学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

いとこんドリア

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二章/大接近

11.憂鬱な朝

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 朝から学校の玄関前にはかなりの生徒の群れ。
 甲斐はなんだろうと生徒達の群衆に近づくと、生徒達は甲斐の姿を見るなり軽蔑な眼差しを浮かべてコソコソ去っていく。

 なんなんだ。なんだかまた嫌な予感がする。
 残っている人の波をかき分けて一番前に来ると、壁には赤いスプレーのらくがき。

『2年E組の架谷甲斐は四天王を体で誘惑し、ゲイでホモセックス大好きヤリチン中毒者である』
「なんじゃこりゃあーー!!」

 甲斐は根も葉もない落書きを前に唖然とする。
 クソが。誰がこんな事を。名誉棄損だぞ。

 わなわな全身が震えて当然怒りを露にする。
 急いで雑巾を持ってきて消そうとするも、これはなかなか消えないインクだ。シンナーとかで消さないと無理か。そうしてシンナーを借りてこようとその場を離れる際、

「ははは。あのEクラスの架谷って真面目でけな気なふりしてやる事やってんだな。しかもヤリチン中毒ってウケる」
「四天王と関わってるのは体で誘ったからって噂だもんね~」
「矢崎直様に啖呵切るすごい子だと思ってたのにこれ見て幻滅ぅ」
「でもよ、四天王を体で誘惑するくらいなんだから、結構ソッチ系はすげーんだろうなぁ。ゲイとかホモは勘弁だけどよぉ」
「ていうか~あたし達の四天王をあんなホモに奪われるなんて超癪だわ。マジありえないしぃ」

 金持ち在校生達の容赦ないひそひそ話が甲斐の耳に入ってくる。事実無根であるというのに噂は勝手に独り歩きする。
 冗談ではない。
 こっちは四天王に近づいたわけでもなくむしろ近づきたくないのに、向こうが一方的に突っかかってくるのだ。言ってもだれも信じてはくれないだろうが、それが本当なんだから弁解のしようがない。

「俺が四天王なんかを誘惑するかーー!キスもした事がない童貞でノンケだっつうのー!!」

 甲斐は羞恥心を我慢して周りに聞こえるくらいの大声で言い放った。
 周りはそれを聞いて「ちょ、童貞とかマジウケる」なんてまたもや笑い者にする始末。こっちも自分で言ってて悲しくなる事実ではあるが、こうふざけたスプレー通りの誤解をされたままなんてたまったものではない。親衛隊を敵に回している時点で無駄かもしれないが、人をありもしない事で陥れるなんざやめてもらいたいものだ。

 だいたいな、男なんかとシたい気にもなんないし、興味すらねーっつうの!女の子とすら付き合った事ねえのに冗談じゃないわい。あえて言うなら俺は二次元美少女派だ。二次元美少女以外は興味ねえんだ馬鹿野郎。

 ごしごしと雑巾で必死に消す作業に勤しむ甲斐。朝から飛んだ迷惑を被り気苦労が絶えない。これもあれも全部あいつのせい。犯人はきっとアイツに違いないはずだ。

「プ、なんだこのらくがき。マジウケる」

 その時、甲斐の天敵である矢崎直が生徒玄関前にやって来ていた。騒ぎの元である壁の落書きを見てクスクス笑っている。甲斐は即座に雑巾を強く握りしめて反応を示した。

「てめえか!!こんなガキみたいな落書きしやがったのはっ!よくも恥かかせてくれたな!」

 甲斐は鬼の形相で直の方にずんずんと近寄る。

「……アア?テメエ何言ってやがる」

 ぴくりと眉間にしわが寄る直。

「しらばっくれるな!どうせてめえがこれやったんだろっ!従者にしたからってここまで幼稚な真似する事ねーじゃねぇか!このロクデナシ名誉棄損野郎が!」
「ふざけるな。オレ様がこんな低能なガキみたいな悪戯するかよクソが!」
「じゃあ誰だって言うんだよ!こんな事すんのおめえが親衛隊に命令した以外に考えられねーんですけど!」
「オレを疑っているのかテメエ。従者のくせして随分生意気な口をほざきやがる」

 ぎろりと直の瞳が鋭くなる。甲斐も負けじとさらに睨み返す。

「てめえの日頃の行いがそうだって物語ってンだよっ!しかもなんだよゲイでホモだとかヤリチンとか!冗談じゃねえ!」
「うぜえよカス。お前がどんな野郎だろうがこっちは寸分の興味もねぇ。まあ仮にだ。あのスプレーの文のようにお前みたいな蛮族を抱く野郎がどこかにいるとすれば、ソイツの趣味を疑うぜ。オレだったら貴様なんかにそんな真似するくらいなら金持ちの不細工抱いた方がマシだからよ。あー想像するだけで反吐が出る」
「俺だってお前みたいな俺様性悪陰険野郎願い下げだ!反吐どころか血だって吐いちまわぁ!ぺっぺっ!」
「言いやがったなテメエ。奴隷の分際でオレ様を愚弄しやがって」

 直の視線がより鋭くなるが、甲斐は怯まない。

「言ったからなんだってんだよ。俺はてめえなんかにびびらんよ」
「貴様……」

 直が乱暴に甲斐の胸ぐらをつかむ。二人はますます睥睨しあうその時、

「落ち着け。二人とも」

 二人の間に割って入るようにハルが止めに入ってきた。

「これが落ち付いてられるかよ。この奴隷、オレを愚弄しやがった。だから教育的指導してやろうって時に邪魔しやがって」
「何が教育的指導だ。暴力に教育的もくそもねーだろうが。なんでも暴力で訴えて従わせられると思ったら大間違いだ」

 二人の間にバチバチと稲妻が走る。朝からの玄関前は甲斐と直の口喧嘩で目立っていた。

「だから、落ち付け」

 言い争いあう二人をなだめてハルは溜息を吐く。

「全く、朝早くから元気がいいものだな。なんだかんだお前たちは憎みあっていても息はぴったりのようで」
「ふざけた事を言うなハル。こんなクソド庶民と一緒にされてたまるか」
「俺だってこんなバカ財閥と一緒にされるだけでいい迷惑だ」
「あーもうお前達はっ!」

 そういう所が息ぴったりだと思うんだが……と、ハル。

「まあ、犯人は親衛隊だろう。直、お前が親衛隊を調子に乗らせているからこうなっているぞ」
「それはそれでこれはこれ。親衛隊どもが勝手にやった事。こいつは妹や悠里をたぶらかしている上に、オレを初めて怒らせた野郎だからな。それくらい耐えてくれねえとツマラネェし、親衛隊ごときの幼稚なイジメに参っているようじゃあこの先この学校でやっていけねぇぜ?」
「くっ……てめえ」
「まあ、テメーが嫌になって学校辞めたら辞めたでそれはオレ様の勝ちって事になる。ただの負け犬だ。て事で、辞めたかったらいつでも辞めてくれたまえ、負け犬予備軍」
「誰が辞めてやるかよ!俺はてめぇなんかにぜってぇ屈しねぇんだよ!」

 その後、ハルは甲斐と直を連れてラウンジにやって来た。三人で犯人捜しをする事にしたが、甲斐はともかく、直は当然やる気なさげである。むしろ「なんで愚民と一緒に犯人捜しを手伝わなければならないのだ」と文句を垂れている。

「とにかくあのスプレーの犯人がわかればいいんだろう。直、お前は本当に命令していないんだろうな?」
「貧乏人のために面倒くせー事してオレになんの得があんだよ。オレは陥れるなら自分で動くし、自分が得になる事以外はしない主義だ」
「けっ、どの口が言うんだか」

 頬杖を突きながら甲斐は呆れ顔をした。

「貴様……ケンカ売ってるのか」

 ガンとテーブルを蹴る直。

「だからやめないか!ケンカなら後でやってくれ」
「このガキが減らず口多いからだろ」
「こいつがガキみたいに挑発してくるからだろうが」
「あーもうこの二人はっ。頭が痛くなってくる」

 何度言い聞かせても口喧嘩をおっ始めるものだから、せっかくの話し合いも長くは続かなかった。あっさりお開きである。

 *
 
「架谷くん、大丈夫?」
「親びん、大変だな……」

 なんの進展もないままEクラスに戻ってくると、宮本と健一が声をかけてきた。

「大丈夫だ。あのスプレーはたしかに腹が立ったけど、卵やごみ投げつけられるよりある意味マシだし。それより、宮本くんも健一も見える所で俺と話さない方がいい。同じように親衛隊に目ぇつけられて巻き添えをくうかもしれない」
「そんな事はいいんだよ!」

 宮本が真剣な顔になっていた。

「え……」
「僕達……よく考えたんだ。友達が親衛隊に嫌がらせされてるのに、自分可愛さに見て見ぬふりをするなんて最低な事だって。こういう時こそ、架谷くんの助けにならなきゃいけないのに」

 最近の甲斐への嫌がらせを目の当たりにし、自分達も何か助けられないかと歯がゆさを感じていたようだ。親衛隊達のターゲットにされるかもしれないのに。助けた事で矢崎直に退学処分を言い渡されるかもしれないのに。

「だから、親衛隊とかに同じように目ぇつけられてもいい。一人でやられるより、まだ複数いた方が頑張れるから。もう逃げたくないんだ」
「それでもし学校退学にされても、見て見ぬ振りする方がよっぽど気分悪いし後悔するからな」
「二人とも、ありがとう」
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