二人でゆっくり会話をしていただこう」
正之がそう話すと両親族は部屋を退出した。
二人きりになると直は溜息を吐き、整えられていた髪をバサバサ乱し、ネクタイを緩めた。
「あーやっと解放された」
直は姿勢を崩したように両足をテーブルに乗せた。
堅苦しくて小姑のようにうるさい正之の前で紳士ヅラを作り続けるのは心底疲れる。
「あ、あの……」
先ほどの態度から一変したような直の態度にカレンは驚いている。
「……何だよ」
直が面倒そうに視線を向ける。
「さっきとは随分態度が変わられたといいますか、せっかくビシっとされていらっしゃったのに、清純そうな男らしさが台無しだと思いまして」
「……だったら何なわけ。アンタに関係ねぇし」
そばに置かれたノンアルを一気にがぶ飲みする。
「で、でも」
「なんか文句あんのかよ」
ギロっと直はカレンを睨む。
「こっちは格下のアンタの会社と一緒になりたいって親の要望で来てやっただけだっつうのに、格下お貴族令嬢がオレに意見すんじゃねぇよ。箱入り世間知らずのオジョーが」
「っ……」
カレンは直の鋭い眼光に怯える。やはりこの女も自分にビビる程度のつまらない女だ。
「あー世間知らずそうなアンタに一応確認しとくけど、一緒になるのは単なる形式だけってのはいくらなんでも知ってるよな。会社のプラスになるからそのメリット優先。愛なんて会社の利益の二の次。まあ、オレはあんたとの愛なんて信じないから表面上だけは夫婦って事で。んで、ガキは後継者のために2人まで作るとして、プライベートは一切干渉してこない事で頼むわ。オレもあんたのプライベートなんて知りたいと思わないから好きにすればいい。あと、セックスはガキ作る時以外はナシって事でよろしく。わかった?」
一方的に自分の都合だけをしゃべる直に、カレンは茫然と聞きながらショックを受ける。こんな人だったなんて……と、思い描いていた誠実そうな人物とはかけ離れていたようで、わなわな震えている。
「ひ、ひどい……」
「……」
「最低です!」
カレンは涙目になっていた。
送信者は草加菜月からで、丁度彼らがいた所を見かけたから報告がてらに送ってきたという。
自分と甲斐の関係を知ってのあてつけか、嫉妬かはわからないが、意地の悪いものを送ってくるものだ。
*
「今日は早く帰るんだね」
放課後、すぐに甲斐は帰り支度を行った。今日はバイトを休んでまで寮でする事がある。
「帰って急いでケーキ作りに取り掛かるんだ。それに明日明後日は修学旅行前で忙しいし、今日中に仕上げて持って行こうと思って」
「誕生日プレゼントか。そういえば矢崎直も明日は誕生日で親衛隊達はりきってたね。誕プレで」
直の親衛隊達はいつにも増してソワソワしているのはそのためなのはわかっていた。自分も少しソワソワしていたけれど。
いらないなんて言われるかもしれないし、食い物なんて重いとか言われて捨てられるかもしれないけど、やっぱり心を込めた物を手渡すだけでいい。自己満かもしれないけど。
ただ、アイツが喜んでくれたらこっちも嬉しい。
*
鈴木グループが経営する【プリンス桜花ホテル】では、矢崎と鈴木の両親族達が集まり、貸切として使っている鳳凰の間で身振り手振りで話し合っていた。
親族同士向かい合うように細長いテーブルに着席し、好き勝手に話す父親の正之は息子の直に目もくれず、相手の母親とひたすら経営について談笑しあっている。
直も令嬢であるカレンも一言も話さず、目をあわせればとりあえず愛想笑いを浮かべて頭を下げるだけ。正之と相手の母親二人だけの独壇場で、本人たちはただの飾り状態。
所詮は見合いという名の上辺だけの形式なのが見て取れる。
金持ち同士の見合いにはよくある事。
目的は将来的に会社を有利にするためのものなのだから。
「女性を夢中にさせるその美しい容姿もさることながら、頭もよく、運動神経もよく、上に立つ威厳もおありになる。直さんは本当に私の娘には勿体ないくらいのお方ですわぁ。あの矢崎グループとの繋がりがあるというだけで私共も鼻高々で……」
相手の母親が媚び諂うようにこちらを持ち上げる発言を繰り返している。
ああ、うざったい。
所詮は権力と財産と矢崎というブランド目当てなくせに。強欲ババアが。
「ねえ、カレンもそう思うでしょう?」
母親が娘に視線を向けて同意を求めている。
「……はい、とっても素敵な男性です。四天王の事は以前から知っていましたが、特に直様は誠実そうで、前からお会いしたかったのですわ」
令嬢であるカレンは頬を染めている。
雰囲気からしておとなしそうな女である。うるさい上にプロポーションをこれでもかと武器にしてくる女や、化粧臭いギャル女よりかは幾分マシだが、こういう至って特徴のない女も微妙だ。
たしかに美少女だとは思うが、それ以外に魅かれるものなどなさそうだ。
ただ、少し顔があいつに似ているだけ。甲斐に。
「ははは、カレンさんがそう言ってくれてこちらとしては嬉しいですよ。ではそろそろ我々は別室に移りますか。あとはお若いお二人でゆっくり会話をしていただこう」
正之がそう話すと両親族は部屋を退出した。
二人きりになると直は溜息を吐き、整えられていた髪をバサバサ乱し、ネクタイを緩めた。
「あーやっと解放された」
直は姿勢を崩したように両足をテーブルに乗せた。
堅苦しくて小姑のようにうるさい正之の前で紳士ヅラを作り続けるのは心底疲れる。
「あ、あの……」
先ほどの態度から一変したような直の態度にカレンは驚いている。
「……何だよ」
直が面倒そうに視線を向ける。
「さっきとは随分態度が変わられたといいますか、せっかくビシっとされていらっしゃったのに、清純そうな男らしさが台無しだと思いまして」
「……だったら何なわけ。アンタに関係ねぇし」
そばに置かれたノンアルを一気にがぶ飲みする。
「で、でも」
「なんか文句あんのかよ」
ギロっと直はカレンを睨む。
「こっちは格下のアンタの会社と一緒になりたいって親の要望で来てやっただけだっつうのに、格下お貴族令嬢がオレに意見すんじゃねぇよ。箱入り世間知らずのオジョーが」
「っ……」
カレンは直の鋭い眼光に怯える。やはりこの女も自分にビビる程度のつまらない女だ。
「あー世間知らずそうなアンタに一応確認しとくけど、一緒になるのは単なる形式だけってのはいくらなんでも知ってるよな。会社のプラスになるからそのメリット優先。愛なんて会社の利益の二の次。まあ、オレはあんたとの愛なんて信じないから表面上だけは夫婦って事で。んで、ガキは後継者のために2人まで作るとして、プライベートは一切干渉してこない事で頼むわ。オレもあんたのプライベートなんて知りたいと思わないから好きにすればいい。あと、セックスはガキ作る時以外はナシって事でよろしく。わかった?」
一方的に自分の都合だけをしゃべる直に、カレンは茫然と聞きながらショックを受ける。こんな人だったなんて……と、思い描いていた誠実そうな人物とはかけ離れていたようで、わなわな震えている。
「ひ、ひどい……」
「……」
「最低です!」
カレンは涙目になっていた。
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