【完】学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

いとこんドリア

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九章/秘められた絆

68.ずっとほしかった笑顔

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「俺は別に架谷とどうこうなりたいと思っていないから安心しろ。二人がそれでいいなら俺も同じだ。これからはお前らがくっつくように祈っている」

 ハルも直の恋路を見守っていく形でそう言うと、直は少しだけ表情を緩めた。

「お前ら……」

 四天王の間には小さい頃からの妙な情が育まれている。
 時には言いあったり貶したりする事もあるが、それは幼馴染として互いを理解しあっているからこそできる事。
 友情というより悪友に近いが、純粋にノリのいい奴らだとは思っている。
 それを改めて強く感じ、直は口に出さずとも三人に感謝したのであった。

 *

 別室の甲斐の病室では、Eクラスのメンバーがお見舞いに来ていた。
 怪我の状況から見て三日は病院での入院が決まっていて、授業に出なくていいと思うと結構嬉しいものである。

「それにしても、怪我の具合大した事なくてよかったね」
「ああ。軽い火傷や擦り傷ばっかだし、体育祭でのこの右手が一番重傷だと思うくらいさ」
「あの直がまさか架谷をあんなに必死で助けようとするなんてね……こりゃあ、あいつアンタに本気の本気だよ」

 篠宮の言葉に甲斐はドキッとする。
 
「本気、か……」

 あの時は無我夢中だったけど、矢崎に抱きついちゃったんだよな。乙女みたいに泣き顔見せて、こうぎゅーっと。今思うと恥ずかしすぎる。

「噂をすればなんとやらってやつで、来てるよ」
「えっ!」

 甲斐は持っていたスマホをつい落としてしまうほど動揺した。
 そんなEクラスの生徒達はぞろぞろと部屋の外へ出て行く。悠里や友里香はもちろんの事、未来はなかなか出て行こうとはしなかったので、Eクラス達や四天王が強引に外に追いやっていた。

 甲斐からすれば二人きりにさせられると逆に困るという意志は皆には伝わらず、入れ替わりに直が入ってきて扉はパタンと閉められた。唐突に訪れた二人だけの空間。
 甲斐は直を意識しすぎて脳内パニックになっていた。

「う、うーっす!げ、元気そうだな」
「……そっちが、だろ」
「ハハハ……そう、だな」
「ああ……」

 そうぎこちなく挨拶しあうもすぐに二人の間に会話はなくなり、しばらく沈黙が流れた。何か話さなければならないのに、何を話していいかわからずに口ごもる。
 この静けさが苦痛だ。照れてしまって言葉が出てこない。

「あ、あのさ……」

 沈黙に我慢できなくなった甲斐は思い切って口を開いた。しかし、頭の中は真っ白で、言いたいことが何も思い浮かばない。

「えっと、その「お前と一緒にいたい」
「え……」

 いきなりのストレートな言葉は、いつも以上に優しさを帯びていた。

「お前がどんなにオレを嫌がっても、どんなに嫌いでも、オレはお前のそばにいたい」
「矢崎……」
「やっぱりお前が好きなんだ。誰よりも……」

 はっきりとした求愛宣言。
 そう言う直の顔から次第に目が離せなくなる甲斐。
 どんなに恥ずかしくて見れなくても、目をそらす事はできない。

「お前以外は絶対考えられないくらい好きなんだよ。できればお前がほしい。でも、贅沢は言わない。だからせめてそばにいる事だけは許してほしい……」

 そっと甲斐の手に直の大きな手が重なる。それだけでその手が火傷したみたいに熱くなり、その熱さが全身に伝播する。
 今にも泣きだしそうな直の顔から見て、本気度を改めて感じた。
 そんな顔でそんな事を言われてしまえばそれをゆるさないわけないし、自分だってやっと気持ちを自覚する事ができたから。だから、
 
「……いてやるよ。我儘で、俺様で、傲慢なアンタのそばに……これからもいてやる」

 もう先は考えない。今が大事だ。
 時が二人をわかつまで一緒にいよう。その時が訪れるまで――。
 
「それと……いろいろひどい事言ってごめん。あんたの事は嫌いじゃないし、迷惑だなんて思ってないよ」
「架谷……」
「改めてこれからもよろしくな、矢崎」

 ずっと見たかった甲斐の笑顔がそこにあって、直はじっとそれを見入る。
 自分が一目惚れした笑顔をやっと見れた上に、自分にだけに注がれるその表情にたまらなく高揚して、ドキドキが止まらない。

 嗚呼、やっぱり好きだなって――。


「架谷」
「わ、ちょっ」

 両手で強く抱きしめられて甲斐は恥ずかしくなる。あの時は自分から抱きしめたけれど、今はあの時とは状況が違うし、冷静さがちゃんとある分羞恥心が大きい。

「なあ、チューしていい?」
「……は?な、なんでそうなるんだよ急に」
「したいから」
「いや、そういうのは恋人同士がするものだろ」
「外国は挨拶でする時もあんだろ」
「だからここは日本で……うわっ」

 視界が引っくり返り、力づくでベットに押し倒されてしまった。
 そのまま天井の景色に直がいて、覆いかぶさってくる。唇と唇が重なるまであと5センチという至近距離に大いに動揺した。

「っ……ば、馬鹿野郎っ!」
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