学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

いとこんドリア

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八章/嫉妬

62.終止符をうつ

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 なんだよありゃあ。

 まるでそれが永遠に続くように思えて、甲斐は足がすくんで動けなくなっていた。だけど、このまま見ていられるはずなどない。心の奥が黒くドロドロして、胸がムカムカする。醜く歪になっていく。
 気づいたら甲斐は一目散に駆け出そうとした。
 慌ててしまい、持っていた辞書を落としてしまってその音で直と菜月に気づかれてしまう。それでもなおも辞書を拾って逃げた。

「待てよ!」

 あいつが追いかけてくる。逃げなければ。
 こんなひどい顔を見られたくない。嫉妬に顔も心も黒く歪んでいる自分が気持ち悪い。思った以上にショックを受けている自分がありえない。

 辞書を持ったまま甲斐は知らずに裏庭に出ていて、ふと足を止めた。体力と脚力には自信はあるが、なんだか逃げるのが次第にどうでもよくなってきたのだ。先ほどの光景はある意味ちょうどよかったのかもしれないと。
 もういっその事、すべてをハッキリさせて終わらせてしまえばいいと、わざと足を止めたのだ。

「架谷!」

 直は息を切らせて甲斐に追いつく。

「悪いと思ったよ。あんな所見ちまってさ。それに逃げちまった事も……」

 思ったほど冷静に話していた。

「違うんだ、あれは……あいつからしてきて……」
「ふぅん」

 それが本当でも、言い訳がましい直の声に甲斐は無性に苛立ち、聞いていられなかった。

「別にいいんじゃないの。キスの一つや二つくらい草加としたって。あんたと草加はセフレってやつなんだもんな。仲が良くてお熱いです事」

 自分でも驚く程低く冷たい声だった。きっとこれが今の自分の気持ちの表れなんだろう。直はそれに対して言葉を詰まらせて押し黙る。

「別に俺はなんとも思ってないよ。好きにすればいいと思う。俺みたいな貧乏庶民じゃなくて、同じ金持ちなら金持ち同士の方が話もあうだろうし、あんたの気持ちもわかってあげられやすい。俺は貧乏人だからあんたの気持ちはわかってやれないし、あんたの辛さを汲み取ってもあげられない。あんたが俺を好きでも、俺はあんたに何もしてあげられない」

 何も、なんて事はないのに。
 そう言いたい直だが、今の自分は何も言えない。普通ならぶちギレてもいい事なのに、甲斐は異様に落ち着いている。

「俺はあんたの事なんてなんとも思ってなかった。好きだって言われても迷惑だった」

 甲斐はハッキリと言った。
 半分嘘だとはいえ、こうでも言わないと自分が落ち着けなかった。怒りに任せてもっと酷い事を言ってしまいそうだった。
 それを聞いた直は言葉を失ったまま茫然と立ち尽くしている。

「ごめん。こんな風にしか言えなくて。でも俺の事はさ、どぶに捨てるような感覚でさっさと忘れた方がいいと思う。あんたはあんたで将来は俺には想像もつかないような華やかでトップの座が約束されてんだから。それを俺と一緒にいる事で変な誤解されても困るだろ。たとえ、さっきの事がなかったとしても、俺はお前をフッてたから」
「っ……」
「もう、俺には関わらないでくれ。俺もあんたには二度と関わらない」
 
 そう言った直後、甲斐は黙って直の前から通り過ぎるように立ち去った。
 お互いに自覚した恋心は、すぐに失恋へと変わった。


 八話 完
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