【完】学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

いとこんドリア

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七章/合同体育祭

47.競技開始

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『100メートル走に出場する生徒は入場門前に集合してください』

 一番最初の競技アナウンスがかかると、出場生徒達が慌てて入場門へ向かって行く。一番最初の競技だけあって大抵の生徒はここでいい所を見せようと燃えていた。
 もちろん、開星の二年Eクラスの面々も同様に出場者は緊張しながらも張り切って入場門前へ向かって行く。

「たしか二年Eクラスからは女子では悠里と由希が出るんだよな。男子は山田となっちだっけ」
「応援してあげないと!」
「がんばれよー!」

 観客席からのEクラス達の応援に、悠里達は照れながらも活気をもらい、そのかいあってぶっちぎりの一位でそれぞれゴールする。
 特に悠里は元バレー部で足も速かったと噂だ。断トツでゴールテープを切っていた。由希も元運動部だけあって運動能力は高くて一着でゴール。山田もなっちも運動能力は高いので同じく上位に入った。
 勉強はできないが運動神経はいい脳筋Eクラスの活躍が目立った。

「さーてあっちの応援に行ってっと」
「あ、あの……に、二ノ宮由希さんですよね?」
「え?」
 
 急に名前で呼び止められて由希が振り返ると、百合ノ宮の可愛らしい女子生徒がもじもじした様子で背後にいる友達らしき生徒らに背中を押されている。女子生徒は今にも卒倒しそうなほど顔が真っ赤だった。

「わ、私、百合ノ宮学園の一年C組の牧村千代まきむらちよと申します。た、体育祭の合同練習の時から二ノ宮先輩の事を知り、そこから昨日までの練習であなたをずっと見てました」
 
 彼女は身長150あるかないかの小柄な生徒であった。
 ショートボブの髪型がとても似合っていて、さすがは百合ノ宮学園の生徒で仕草も可憐で女の子らしい。女の自分から見ても抱きしめたくなるほどの可愛い子だと思った。

「さ、さっきの走り、すごく男らしくて格好良かったですっ。すごく惚れ惚れして……っ」
「は、はぁ」と、口をあんぐりあけている由希。
「こ、これ……受け取ってくださいっ!」

 手紙を一方的に差し出された。わけもわからず由希はそれを受け取ってしまう。

「初めて見た時から、その男性的な所に一目惚れして……す、好きですっ」
「え、え、ええ!?」

 そして、一方的に告白した百合ノ宮の生徒は、真っ赤な顔のまま由希の視線から逃げるように走り去って行った。

「なにこれ。どゆこと?」

 取り残された由希は茫然と佇む。手紙に視線を向ければ、可愛らしいハートとウサギ模様の便せんに「二ノ宮由希さまへ」と綺麗な字。

 これって女の子からの告白ってやつ?ま、まじ!?
 まさかの同性からのアタックに困惑する由希であった。

 *

「百合ノ宮はともかくとして、無才の連中ってひ弱で運動神経ゼロな野郎が多いって噂、本当みたいだな」

 一方で男子200m走の様子をEクラス達が眺めていた。その言葉通り、無才の男子レベルはてんで大した事ないようで、肩透かしをくらっている。
 温室育ちの線の細い男子ばかりなので全く張り合いはない。これではまだ百合ノ宮の女子の方が早いかもしれない。一部の運動神経がいい者を除いて。

「所詮は金あっても女っぽい温室育ちが大半だからな。か弱い女と変わらねーよ」
「強敵なのは生徒会連中の側近と運動部出身の奴らだけだろ」
「無才はスポーツが強い部活が意外に多いからな」

 生徒会の連中の実力はわからないが、この様子だとあまり気を張らなくてもいいかもしれない。

『つづきまして、借り物競争に参加される生徒は入場門の前にお集まりください』
「ついに俺の番だ」

 甲斐が勢いよく立ち上がった。

「俺も出場だ」と、健一。
「お、行って来い!活躍を期待してるぞ」

 入場門前にはすでに百合ノ宮と無才の生徒達が集まっていた。
 特に無才の生徒達の中心には、KYで騒音と評判の日下部と借り物に参加する宮本がいた。

「てめえ、いつまで天弥に付きまとうのー?マジ邪魔なんですけどぉ」

 蔑んだ目で言う男は無才学園会計の田所正也であった。チャラ男で口にピアスをつけた奴である。会計の仕事をせず、今では日下部の取り巻きと成り果てているという噂を聞いた。

「付き纏ってなんて……。ぼくはただ競技に参加を……」

 宮本はオドオドしている。昨日は甲斐のおかげで前向きな発言をしていたが、やはり生徒会の連中を前にしてしまうと自然と萎縮して口ごもってしまう。

「みんなやめろよ!俺の親友をいじめるなよ。俺という親友がいないと貴志は一人ぼっちなんだ。無才にいた時は学園中から嫌われていたからな。だから俺が仕方なく親友になってあげているんだ。貴志だって俺と離れたくないからな」

 宮本が無才にいた時は自分の引き立て役として宮本を振り回していた日下部。確信犯なのか無自覚でしているのかは定かではない。ただ、自分が一番で皆からチヤホヤされるのが当然の立場だと思っているのは確かで、そんな日下部にほとほと困り果てていた宮本は、開星に転校して逃げ出したのだ。
 そんな日下部に取り巻き達は、未だに「優しいな天弥は」と、真顔でほざいているので手に負えない。
 開星のEクラス達は早くから日下部のKYぶりに愛想を尽かせたというのに、この連中は人の見る目どころか本当に頭が悪いらしい。

「日下部、お前何でかい声出しているんだよ」

 甲斐が宮本の前に出ながら無才の輪の中心に入っていく。

「あ、甲斐だ。なんだよ。何しに来たんだよー!お前は開星だろー!もしかして俺達の事を探りにきたのか?スパイ行為は最低なんだぞ!」
「お前な、数日前に自分が開星にスパイしに来ていた奴の台詞とは思えんな」
「うるさいんだぞ!おれは正々堂々としたスパイなんだぞ」
「やれやれ」

 スパイに正々堂々もクソもあるかよ。


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