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六章/派遣学生と交流会

34.王道ヒロイン♂

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 篠宮が学校に通い始めて数日、甲斐は変わらずに毎日を慌ただしく過ごしていた。
 直の従者を解任されてからあまり親衛隊も絡んでこなくなったし、菜月のおかげか甲斐に対して半狂乱になっていびってくる事も少なくなってきていた。

 それを平和に思いながらも、四天王とあまり絡まなくなってから退屈に感じる事も多くなってきた。それだけ荒んだ毎日を送っていたのだろうと自分をねぎらいたくなる。大変だったな、自分。
 これが望んでいた本来の学園生活。過激な嫌がらせもこれでなくなればいいなと思う甲斐であった。

「おはよう、甲斐くん」
「いきなりだが今日このEクラスに男子の派遣学生が来るらしい」

 悠里と本木が甲斐の座席へやってきた。

「派遣学生って、例の二校から派遣されてくる制度か」

 金持ち御三家、つまり開星、百合ノ宮、無才の3校は、年に一回の同じ時期に、少しの間だけそれぞれの学校から何人かを少しの間派遣する制度だ。

 御三家の理事長同士が決めあった制度らしく、文化交流を目的としたものなんだとか。
 今回は数人が開星にやってくるとの事で、Eクラスにも無才学園から一名派遣されてくるようだ。

「わざわざEクラスに来るなんて変わってるよね」
「なんでEクラスなんだろ」
「わかんない。地雷みたいなの来なきゃいいけどね」
「Eクラスだからどうだろ」

 かしまし三人娘が嫌な予感を感じている。

「成績とかの理由で来るんだろ。優秀な生徒はSクラスに行ったみたいだし」
「無才からって事は生粋の野郎か。はあ、百合ノ宮の女子がよかったなー」
「だよなー。可愛い子ちゃん見て癒されたかったよ。野郎なんてツマンネ」

 吉村や屯田林らモテない男達の嘆きが続く。
 そんな時、教室の外から通りすがりのギャル系女子の陰口が聞こえてきた。

「ねーねー見た見たー?さっきの変な奴」
「見た見たー!あれがEクラスの派遣学生らしいよォ。見た目マジ超キモくねー?」
「今時牛乳瓶みたいな眼鏡にぼさぼさの髪って超ありえないよねーマジ昭和じゃん!」
「つぅか、一番ムカつくのはいきなり四天王様達を呼び捨てタメ口ってのが許せないんだけどぉ!」
「わかるわかるー!あろう事か会長の菜月君を差し置いて話しかけるとか超失礼だから!」
「ま、Eクラスなんかに行くって事はそいつの器が知れるよねー」
「「ねー!」」

 それを聞いて、Eクラスはなんとも言えない空気になった。来てから早々にいろんな女子達を敵にまわしているようで、かしまし三人娘の嫌な予感は的中するかもしれない。

「もう来てるみたいだね」と、宮本。
「初日から親衛隊に目をつけられるって相当な事やらかしたんだな」
「つか牛乳瓶眼鏡にぼさぼさ頭ってどんな容姿なんだよ。今時そんな古いチー牛みたいなのいんの?」
「たまに理解不能なのがいる世の中だからそんなのがいても不思議じゃないでしょ」
「……たしかにな」

 そんな篠宮の言葉にみんなは納得して席に戻っていく。

「はい、みなさん。おはようございます!本日は我がクラスにも無才学園から派遣学生が一人いらっしゃいました。体育祭までの一か月の間ですが仲良くしてあげてくださいね」

 担任の万里江が朝礼で挨拶をすると、噂の派遣学生は教室に入ってくる。のっけから噂通りの容姿であった。

「みんなよろしく頼むな!俺は私立無才学園から来た日下部天弥くさかべてんやっていうんだぜ!好きな言葉はカッコイイと綺麗とオールマイフレンズ!嫌いな言葉はダサいと貧乏だ。みんな俺の友達なんだぜー!」

 言い放たれたその騒音のような大声に、朝のホームルーム中の教室はしんと静まり返った。

 噂で聞いた派遣学生の容姿は、先ほど廊下で女子が噂していた通りのもので、牛乳瓶底の眼鏡にぼさぼさなモジャ頭。身長は160程という比較的小さな背丈である。
 佐伯は健一の隣の席が空いているからそこに座れと促すと、さっそく彼は隣の健一の存在に目を向けた。

「なあなあ、お前なんて名前?」
「……え、に、二階堂健一だけど」

 健一はいきなり話しかけられるとは思わずに慌てる。

「健一って名前なのか!なら俺とお前は今日から友達だ!天弥って呼んでくれよ!俺もお前の事は健一って呼ぶぜ!友達なんだから名前呼びは当然だ!」
「……は、はあ?」

 健一や周りは呆気にとられた。
 初対面でお前呼ばわりはないだろうと誰もが思ったが、その後健一はそれを咎める事をしなかったのであえて皆黙って傍観。
 
 その一方で、宮本はなぜか顔色を悪くして見つからないように顔を隠していた。もしかして無才時代の知り合いだろうか。
 
「なあなあ健一!この学校ってすっげぇイケメンや美人多いよなあ!俺、カッコイイ人や美人が好きでさ、今朝会ったあいつら四天王っていうんだっけ?マジびっくりしちゃったんだぜ。俺のハートを鷲掴みにする奴らばっかで学園生活楽しみなんだぜ!」
「は、はあ……そうか」
「んでよ、四天王の茶髪と金髪と黒髪……あいつらなんて名前なんだー?」
「あー……茶髪は相田拓実で、黒髪は久瀬ハルヤ。金髪は穂高尚也だと思うけど……」
「そっかァ!サンキュー!俺あいつらと友達になりたいんだぜ!」

 日下部はにっこり笑顔を見せた。
 四天王に関わる気満々な発言に、四天王アレルギーを持つEクラス達はこの派遣学生が余計な事をしなければよいのだがと、暗澹たる思いであった。

 お昼休み、親衛隊に最近襲われる事がなくなった甲斐は、久しぶりに健一達や悠里と篠宮も入れて裏庭で食べようと約束していた。が、

「健一!」

 甲斐の元へ行こうとした健一は、日下部に呼び止められた。

「なあなあ健一!お昼一緒に食堂行こうぜ!」
「へ……あ、いや、俺は別な連れと行こうとしてて」
「いいじゃないか!俺とお前は友達なんだぞ!」
「いや、まだ友達もくそもないというか出会ったばかりだろ」

 健一が助けを求めるようにEクラスの面々に視線を合わせると、それより先に日下部が強引に健一の手首を引っ掴んでいた。結構強く掴まれているので、ちょっと痛いと思う健一。

「友達なんだから一緒に行くのが当然だろ!遠慮するなよ!それに食堂がどんな所か知りたいから教えてほしいんだぞ」
「うっ。そ、それなら仕方ないけど……でも」

 それを見かねた甲斐と悠里は助けるように間に入る。

「えっと日下部君だっけ、俺たちも健一と昼一緒になる予定なんだけど」
「えーとお前らは健一の友達か。なら俺の友達でもあるな!お前らは名前なんて言うんだー?」
「架谷甲斐だけど」
「私は神山悠里。その前に日下部君。私は別に構わないんだけど、初対面でお前は頂けないと思うよ。気分悪くなる人もいるから」
「お前かたい事いうなよ!友達だろ!女でも関係ねーぜ!」
「ちょっと関係あるってば」と、横槍を入れる由希。
「よーし!みんなで食堂に行こうぜ!健一と甲斐と悠里と他いろいろ」
「今の話聞いてなかったのかよ。しかもいきなりみんなも下の名前呼びだし」


 
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