57 / 222
七章/合同体育祭
55.相田拓実の本性
しおりを挟む
周りのギャラリー共から「イヤー」という悲鳴がさらに大きくなって聞こえるが、俺の方が「イヤー」である。これじゃあやたらキスをしてくる無才の会長と一緒じゃないか。
「だちゃかん!!」
唇を重ねようとする直を思いっきり突き飛ばすと、一瞬だけ辛そうな表情が見えた気がして胸がズキリとしたが、いくら演技でも唇にキスは駄目である。そういうのは恋人同士がするものと自分は思っているので、到底受け入れられない。
「とにかくゴールするでありますわ」
そうして逃げるように甲斐は先にゴールテープを切った。
ゴール手前で羞恥心から慌ててしまい、ガラスのハイヒールが片方脱げてしまったなんて今はどうでもよくて。演技なのか本当なのかわからない悲しげな表情をした直が頭から離れなかった。
それにしてもガラスの靴と王子を置いて逃げるなんて、まんまシンデレラみたいである。
「お疲れ、甲斐くん」
悠里と健一達がゴール前で待っていた。苦労した様子を汲み取ってくれて労いの言葉をかけてもらった。
無才の日下部と会長ペアはまだ台詞に四苦八苦していて、平均台の所で止まっている様子だ。あいつらは最下位だろう。
「直ー!ひどいんだぞ甲斐なんかとキスしようとするなんて!あんなのお題になかったんだぞ!キスするなら俺にもするんだぞー!」
十分後、やっと最下位でゴールできた日下部は、直の方へ怒った様子ですっ飛んできた。相手のペアの天草会長を差し置いて。
「……失せろ」
直は地を這うような低音ボイスで一言そう呟いた。怒っているのは一目瞭然である。
「キミさー死にたくなかったら今の直君に近づかない方がいいと思うよ~。なんかかなりのご立腹みたいだからキミみたいなのが近づいたら瞬殺されるかもね」と、穂高。
「そうそう。今の直ね、虫の居所超悪そうだから。俺らでさえ近づいたら本気の蹴りが飛んでくる始末よ。宇宙人であるお前が近づいたら蹴りだけじゃ済まないと思うしぃ」
そう言いながらもそれを期待している相田の顔は黒ずんでいる。
「直は俺と両想いなんだぞ!両想い相手に蹴りなんか絶対しないんだぞ!」
「宇宙人くんがそう思うなら直君に話しかけてみなよ。死にたいならご勝手に。病院代と葬式代は自腹でね~」
「宇宙人じゃないんだぞ!おれは天弥だぞ!天弥って呼べよ拓実も尚也も!」
「あのさァ、今更だけど僕の下の名前、勝手に呼ばないでほしいんだけど……日下部」
ニコニコしながらも怒りを孕んでいる穂高。ぶち切れる数秒前である。
「友達なんだからいいだろ!だから俺を天弥って呼ぶんだぞ!ハルもな!」
「俺はあんたに一方的に友達扱いされても迷惑甚だしいのだが。だから、こちらとしては好きでもない友達でもないあんたに命令される筋合いはない」
ハルはマイペースに淡々と返す。
「お前までそんな事言うのかよハル!」
「日下部さ、オイラ達気が短いの。軽々しく下の名前で呼んだり、呼んでもらってもいいのはオイラが認めた人だけ。それが誰かってあえて言うなら甲斐ちゃんと仲間だけって決めてんの。それ以外は嫌なわけ。わかった?」
「俺が認めた友達ならそんなの関係ないんだぞ!それに拓実、お前なんで甲斐の事をそんなに「だから下の名前で呼ぶなって言ってんだろうがゴミカス野郎ッ!!」
凄まじい怒声はその場の空気を震わせた。
それを発したのは直ではなく、普段おちゃらけて軽いノリをみせている相田であった。
「今まで黙って聞いてりゃあ友達だとかテメエの都合のいい事ばかりほざきやがってよ、テメエなんぞこれっぽっちもお呼びじゃねぇのがこの雰囲気見てまだわかんねぇのかよ!!ア゛ア!?」
相田の態度は極悪な反社顔負けで、言葉遣いやその修羅の形相は日下部を大きく震えあがらせた。
今までの相田ではない。
その変貌ぶりに、その場にいる誰もが驚愕して怯えて立ち竦む。まるで彼に別人格が宿ったかのように、穂高やハルも相田のこの一面を知っているとはいえ、久々に見た事により圧倒された。
「いっつもいっつもノコノコ間抜け面して俺らに近づきやがってよ、全身全霊うぜーんだよ!そんなにチヤホヤされてぇのかよ!そんなに俺モテカワでウレシーって優越感に浸りたいかよ!いい加減テメエの都合のいい取り巻きごっこにはウンザリなんだよ!やってらんねーんだよ!わかってんのかゴラァッ!」
ガンッと、そばにあった机を蹴り倒す相田。
机は割れて半壊し、それに「ひいっ」と、情けない声をあげる日下部。
ガタガタ震え、鼻水をたらし、小便をちびりそうな勢いで青い顔をしている。失神寸前であった。
「サル以下の脳みそしかないテメエに何言っても無駄だがよ、俺達はテメエなんぞの金魚のフンと友達になんてなりたくねぇわけ。関わりたくもないわけ。直もテメエに近寄ってこられて心底うぜーと思ってンの。多大な迷惑かけられて、侘びとしてその臓器の一部を俺ンとこの組織に提供してほしいくらい迷惑被ってんの。だからな、むごく殺されたくなきゃとっとと俺らの前から消えてくんねぇか。あ?」
ぎろりと相田の冷徹な赤い瞳が日下部を捉える。
「そんな、お、おれは「チャカでテメエの金玉と脳天ぶち抜かれたくなかったらとっとと失せろ」
相田はいつの間にか無機質で黒い物体を日下部の股間に向けていた。セーフティーが解除されている本物だった。
「……――っ!」
とうとう日下部の恐怖はピークに達し、本気で消されると思ったのか失禁し気絶。その様子を冷たく蔑んだ顔で見下ろしている相田。口角は持ち上がっている。
その後、何事もなかったようにいつものおちゃらけた顔に戻っていたのだった。
『体育祭最後の競技400メートルリレーに参加する生徒は入場門前にお集まりください』
ついにラストの競技となり、甲斐は元のTシャツに着替えて戻ってきた。ドレス姿から解放されて体はひどく軽い。
「甲斐、がんばれよ。たしかアンカーだったな」
「まさかアンカーにされるとは思わなかったよ」
「四天王がリレー走る事になってたみたいだけど、なんだか調子悪くなったらしくて代替えの生徒になったみたいだ。どうしたんだろうね」
「さあ……」
まさか俺がキスを拒んだからショック受けたとかじゃないよな……?
「だちゃかん!!」
唇を重ねようとする直を思いっきり突き飛ばすと、一瞬だけ辛そうな表情が見えた気がして胸がズキリとしたが、いくら演技でも唇にキスは駄目である。そういうのは恋人同士がするものと自分は思っているので、到底受け入れられない。
「とにかくゴールするでありますわ」
そうして逃げるように甲斐は先にゴールテープを切った。
ゴール手前で羞恥心から慌ててしまい、ガラスのハイヒールが片方脱げてしまったなんて今はどうでもよくて。演技なのか本当なのかわからない悲しげな表情をした直が頭から離れなかった。
それにしてもガラスの靴と王子を置いて逃げるなんて、まんまシンデレラみたいである。
「お疲れ、甲斐くん」
悠里と健一達がゴール前で待っていた。苦労した様子を汲み取ってくれて労いの言葉をかけてもらった。
無才の日下部と会長ペアはまだ台詞に四苦八苦していて、平均台の所で止まっている様子だ。あいつらは最下位だろう。
「直ー!ひどいんだぞ甲斐なんかとキスしようとするなんて!あんなのお題になかったんだぞ!キスするなら俺にもするんだぞー!」
十分後、やっと最下位でゴールできた日下部は、直の方へ怒った様子ですっ飛んできた。相手のペアの天草会長を差し置いて。
「……失せろ」
直は地を這うような低音ボイスで一言そう呟いた。怒っているのは一目瞭然である。
「キミさー死にたくなかったら今の直君に近づかない方がいいと思うよ~。なんかかなりのご立腹みたいだからキミみたいなのが近づいたら瞬殺されるかもね」と、穂高。
「そうそう。今の直ね、虫の居所超悪そうだから。俺らでさえ近づいたら本気の蹴りが飛んでくる始末よ。宇宙人であるお前が近づいたら蹴りだけじゃ済まないと思うしぃ」
そう言いながらもそれを期待している相田の顔は黒ずんでいる。
「直は俺と両想いなんだぞ!両想い相手に蹴りなんか絶対しないんだぞ!」
「宇宙人くんがそう思うなら直君に話しかけてみなよ。死にたいならご勝手に。病院代と葬式代は自腹でね~」
「宇宙人じゃないんだぞ!おれは天弥だぞ!天弥って呼べよ拓実も尚也も!」
「あのさァ、今更だけど僕の下の名前、勝手に呼ばないでほしいんだけど……日下部」
ニコニコしながらも怒りを孕んでいる穂高。ぶち切れる数秒前である。
「友達なんだからいいだろ!だから俺を天弥って呼ぶんだぞ!ハルもな!」
「俺はあんたに一方的に友達扱いされても迷惑甚だしいのだが。だから、こちらとしては好きでもない友達でもないあんたに命令される筋合いはない」
ハルはマイペースに淡々と返す。
「お前までそんな事言うのかよハル!」
「日下部さ、オイラ達気が短いの。軽々しく下の名前で呼んだり、呼んでもらってもいいのはオイラが認めた人だけ。それが誰かってあえて言うなら甲斐ちゃんと仲間だけって決めてんの。それ以外は嫌なわけ。わかった?」
「俺が認めた友達ならそんなの関係ないんだぞ!それに拓実、お前なんで甲斐の事をそんなに「だから下の名前で呼ぶなって言ってんだろうがゴミカス野郎ッ!!」
凄まじい怒声はその場の空気を震わせた。
それを発したのは直ではなく、普段おちゃらけて軽いノリをみせている相田であった。
「今まで黙って聞いてりゃあ友達だとかテメエの都合のいい事ばかりほざきやがってよ、テメエなんぞこれっぽっちもお呼びじゃねぇのがこの雰囲気見てまだわかんねぇのかよ!!ア゛ア!?」
相田の態度は極悪な反社顔負けで、言葉遣いやその修羅の形相は日下部を大きく震えあがらせた。
今までの相田ではない。
その変貌ぶりに、その場にいる誰もが驚愕して怯えて立ち竦む。まるで彼に別人格が宿ったかのように、穂高やハルも相田のこの一面を知っているとはいえ、久々に見た事により圧倒された。
「いっつもいっつもノコノコ間抜け面して俺らに近づきやがってよ、全身全霊うぜーんだよ!そんなにチヤホヤされてぇのかよ!そんなに俺モテカワでウレシーって優越感に浸りたいかよ!いい加減テメエの都合のいい取り巻きごっこにはウンザリなんだよ!やってらんねーんだよ!わかってんのかゴラァッ!」
ガンッと、そばにあった机を蹴り倒す相田。
机は割れて半壊し、それに「ひいっ」と、情けない声をあげる日下部。
ガタガタ震え、鼻水をたらし、小便をちびりそうな勢いで青い顔をしている。失神寸前であった。
「サル以下の脳みそしかないテメエに何言っても無駄だがよ、俺達はテメエなんぞの金魚のフンと友達になんてなりたくねぇわけ。関わりたくもないわけ。直もテメエに近寄ってこられて心底うぜーと思ってンの。多大な迷惑かけられて、侘びとしてその臓器の一部を俺ンとこの組織に提供してほしいくらい迷惑被ってんの。だからな、むごく殺されたくなきゃとっとと俺らの前から消えてくんねぇか。あ?」
ぎろりと相田の冷徹な赤い瞳が日下部を捉える。
「そんな、お、おれは「チャカでテメエの金玉と脳天ぶち抜かれたくなかったらとっとと失せろ」
相田はいつの間にか無機質で黒い物体を日下部の股間に向けていた。セーフティーが解除されている本物だった。
「……――っ!」
とうとう日下部の恐怖はピークに達し、本気で消されると思ったのか失禁し気絶。その様子を冷たく蔑んだ顔で見下ろしている相田。口角は持ち上がっている。
その後、何事もなかったようにいつものおちゃらけた顔に戻っていたのだった。
『体育祭最後の競技400メートルリレーに参加する生徒は入場門前にお集まりください』
ついにラストの競技となり、甲斐は元のTシャツに着替えて戻ってきた。ドレス姿から解放されて体はひどく軽い。
「甲斐、がんばれよ。たしかアンカーだったな」
「まさかアンカーにされるとは思わなかったよ」
「四天王がリレー走る事になってたみたいだけど、なんだか調子悪くなったらしくて代替えの生徒になったみたいだ。どうしたんだろうね」
「さあ……」
まさか俺がキスを拒んだからショック受けたとかじゃないよな……?
22
お気に入りに追加
509
あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

生意気な弟がいきなりキャラを変えてきて困っています!
あああ
BL
おれはには双子の弟がいる。
かわいいかわいい弟…だが、中学になると不良になってしまった。まぁ、それはいい。(泣き)
けれど…
高校になると───もっとキャラが変わってしまった。それは───
「もう、お兄ちゃん何してるの?死んじゃえ☆」
ブリッコキャラだった!!どういうこと!?
弟「──────ほんと、兄貴は可愛いよな。
───────誰にも渡さねぇ。」
弟×兄、弟がヤンデレの物語です。
この作品はpixivにも記載されています。
どうしょういむ
田原摩耶
BL
苦手な性格正反対の難あり双子の幼馴染と一週間ひとつ屋根の下で過ごす羽目になる受けの話。
穏やか優男風過保護双子の兄+粗暴口悪サディスト遊び人双子の弟×内弁慶いじめられっ子体質の卑屈平凡受け←親友攻め
学生/執着攻め/三角関係/幼馴染/親友攻め/受けが可哀想な目に遭いがち
美甘遠(みかもとおい)
受け。幼い頃から双子たちに玩具にされてきたため、双子が嫌い。でも逆らえないので渋々言うこと聞いてる。内弁慶。
慈光宋都(じこうさんと)
双子の弟。いい加減で大雑把で自己中で乱暴者。美甘のことは可愛がってるつもりだが雑。
慈光燕斗(じこうえんと)
双子の兄。優しくて穏やかだが性格が捩れてる。美甘に甘いようで甘くない。
君完(きみさだ)
通称サダ。同じ中学校。高校にあがってから美甘と仲良くなった親友。美甘に同情してる。


【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。
白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。
最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。
(同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!)
(勘違いだよな? そうに決まってる!)
気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる