【選択された感覚は完全に消去されました】

【墓を掘る】

感覚スミスの街では、新しい感覚が生まれるたび、それは噴水のように湧き出し、街の空気をわずかに変える。人々はその噴水の周りに集まり、新たな感覚を味わい、時にはそれを取り入れて次のスミスを生み出していく。誰もが「感覚」という水を共有し、互いに影響を与え合いながら生きている。

私もまた、今日一つのスミスを作った。いや、スミスなどという壮大なものではない。ただの小さな滴に過ぎない。それでも、この街では滴一つでさえも感覚として認識される。

きっかけはKだ。彼が新しいスミスをこの街に放った。鮮烈な色をまとい、彼らしい繊細さと力強さを兼ね備えた作品だ。それを見た瞬間、私の中で何かがざわついた。羨望だろうか？焦りだろうか？いや、そんな単純な感情ではなかった。ただ、「私もやらなきゃ」という衝動が湧き上がったのだ。

次にAがそのスミスに反応し、さらにそれを発展させた。そして、Sが加わるという話も聞いた。そうなると、もうその輪は完全に閉じたものになる。誰も入れない、いや、私が入る余地のない輪。

その輪の外で私は、一人スミスを生み出した。いや、正確に言えば、生み出すふりをしただけだ。そのスミスは、生まれた瞬間から死ぬことを前提に作られていたのだから。

「このスミスは今日死ぬ」──そう思いながら紡ぐ感覚は、空虚そのものだった。形にするたび、これが無意味だと自分で理解している。

Kはそのスミスに反応しない。いや、反応しているのだろう。「いいね」という薄っぺらいリアクションの形で。それは感覚スミスたちの街では、ただの視線に等しい。何も語らない、何も問わない、ただ「見た」という事実だけを示す視線。

一方でAは違った。彼女はそのスミスに感想をくれた。触れてくれた。だが、その触れ方はあまりに軽やかで、「気遣い」という言葉を通り越して「義務感」にすら思えた。「とりあえず何か言っておこう」そんな空気すら漂う反応だった。いや、そんなことを思う私がひねくれているのだろう。

この街では、輪の中に入ることが何よりも重要だ。輪の中にいる者だけが、お互いのスミスを共有し、次々に新しい光を生み出していく。だが、その輪は常に閉じられている。いや、もしかしたら開いているのかもしれない。ただ、私にはその入り口が見えないのだ。

KとAとS。その3人の輪は、私にはまぶしすぎる。輪の中心には、彼らが生み出すスミスの噴水がある。その噴水は絶え間なく湧き出し、互いの感覚を溶け合わせ、新しい色を生み出している。それを見るたび、私は自分の足元の小さな滴が無意味に思えてくる。

私はスミスを噴水に沈めた。そのスミスは誰の記憶にも残らない。ただの泡のように消えていくだけだ。それでいい。誰にも見られることのないスミス。それが私にはふさわしいのだろう。

「邪魔して悪かったな」──そう呟きながら、私は一人で噴水を後にした。輪の外から覗き込む自分の姿が、嫌になる。それでも覗いてしまう。それが私という人間の癖だ。

努力が足りなかったのだろうか？もっと早く反応すればよかったのだろうか？それとも、私自身の存在がそもそも間違いだったのだろうか？そんな問いを抱えながら、私は今日もまた一つのスミスを紡ぎ、そして自ら手放していく。

私は輪の外で螺旋を描き続ける。誰にも触れられないスミス。誰にも届かないスミス。それでも私は、それをやめることができない。

輪の中にいる者たちが新しいスミスを紡ぎ出すたびに、私はそれに触発されて何かを作る。でもそれは必ず輪の外で生まれ、外で死んでいく。

今日死んだスミスは、私の中で新しい螺旋を描き始めている。それが私の宿命なのだろう。輪の外でスミスを紡ぎ続ける。それが私という感覚スミスの役割だ。