学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

いとこんドリア

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九章/秘められた絆

65.災難

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「そういえばここのカラオケ店てこの辺だったよね。あとでオイラ顔見せに行こうかな~」

 相田が窓の外を眺めながら楽しそうに言う。未来が載せた画像を見て自分も混ざりたそうにしていた。

「暇人め」と、呆れるハル。
「ねえ、あのビル煙上がってない?」

 穂高が煙が上がっているビルに気がついた。ビルの真下からは慌てて逃げ出している者だったり、煙の様子を遠目から見上げている人々がチラホラいる。

「あ、本当だ。火事かな。大変そー」
「甲斐君達がいるカラオケ店ってあのビルだったりして」
「まっさかー!さすがにそんな偶然なんてないでしょ」

 そう言いながらなんとなくカラオケ店の住所を調べると、あのビルを指していた。

「……マジで火事っぽいんだけど」


 一方その頃――……

「なあ、なんか煙臭くないか?」

 甲斐が異変に気づいてそう言うと、同じく宮本や本木達も不審に思っていた。カラオケはまだ途中で楽しんでいる最中の出来事である。

「なんか扉の外が煙っぽい」

 カラオケルームの外は白い煙が充満しているように見えた。そうして廊下に出ようとすると、他の客が慌てた様子で出口に向かって走っていく。

「もしかして火事?」

 そう誰かが言った途端に火災報知機が作動して、けたたましい警報音に全員が驚いた。近くにいた店員が「火事なので急いで逃げてください」と叫んでいる。

「マジで火事っぽいよ!はやく逃げないとっ!」

 全員は慌てて外へ逃げ出した。


「ひーすごい煙だったぁ」
「のどが痛くなるよねーげほげほ」

 口元を押さえながら、一同は外に脱出できてほっと肩をなで下ろした。
 ビルの三階の窓からは、赤とオレンジ色に燃えている炎がまだ小さいが見え隠れしている。出火原因は誰かが吸った煙草が原因だとの事。店の者が呼んだ消防車が到着した。

「みんな無事か?」
「なんとかね」と、全員を確認しあう。
「ねえ、友里香ちゃんは?」
「……え」

 ハッとして周りを何度も見渡して探すも、彼女の姿が見当たらない。
 まさかまだあの中に……?
 全員の顔が青くなる。

「俺、行ってくる!彼女を探してくる!」

 甲斐が制服の上着を脱ぎ、ネクタイを外す。

「お兄ちゃん!なら私も友里香を探しに行く。お兄ちゃんだけじゃ心配だもん」
「お前はみんなと待ってろ。大丈夫、まだそんなに火はまわってないから」
「……でもっ!」
「いいから兄ちゃんに任せとけ。みんなの事を頼んだ」
「ちょ、お兄ちゃん!」

 妹にそう言い残し、甲斐はわき目も振らずに煙が充満しているビルへ戻って行った。

「友里香ちゃん!どこだっ!」

 口元を押さえながら甲斐は煙る店内を探し回る。
 先程まではなかった炎もどんどん燃え盛り、はやく見つけて脱出しなければという焦りが募る。しかも白い煙でよく奥が見えない。
 そんな時、向こうの方で誰かが左足を引きずりながら歩いて来る。

「友里香ちゃん!」

 姿を見つけてすぐに甲斐は彼女に駆け寄る。友里香はそれに安心したように前屈みに倒れこみ、それを両手で抱きとめる甲斐。

「よかった……甲斐様が来てくれました。ああ、もう悔いはありませんわ」

 少し汚れた姿で彼女は安堵の笑みを見せた。

「バカ。そんな事言うんじゃないよ。それより足、痛めたのか?」

 甲斐が彼女の左足の方に注視する。今は右足の方に重心を傾けているようだ。

「ごめんなさい。途中で物が倒れてきて、避けた拍子に左足をくじいてしまったんですわ」
「そうか……それでキミは逃げ遅れてしまったんだな。とにかく、急いでここから脱出しよう」

 甲斐は躊躇いもなく友里香を横に抱き上げた。

「か、甲斐様っ!?」

 恥ずかしさと嬉しさに狼狽える友里香。

「歩けないなら尚更だよ。俺が出口まで抱える」
「だ、大丈夫です。お、おろs「いいから言う通りにしてろ」

 甲斐の強い口調にビクリとする友里香。

「俺がいいと言うまで口をハンカチで塞いで煙を吸わないように。いいな?」

 その甲斐の瞳はとても鋭くて、思わず押し黙ってしまう威圧感があった。

「は、はいぃ……っ」
「ん……いい子だ。じゃあ行くぞ。しっかりつかまってな」

 凛々しく笑う甲斐に、友里香は真っ赤になって大人しく従ったのだった。

 火の勢いが自分達のいる周辺にも広がってきた所で、やっと出入り口付近まで友里香を抱えてやって来れた。
 到着したばかりの消防隊員がすぐそこまで来ていて、二人はホッとする。怪我をしている友里香を先に消防隊員に預けて、甲斐も一番後ろに続いた。
 しかしそんな時、天井に軋むような音が聞こえた気がして上を向いた瞬間、老朽化した天井材が勢いよく甲斐の目の前に雪崩れてきた。

「甲斐様ーっ!!」

 埃や砂塵が舞う中、友里香が悲痛に叫ぶ。
 瓦礫の山が天井まで山積みとなり、甲斐と友里香の間は隔たりが出来る。向こう側に甲斐一人だけが切り離され、隙間なく塞がってしまったのだった。

「甲斐様っ!甲斐様っ!甲斐様ぁーっ!!」

 向こうからの返事はない。彼の安否はわからない。
 もしかして今ので……と、友里香は次第に蒼褪めていく。

「く……これ以上は危険ですね。建物全体が老朽化しているせいで、いつ全てが崩れてもおかしくはありません。我々だけでもこのまま出口へ避難するしかないでしょう!」
「いや……イヤです!甲斐様がっ……甲斐様がまだ向こう側にいるんですっ!」
「しかしこのままでは我々も……」
「駄目!甲斐様がいるのに彼を置いてなんてッ」

 半泣きの友里香は崩れ落ちた天井の残骸を両手で掘り起こそうと必死になっている。

「く、やむを得えん!二次被害が出る前にっ!」

 隊員は強引に友里香を抱える。

「あぁ、いや!放してッ!放してぇ!甲斐様っ、甲斐様ぁーっ!!」

 泣いて暴れる友里香を抱え、隊員たちは出口へ向かった。


「やべえ。道が塞がれちまった」

 退路を断たれた甲斐は、仕方なく元来た道を戻っていた。
 火の勢いはどんどん増していくと同時に、熱さの焦熱地獄は思考力と判断力を鈍らせる。天井や壁がどんどん崩れ落ちてきて、炎が壁伝いに張っていく。正面玄関から脱出するのは無理だと判断し、別の出口を探して脱出するほかない。

 友里香はきっと無事だろう。消防隊が付いていた。まっすぐ行けばすぐに出口なのだから。
 しかし、自分の体力はどんどん奪われていく。
 喉が熱い。視界が脱水症状で歪む。
 本格的に危ないかもしれない。

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