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三章/球技大会

17.球技大会1

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「そういえばもうすぐ球技大会だな。この学校での行事なんて初めてだよ」
「甲斐はそういえば初めてだったな」

 中学時代は基本的に行事はさぼりまくっていたので、球技大会などはほとんど参加した事がない。中学二年の時など傷害事件を起こして逮捕された前歴があったので、行事どころではなかった記憶だ。

「クラスで優勝したら授業二日間免除らしいよ」
 
 宮本が委員長なのでそう詳細を聞いたようだ。

「へえ、それはラッキーだな」
「それで今年の賞品が……あ、四天王の着替え生写真……みたいだ」
「え……それはいらん」

 随分しけてやがる賞品だ。どうせなら美女の生着替えにしてほしい。

「でもその写真とかは親衛隊に売りつけたら金になるかも」
「あはは、さすが甲斐君。転んでもただでは起きないね」

 そんなわけで、Eクラスの教室では明日の球技大会について話し合っていた。
 成績が悪くて家柄も貧乏なEクラスだが、体力だけは日々のEクラスイジメで扱かれているので、チームワークと体力と運動神経のよさは随一である。変に言いかえれば脳筋。

 おかげで球技大会では毎年Eクラスは上位に食い込むのだという。それに加え、このクラスにはスポーツが得意な者が何人かいる。

 元野球部の元木やなっち、デブで巨漢の屯田林大丸とんだばやしだいまる、身長180超えの山田文太郎やまだぶんたろうだ。女子は悠里が元バレー部で、由希とかしまし三人娘の山岸も運動神経がいいらしい。

 だからこそ、この球技大会でEクラスでもやる時はやるのだと意気込む面々。うまくいけばEクラスの株が少しは上がるかもしれない……たぶん。

「うおおおおお!」
「やったるわーー!!」
「優勝して四天王の写真手に入れてメルカリで売ったるぞおお!」
「うおおおおおお!これで俺達は億万長者だあああ!!」
「それで高級焼肉をクラス全員でたらふく食いに行くぞおおお!!」
「「おおおおおおお!!」」

 向こうの方で脳筋気質なクラスメート達が燃えている。やはり写真はオークションに出すか親衛隊に売りつける事を目標に気合を入れているようだ。なんだか優勝する目的が金目的な気がするが、甲斐も同じ事を考えていたのでまあそんなもんだろうとスルー。

 反対に運動音痴なオタ熊達は意気消沈中だ。特にクラスの中二病と言われている竜ケ崎りゅうがさきは、あまりに球技大会が嫌なのか、ぶつぶつと黒魔術を唱えている。自分に俺TUEEE系の守護霊が憑りついてくれないかなとかいう理由で。いつか呼び出せるといいな。オーディーンかアーサー王やらを。

「運動神経いい奴らは張り切ってるね」
「授業免除二日間という特権があるからな。賞品の写真はふっかければ賞金100万以上にはなるから、そりゃあ張り切りもするだろ。俺達貧乏人だし。100万は大金だ」
「はは、確かにね……」

 みんなオークションで売った金目的なのは当然だ。

「甲斐はサッカーとバスケがんばってくれよ!俺もサポートするからさ。甲斐の運動神経のよさは中学一緒だった俺が誰よりもわかっているつもりだぜ」

 どんと腹を叩く健一。

「へぇー架谷君って運動神経そんなにいいの?」

 かしまし三人娘を筆頭にクラスメート達がどんどん混ざってくる。

「バスケやサッカーで助っ人に入ってたくらいだぜ。すっげえ上手いのなんの。まあ、当日見りゃあわかる事よ。甲斐がいれば優勝できるかもな!あのSクラスにだって負けやしない」
「過大評価しすぎだ健一」

 甲斐は照れている。

「いやいや!実際その通りなんだから隠すなよ」
「でもさ、Sクラスとも試合するわけでしょ。四天王いるじゃん。四天王が球技に参加するかはわかんないけど、出るならやばいっしょ」
「そうだよなあ」
「最強のラスボスだわ」
「だいじょーぶ!今までの球技大会なんてアイツラほとんどサボってたから今回もどうせ出やしねーって。とくに矢崎直や相田拓実なんて去年はサボって女と遊んでたらしいし」
「だといいけどね」
 
 そんな展望ラウンジでは、噂の四天王が酒を飲んでいたり、据え置きゲームをしていたり、野良猫と戯れていたり、パソコンで株を見ていたり、それぞれの暇を持て余していた。

 四天王という肩書きは、授業をさぼれるどころか授業免除という特権持ち。一年中やりたい事を勝手にする事が許されている。学校に通うのは出席日数を稼ぐためと、将来のためにテストで満点を取るためだけに来ているようなもの。退屈な時はこうしてここにいる事が多い。

「あーつまんなーい。ゲームも飽きたなァ」
「拓実くんは退屈が嫌いなんだよね」
「そーそー。オイラ退屈なのが大嫌いー。だからさ、なんかおもろい事ない?女遊びと勉強は抜きね」
「そんなものない」と、即答するハル。
「僕が知りたいくらいだよ」
「えーじゃあ、直は~?」
「しらんうぜぇ消えろ死ね」
「ねーねー直ちゃーん」
「あーうるせえな貴様!マジ死ね!話しかけてくんな!」

 強烈な蹴りを相田に入れる直は、先ほどから溜息ばかり吐いていた。そんな相田は直の蹴りを余裕で避けている。

「直、お前さっきから溜息ばかり吐いているな。悩みでもあるのか」
「プ、直が悩みってチョーウケるんですけど」
「明日は豚の雨が降るかもしれないねー。豚に傘は通じなさそうだしどうしよぉ」
「オレは貴様らを豚みたいに扱ってやりたい」
「あーやれやれ」

 この光景は四天王での日常である。

「そういえば明日は球技大会らしいぞ」
「球技大会~?そういえば生徒会の連中がそれで忙しそうにしていたね」
「めんどくせーな。学校行事なんてクソだろ」
「でも退屈なら参加して汗かくのもいいかもよん。どうせ暇だし」
「僕は汗かくのきらーい。だからサボるか見学ー」
「ねえねえ球技大会って事は甲斐ちゃんも出るって事だよね。それで結構暇がつぶせるかもしんないじゃん」
「そういえばそうだねー。それなら汗かいてもいいし、退屈じゃないかも」
「……架谷、か」

 直は複雑な表情を浮かべてつぶやいた。

「ん?どぉしたの直君」
「なんでもねぇ。ただ、架谷が出るならそれはそれでまた愉しめそうだ。出てやってもいいか」

 本当はあいつの事が頭から離れないなんて口が裂けても言えやしないが。

「あれれー珍しく直が乗り気ね。いっつも球技大会とかの全行事なんてサボってるのに。もしかして直、甲斐ちゃんの魅力に気づきだしたー?」

 何気なく言った相田の言葉に、直は心臓が飛び出るほどドキリとした。

「アア!?んなわけねーっつうの!だれがあんな平凡地味男。クソ喰らえだろ!」
「そんな全力で否定されるとかえって気になるんですけどー」

 珍しく狼狽えているように見える直に、三人はじっと見ている。

「うぜえ。貴様らそんな目でオレを見んじゃねぇよ。オレが誰かに特別な目を向けるはずないだろうが」
「ふぅーん……まあ、別にいいけど。球技大会、甲斐ちゃんが出るならオイラも出よっかなァ」

 そんな事を話しあいながら、翌日の球技大会は迫った。
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