【選択された感覚は完全に消去されました】

和ノ白

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【あー、希死念慮】

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感覚スミスの街では、どんな感覚でも紡ぎ出せる。いや、紡ぎ出さなければならないのだ。痛みも悲しみも喜びも、一度は壊れてしまった心の欠片から、美しく再構成する。それが感覚スミスの仕事であり、生きる理由だ。誰もが、自分の中にある感覚を形にすることで、かろうじてこの街での居場所を保っている。

だが、時に思うのだ。「この感覚そのものを消してしまえたら」と。

消えたい、と思う感覚は、私の中でひっそりと螺旋を描き続ける。そんな感覚を紡ぐことに意味があるのだろうか?否、ないのだ。それでも私はその感覚を無視できない。それがこの世界の皮肉であり、感覚スミスの宿命だった。

私の心は、ガラス細工のようだ。いや、もっと脆いものだ。乾いた砂で作った彫刻のように、少しの風で崩れ去る。それを修復するたびに、私は痛みと向き合う。

感覚スミスの工房に置かれた小さな「記憶の球体」──それは心の傷を再現する装置だ。私はその球体に触れ、自分の壊れた感覚を眺める。そこには、砕け散ったガラスのような断片が映し出されている。あまりにも鮮やかで、あまりにも生々しい。

「また割れたのか」と呟く。それは驚きでも怒りでもなく、ただの事実だ。割れた感覚を接着剤のような技術で繋ぎ止め、形を整える。その作業は、無駄であることを知りながらも、やめられない。

周りのスミスたちの工房を見るたびに思う。なぜ彼らの感覚はあんなに輝いているのだろう、と。光の強さが違う。響き渡る音が違う。匂いの濃さが違う。それに比べて、私の感覚はどうだ?どれもこれも、曖昧で淡い。

いや、彼らもまた仮面をかぶっているのかもしれない。そう思うと少しだけ楽になる。だが、そんな仮面すらも作れない自分を思い出すと、また苦しくなる。私は自分を隠すことすらできないスミスなのだ。

他人が眩しい。その眩しさに吐き気がする。けれど、それでも彼らの光から目を離すことはできない。私はその光を羨み、憧れ、そして憎むのだ。

死にたい、ではない。私が求めるのは、ただ消えることだ。工房の記憶の球体に触れるたびに、私はその思いを紡ぎ出す。消えたい、という感覚の色は、無色透明に近い。それは、光でも影でもない曖昧な存在だ。

消えた先にある世界が見たいと思う。私がいなくなったとき、この街の光景はどう変わるのだろうか?誰かが私を悲しむのか、それとも気づきもしないのか。それを確かめたいという気持ちが、私の中に確かにある。

けれど、その感覚を誰にも伝えられないのだ。伝えることは「完成」を意味する。それを恐れている自分がいる。

希死念慮という感覚を消そうとしても、それは決して消えない。それどころか、感覚スミスとして生きる限り、その感覚を紡ぎ出し続ける宿命にあるのだ。皮肉なことだよな。

私の工房には、まだ修復しきれていない感覚の断片が積み上げられている。それらは、私が繰り返し向き合わなければならない感情の欠片だ。

それでも私は手を動かす。砕けた感覚を拾い集め、繋ぎ合わせる。たとえその先に何もないと分かっていても、繰り返す。それが感覚スミスの生きる道なのだ。
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