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一章/金持ち学園

1.開星学園

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 威風堂々と聳え立つ外観を前に、一人の少年が荷物を持ちながらそれを見上げた。
 私立開星学園という名前の正面入り口を。

「まさかこんな所に入学できるなんて夢かも」
 
 私立開星学園とは、英才教育を受けたその筋や、金持ちだけが入学する事で知られる日本一有名なセレブ校である。

 幼稚舎から大学までの一貫校で、バカでも金さえあれば大学まで進める事ができるが、秀でた能力を持つ者も学歴に箔をつけるために集まってくる。

 全校生徒は約千人。いろいろあって登校拒否や途中退学などで人数は流動的。偏差値はそのクラスにもより、最高が75以上とすれば最低が30。ようは権力と財力がものをいう世界なので、知力はこの世界ではあまり意味をなさないようだ。

 しかし、将来的に会社のトップを約束されているエリート達は、経歴をより華やかにするために率先して勉学に励み、試験戦争を勝ち上がり、親の期待に応えるために他者を蹴落としてでも日々高みを目指している。

 そんな彼ろは家柄はもちろんの事、学年トップ20に入るほどの成績であれば、クラス分けにて最高のSクラスへ入る事が許される。その下にはAからDまで続き、Eクラスとなると開星の中でも特に成績が悪い者や外部からの入学者が無条件にこのクラスにされる。

 そんな2年E組に編入する事が決まった架谷甲斐かさたにかいは外部からの入学であった。なのに、超がつく程のド貧乏で、今までは働くために定時制高校に通っていた。

 そんな彼がなぜこの学校に通うことになったかは少し前に遡る。

 うだつの上がらない父の太郎が知らずに作らされた借金によって全てが始まった。黒服の男達が土足で上り込んできて、そこには5千万というあまりにも高額な数字を提示してきた。家族全員卒倒しそうになる請求金額である。

 きっと人のいい父親の事だ。騙されて知らないうちに保証人にでもなってしまったのだろう。文句を言おうにも、その父親の泣きながらの土下座と死にそうな顔を見てしまっては言う気もなくなった。

 当然ながら5千万など払えるお金は持ち合わせていないので、家族総出で必死で副業なりなんなりして働いて返すと約束をし、とりあえずは帰ってもらった。

 体で売るとか漁船に乗ってもらうとか、そういう悲惨な返済方法にしてもらわなくて済んだのはよかったけれど、全額返済までいつになるかわからないし、先行き不安しかない。とにかく少しずつ返していくしかない。

 その日を境に、架谷家の過酷なバイト借金生活が始まったのだった。

 
 今日は朝から新聞配達と飲食店の調理の仕事。夜はコンビニでバイトだ。高校がない日は毎日朝5時から夜の22時まで働いている。もっと長い時間働きたいけれど、高校生の年齢じゃあできる時間もバイトも限られている。

 未来に至っては将来の柔道の五輪候補と言われていたが、借金で泣く泣く将来を断念せざるを得なかった。学費などすべて免除するからと、未来の柔道の実力を欲しがっていた高校も山ほどあった。けど未来は、自分だけいい思いなどしたくないとあっさり断った。

 バカな奴だ。高校で思いっきり柔道したかっただろうに。イバラの道を選ぶなんて。

 そんな過去を振り返りながらバイトに行く途中、向こうの路地裏から女性の声が聞こえた気がした。
 甲斐は不穏を察して路地裏を覗くと、そこには数人のチンピラが女の子を壁際に追いつめて取り囲んでいる。これは忌々しき事態だと甲斐は体が動いていた。

「お前ら何しているんだここで」

 チンピラどもは「ああ?」とでも言いたそうにこちらを振り向く。一目見て典型的な頭の弱そうな不良共であった。

 連中は「何か用かクソガキ」と、おどけた態度で返し、甲斐をただの子供と侮った。

「その女の子を放してやれよ。朝から女の子をナンパなんて下半身が随分とお盛んだな」
「んだと!俺達をバカにすんのかガキが」

 チンピラ一人が甲斐にナメた様子で近づく。甲斐の胸ぐらをつかもうとした時、逆に男の胸ぐらをつかみ返して勢いよく投げ飛ばした。

「ぐはあ!」

 と、地面に仰向けに倒れる男。
 架谷家伝家の宝刀の背負い投げである。柔道家の祖母から伝授されたものだ。

「て、てめえ!」

 しびれを切らしたチンピラ達が今度は一斉に襲い掛かってきた。甲斐は冷静に手慣れたように待ち構えて、ひじ打ち、上段蹴り、大外刈りで黙らせる。

 チンピラ共は敵わないと知り「覚えていろ」とお約束な捨て台詞を吐いて去って行った。祖父からスパルタで習っていた古武道のおかげだ。


「本当にありがとうございました。なんとお礼を申したらよいか……」

 感激に頭を下げた女の子はとてつもない美少女で、淑女のような雰囲気に逆に恐縮してしまいそうだった。
 日本人離れした顔つきに、すらっとした女性らしい体型、腰までの長い髪、漂う甘い花の香りに思わずドキっとした。

「いえいえ。いいんです。困っている人は放っておけないので。ああいう不良共はこの時間でもよくここら辺にいるので、一人歩きは気を付けてください。では失礼」

 いい事したなとすぐに立ち去ろうとした。

「待ってください。せめてお名前だけでも教えてくれませんか?」
「え、な、名乗るほどの者ではありませんよ俺は」
「お願いします。ぜひ知りたいのです」

 どうしてもお願いしてくる美少女に、甲斐は仕方なさそうに口を開く。

「架谷……架谷甲斐、です…」
「かさたに、かい、さん……っ、やっぱりもしかして」

 美少女はふと何かに気づいた様子だったが、

「あ、あの!急ぐんで失礼しますね!」

 バイトの遅刻を気にして、やむを得ずそのままに立ち去った。

 ひゃーすっごい美少女だったなぁ。今まで見た女の子の中で一番綺麗な子だったかも。芸能人やモデルなんて目じゃない美しさというか、女神のようだったな。あんな綺麗な子、実際にいるもんなんだなあ。
 
 しかもなんかどっかで会った事があるような気が……気のせいか。
 そんな事を考えながら仕事先へ直行したのであった。
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