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第一話
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「なぁ、シーラよ。運命の相手って信じるか?」
いつものように和やかなムードのティータイム。
おすすめだと貸した小説のページをめくりながらカール殿下は私にそんなことを聞いていた。
「そうですね。中々、その小説のようにはいかないかと思いますが、もし居たら素敵ですね」
私は何気なくそんな返事をする。
カール殿下とは私が五歳、殿下が四歳のときより婚約をしており、もう十三年も経つ。
殿下が十八歳になったら結婚をするという約束なのでもうすぐ彼と私は夫婦となる予定だ。
長い付き合いなのと、私が一つだけ歳上なのもあって、殿下は私に何でも相談していた。
きっと、殿下にとっての私は婚約者というだけでなく、姉とか親友とか、そういった関係にも近いものを感じていたのだと思う。
私は何でも頼ってくる殿下のことが好きだったし、愛おしいとも思っていた。
きっと夫婦になってもお互いに支え合って良い関係を継続できる。そう思っていたのに――。
「僕は運命の相手を見つけたんだ」
「えっ?」
その言葉を聞いたとき、私は短く反応した。
その意味に気付くのに時間がかからなかったからだ。
運命の相手というのは私じゃない。
私だったら殿下の性格上、こういう言い方はしない。
長い付き合いゆえに、分かってしまったのは私にとっての幸運なのかそうでないのか。
議論の余地はあるが、とにかく私は彼の運命の相手ではないと思われていると察した。
長い沈黙のあとに殿下が再び口を開く。
「ゼルマン子爵家のマリーナって知っているかい?」
「話したことはありませんが、名前と顔程度は認識しております」
マリーナ・ゼルマンか。なるほど、カール殿下好みの女性かもしれない。
派手で妖艶な見た目をしており、如何にも世の男性が夢中になりそうな雰囲気な方なのでカール殿下に限った話じゃないが。
「初めてなんだよ。この僕が、こう。ビビっと来たのは。手を握られたんだけど、ドキドキするんだ。き、君に手を握られてもそんなにドキドキはしないだろ? だから、僕は恋したことがなかったんだと思う」
ああ、そんなことを言うのか。
私も幼いときは意識していなかったが、それなりに殿下のことを異性として意識したときもあったんだけど。
二人とも同じ気持ちだと思っていただけに、恋をしていなかったと言われたのには少しだけショックだった。
でも、仕方ないことだ。
十三年も前に勝手に決められた縁談なんだから、カール殿下としても本意でないところはあっただろう。
だから、私のことを好いていないことに文句を言うのは筋違いである。
慕ってくれていたことを勘違いしていた私が悪いのだ。
「それで、殿下はどうされるおつもりなんです?」
「君にこの話をするために僕なりに父上を説得したり、君の父上にも謝罪の手紙を書いたりした。僕は君との婚約を破棄する」
「そう、ですか。到底受け入れられませんが、殿下がそう仰るのなら抗う術はありませんね」
涙を堪えるのが精一杯だった。
私はこの日、カール殿下の婚約者ではなくなってしまった。
悲しかったけど仕方ない。もう顔を合わせることは公の場だけになるだろう。
そんなことを思いながら帰路についた。
翌日の夕方。その訪問に私は驚かされる。
「シーラ、約束のランチに来ないなんて酷いじゃないか」
いつものように和やかなムードのティータイム。
おすすめだと貸した小説のページをめくりながらカール殿下は私にそんなことを聞いていた。
「そうですね。中々、その小説のようにはいかないかと思いますが、もし居たら素敵ですね」
私は何気なくそんな返事をする。
カール殿下とは私が五歳、殿下が四歳のときより婚約をしており、もう十三年も経つ。
殿下が十八歳になったら結婚をするという約束なのでもうすぐ彼と私は夫婦となる予定だ。
長い付き合いなのと、私が一つだけ歳上なのもあって、殿下は私に何でも相談していた。
きっと、殿下にとっての私は婚約者というだけでなく、姉とか親友とか、そういった関係にも近いものを感じていたのだと思う。
私は何でも頼ってくる殿下のことが好きだったし、愛おしいとも思っていた。
きっと夫婦になってもお互いに支え合って良い関係を継続できる。そう思っていたのに――。
「僕は運命の相手を見つけたんだ」
「えっ?」
その言葉を聞いたとき、私は短く反応した。
その意味に気付くのに時間がかからなかったからだ。
運命の相手というのは私じゃない。
私だったら殿下の性格上、こういう言い方はしない。
長い付き合いゆえに、分かってしまったのは私にとっての幸運なのかそうでないのか。
議論の余地はあるが、とにかく私は彼の運命の相手ではないと思われていると察した。
長い沈黙のあとに殿下が再び口を開く。
「ゼルマン子爵家のマリーナって知っているかい?」
「話したことはありませんが、名前と顔程度は認識しております」
マリーナ・ゼルマンか。なるほど、カール殿下好みの女性かもしれない。
派手で妖艶な見た目をしており、如何にも世の男性が夢中になりそうな雰囲気な方なのでカール殿下に限った話じゃないが。
「初めてなんだよ。この僕が、こう。ビビっと来たのは。手を握られたんだけど、ドキドキするんだ。き、君に手を握られてもそんなにドキドキはしないだろ? だから、僕は恋したことがなかったんだと思う」
ああ、そんなことを言うのか。
私も幼いときは意識していなかったが、それなりに殿下のことを異性として意識したときもあったんだけど。
二人とも同じ気持ちだと思っていただけに、恋をしていなかったと言われたのには少しだけショックだった。
でも、仕方ないことだ。
十三年も前に勝手に決められた縁談なんだから、カール殿下としても本意でないところはあっただろう。
だから、私のことを好いていないことに文句を言うのは筋違いである。
慕ってくれていたことを勘違いしていた私が悪いのだ。
「それで、殿下はどうされるおつもりなんです?」
「君にこの話をするために僕なりに父上を説得したり、君の父上にも謝罪の手紙を書いたりした。僕は君との婚約を破棄する」
「そう、ですか。到底受け入れられませんが、殿下がそう仰るのなら抗う術はありませんね」
涙を堪えるのが精一杯だった。
私はこの日、カール殿下の婚約者ではなくなってしまった。
悲しかったけど仕方ない。もう顔を合わせることは公の場だけになるだろう。
そんなことを思いながら帰路についた。
翌日の夕方。その訪問に私は驚かされる。
「シーラ、約束のランチに来ないなんて酷いじゃないか」
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