【完】学園トップに反抗したら様子がおかしくなった (旧/金持ち学園)

いとこんドリア

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一章/金持ち学園

9.従者制度2

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「掲示板見たよ、矢崎直の従者にされちまったって」

 教室に入ると、Eクラスの仲間が甲斐を同情するような目で見ていた。

「あー……まあ、無理やりされたっていうか、弱み握られたっていうか……ね。あははのは」
「笑ってる場合じゃないだろ。よりにもよって矢崎直の従者。過去一度矢崎の従者になってた奴がいたんだけど、そいつは元は四天王に歯向かってた奴でさ、でも毎日親衛隊から徹底的なイジメの的にされて、矢崎からもサンドバックにされて、いいようにコキ使われて、精神患って退学したらしい」

 クラスメートの一人、あだ名はなっち事那智川史郎なちかわしろうが顔色悪く言う。

「そうなんだ」

 そんなに厄介なのか、従者にされるという事は。どうりであいつが俺を従者にさせたわけだ。

「だから、本当に無理だと思ったら逃げたほうがいい。学校通うのも大事だけど、何より自分の体が大事だ。それで取り返しのつかない事になっても連中が責任とってくれるわけじゃないからな」
「んー……でもあんな野郎のいいようにされるなんてむかつくし、逃げるなんて俺の柄じゃないから」
 
 そんな時――

 ピンポンパンポーン

『二年E組の架谷甲斐。至急最上階のラウンジまで来い。来なかったら退学だ』

 突然の校内放送に呼び出しを受けた。
 ついに地獄の時間の幕開けなのか。

 仕方ねえな、くそっ。
 本当は行きたくないけれど、行かなければ退学にされてしまう。それだけは回避したい。
 甲斐は深いため息を吐いて嫌々教室を出た。背後からEクラスの仲間が涙ながらに見送っていた。

 展望ラウンジへ向かうには、エレベーターかもしくは階段を使う事になるが、エレベーターがこういう時に限って点検中で、仕方がないと階段をのぼる羽目になった。
 当然、最上階までは60階と長く、甲斐のように強靭な足腰がなければ簡単に上りきるのは無理だろう。そんな甲斐でも少し疲労を見せて汗をかいていた。
 ラウンジでは直が悠然と柔らかそうなソファーで足を組んで座っている。とても尊大な態度で苛立ちが募った。

「来るのに10分もかかってんじゃねぇぞこのノロマ」

 直が手首に装着している高級腕時計を眺めて舌打ちをした。

「普通の人間が60階もある階段を10分で来れると思うなよ!一体なんの用だ!」
「はー……何の用と言われてもだな、テメーが来るの遅いせいで忘れちまったンだなこれが。悪ィな。ははは」

 わざとらしくせせら笑う直。全然悪びれる様子などなく、甲斐は怒りで顔がひきつった。

「てめえ……っ」

 おそらくだが、たぶんこの男は用もなくわざとここへ呼び出したのだろう。エレベーターも不自然な時間帯に点検中だったのでこれもわざとな気がする。

「あー思い出したわ。購買でプリン買って来てほしいんだった。最高級の一つ三千円はするやつな。で、今すぐ買ってこいよ架谷クン」

 嫌味なくらい笑顔でそう命令する直。ちなみに購買は一階である。

「自分で召使いにでも頼んで持ってこい。アンタ財閥のお坊ちゃんなんやろが」
「だからテメーに頼んでんだろ。召使いのテメーに!買って持って来い」
「なんで俺!」
「テメーが従者だからだろうが脳タリン。いいからさっさと持って来やがれ」

 いやがらせ命令に、当然甲斐は従順になるはずがない。

「い・や・だ・ね!せっかく走って最上階まで来たのに、一階まで降りてまた階段でのぼって来いだなんてアホらし。俺はお宅と違って暇じゃないんでね!」
「ああ?貴様、愚民のくせにオレ様に逆らうのか。わざわざテメーみたいな貧乏地味男を従者にしてやったのによ。しかも口のきき方がなってねぇ」
「お前が勝手に俺を従者にしたんだろうが。強制的に。俺は全くもってやりたくないのに。調子こくのもいい加減にしろよ」

 甲斐は直を強く睨みつけた。
 気に入らない目だ……と、直は目をすぼめた。

「ほんっとーにオレの従者のくせにえらく反抗的な態度だな。これは主人として躾けてやらねぇと」

 ぐいっと甲斐の胸ぐらを掴んで持ち上げた。そのまま壁に追いやられて勢いよく叩きつけられた。

「っは……!」

 背中を強く打ち、胸ぐらを掴まれたまま息苦しい。シャツで首が締まる。

「ははは……苦しいか?ド貧乏が」
「放せ……よっ。クソ……が……」

 直の掴んでいる手をなんとかしてどかそうとしても、強い力で掴まれていて外すことができない。力だけは奴の方が上だ。

「貴様が命令に従うなら外してやってもいい。早くしないと息が出来なくなって失神しちまうかも。それとも……あの世が見えたか?」

 食堂の時に見た冷酷な瞳が自分にまた向けられる。
 まるで人形のように凍りついた目に、甲斐はこの男が正常だと思えなかった。
 でも屈服したくない。こんな最低男に屈服なんて……冗談じゃない。
 
「がぶ」
「ッ――!?」

 甲斐は直に掴まれている腕に思いっきり嚙みついた。直は驚きと痛みに腕をひっこめて間合いをとる。

「チッ……品性の欠片もない反撃の仕方だな。さすがは蛮族なだけはある」
「蛮族で結構。よくも首絞めてくれたな。危うくてめえに負け犬晒すところだった」
「いいんだぜ。潔く負け犬晒してくれても。Eクラスの貧乏人らしくて腹抱えて笑ってやるよ」
「そんな瞬間、一生こねーよ」

 両者殺気を纏って睨み合い、一触即発になる瞬間――

「やっほーー!」

 いきなりラウンジに入ってきたのは相田であった。

「拓実、今はお取込み中だ」

 直が顎で出て行けと指示を出すも、相田は「やだ」と一言。

「暴力的なお取込みは同意できないね。オイラね、甲斐ちゃんを気に入ったから勝手に手ぇ出されたら困るんだよね。いくら直の従者って決められても甲斐ちゃんは俺のお気に入りなの」
「テメエのお気に入りだろうがなんだろうが、その前にコイツはオレの従者ドレイでもある。邪魔するなよ」
「そっちこそ、甲斐ちゃんと仲良くするの邪魔しないでほしーんだけど」

 今度は相田を睨む直。相田は意にも介さないで笑っている。

「ケンカはよくないよぉ二人とも。甲斐君が怯えてるじゃない」

 穂高も相田に遅れて入ってきた。
 別に怯えているわけじゃあない。呆れて見ているのだ。

「ぼくだって甲斐君気に入ってるのに、直君の従者にするなんて聞いてないなあ」
「テメエも同類かよ穂高」

 直が穂高も睨む。

「今回ばかりはね。甲斐君と僕はお友達だから~」

 穂高が労わるように甲斐に近づき、そっと抱きしめた。

「ぎゃあ」
「わー身長のわりに思ったより細いね~甲斐君。腰回りが特に。ちゃんと食べてるか心配だよ。筋肉はあるのに」

 べたべたと穂高の手が甲斐の腰やら尻を撫でている。

「ちょ、ちょっとあんまり触んないでほしーんだけど。くすぐってえ。やめろバカ」
「ちょっとー!穂高ちゃんがしているのは立派なセクハラよっ!ダメなんだからっ」

 そんな相田はそう言いながら一緒になって触るのに混ざってきた。
 
「この、お前らマジやめろっての!」
「いいじゃんいいじゃん。甲斐ちゃんを悪戯しまくるの会けっせ~い!」
「いえ~~い!」
「いえ~~いじゃねえよ!放せこの変態共!」

 一難去ってまた一難。矢崎との対決から逃れられたと思えば今度はセクハラ地獄。甲斐はいろんな意味で泣きたくなった。

「チッ……なんかやってらんねぇ。貴様らの変態趣味にはな」

 そんな蚊帳の外に出された直は当然面白くない。呆れとイライラにテーブルを乱暴に蹴とばし、直はラウンジから出て行った。
 その後、いつまでも放してはくれない二人にぶち切れ、最終的に二人をぶん殴って終わらせたのだった。


 甲斐が教室に戻ると、クラスメート達に一気に囲まれた。大丈夫だったかとか、何もされてないかとか、いろいろ質問攻めにあった。
 ある意味ひどい目にあったと答えると、よく耐えたと労わりの言葉を口々にかけられた。

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