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十章/さみしがりや
76.昔の自分にさよなら
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放課後、甲斐は制服姿のまま繁華街に出向いた。
カラオケ火災事件以来に出向く繁華街はいつも通りの人ごみ。サラリーマンや学生達の群衆を練り歩き、買い物をしつつEクラスの一部とつるんでいた。
「もうすぐ知り合いの奴の誕生日が近いからさ、ぜひ宮本君にいい材料選んでもらおうと思ったんだ」
「お安いご用だよ。架谷君の力になれるなら嬉しいし。それにさっき……篠宮さんとのお膳立てしてくれたしね」
先ほどの選択授業の事を思い出してか、宮本の頬がほんのり赤くなっている。
「出席番号とか聞いただけだけどな」と、噂を聞いた健一が笑っている。
「そ、それでも前進できたからっ。えっと、甲斐君は誕生日のケーキ作るんだよね?」
「そうそう。スポンジの材料がほしくてさ」
「じゃあ、スポンジの生地用ならこの薄力粉かな。誰にあげるの?友達?」
「あー……うん、そんなとこだ」
誰にあげるかは明確にせず、言葉を濁して商品に目を向けた。有名ブランド店のものまで揃っている辺り、菓子職人からは宝の宝庫のような店と評判なのが頷ける。
ある程度は宮本に材料を選んでもらい、装飾の果物等は自分で選んでかごへ入れていく。レジへ持っていき会計を済ませると、時計の針は丁度18時過ぎ。
「帰りはラーメン食って帰ろうぜ」
「いいね」
入るラーメン屋を選んでいると、妙に学生の多さが気になった。
先ほどまではそれほど多くはなかったのにどんどん増えている気がする。特に人の多さは向こうに建っているホテルに集中しているようで、その内訳は無才の生徒が多いように思える。
女のアイドルでも来ているのかと、甲斐達はその人だかりの中心に目を向けると、
「「「げっ」」」
全員からついそんな声が漏れてしまっていた。
顔をしかめる一同の視線の先には、あの無才学園の生徒会どもが声援に応えるように手を振っていたのである。甲斐達は顔を盛大に引きつらせた。
「なんであいつらがここにいるんだよ」
気分は急激にガタ落ちである。
「もしかして……」
宮本が思い当たる節を口にする。
「数日前からSNSに天草会長の誕生を祝う会の告知が流れてきたんだけど、たぶんそれじゃないかな。場所はあのホテルだったはず。それでこんなにも無才の生徒達が来ているんだと思う」
「誕生会、ね。そんなもんあるんだ」
「ようするに地下アイドルのディナーショーみたいな感じだろ」
「無才の生徒会って四天王と比べて全国的な知名度低いから、来ている人達は無才の生徒達ばかりだと思う」
とりあえず、あの連中に見つからないようにそっとその場から立ち去らなければ。
見つかればとてつもなく面倒くさい事になりかねないので、コソコソとその場を離れた。
無才学園は山奥の閉鎖された場所にあるくせして、今日は街中に降り立っているようである。
あいつらにしては地上に下りる事はとても珍しい事で、あまり学園外には出ないらしい。なぜなら敷地内に娯楽施設付き大型ショッピングモールがあるからなんだとか。
つーか学園内に娯楽施設付き大型ショッピングモールって……すっげぇ無駄な施設じゃね?
たかが数百人程度の男子校にそんなけったいなモン建ててアホかよと思う。万年赤字だろそれ。どんだけ金かけてんだよ。
「ごめん、無才のインスタを思い出していればここを避けて別な店を案内したんだけど」
「いいんだよ。宮本君のおかげで目当てな物はちゃんと買えたし、あの店じゃないといい材料ってなかなかないと思うしさ」
「甲斐君……」
「さーて、とりあえずラーメンたくさん食って気分転換といこうや」
「「おーー!!」」
*
本日は忙しかった。
午前中は今まで切れていなかった女関係の全ての清算作業。午後はひたすら実家の執務室でしたくもない仕事に勤しんでいたのだ。
取引の電話をしつつ契約書に目を通したり、秘書の久瀬といろんな打ち合わせをしたりと忙しかったので、仕事部屋に缶詰状態。
ここを出る暇もなく、いくつもの子会社経営は授業なんていうものを受ける暇すらない。まあ、今の自分に高校レベルの授業なんて低レベルすぎて受けるだけ無意味だが。
だからと言って、この多忙さが開星を卒業した途端に倍以上になると思うと頭や胃が痛くなってくる思いだ。
「架谷……」
直は執務室の窓を眺めた。
朝に逢ったばかりなのにもう逢いたくてしょうがない。
こんなにも自分は誰かを狂おしく想うことができる人間なんだと不思議に思っていた。
甲斐と出会う前は、親友や篠宮などの特定の人物以外の者なんてゴミにしか思えなかったし、どうせもう二度と誰かを好きになる事も愛することもないって高を括っていたので、好き放題遊び放題していた。
今後、好きでもない奴と政略結婚をして仮面夫婦を演じる事になるのだ。若い今だからこそ遊び尽くしてやりたいし、一種の矢崎家に対する反抗心もあって、週刊誌のカメラの前で某有名女優だとかモデルだとかとわざと見せつけてプレイボーイぶりをアピールした。
おかげでその女優やモデルと熱愛発覚だとか、将来の結婚相手だとか、好き放題記事にされたが、半年後にまた別の女と食事に行っただけで前の女を捨てて新恋人と熱愛!とまた記事にされる。
直の事を恋多き男だとか、遊び人御曹司だとか、日々ワイドショーを賑わせて変な肩書きばかりがついてお笑いだった。
何をしても権力や金で揉み消したりでお咎めなし。この容姿と権力のせいで黙っていても女から寄ってくるものだから、調子に乗っていた部分もたしかにあって、気がつけばたくさんの女関係を作ったまま放置していた。
毎日違う女を取っ替え引っ替えしては暇な時には女をたくさんはべらかせた。スマホで呼び出してはあれやこれやと要求すれば尽くしてくれる女ばかり。
女ってなんて金と権力に弱いチョロい生き物なんだろうって日々バカにもしていた。
でも、今は架谷甲斐と出会ってから、どの女ももう必要ない。
いらない。なかった事にしたい。忘れたい。
180度今までした事や考え方を改めてしまえるなんて、相当自分は甲斐に依存執着してしまっているんだなって自分のアイツへの想いの強さにも改めて驚く。
全てにケリをつけなければ甲斐にあわせる顔がない。だから、本日の午前中に全ての異性関係を終わりにするために関わった女達を順番に呼び出した。
カラオケ火災事件以来に出向く繁華街はいつも通りの人ごみ。サラリーマンや学生達の群衆を練り歩き、買い物をしつつEクラスの一部とつるんでいた。
「もうすぐ知り合いの奴の誕生日が近いからさ、ぜひ宮本君にいい材料選んでもらおうと思ったんだ」
「お安いご用だよ。架谷君の力になれるなら嬉しいし。それにさっき……篠宮さんとのお膳立てしてくれたしね」
先ほどの選択授業の事を思い出してか、宮本の頬がほんのり赤くなっている。
「出席番号とか聞いただけだけどな」と、噂を聞いた健一が笑っている。
「そ、それでも前進できたからっ。えっと、甲斐君は誕生日のケーキ作るんだよね?」
「そうそう。スポンジの材料がほしくてさ」
「じゃあ、スポンジの生地用ならこの薄力粉かな。誰にあげるの?友達?」
「あー……うん、そんなとこだ」
誰にあげるかは明確にせず、言葉を濁して商品に目を向けた。有名ブランド店のものまで揃っている辺り、菓子職人からは宝の宝庫のような店と評判なのが頷ける。
ある程度は宮本に材料を選んでもらい、装飾の果物等は自分で選んでかごへ入れていく。レジへ持っていき会計を済ませると、時計の針は丁度18時過ぎ。
「帰りはラーメン食って帰ろうぜ」
「いいね」
入るラーメン屋を選んでいると、妙に学生の多さが気になった。
先ほどまではそれほど多くはなかったのにどんどん増えている気がする。特に人の多さは向こうに建っているホテルに集中しているようで、その内訳は無才の生徒が多いように思える。
女のアイドルでも来ているのかと、甲斐達はその人だかりの中心に目を向けると、
「「「げっ」」」
全員からついそんな声が漏れてしまっていた。
顔をしかめる一同の視線の先には、あの無才学園の生徒会どもが声援に応えるように手を振っていたのである。甲斐達は顔を盛大に引きつらせた。
「なんであいつらがここにいるんだよ」
気分は急激にガタ落ちである。
「もしかして……」
宮本が思い当たる節を口にする。
「数日前からSNSに天草会長の誕生を祝う会の告知が流れてきたんだけど、たぶんそれじゃないかな。場所はあのホテルだったはず。それでこんなにも無才の生徒達が来ているんだと思う」
「誕生会、ね。そんなもんあるんだ」
「ようするに地下アイドルのディナーショーみたいな感じだろ」
「無才の生徒会って四天王と比べて全国的な知名度低いから、来ている人達は無才の生徒達ばかりだと思う」
とりあえず、あの連中に見つからないようにそっとその場から立ち去らなければ。
見つかればとてつもなく面倒くさい事になりかねないので、コソコソとその場を離れた。
無才学園は山奥の閉鎖された場所にあるくせして、今日は街中に降り立っているようである。
あいつらにしては地上に下りる事はとても珍しい事で、あまり学園外には出ないらしい。なぜなら敷地内に娯楽施設付き大型ショッピングモールがあるからなんだとか。
つーか学園内に娯楽施設付き大型ショッピングモールって……すっげぇ無駄な施設じゃね?
たかが数百人程度の男子校にそんなけったいなモン建ててアホかよと思う。万年赤字だろそれ。どんだけ金かけてんだよ。
「ごめん、無才のインスタを思い出していればここを避けて別な店を案内したんだけど」
「いいんだよ。宮本君のおかげで目当てな物はちゃんと買えたし、あの店じゃないといい材料ってなかなかないと思うしさ」
「甲斐君……」
「さーて、とりあえずラーメンたくさん食って気分転換といこうや」
「「おーー!!」」
*
本日は忙しかった。
午前中は今まで切れていなかった女関係の全ての清算作業。午後はひたすら実家の執務室でしたくもない仕事に勤しんでいたのだ。
取引の電話をしつつ契約書に目を通したり、秘書の久瀬といろんな打ち合わせをしたりと忙しかったので、仕事部屋に缶詰状態。
ここを出る暇もなく、いくつもの子会社経営は授業なんていうものを受ける暇すらない。まあ、今の自分に高校レベルの授業なんて低レベルすぎて受けるだけ無意味だが。
だからと言って、この多忙さが開星を卒業した途端に倍以上になると思うと頭や胃が痛くなってくる思いだ。
「架谷……」
直は執務室の窓を眺めた。
朝に逢ったばかりなのにもう逢いたくてしょうがない。
こんなにも自分は誰かを狂おしく想うことができる人間なんだと不思議に思っていた。
甲斐と出会う前は、親友や篠宮などの特定の人物以外の者なんてゴミにしか思えなかったし、どうせもう二度と誰かを好きになる事も愛することもないって高を括っていたので、好き放題遊び放題していた。
今後、好きでもない奴と政略結婚をして仮面夫婦を演じる事になるのだ。若い今だからこそ遊び尽くしてやりたいし、一種の矢崎家に対する反抗心もあって、週刊誌のカメラの前で某有名女優だとかモデルだとかとわざと見せつけてプレイボーイぶりをアピールした。
おかげでその女優やモデルと熱愛発覚だとか、将来の結婚相手だとか、好き放題記事にされたが、半年後にまた別の女と食事に行っただけで前の女を捨てて新恋人と熱愛!とまた記事にされる。
直の事を恋多き男だとか、遊び人御曹司だとか、日々ワイドショーを賑わせて変な肩書きばかりがついてお笑いだった。
何をしても権力や金で揉み消したりでお咎めなし。この容姿と権力のせいで黙っていても女から寄ってくるものだから、調子に乗っていた部分もたしかにあって、気がつけばたくさんの女関係を作ったまま放置していた。
毎日違う女を取っ替え引っ替えしては暇な時には女をたくさんはべらかせた。スマホで呼び出してはあれやこれやと要求すれば尽くしてくれる女ばかり。
女ってなんて金と権力に弱いチョロい生き物なんだろうって日々バカにもしていた。
でも、今は架谷甲斐と出会ってから、どの女ももう必要ない。
いらない。なかった事にしたい。忘れたい。
180度今までした事や考え方を改めてしまえるなんて、相当自分は甲斐に依存執着してしまっているんだなって自分のアイツへの想いの強さにも改めて驚く。
全てにケリをつけなければ甲斐にあわせる顔がない。だから、本日の午前中に全ての異性関係を終わりにするために関わった女達を順番に呼び出した。
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