我ら月夜の白兎団

CROW莉久

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第1章 結成 「月夜の白兎団」

第5話 月夜の白兎団

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「そんな……ラビ助……」


 夢野が膝から崩れ落ち、手にもっていたバットも床に転がる。


 そのかつてはラビ助であっただろう黒いうさぎは、ゲージを飛び出すと共に徐々に大きくなっていき、最終的には、大型犬と同じくらいのサイズにまでになった。

 そして口には大きな牙、前足には大きく鋭い爪が生えた。


「乗っ取られると姿も変わるのかッ……」


 黒いうさぎは、膝から崩れ落ち放心状態の夢野にその鋭利な爪で切り裂こうと飛びかかる。


 急いで、夢野の黒いうさぎの間に入りその爪をバットで防ぐ、バットと爪が接触した瞬間火花が散る。


 もの凄い衝撃が全身を襲う。

 「力」がなければ、いとも簡単に壁まで吹き飛ばされていただろう。


「ぐ、ああぁぁ!!」


 渾身の力で爪を押し返す。

 黒いうさぎはそのまま1、2メートル跳ね返されたが、すぐさま体勢を立て直す。

 そしてもう一度夢野へと飛びかかり、切り裂こうとする。


 2度目の攻撃のその爪はさっきよりも速さが桁違いだった。

 が、かろうじてその一撃を防ぐ。

 だが、うさぎがすぐさま体を回転させ、後ろ足で僕の体を蹴り飛ばす。


「ガッッ!?」


 そのままロッカーまで吹き飛ばされ、バットも遠くまで飛んで行ってしまう。

 そして今度こそ夢野を切り裂こうとその爪を振り下ろす。

 急いで壁を蹴り、その攻撃を防ごうと飛びかかるが間に合わない。



 ……だが、その振り下ろされた爪は、ほんの一瞬夢野の首元で停止した。


「――ッナイスだ!!ラビ助ッ!!」

「おおぉぉ!!」


 その一瞬の間に左手でさっきの何倍もの力で渾身アッパーをうさぎの腹に叩き込む。

 アッパーをくらったうさぎはケージ近くの壁に叩きつけられた。


 すぐさま夢野が落としたバットを拾い、うさぎに追い打ちをかけようと飛びかかるが、爪でガードされてしまい、鍔迫り合いとなる。


「夢野!!」


 鍔迫り合いの中僕は夢野に叫ぶ。

 その声で我に返った夢野はハッとした顔をする。


「ラビ助はまだあの中で影と苦しい戦いをしているんだ!!それなのに!飼い主の君がそんなんで……どうする!!」


 バットが徐々に押される。


「ラビ助を本当に大事に思っているなら!!その苦しい戦いから解放して……みせろ!!」


 鍔迫り合いの中うさぎに蹴りをくらわして窓際まで吹き飛ばす。


「そうですね、はい、確かにそうです。」


 と言いながら、夢野は静かに立った。


「私は何をしていたんでしょう。飼い主ならペットを助けるのが役目です。」


 そう言いながら夢野は僕の前まで歩いてきて、僕の目を見ながら言った。


「ここからは、私に任せてください。」


 その目からは強い意志を感じた。


 夢野は、うさぎの方を向き、意識を集中する。

 右手の模様が強く光り、部室が黄緑色の光に包まれる。


 うさぎが夢野に飛びかかる。

 そして「何か」をコピーした夢野はうさぎの爪を躱し、そのまま前足をつかみ床に叩きつけた。


 間違いない、今夢野は僕の「力」を自身の体にコピーした。どうやら彼女の「能力」はそこまで出来るらしい。


 そして右手を前に出し一瞬で1本の刀が出現した。


「ラビ助、ごめんね……今までありがとう……」


 と彼女は目から涙が零れ落ちると同時に刀を突き刺した。


 刀が突き刺さったうさぎが段々小さくなっていき、元のラビ助のサイズにまで戻り、黒かった体も血で赤く染っているが、元の色に戻った。


 彼女は刀を抜くと、ラビ助の亡骸を抱きしめた。


「ごめんね……ごめんね……ラビ助……」

「君を拾ったときに……絶対に君を守るって言ったのに……」


 亡骸が静かに輝き始め、徐々に透けてきている。

 どうやら影に乗っ取られると死体は残らないらしい。


 亡骸が完全に消えると床に赤色の首輪と何粒もの涙が落ちた。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 戦いが終わってすぐラビ助のお墓を作った。場所は、部室の窓から出るとすぐの場所にすることにした。

 お墓には「ラビ助ここに眠る」と書いた板を刺し、中にはケージと餌と赤色の首輪を入れることにした。


「もう時間も遅いのでお花は明日買いに行きましょう。」


 と夢野は言った。涙はもう止まっている。


「それと、さっき団体の名前明日までに考えてきてくださいって言ったんですけど、やっぱり私が今決めても良いですか?」


「うん、良いよ。」


「私「月夜の白兎団」が良いです。」


「どうして?」


「今夜は月が綺麗なので「月夜」、そして「白兎」はラビ助のことです。」


「うん、とても良い名前だね。」


「ありがとうございます。嬉しいです!」


 すると夢野がこちらを向いて言った。


「ラビ助の名前出したらなんだか思い出話がしたくなったのでしばらく付き合ってくれますか?」


「ああ、もちろん良いよ」


 と笑顔で返す。


「ありがとうございます!」


 そう言った彼女の笑顔はとても綺麗だった。


「えーとですね、私とラビ助が初めて会ったのが――――」



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



 次の日の放課後、僕はまた部室の前にとある紙を持ってきていた。

 担任に出すものだと思っていたが、部長に直接出すらしい。

 ドアをノックして入る。


「失礼しまーす」


「あ、アラタくん!どうぞー……ってその紙ってもしかして!」


「白兎団と現代文化研究同好会のふたつでお世話になりますね、夢野団長。」

 と言って入部届けを夢野に渡す。


「よろしくお願いします!アラタくん!あ、けど団長じゃなくて部長の方が良いですよ、一応白兎団は他の人には秘密ですし。」


「ははっ、じゃあよろしくお願いしますね、夢野部長」


 こうして月夜の白兎団が結成され、現代文化研究同好会にも記念すべき2人目が入ることになった。

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