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一章/金持ち学園
3.二年Eクラス
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よし、行くか。
甲斐は新しい制服に袖を通し、身だしなみを整えて鏡の前に立った。
ついに転校初日を迎えて、あとは校舎へ向かうだけ。
なんせ高校に通えるどころか、その高校が日本一学費が高くて有名な金持ち学校で、まるで夢のようである。
恐らく未来も百合ノ宮で自分と同じ気持ちだろう。百合ノ宮は超お嬢様学校で友里香ちゃんも通っているらしいから、二人はケンカしてなければいいが。
外に出ると、たくさんのリムジンやらベンツやらロールスロイスやらの外車に乗って登校する生徒達を見かけた。学校までは歩いてたった十分程度で着くのに車で送り迎えとは贅沢なものである。きっとただの送迎だけではなくて執事付きなんだろう。庶民には縁のないサービスである。
「おはようございます、甲斐さん」
校舎前には久瀬と誰かが待っていた。
「おはようございます、久瀬さん。えっと、そちらは……」
視線を隣に向けると、仏頂面の男子生徒が立っている。仏頂面といえどもとても小柄な美少年である。一瞬、女の子かと思ってしまった。男の娘系とやらか。
「この子はキミと同じ学年の田端君です。生徒会で書記をしている優秀な生徒ですよ」
生徒会な上に優秀なのか。なんかむすっとしているけど……。
「えと、架谷甲斐です。よろしくおねがいします」
「フンっ」
ぺこりと頭を下げても、逆に睨まれてすぐに視線を外されてしまった。
気難しい子なのか。生徒会書記らしいし、おまけにさっさと歩いて行っちゃうし。おいおい、ほんとに書記かよ。
「すみません。この学園の在校生はどうも外部生を毛嫌いしているので、ああいう態度をとってしまうのですよ。そこは気にしないで頑張ってくださいね。では、あの田端君が職員室や教室まで案内してくれると思うので、私はこれで失礼します」
「あ、どーもっした」
久瀬に会釈をして、甲斐は慌てて田端の後ろについていく。
「なあ、外部生ってそんなにイメージ悪いのか?」
「庶民……つまりど貧乏の事だからイメージ悪いに決まってるだろ」
田端という生徒が振り向きながら甲斐に言った。顔はなんだか仏頂面である。
「普通、入学式からならともかく、ここへ途中入学するなんて滅多にない事。アンタみたいな平凡超貧乏生がこの学校に入れるなんて、どうやって上の人に取り入ったわけ?」
不躾な態度で田端が訊ねてきた。
「あ?取り入ったなんて人聞き悪いな。そんな事してねーしっ」
「ふんっ、別にどうでもいいけどさ。どうせ貧乏だからって同情を引いたのは違いないんだろうし」
だから本当に何もしてねえってば。同情引いたわけでもないし。一体どういう目で見てんだよこの男の娘さん。
「ああ、ちなみに貧乏生はEクラスだから教室はあっちね。職員室は階段あがって右だから。行けばわかるから。じゃ」
「あ、ちょっと!」
田端は無責任にも自分の教室へさっさと行ってしまった。
普通の学校とシステムが違うとなると不安である。右も左もわからない外部生を置いていくとは薄情な生徒会の人だなと呆れかえった。
外部生を毛嫌いしているっていうけど、あからさますぎやしないかね。やっぱり貧乏人で底辺成績だからって差別されてんだろうか。
とりあえず職員室で先生や校長に挨拶して来ようかな。
「キャアアー!」
階段にのぼる手前、いきなり向こうの方で甲高い悲鳴が聞こえてきた。
まるでアイドルか芸能人かをみる黄色い悲鳴に一体なんなんだと固まる。大勢集まっているギャラリーの背後から覗くと、そこに一際細長いリムジンが一台到着していて、初老のベテラン執事が慣れた手つきで後座席のドアを開けた。
「きゃあああー!直様ァああ!」
「ドS王子ぃぃいー!」
「抱いてぇー!」
途端、悲鳴がまた一段と地鳴りのように大きくなった。
リムジンの中から姿を現したのは目を見張るほどの長身の美青年。サラサラな銀髪が風に揺れる。
見るからに身長は180以上はゆうに超え、長い手足はモデルそのもの。高い鼻にすっとした形のいい唇。しっかり筋肉があるものの着痩せしているのかすらっと見える体型。そして、陰があるような切れ長の深海の瞳。
見るものすべてを引き込む魅力が放たれていて、甲斐はなんとなく見入っていた。
ほえーすげぇ色白野郎だな。しかもクソイケメン。俺とは住んでいる世界が180度違うんだろうな。つかあんなチャラチャラしたイケメン嫌いだからどうでもいいけど。
「直様ぁー」
「矢崎君ーっ!」
そんな騒がしいファンの胸元のポケットには親衛隊というバッジをつけていた。
親衛隊……。
そんなもんまでいるのか。どこのアイドルだよ。
その後、甲斐は職員室で理事長と校長に挨拶を済ませた。
友里香が認めたという肩書きは大きく、理事長や校長達に大いに媚を売られてしまった。別に自分は大したことない人間なんだけれど、えらいゴマをすられてしまったのが意味がわからない。矢崎財閥とやらの権力は相当すごいようだ。
「架谷くん!」
職員室で担任の紹介をされた途端、見た覚えのある顔だった。
「あれ……もしかして、万里ちゃん先生?」
「やっぱり!名前を見てもしかしてって思ったのです」
彼女は佐伯万里江。甲斐の中学時代の担任だ。見た目は眼鏡をかけた低身長の童顔だが、かなりの美少女顔で密かに男子達から人気があった。
「まさか万里ちゃん先生にこんな所で会うなんてなあ。卒業以来だな」
「そうですね。あれから一年と少し。あなたとはいろいろありましたが今じゃいい思い出です」
「あはは、先生にはいろいろ世話になったもんな」
数学で0点を量産した時も、暴走族とケンカして逮捕された時も、彼女は一生懸命面倒を見てくれた。ちなみに少年院行きにならなかったのは、彼女の助力も少なからずあったと聞いて感謝している。
「あ、そうそう。あなたの親友の健一君もこの学園に通っていて同じクラスですよ」
「本当か!?」
それから彼女と共にEクラスへ向かうことになる。
Eクラスは職員室に来た時に詳しい説明があったが、この学校の底辺成績者がEクラスに選ばれ、また外部からの編入生も自動的にこのクラスにされる。なんでも金持ちと庶民に育った者とを区別するために設けられた振り分けなんだとか。
それを聞いて甲斐はいい気分にはならなかった。
「架谷甲斐です。よろしくおねがいします」
Eクラスで挨拶をすると、案外歓迎ムードだった。ざっと顔を見渡せば悠里の顔も見かけてホッとする。
彼らは同じ境遇者同士の集まりという事で、他クラスより仲間意識は強く、金に見栄をはった様子もなくて、みんな素朴で穏やかな雰囲気であった。すぐにEクラスの面々と打ち解ける事が出来そうだ。それに思わぬ再会にも喜んだ。
「甲斐!?甲斐じゃん!」
一人の男子生徒が甲斐の顔に気づいた。
「お、健一!万里ちゃん先生からいるって聞いてびっくりした」
「やっぱり甲斐だ!」
二人は一年ぶりの再会を喜んだ。
この二階堂健一は甲斐とは中学校時代の友人である。
ドジで臆病者なために冴えない健坊というあだ名で呼ばれていたが、やる時はやるのだ。中学時代に甲斐が逮捕された時、周りが怯えた様子でありながらも、この健一と佐伯万里江だけは変わらず接してくれたのだ。
「まさかこんな所で再会するなんてびっくりだ!」
「おれもだよ!甲斐がこの学校に来るなんて夢のようだ」
一応、スマホでやりとりはしていたが、借金生活に入り、ついにはスマホを解約する事態にまでなり、音信不通になってしまった昨今。何度か手紙を書こうとしたが、忙しい毎日にそれもできなかったのだ。
「突然音信不通になってごめん。いろいろあったんだ。追々説明するけどさ」
「いいんだよ。またこうして再会できたから、親びん!」
「親びんて言うなよ」
中学時代、チンピラから健一を助けた事でたまに親びんと呼ばれていた。あと中学時代におしかけ舎弟になった奴らからも今でもそう呼ばれている。甲斐としては普通に接してくれと言っているのだが、一向に直してはくれない。
「都内の高校を受験するとは言っていたけど開星だったんだな」
「実家の呉服屋が繁盛しまくってな、そのおかげでこの金持ち御用達学園ってわけよ。赤点マシーンな俺が入れる高校なんて限られてるし、せいぜいDQN高校くらいしか入れない俺だから開星一本しかなかったわけなんだけどな。開星なんて金さえあれば入れる学校だろ?高校には入っとけって事で開星に放り込まれたわけよ」
「へえ~なるへそ」
「甲斐もよく開星に来たよな。こんな学費がクソ高い学園に」
「いろいろあって成り行きで入学できたんだ。パトロンというかなんというか……そんな人がいて、だな」
「君が噂の架谷君なんだね」
健一と会話をしていると、赤毛の大きなシニヨンが印象的な今時のギャルを筆頭に数人が集まってきた。その中に神山さんや他数人も集まってきた。
「えーと……あんたは?」
「あたしは二ノ宮由希。悠里ちゃんとは中学が一緒だったんだ」
神山さんの方を見ると照れたように頷いている。
「へぇーそうなのか。てことは神山さんは中学くらいから都内に転校していたんだな」
「そうなんだ。都内暮らしに慣れない私をいつも助けてくれたのが由希ちゃんだった。頼りになる姐御なんだよ」
「頼りになるだなんて照れるじゃん。じゃあこれからは架谷君に助けてもらいなよ。強くて頼もしいって話だし」
「……え、あ、ぅうん……!」
真っ赤になっている悠里に、甲斐は照れ屋だなと微笑ましく見ていた。
「なあ甲斐。いつの間に神山さんといい感じになってたんだよ!俺、知らないぞそんな話っ」
健一がこそこそと甲斐に耳打ちをする。
「え、いい感じ?そうかな」
「そうかな、じゃないだろ!あんな絶世の美少女と幼馴染だったなんて!しかも甲斐を見る目が完全にときめいている感じだったよ」
「そりゃ光栄だなあと思うよ。でも俺みたいなキモオタに変な気は起こさないだろ」
「………親びんって、変な所で自己肯定感低いよな」
なぜか呆れている健一をスルーし、由希や悠里の会話に戻る。
「こんな金持ち学校じゃきっと一般とはかけ離れているんだろうなって思ったけど、このクラスはそうじゃないみたいで安心したよ」
「あーそれ僕も思ったよ。まさかこの学校に入学する事になってどうなる事やらって思ってたけど、このEクラスだけはアットホームなカンジだって知ってホッとしたんだ。みんな同じ境遇だからね」
「君は?」
「僕は宮本貴史です。最近まで無才学園にいたんだけど、この春からここに入学したんだ」
中性的な見た目の男子生徒だ。
「へえ、無才学園ね……」
テレビで聞いた事がある。たしか金持ちの男子校だという事を。
しかも妹の未来と友里香が通う百合ノ宮学園とは兄妹校だとか言っていた。開星も入れて金持ち御三家と呼ばれているので、今後何かと関わるかもしれない。
「俺は本木康隆だ。俺も同じで違う高校にいたんだが、両親の都合でここに入学した」
いかにも野球をしていますという坊主頭の少年だ。
「よろしく、本木君。それと持っているそれは?」
本木君の腕の中には写真たてが携えられていた。誰かが写っている。
「こ、これは……俺の親友の遺影だ」
「え、遺影?」
「これは俺の後悔の証だ。俺のせいで失った半身であり、ブラザーみたいなものだ」
「ブラザー……そ、そうなんだ」
いろんな事情があるんだろう。一瞬、厨二の人かと思ってしまったがあえてそれ以上は何も言わなかった。
甲斐は新しい制服に袖を通し、身だしなみを整えて鏡の前に立った。
ついに転校初日を迎えて、あとは校舎へ向かうだけ。
なんせ高校に通えるどころか、その高校が日本一学費が高くて有名な金持ち学校で、まるで夢のようである。
恐らく未来も百合ノ宮で自分と同じ気持ちだろう。百合ノ宮は超お嬢様学校で友里香ちゃんも通っているらしいから、二人はケンカしてなければいいが。
外に出ると、たくさんのリムジンやらベンツやらロールスロイスやらの外車に乗って登校する生徒達を見かけた。学校までは歩いてたった十分程度で着くのに車で送り迎えとは贅沢なものである。きっとただの送迎だけではなくて執事付きなんだろう。庶民には縁のないサービスである。
「おはようございます、甲斐さん」
校舎前には久瀬と誰かが待っていた。
「おはようございます、久瀬さん。えっと、そちらは……」
視線を隣に向けると、仏頂面の男子生徒が立っている。仏頂面といえどもとても小柄な美少年である。一瞬、女の子かと思ってしまった。男の娘系とやらか。
「この子はキミと同じ学年の田端君です。生徒会で書記をしている優秀な生徒ですよ」
生徒会な上に優秀なのか。なんかむすっとしているけど……。
「えと、架谷甲斐です。よろしくおねがいします」
「フンっ」
ぺこりと頭を下げても、逆に睨まれてすぐに視線を外されてしまった。
気難しい子なのか。生徒会書記らしいし、おまけにさっさと歩いて行っちゃうし。おいおい、ほんとに書記かよ。
「すみません。この学園の在校生はどうも外部生を毛嫌いしているので、ああいう態度をとってしまうのですよ。そこは気にしないで頑張ってくださいね。では、あの田端君が職員室や教室まで案内してくれると思うので、私はこれで失礼します」
「あ、どーもっした」
久瀬に会釈をして、甲斐は慌てて田端の後ろについていく。
「なあ、外部生ってそんなにイメージ悪いのか?」
「庶民……つまりど貧乏の事だからイメージ悪いに決まってるだろ」
田端という生徒が振り向きながら甲斐に言った。顔はなんだか仏頂面である。
「普通、入学式からならともかく、ここへ途中入学するなんて滅多にない事。アンタみたいな平凡超貧乏生がこの学校に入れるなんて、どうやって上の人に取り入ったわけ?」
不躾な態度で田端が訊ねてきた。
「あ?取り入ったなんて人聞き悪いな。そんな事してねーしっ」
「ふんっ、別にどうでもいいけどさ。どうせ貧乏だからって同情を引いたのは違いないんだろうし」
だから本当に何もしてねえってば。同情引いたわけでもないし。一体どういう目で見てんだよこの男の娘さん。
「ああ、ちなみに貧乏生はEクラスだから教室はあっちね。職員室は階段あがって右だから。行けばわかるから。じゃ」
「あ、ちょっと!」
田端は無責任にも自分の教室へさっさと行ってしまった。
普通の学校とシステムが違うとなると不安である。右も左もわからない外部生を置いていくとは薄情な生徒会の人だなと呆れかえった。
外部生を毛嫌いしているっていうけど、あからさますぎやしないかね。やっぱり貧乏人で底辺成績だからって差別されてんだろうか。
とりあえず職員室で先生や校長に挨拶して来ようかな。
「キャアアー!」
階段にのぼる手前、いきなり向こうの方で甲高い悲鳴が聞こえてきた。
まるでアイドルか芸能人かをみる黄色い悲鳴に一体なんなんだと固まる。大勢集まっているギャラリーの背後から覗くと、そこに一際細長いリムジンが一台到着していて、初老のベテラン執事が慣れた手つきで後座席のドアを開けた。
「きゃあああー!直様ァああ!」
「ドS王子ぃぃいー!」
「抱いてぇー!」
途端、悲鳴がまた一段と地鳴りのように大きくなった。
リムジンの中から姿を現したのは目を見張るほどの長身の美青年。サラサラな銀髪が風に揺れる。
見るからに身長は180以上はゆうに超え、長い手足はモデルそのもの。高い鼻にすっとした形のいい唇。しっかり筋肉があるものの着痩せしているのかすらっと見える体型。そして、陰があるような切れ長の深海の瞳。
見るものすべてを引き込む魅力が放たれていて、甲斐はなんとなく見入っていた。
ほえーすげぇ色白野郎だな。しかもクソイケメン。俺とは住んでいる世界が180度違うんだろうな。つかあんなチャラチャラしたイケメン嫌いだからどうでもいいけど。
「直様ぁー」
「矢崎君ーっ!」
そんな騒がしいファンの胸元のポケットには親衛隊というバッジをつけていた。
親衛隊……。
そんなもんまでいるのか。どこのアイドルだよ。
その後、甲斐は職員室で理事長と校長に挨拶を済ませた。
友里香が認めたという肩書きは大きく、理事長や校長達に大いに媚を売られてしまった。別に自分は大したことない人間なんだけれど、えらいゴマをすられてしまったのが意味がわからない。矢崎財閥とやらの権力は相当すごいようだ。
「架谷くん!」
職員室で担任の紹介をされた途端、見た覚えのある顔だった。
「あれ……もしかして、万里ちゃん先生?」
「やっぱり!名前を見てもしかしてって思ったのです」
彼女は佐伯万里江。甲斐の中学時代の担任だ。見た目は眼鏡をかけた低身長の童顔だが、かなりの美少女顔で密かに男子達から人気があった。
「まさか万里ちゃん先生にこんな所で会うなんてなあ。卒業以来だな」
「そうですね。あれから一年と少し。あなたとはいろいろありましたが今じゃいい思い出です」
「あはは、先生にはいろいろ世話になったもんな」
数学で0点を量産した時も、暴走族とケンカして逮捕された時も、彼女は一生懸命面倒を見てくれた。ちなみに少年院行きにならなかったのは、彼女の助力も少なからずあったと聞いて感謝している。
「あ、そうそう。あなたの親友の健一君もこの学園に通っていて同じクラスですよ」
「本当か!?」
それから彼女と共にEクラスへ向かうことになる。
Eクラスは職員室に来た時に詳しい説明があったが、この学校の底辺成績者がEクラスに選ばれ、また外部からの編入生も自動的にこのクラスにされる。なんでも金持ちと庶民に育った者とを区別するために設けられた振り分けなんだとか。
それを聞いて甲斐はいい気分にはならなかった。
「架谷甲斐です。よろしくおねがいします」
Eクラスで挨拶をすると、案外歓迎ムードだった。ざっと顔を見渡せば悠里の顔も見かけてホッとする。
彼らは同じ境遇者同士の集まりという事で、他クラスより仲間意識は強く、金に見栄をはった様子もなくて、みんな素朴で穏やかな雰囲気であった。すぐにEクラスの面々と打ち解ける事が出来そうだ。それに思わぬ再会にも喜んだ。
「甲斐!?甲斐じゃん!」
一人の男子生徒が甲斐の顔に気づいた。
「お、健一!万里ちゃん先生からいるって聞いてびっくりした」
「やっぱり甲斐だ!」
二人は一年ぶりの再会を喜んだ。
この二階堂健一は甲斐とは中学校時代の友人である。
ドジで臆病者なために冴えない健坊というあだ名で呼ばれていたが、やる時はやるのだ。中学時代に甲斐が逮捕された時、周りが怯えた様子でありながらも、この健一と佐伯万里江だけは変わらず接してくれたのだ。
「まさかこんな所で再会するなんてびっくりだ!」
「おれもだよ!甲斐がこの学校に来るなんて夢のようだ」
一応、スマホでやりとりはしていたが、借金生活に入り、ついにはスマホを解約する事態にまでなり、音信不通になってしまった昨今。何度か手紙を書こうとしたが、忙しい毎日にそれもできなかったのだ。
「突然音信不通になってごめん。いろいろあったんだ。追々説明するけどさ」
「いいんだよ。またこうして再会できたから、親びん!」
「親びんて言うなよ」
中学時代、チンピラから健一を助けた事でたまに親びんと呼ばれていた。あと中学時代におしかけ舎弟になった奴らからも今でもそう呼ばれている。甲斐としては普通に接してくれと言っているのだが、一向に直してはくれない。
「都内の高校を受験するとは言っていたけど開星だったんだな」
「実家の呉服屋が繁盛しまくってな、そのおかげでこの金持ち御用達学園ってわけよ。赤点マシーンな俺が入れる高校なんて限られてるし、せいぜいDQN高校くらいしか入れない俺だから開星一本しかなかったわけなんだけどな。開星なんて金さえあれば入れる学校だろ?高校には入っとけって事で開星に放り込まれたわけよ」
「へえ~なるへそ」
「甲斐もよく開星に来たよな。こんな学費がクソ高い学園に」
「いろいろあって成り行きで入学できたんだ。パトロンというかなんというか……そんな人がいて、だな」
「君が噂の架谷君なんだね」
健一と会話をしていると、赤毛の大きなシニヨンが印象的な今時のギャルを筆頭に数人が集まってきた。その中に神山さんや他数人も集まってきた。
「えーと……あんたは?」
「あたしは二ノ宮由希。悠里ちゃんとは中学が一緒だったんだ」
神山さんの方を見ると照れたように頷いている。
「へぇーそうなのか。てことは神山さんは中学くらいから都内に転校していたんだな」
「そうなんだ。都内暮らしに慣れない私をいつも助けてくれたのが由希ちゃんだった。頼りになる姐御なんだよ」
「頼りになるだなんて照れるじゃん。じゃあこれからは架谷君に助けてもらいなよ。強くて頼もしいって話だし」
「……え、あ、ぅうん……!」
真っ赤になっている悠里に、甲斐は照れ屋だなと微笑ましく見ていた。
「なあ甲斐。いつの間に神山さんといい感じになってたんだよ!俺、知らないぞそんな話っ」
健一がこそこそと甲斐に耳打ちをする。
「え、いい感じ?そうかな」
「そうかな、じゃないだろ!あんな絶世の美少女と幼馴染だったなんて!しかも甲斐を見る目が完全にときめいている感じだったよ」
「そりゃ光栄だなあと思うよ。でも俺みたいなキモオタに変な気は起こさないだろ」
「………親びんって、変な所で自己肯定感低いよな」
なぜか呆れている健一をスルーし、由希や悠里の会話に戻る。
「こんな金持ち学校じゃきっと一般とはかけ離れているんだろうなって思ったけど、このクラスはそうじゃないみたいで安心したよ」
「あーそれ僕も思ったよ。まさかこの学校に入学する事になってどうなる事やらって思ってたけど、このEクラスだけはアットホームなカンジだって知ってホッとしたんだ。みんな同じ境遇だからね」
「君は?」
「僕は宮本貴史です。最近まで無才学園にいたんだけど、この春からここに入学したんだ」
中性的な見た目の男子生徒だ。
「へえ、無才学園ね……」
テレビで聞いた事がある。たしか金持ちの男子校だという事を。
しかも妹の未来と友里香が通う百合ノ宮学園とは兄妹校だとか言っていた。開星も入れて金持ち御三家と呼ばれているので、今後何かと関わるかもしれない。
「俺は本木康隆だ。俺も同じで違う高校にいたんだが、両親の都合でここに入学した」
いかにも野球をしていますという坊主頭の少年だ。
「よろしく、本木君。それと持っているそれは?」
本木君の腕の中には写真たてが携えられていた。誰かが写っている。
「こ、これは……俺の親友の遺影だ」
「え、遺影?」
「これは俺の後悔の証だ。俺のせいで失った半身であり、ブラザーみたいなものだ」
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