学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

いとこんドリア

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二章/大接近

15.バグる距離感

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 通信が圏外になっているスマホを眺めると、深夜の23時だった。
 いつの間にか寝ていたらしく、甲斐はぼうっとした思考のまま起き上がる。窓から照りつける月明かりだけが頼りで、薄暗い倉庫内はよく見えない。

 あいつは、矢崎は寝ているのか。
 恐る恐る視線を向こう側に向けると、マットの上で横になっている直の背中が見える。それに少しほっとして、とりあえず明日まで我慢して寝ようと決める。再び横になって目を閉じようとすると、

「架谷」

 声をかけられた。甲斐は心臓が飛び出るほどびくりとする。
 起きていたのか、こんな真夜中に。おとなしく寝ていてくれた方がありがたいのに。

「あ、あのよ「さっきは悪かった」
「……え」

 まさか謝られるとは思ってもみなかったのでとても驚く。あの矢崎直が謝罪するなんて。傍若無人の王様気取りの男だというのに。

「どうか……してたんだよ。お前にあんなこと……」
「そ、そうだ。いきなりあんな事してっ。お前、俺を女と勘違いしてたんだろ。野郎相手に盛るなんてよ。欲求不満か全く」

 ファートキスだったのに……なんてさすがに言えなかったけど、それは犬にでも噛まれたと思ってなかった事にしよう。キスの一つや二つ、生娘じゃあるまいし気にしないでおく。

「だいたいな、平凡な男相手にしても自慢にもならnひっ!」

 いつの間にかそばに来ていた直に抱きしめられていた。

「な、なにすんだよっ!離れr「何もしねえから怯えるな」
「いや怯えるだろ。あんな真似したくせによ。いいから離r「本当になにもしねぇから」

 信用できない台詞である。こいつ何か企んでいるのか。

「何を企んで「企んでもねーよ」

 直の両手が甲斐の背中にまわっている。それが思ったほど違和感を感じやしない。

「何もしないから……暴れるな……」
「ほ、本当だろうな。嘘ついたら本気で金玉蹴りつけるからな」

 そう強気な発言をする自分の声は震えている。さっきみたいなのは御免だ。

「本当だ。信じろよ……」
「っ……」

 真剣な声と、妙に寂しそうな瞳に何も言えなくなる。
 この期待を裏切らない男だからこそ信じろだなんて虫のいい話。だが、その真剣な眼差しに今だけは信じてみようと甲斐は思い切って力を抜いた。一応すぐ反応できるように油断はしないでおく。

「今だけだからな。変な事したらぜってぇ承知しないから。ていうか、なんで俺はお前に抱きしめられてんだよ」
「寒いからお前なんかで温まってる」
「お前なんかって言うなら抱き着いてくんなよ」

 そんだけで嫌いな相手を抱きしめられるものなのか。

「お前って体温高いのな」
「まあよく言われ……ちょ、あんまり変な所触るなよ」

 どうしてか、こうしているととても落ち着く。安心する。いい匂いがする。
 シャンプーの香りと香水の匂い。そして、肌のにおい。それが矢崎の腕の中ってのが非現実的だが、居心地は悪くない。そう思ってしまっている俺は、一体どうしちまったんだろう。

「俺の事散々貶しておきながら抱きしめるなんて……お前、変だよ……」
 
 そう、オレは変だ。
 今の状態に対してもだが、キスに対しても、無理やり抱こうとしていた事も。
 なんであんな行動をとってしまったのか自分でもわからない。やっぱり、どうかしている。嫌いなコイツにこんな真似するなんて。でも、わかる事はただ一つ。

 オレはこの架谷が気になるという事。
 
 しばらくそうして抱き合っていると、次第に安心したのか眠気が襲ってきて、二人して柔らかいマットの上で眠っていた。お互いの体温を分け合うように眠る姿は恋人同士のようだなんて誰も知らない。
 
 次に目覚めた時、甲斐がこの状況に悲鳴をあげた事で教師が気がついて助け出されたのは翌朝の事であった。

 二章 完
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