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十章/さみしがりや
78.片想いの気分
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一方その頃、甲斐はEクラス達とゲーセンで盛り上がりながら談笑していた。最近の学園の事や日常の事で終始楽しい時間を過ごしている。
そんな時にポケットの振動に気づくと、バイブの着信が入っている。画面をみれば矢崎直の文字。
「あ、ごめん。なんか電話かかってきてる。外に出てくる」
「いってらー」
騒がしいゲーセンの外で着信をとった。
「もしもし、矢崎か?」
『架谷……』
なんだか声に元気がないような気がした。
「どうかしたのか」
『お前にあいたい』
唐突に今の想いを口にした。
「え、あ、悪い。今外に出てて……」
『どこにいるんだよ…』
「どこって……ちょっとクラスメートとゲーセン」
『Eクラスの奴らとか?』
「そうだけど。今楽しくてさ、久しぶりに羽目を外せたって感じなんだ」
『ふーん』
直の声が先ほどより一層低くなったように思えた。
「なんだよ」
「別に何も……」
「っつーか友達待たせてるから用が無いなら切るぞ。緊急の用じゃないならSNSにしてくれ」
思ったほど甲斐はそっけなくて、一方的に電話を切ろうとしているのに寂しくなった。
ただ、会うまではいかないにしろ、声を聞いたら満足できると思ったのに、甲斐の態度にそれすらも今は無理な気がした。
愛しい気持ちが次第に失せてきて、冷たい印象の甲斐に怒りさえもわいてくる。
「って、聞いてんのかよ矢崎。言いたい事があるなら後で」
『いい……』
「あ……?」
『もういい!!』
ぶちんとそのまま通話を一方的に切られ、甲斐は呆気にとられた。
ツーツーっと、通話が切れた音が耳に残る。
なんだあいつ。
何怒ってんだ。マジ意味わからん。
*
朝スマホに直のメッセージの一つや二つが入っているのに、今日は珍しく何も届いていなかった。
一昨日はEクラスと外出中に直から電話があって、突然怒り出して切られたのを気がかりに思っていたが、翌日になれば元通りだろうと高をくくっていた。
しかし、何もメッセージがないなんて。
人一倍寂しがりやなアイツがどうしたんだろうと思いつつも、たまにはそういう日もあるだろうと気にせずに甲斐は寮を出た。
「届いてない、か」
授業中に何度もスマホの画面を見ても新着なし。
おまけに学校にも来ていないようで、こっそり他四天王に矢崎はどうしたんだと訊いてみるも、彼らも直がなぜいないかは知らないようだった。学校には事情で来れないとだけは聞いていたようだが、本当の理由は知らないらしい。
御曹司様という立場故に、学校をいきなり休むという事はあまり珍しくないため、野暮用が入ったんでしょって相田は言うが、甲斐は怪訝に思っていた。
直の誕生日だから、やっぱり金持ち向けの誕生会とかで忙しいんだろうか。
その頃、某ホテルではーー
「珍しいな、お前自ら許嫁に会ってみたいなどと。どういう風の吹き回しだ」
「……あんたには関係のない事だ」
直の格好はいつもより洒落たスーツに身を包んでいる。
普段サラサラな髪はきっちりと櫛目を入れて撫でつけられていて、紺のスーツは皺ひとつない真新しいオーダーメイドのもの。学校で見せる雰囲気とはまたガラリと違っていて、見た目からして大人びた身分の高さが窺える容姿となっていた。
「まあいい。丁度お前を連れて鈴木グループ社長とそのご令嬢に挨拶に伺うつもりだった。どうせお前は反抗すると思っていたから、無理やりエスピー数人がかりででも連れて行くつもりだった。いらぬ面倒が省けてよかったよ」
「………」
その話を聞いて、どっちにしろ逃げ場なんてなかったのだと悟る。たとえ全てのエスピーを片付けたにしろ、義父は地の果てまでも自分を追いかけてくるはずだ。自分が折れるまでずっと。
「相手の鈴木カレンはお前好みの従順な女だ。生来病弱の箱入りだが、今は病気も完治し普通に仕事もこなすようになっている。頭もよく、器量もよく、気立てもいいと評判で、向こうもお前にぞっこんだ。お前も気に入るだろう。お前の足りない部分を補えるいい女だ」
「………」
次第に正之の声も、周囲の雑然とした音も、知らず知らずのうちに遠ざかる。
別の事が直の頭を占領しており、正之がしゃべっている姿だけが直の視界に映っていた。
架谷、どうせお前もオレを一人にする。
やっぱりオレの居場所なんてどこにもない。
どんなに好きでも、どんなに想っても、オレだけが一方的に好きなだけで、決して相手はそれと同じくらい自分が好きだとは限らない。
見返りなんて望んでいないはずなのに、なんだか寂しくて悲しい。今は架谷の存在が遠く感じてしまう。
オレはやっぱりひとりぼっちだ。
そんな時にポケットの振動に気づくと、バイブの着信が入っている。画面をみれば矢崎直の文字。
「あ、ごめん。なんか電話かかってきてる。外に出てくる」
「いってらー」
騒がしいゲーセンの外で着信をとった。
「もしもし、矢崎か?」
『架谷……』
なんだか声に元気がないような気がした。
「どうかしたのか」
『お前にあいたい』
唐突に今の想いを口にした。
「え、あ、悪い。今外に出てて……」
『どこにいるんだよ…』
「どこって……ちょっとクラスメートとゲーセン」
『Eクラスの奴らとか?』
「そうだけど。今楽しくてさ、久しぶりに羽目を外せたって感じなんだ」
『ふーん』
直の声が先ほどより一層低くなったように思えた。
「なんだよ」
「別に何も……」
「っつーか友達待たせてるから用が無いなら切るぞ。緊急の用じゃないならSNSにしてくれ」
思ったほど甲斐はそっけなくて、一方的に電話を切ろうとしているのに寂しくなった。
ただ、会うまではいかないにしろ、声を聞いたら満足できると思ったのに、甲斐の態度にそれすらも今は無理な気がした。
愛しい気持ちが次第に失せてきて、冷たい印象の甲斐に怒りさえもわいてくる。
「って、聞いてんのかよ矢崎。言いたい事があるなら後で」
『いい……』
「あ……?」
『もういい!!』
ぶちんとそのまま通話を一方的に切られ、甲斐は呆気にとられた。
ツーツーっと、通話が切れた音が耳に残る。
なんだあいつ。
何怒ってんだ。マジ意味わからん。
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朝スマホに直のメッセージの一つや二つが入っているのに、今日は珍しく何も届いていなかった。
一昨日はEクラスと外出中に直から電話があって、突然怒り出して切られたのを気がかりに思っていたが、翌日になれば元通りだろうと高をくくっていた。
しかし、何もメッセージがないなんて。
人一倍寂しがりやなアイツがどうしたんだろうと思いつつも、たまにはそういう日もあるだろうと気にせずに甲斐は寮を出た。
「届いてない、か」
授業中に何度もスマホの画面を見ても新着なし。
おまけに学校にも来ていないようで、こっそり他四天王に矢崎はどうしたんだと訊いてみるも、彼らも直がなぜいないかは知らないようだった。学校には事情で来れないとだけは聞いていたようだが、本当の理由は知らないらしい。
御曹司様という立場故に、学校をいきなり休むという事はあまり珍しくないため、野暮用が入ったんでしょって相田は言うが、甲斐は怪訝に思っていた。
直の誕生日だから、やっぱり金持ち向けの誕生会とかで忙しいんだろうか。
その頃、某ホテルではーー
「珍しいな、お前自ら許嫁に会ってみたいなどと。どういう風の吹き回しだ」
「……あんたには関係のない事だ」
直の格好はいつもより洒落たスーツに身を包んでいる。
普段サラサラな髪はきっちりと櫛目を入れて撫でつけられていて、紺のスーツは皺ひとつない真新しいオーダーメイドのもの。学校で見せる雰囲気とはまたガラリと違っていて、見た目からして大人びた身分の高さが窺える容姿となっていた。
「まあいい。丁度お前を連れて鈴木グループ社長とそのご令嬢に挨拶に伺うつもりだった。どうせお前は反抗すると思っていたから、無理やりエスピー数人がかりででも連れて行くつもりだった。いらぬ面倒が省けてよかったよ」
「………」
その話を聞いて、どっちにしろ逃げ場なんてなかったのだと悟る。たとえ全てのエスピーを片付けたにしろ、義父は地の果てまでも自分を追いかけてくるはずだ。自分が折れるまでずっと。
「相手の鈴木カレンはお前好みの従順な女だ。生来病弱の箱入りだが、今は病気も完治し普通に仕事もこなすようになっている。頭もよく、器量もよく、気立てもいいと評判で、向こうもお前にぞっこんだ。お前も気に入るだろう。お前の足りない部分を補えるいい女だ」
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次第に正之の声も、周囲の雑然とした音も、知らず知らずのうちに遠ざかる。
別の事が直の頭を占領しており、正之がしゃべっている姿だけが直の視界に映っていた。
架谷、どうせお前もオレを一人にする。
やっぱりオレの居場所なんてどこにもない。
どんなに好きでも、どんなに想っても、オレだけが一方的に好きなだけで、決して相手はそれと同じくらい自分が好きだとは限らない。
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