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一章/金持ち学園

5.四天王2

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「アレ、知らないの?友里香ちゃんも悠里ちゃんもね、なんか恋してるみたいよ。部下からちょこっと聞いてね」
「へえ~ねーねーどんな人~?知りたいなぁ」

 ニコニコと穂高が反応する。向こうの方にいるハルはヤレヤレとどうでもいいという顔。

「よく知らんけど普通の男みたいよ。しかも二人の好きな男は同じでこの学校の生徒らしい。名前とかクラスは知らんけど。まあ、この学校に通うっちゅう事は、それなりに金と権力があるって事だよねぇ」
「えーでもわからないよぉ。もしかするとEクラスの生徒だったりして。悠里ちゃんてEクラスだし」

 穂高が冗談っぽく言う。

「さすがにEクラスの生徒ではないでしょー。最底辺の貧乏人を好きになるなんて無謀じゃん。二人のお眼鏡にかなう男なんていなかったと思うし、男の見る目がなさすぎだと思うー。友里香ちゃんはあの天下の矢崎財閥のご令嬢様だし、悠里ちゃんは直のちゃんなんだからさ」
「……ほぉ、アイツら兄のオレに内緒でそんな奴作ってたのか。どれ、どんな野郎か確かめてやる」

 直は邪悪にニヤリと笑う。退屈な毎日にこの上なく不愉快でおもしろい事に邪魔する気満々である。

「邪魔しない方がいいんじゃない?せっかくの二人の淡い恋心を邪魔して恋がオジャンになったらさすがに嫌われちゃうよ」
「へっ、別に嫌われてもどうでもいい。二人が選んだ相手だろうがなかろうが、そいつが男としてふさわしいかオレが判断する。もしソイツがてんで駄目男だと判断した時、誰だろうと引き裂くまで。そいつが仮に親族になるなんて兄として死んでも御免だからな」
「うわ出たよ。シスコン発動。悠里ちゃんも友里香ちゃんもオカワイソーに」
「死ね」

 相田のドタマに容赦なく拳を叩きつける直。

「痛ぁ~!もー直はすーぐ暴力振るうんだから。おしとやかな悠里ちゃんとは全然血の繋がりを感じさせやしないね」
「だねー全然性格似てないよねー」と、同意する穂高。
「うるせえ貴様ら」
「まあ、直が必死になるのもわからなくもない。その者がもし悠里嬢か友里香嬢と結婚したら、直はその者の義兄という事になるからな。俺も可愛い妹がいるから気持ちはよくわかる」

 ハルがウンウンと頷いている。

「ふざけるな。そう簡単に結婚などさせるかよ。オレの義弟になるなどクソくらえだ」
「でもさ、冗談抜きにして結婚はないにしろ、二人は年頃なんだから恋くらいはすると思うよ。そこは兄として寛大になってあげないとさ~いくら直が重度のシスコンでもマジで嫌われても知らn」
「だから死ね!」
「ぼくちんは死にましぇーん!」 

 翌日、甲斐は何が起きてもいいようにジャージと着替えを持参してきた。
 由希の言うようにEクラスに対して徹底的なイジメがあると聞いて、常に周りを警戒して身構えながらコソコソ登校したのである。内履きズックも指定のじゃなくて動きやすいスニーカーに履き替えたくらいだ。
 全校集会は午後からやる事になっており、午後からの戦に備えてEクラスの面々は嵐の前のお昼を迎えている。

「甲斐、食堂行こう」

 授業が終わったと同時に健一と宮本と本木が甲斐の席にやってきた。由希と悠里も遅れてやってくる。

「食堂か。でも、食堂なんかで食べて大丈夫なのか?Eクラスの生徒でも」
「それが大丈夫なんだ。いくらEクラスでも食堂では揉め事起きた事ないし、悠里ちゃんのおかげで僕らには攻撃できないっていうかね、まあ睨まれはするかもしれないけど……」
「へえ、まあなんとかなるんだな?」
「うん、悠里ちゃんがいるから四天王も迂闊に攻撃できないよ」

 そんな悠里は照れたように微笑んでいる。

「架谷くんやみんなは私が守るからね」
「ありがとう」

 一同が食堂にやってくると、噂通りに争い事や揉め事はなく、みんなそれぞれのテーブルについて和気あいあいと談笑しながら食事をとっている。豪華絢爛で椅子やテーブルは高級品。壁や天井は大理石。まるで結婚式の披露宴会場みたいである。
 メニューはテーブルに置かれたパネルで操作し、注文すると運ばれてくるという仕組みで、そのメニューとやらはどれも恐ろしく高かった。

「焼き魚定食だけでさ、三千円……高いっ!」

 一番高いものなど10万はする高級ステーキである。おまけにキャビアやフォアグラなどもメニュー表に当たり前のように載っている。味も本格的なものらしい。
 たかだか学食と侮っていた甲斐は驚くばかりであった。

「ははは。それがこの金持ち学校じゃ普通なんだ。俺も最初来た時は度肝を抜かれたから、今じゃこの通り弁当持ち歩いてるよ」

 健一が庶民っぽい弁当をテーブルに出した。中身は至って普通である。

「なら、俺もこれから自作の弁当にしよう。今日は時間なくて近くのコンビニで買ったパンなんだよね」
「架谷君って料理できるんだ?」と、宮本君。
「ああ。両親が料理ドヘタでさ、俺や妹が小さい頃からよくやってたんだ。料理は得意だし自分で作った方が安く済むしさ」
「へーすごいじゃん。料理できる男子ってポイント高いよ」

 由希は運ばれてきた焼き魚定食を食べている。
 一応彼女の家もそれなりに裕福らしく、いつも学食で注文しているようだ。とは言っても、あくまでこの学校基準からすればそれほど裕福な家系ではない。悠里はどうか知らないが、宮本も本木も裕福な方というだけで一般中流家庭には違いないのだ。

 そんな時、食堂中に地鳴りのような悲鳴が響き渡った。甲斐はパンをかじりながら顔をあげた。

「なあ、なんか周りが騒がしいけど」
「別に大した事じゃないわよ。来たのよ、さっき話した例の四天王が」
「そうそう。だから、別に気にしなくていいよ。目なんて合わせたら後で因縁つけられるかもしれないし、ここは目を合わせない方が無難」

 由希が焼き魚を食べながらひたすら食事に集中している。健一達もいつもの事だと弁当に目線を向けたままだ。甲斐も彼らに同調するように気にしない事にした。

「直様ー!」
「拓実くーん!」
「尚也さまー!」
「ハル君ー!」

 それぞれのファンの声援は、食堂に彼らが顔を見せるとより大きくなる。あまりの興奮に赤くなって倒れる女子まで現れていた。

「すごい人気だなぁ。やっぱアイドルみてぇだ」と、甲斐。
「まるで超人気芸能人並みでしょ。全国にファンクラブがあるくらいだし」

 四天王は専用の超VIP席に向かい、メニューでいろいろ注文している。そこは生徒会すらも座れない下を見渡せる一際豪華な二階席である。

「甲斐様」

 四天王のインパクトの強さで気づかなかったが、いつの間にか甲斐の横に友里香が立っていた。

「あれ、友里香ちゃん。どうしてここに」

 四天王が来てから鎮まりつつある声も、友里香が来た事でまた盛り上がった。周囲から女神様やら、百合ノ宮のプリンセスやらと、男共の声が聞こえてくる。

「本日は開星の生徒会に用がありまして来ていたんですの。甲斐様に会えるかなって覗いたんですけど、ビンゴでしたわ。逢えて嬉しいですわっ。じゅるっ」
「は、はは……二週間ぶりだもんな」

 わかりやすいほど目をキラキラさせて涎を垂らしかねない友里香に甲斐は少し引いてしまった。
 あれ、彼女は美少女だよな?美少女なのになんだかすっごく残念な美少女に見えてしまうのは気のせいだろうか。

「わざわざ架谷くんのために開星に来る口実を作るなんて、百合ノ宮の生徒会って楽な仕事なんだね」

 ニコニコと笑顔で話しながらも、どこか殺伐オーラを放っている悠里。対して友里香も同じオーラを放った。

「あら、ちゃっかり甲斐様の隣に座って逐一甲斐様の様子を窺っているあなたには言われたくないですわ~」

 妹の未来ブラコンがいないだけマシだが、友人という関係とはいえ妙にバチバチしているのは気のせいだろうか。自分を間に挟んでの睨みあいとかやめてほしいものである。

「甲斐様、一緒に食べてよろしいですか?」

 その誘いに、事情を知らない周りにどよめきが起きる。

「え、でも上にお兄さんがいるんじゃ……」
「いいんですよ。いつも兄に見張られてばかりじゃ嫌だったので、たまには静かに食べたいんです。甲斐様は私がご一緒ではご迷惑ですか?」

 上目遣いでウルウル目で見つめられ、甲斐は固まる。さすがに断るわけにはいかない。こんな美少女からの誘いを断るなんて男の名が廃るものだ。

「そ、そんな事ないさ。嬉しいよ」
「ありがとうございます」

 友里香は嬉しそうに甲斐の隣に(強引に)座った。緊張気味の健一達にも挨拶をして、すぐに彼らと打ち解けた。
 しかし、友里香がこちらに来た事で、甲斐達に鋭い視線が向けられるのは必然的だった。口々に誰あの平凡などという声がチラホラ聞こえ、周りの妬む声が耳に入る。
 ああいうのは無視すればいいという甲斐の考えも、友里香の兄の前ではそうはいかなかった。

「ソイツ誰だよ」

 二階席から兄の直が下りてきた。周りのざわめく生徒達の声はぴたりと止まる。
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