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七章/合同体育祭
48.借り物競争
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「誰その平凡地味男」
田所が甲斐をジロジロ見ている。
「そいつはスパイなんだぞ!俺達の事を監視しにきた最低な奴なんだぞ!」
「どっちが最低でスパイしてたんだか……」
甲斐は両手を広げて顔を横に振っている。自分の事は棚にあげおってからに全く呆れるとはこの事。
「スパイだって!?キミさー最悪だね!平凡な顔してやること卑怯だよ!開星の奴らって卑怯者の集まりなの?」
それをあっさり信じるこの男の脳内は、全て花畑で出来ているんじゃないだろうか。日下部の言う事なす事全て全肯定マシンである。
「そっくりその言葉お返し致しますですわ。一人の生徒に寄ってたかって囲んで、罵声浴びせるような奴らとどっちが卑怯かをよーく考えてみておくんなまし。えーと能タリン男さん」
「なっ……!」と、顔を歪める会計のチャラ男。
「とりあえずな、もう競技始まるんだから大人しくしてろよお前ら。ギャアギャア騒がれるとその分長引いて迷惑かかんだろ。だいたいよ、お前生徒会役員なら皆をまとめるなり整列させるなり、しっかり仕事しろっつうの。会計バッジはただのお飾りかよ」
「っ……」
甲斐の正論にピクリと眉間に皺をよせたが、言っている事は正しいので言葉が出てこないチャラ男。この上ない屈辱に顔を歪めると、舌打ちをしてその場を去って行った。
その会計の取り巻き達も、ブツブツ文句を言いながらもイラついた様子で整列し始めている。まだこの程度の常識が通じる連中ではあるようである。
しかし、一人納得がいかない非常識な日下部は「甲斐はムカつくんだぞー!お前が悪いんだぞー!」と、喚き散らしていたのだった。
「宮本君」
甲斐が宮本に向き直る。
「もし、また奴らに絡まれてどうにもならない時は俺を呼べ」
「架谷君……うん、ありがとう」
借り物競争が順に始まり、甲斐は自分の番が来るのを待った。待っている間に観客席を見渡していると、向こうの方でキャアキャア開星陣営の生徒達が騒がしくしている。おそらく四天王が現れたからであろうか。女子達の目がすっかりハートマーク状態である。
当然、無才のホモ達も、百合ノ宮のイケメン好き女子達からも、熱視線を四天王に向けている。
まったく……どこへ行っても騒がしい奴らだな、あいつら四天王共は。
ふと、その四天王がいるであろう方に視線を向ければ、丁度視線の中心にいた矢崎直もこちらを向いていて、バチンと双方で目があってしまう。思わず甲斐は視線をあからさまに逸らした。
なんでこっち向いてんだよアイツ。目があっちまったじゃんか。
「ねえねえ、次甲斐ちゃんが走る番みたいよー借り物競争」
相田が双眼鏡で甲斐の様子を眺めている。
「架谷か。あいつならおかしなお題がでない限り大丈夫だろう。足の速さは相当らしいからな」
「なんのお題出るだろうねー」
穂高は悠然と冷たいオレンジジュースを飲んでいる。
「……どうでもいい。あんな貧乏人。視界に入れたくねえ」
直はプイと甲斐がいるであろう方向から視線を外した。
「あれ、なんか不機嫌な顔~」
「うるせえな。どうでもいいだろうが」
そんなにオレの事が嫌なのかよ。視線を合わす事さえも……。
『いちについてよーい……』
パーンとピストルの乾いた音が競技場に響いた。一斉に甲斐と生徒達は走り出す。
50mほど走った先に一枚のお題の封筒が置かれていて、甲斐はすぐに中身を開けた。
「えーと何々……なんだこれ」
書かれたお題内容を見て唖然とする。
『お友達をお姫様抱っこしてゴールしよう』
お友達はわかるけどなんでお姫様抱っこ?意味がわからねぇよ。
さてはこのお題を考えたのは無才だろうか。考えなくてもわかるアホなお題に辟易しそうになる。
とにかくそのお友達とやらを誰にしようか考えていると、丁度近くで運営作業を手伝っている担任の万里江を見つけた。
この際誰でも別にいい。先生も友達に入るだろう。
「先生!」
甲斐は万里江を大声で呼んだ。途端に一気に注目を浴びる事になる甲斐は気にしないスキルを発動させた。
「か、架谷くん、どうしたの?」
「借り物競争のお題で一緒に来てゴールしてほしいんだ」
「まあ!わかりました」
万里江が近くまでやってくると、その場で甲斐は万里江を軽々横抱きにして持ち上げた。
周囲から「おおっ」と、驚きの声がわきあがる。
「か、架谷君!?」
突然の事に驚く万里江。
「万里ちゃん先生悪い。お題でお姫様抱っこって書いてあったんだ。落とさないようにするから俺の首にしっかり掴まって」
「え、で、ですが」
「早く。ゴールするまでだから」
男らしいギラギラした瞳で見つめられ、万里江はドキっとした。
「っ、わかりました!」
万里江は甲斐の首に両腕を巻きつけた。
「よし、GO」
傍から見れば恋人みたいな光景に、周囲から冷やかしだったり、ヤジだったり、さまざまな声が聞こえてくる。走っている最中、万里江の顔がとても真っ赤な事に気づかないふりをして、とにかく甲斐は万里江を大事そうに抱いてゴール向かって走った。
万里江に恋慕を抱いている健一やファン達は発狂して「ずりぃよおぉお」と終始悲鳴をあげていたのだった。
「甲斐ちゃんが抱き上げてんのって担任かな。いいなあ」
四天王が甲斐の様子をじっと眺めている。
「どうせ無才の生徒会が考えたお題に、生徒や教師をお姫様抱っこしろとかそういう事が書かれてあったんだろう。大変だな、架谷も」
「甲斐くんて男らしくてイケメンだねー」
「チッ……どこに行っても目立つ野郎だな、あいつは」
田所が甲斐をジロジロ見ている。
「そいつはスパイなんだぞ!俺達の事を監視しにきた最低な奴なんだぞ!」
「どっちが最低でスパイしてたんだか……」
甲斐は両手を広げて顔を横に振っている。自分の事は棚にあげおってからに全く呆れるとはこの事。
「スパイだって!?キミさー最悪だね!平凡な顔してやること卑怯だよ!開星の奴らって卑怯者の集まりなの?」
それをあっさり信じるこの男の脳内は、全て花畑で出来ているんじゃないだろうか。日下部の言う事なす事全て全肯定マシンである。
「そっくりその言葉お返し致しますですわ。一人の生徒に寄ってたかって囲んで、罵声浴びせるような奴らとどっちが卑怯かをよーく考えてみておくんなまし。えーと能タリン男さん」
「なっ……!」と、顔を歪める会計のチャラ男。
「とりあえずな、もう競技始まるんだから大人しくしてろよお前ら。ギャアギャア騒がれるとその分長引いて迷惑かかんだろ。だいたいよ、お前生徒会役員なら皆をまとめるなり整列させるなり、しっかり仕事しろっつうの。会計バッジはただのお飾りかよ」
「っ……」
甲斐の正論にピクリと眉間に皺をよせたが、言っている事は正しいので言葉が出てこないチャラ男。この上ない屈辱に顔を歪めると、舌打ちをしてその場を去って行った。
その会計の取り巻き達も、ブツブツ文句を言いながらもイラついた様子で整列し始めている。まだこの程度の常識が通じる連中ではあるようである。
しかし、一人納得がいかない非常識な日下部は「甲斐はムカつくんだぞー!お前が悪いんだぞー!」と、喚き散らしていたのだった。
「宮本君」
甲斐が宮本に向き直る。
「もし、また奴らに絡まれてどうにもならない時は俺を呼べ」
「架谷君……うん、ありがとう」
借り物競争が順に始まり、甲斐は自分の番が来るのを待った。待っている間に観客席を見渡していると、向こうの方でキャアキャア開星陣営の生徒達が騒がしくしている。おそらく四天王が現れたからであろうか。女子達の目がすっかりハートマーク状態である。
当然、無才のホモ達も、百合ノ宮のイケメン好き女子達からも、熱視線を四天王に向けている。
まったく……どこへ行っても騒がしい奴らだな、あいつら四天王共は。
ふと、その四天王がいるであろう方に視線を向ければ、丁度視線の中心にいた矢崎直もこちらを向いていて、バチンと双方で目があってしまう。思わず甲斐は視線をあからさまに逸らした。
なんでこっち向いてんだよアイツ。目があっちまったじゃんか。
「ねえねえ、次甲斐ちゃんが走る番みたいよー借り物競争」
相田が双眼鏡で甲斐の様子を眺めている。
「架谷か。あいつならおかしなお題がでない限り大丈夫だろう。足の速さは相当らしいからな」
「なんのお題出るだろうねー」
穂高は悠然と冷たいオレンジジュースを飲んでいる。
「……どうでもいい。あんな貧乏人。視界に入れたくねえ」
直はプイと甲斐がいるであろう方向から視線を外した。
「あれ、なんか不機嫌な顔~」
「うるせえな。どうでもいいだろうが」
そんなにオレの事が嫌なのかよ。視線を合わす事さえも……。
『いちについてよーい……』
パーンとピストルの乾いた音が競技場に響いた。一斉に甲斐と生徒達は走り出す。
50mほど走った先に一枚のお題の封筒が置かれていて、甲斐はすぐに中身を開けた。
「えーと何々……なんだこれ」
書かれたお題内容を見て唖然とする。
『お友達をお姫様抱っこしてゴールしよう』
お友達はわかるけどなんでお姫様抱っこ?意味がわからねぇよ。
さてはこのお題を考えたのは無才だろうか。考えなくてもわかるアホなお題に辟易しそうになる。
とにかくそのお友達とやらを誰にしようか考えていると、丁度近くで運営作業を手伝っている担任の万里江を見つけた。
この際誰でも別にいい。先生も友達に入るだろう。
「先生!」
甲斐は万里江を大声で呼んだ。途端に一気に注目を浴びる事になる甲斐は気にしないスキルを発動させた。
「か、架谷くん、どうしたの?」
「借り物競争のお題で一緒に来てゴールしてほしいんだ」
「まあ!わかりました」
万里江が近くまでやってくると、その場で甲斐は万里江を軽々横抱きにして持ち上げた。
周囲から「おおっ」と、驚きの声がわきあがる。
「か、架谷君!?」
突然の事に驚く万里江。
「万里ちゃん先生悪い。お題でお姫様抱っこって書いてあったんだ。落とさないようにするから俺の首にしっかり掴まって」
「え、で、ですが」
「早く。ゴールするまでだから」
男らしいギラギラした瞳で見つめられ、万里江はドキっとした。
「っ、わかりました!」
万里江は甲斐の首に両腕を巻きつけた。
「よし、GO」
傍から見れば恋人みたいな光景に、周囲から冷やかしだったり、ヤジだったり、さまざまな声が聞こえてくる。走っている最中、万里江の顔がとても真っ赤な事に気づかないふりをして、とにかく甲斐は万里江を大事そうに抱いてゴール向かって走った。
万里江に恋慕を抱いている健一やファン達は発狂して「ずりぃよおぉお」と終始悲鳴をあげていたのだった。
「甲斐ちゃんが抱き上げてんのって担任かな。いいなあ」
四天王が甲斐の様子をじっと眺めている。
「どうせ無才の生徒会が考えたお題に、生徒や教師をお姫様抱っこしろとかそういう事が書かれてあったんだろう。大変だな、架谷も」
「甲斐くんて男らしくてイケメンだねー」
「チッ……どこに行っても目立つ野郎だな、あいつは」
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