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しおりを挟む「ご機嫌いかが?ジェニファー」
「はいお陰様にございます。妃殿下に置かれましては本日も殊更…」
「堅苦しい挨拶は抜きよ、ジェニファー。今日は久しぶりに貴女とお話できるのだから、時間が惜しいわ」
今日もジェニファーは美しいわ。
蜂蜜を溶かしこんだような艶やかなブロンドに翡翠をはめ込んだような理知的な瞳。そのまわりを精緻な長いまつ毛が彩っているの。
ジェニファーは私の祖国のエルフ族とそっくりな色彩を持っているのですわ!
だからでしょうか、こんなにもこの子に惹き付けられるのは…。
いいえ、それだけではないわ。この子には将来この国の王妃となるべく王妃教育が施されていますから、マナーもダンスも社交術だって完璧。そこに生来の思慮深さや気品も相まって、他のどの令嬢にも劣らないレディーとなったのですわ。
見た目だけではなくて中身でもわたくしをメロメロにしてしまうなんて、ジェニファーはなんて罪な子なのでしょうか…。
「今日はメリルはいないのね」
メリルというのはジェニファーの弟。メリルもジェニファーと同じ色彩を持っておりますの。
2人とも侯爵夫人に似て儚げな顔つきをしているのだけれど、ジェニファーが瞳に知的な光を湛えているならば、メリルは春の陽射しを感じさせるような暖かな眼差しをしております。そのおかげでご令嬢方から人気なのです。
この子もまたわたくしの愛しい子なのですから、人を惹き付けてしまうのも当たり前ですわよね。
「例の令嬢に捕まっておりますわ…」
「まあ!嘆かわしいわ。何度もジェニファーとメリルが諌めているのに…あの方は理解する能力がないのかしら…」
「その図々し…、底抜けの明るさが彼女の美点とは周りの令息たちが申していることでございます」
「その件に関してはわたくしの方でも手を打っておきますわ。仮にも貴族でありながらあのような立ち居振る舞い…他国の貴族の方々がいらっしゃる夜会には到底出せませんもの。早急になんとかしなければ…」
「ブリジット様のお手を煩わせてしまって申し訳ございません…」
「いいのよ、もっと早くわたくしが打って出ればこんなことにはならなかったのだし、私の責任でもありますもの」
あの令嬢というのは、社交界で最近問題になっている男爵令嬢のことですわ。あの方は男爵令嬢という身でありながら、自分より身分が高い殿方にベタベタとくっつき、甘ったるい言葉をかけては追いかけ回し、と迷惑行為をはたらいているのでございます。
大体の令息方は、不愉快であるから近づけさせないようにしたり(それでもメリルのように強引に迫られる)、はたまた男爵令嬢はお顔だけは可愛らしいので、遊ぶだけ遊んでみようか、などという方ばかりなのですが、よりにもよってこの国の重要な地位におります方々が絆されつつあるのでございます。
第二王子、宰相の息子に騎士団団長の息子…。この方々にはきちんとした婚約者がいらっしゃるはずなのですけれど。
曰く、「地位じゃなくて俺自身を見てくれた」だの、「僕の能力を素直に認めてくれた」だの、「純粋無垢な彼女を守ってあげたいと思った」だの。
上辺だけ耳障りのよい言葉をかけられるだけで舞い上がってしまうなど、お可哀想なおつむをしていらっしゃってるわ。
社交においては何より隙を見せてはなりません。それは貴族は各々が少なからず国の重要な部分を担っており、それに関する情報は流出しては命取りになるからでございます。
ですから貴族は、家同士の結束を強め、裏切らないという約束として政略結婚をするのですわ。
ですのに、やれ恋だ運命だなどと…王族・貴族として望むべくないもの…とまでは申しませんが、それより優先しなければならないことが沢山あるのだとなぜ分からないのでしょうか。
少なくとも、あの男爵令嬢と関わりあいになる前はあの方々も多少は頭が働くとわたくしは思っていたのですけれど。
何にせよ頭が痛い問題ですわ…
まあ今日はせっかくジェニファーとお話しできるのだから、お茶会を楽しみましょうか。
わたくしはエレナにあることをお願いして、早くわたくしと愛し子たちに安寧が訪れますようにと祈りました。
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