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魅了魔法を使ったワケ(ウォルフ視点)
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「エリーシャ、どうやら僕には魅了魔法の才能がないみたいだ。今まで、勉学でも運動でも目標を達成出来なかったことなどなかったが、こればっかりはお手上げだよ」
「ですから、魅了魔法などに頼らずに素直になった方が良いとアドバイス差し上げたのですが……。シャルロット様にご自分の好意をそのまま伝えられれば――」
「それは出来ない――!」
僕には婚約者がいる。
名をシャルロット・キャメルンといい、一時は社交界で最も美しいと評されていた侯爵家の長女だ。
初めて会ったとき、僕はつい本音を滑らせてしまった。シャルロットのように綺麗な方を見たことがない、と。
彼女は微笑み、社交辞令だと受け取ったらしい。その日から僕はパーティー会場で彼女を見かけると自然に目で追うようになったというのに……。
シャルロットと結婚したい。僕はそう思い、彼女に求婚するに相応しい人間になるために必死で努力して自分を磨いた。
一般教養から武術に至るまで、自分が納得行くまで突き詰めて自らを高める努力をしたのだ。
今の自分ならシャルロットに求婚しても恥ずかしくない。
そう思えた矢先、父上が勝手に婚約者を決めた。
どうやら、貴族の勢力争いの出汁に僕は使われたらしい。
不本意だったが、父上である国王陛下の命令は王子といえども絶対。
僕は父上が勝手に決めた女性と婚約することとなり、絶望した。
いや、絶望を通り越してまだ見ぬ婚約者を呪った。その女のせいで僕の運命は最悪な方向に決まったのだ、と。
――だから、初めての顔合わせの日……僕は驚いた。
目の前にあれほど恋い焦がれたシャルロットがいたのだから。
僕は素直に喜べなかった。
彼女の目から恐れを感じ取ったからだ。
シャルロットは政略結婚の為に自分を偽って婚約者なっている――だから作り笑顔を浮かべながらも内心では僕を怖がっている。
ダメだった。彼女の恐れを感じ取った僕はシャルロットといる時間に耐えられなかった。
気付けば彼女を突き放すようなセリフを吐き、彼女を遠ざけていた。
そして、それを繰り返す度にシャルロットの気持ちが離れていくことに自己嫌悪に陥った。
――このままでは、この婚約は破綻する。
そんな未来を予感しても自分を変えることが出来ず、その上でシャルロットを諦めることが出来なかった。
『……魅了魔法? そ、そうだ。これだ!』
悩みに悩んでいたとき、僕は魅了魔法というものの存在を知ることとなる。
チャームとも呼ばれるそれは、何と意中の相手から好意を持ってもらえるという素晴らしい呪術なのだそうだ。
シャルロットからの好意を感じ取れることが出来れば、僕も自分を出すことが出来るかもしれない――。
僕はエリーシャに命じて、魅了魔法について調べさせた。
そこから僕は何度も彼女に魅了魔法をかけようとしたのだが――
結果は振るわず。シャルロットは相変わらず僕のことを恐れていた。
「素直な気持ちを伝えることがそんなに難しいのですか? ウォルフ様……」
「難しいなんてもんじゃない。好意を伝えて拒絶されたら、僕は生きる希望を無くすかもしれない。怖いんだ」
「拒絶などされるとは思えませんが……」
「はぁ……、お前はいつもポジティブで羨ましいよ」
今日も僕はシャルロットと食事をする。
いつものように時間を気にしている彼女に僕はきっと心無い言葉を吐くだろう。
我ながら最低な人間になったもんだ……。
◆ ◆ ◆
「ウォルフ様ぁ、ああ、ウォルフ様……。す、すみません。前の会食以来、ウォルフ様のことばかり考えてしまい、シャルロットは緊張してウォルフ様の目を見ることが出来ませんの……」
僕の嫌味な言葉を受けても何故か嬉しそうな顔をしていて変だな、とは思っていたが……まさかシャルロットの口からこのようなセリフが飛び出るとは。
何度も何度も失敗して、ようやく僕は魅了魔法に成功したらしい。
彼女は恥ずかしそうに目を伏せながら、僕のことをずっと考えていたと告白する。
「いや、失礼した。シャルロット、今日の君はいつもにも増して一段と美しいな。僕は君よりも可憐な女性を見たことがない」
気付けば僕は彼女の手を握っていた。
そして、びっくりするほどスラスラと素直な言葉が出てきたのである。
こんなにも変わるのか。彼女が僕に好意を向けてくれるだけで……。
そこから先は有頂天になって何を話したのかよく覚えていない。
とにかく、シャルロットの全てが愛おしくて。僕は彼女の顔や表情、声や仕草を感じることに夢中だったのだ。
「今日は随分と楽しそうでしたね」
「ああ。感謝するぞ、エリーシャ。君のおかげで見事にシャルロットに魅了魔法がかかった」
「……それは、何よりです」
エリーシャの表情が固いな。何か思うところがあるのか……?
まぁいい。とにかく、シャルロットの心を手に入れることが出来たのだ。
これで僕は何も恐れない。もう何も怖くない――。
「ですから、魅了魔法などに頼らずに素直になった方が良いとアドバイス差し上げたのですが……。シャルロット様にご自分の好意をそのまま伝えられれば――」
「それは出来ない――!」
僕には婚約者がいる。
名をシャルロット・キャメルンといい、一時は社交界で最も美しいと評されていた侯爵家の長女だ。
初めて会ったとき、僕はつい本音を滑らせてしまった。シャルロットのように綺麗な方を見たことがない、と。
彼女は微笑み、社交辞令だと受け取ったらしい。その日から僕はパーティー会場で彼女を見かけると自然に目で追うようになったというのに……。
シャルロットと結婚したい。僕はそう思い、彼女に求婚するに相応しい人間になるために必死で努力して自分を磨いた。
一般教養から武術に至るまで、自分が納得行くまで突き詰めて自らを高める努力をしたのだ。
今の自分ならシャルロットに求婚しても恥ずかしくない。
そう思えた矢先、父上が勝手に婚約者を決めた。
どうやら、貴族の勢力争いの出汁に僕は使われたらしい。
不本意だったが、父上である国王陛下の命令は王子といえども絶対。
僕は父上が勝手に決めた女性と婚約することとなり、絶望した。
いや、絶望を通り越してまだ見ぬ婚約者を呪った。その女のせいで僕の運命は最悪な方向に決まったのだ、と。
――だから、初めての顔合わせの日……僕は驚いた。
目の前にあれほど恋い焦がれたシャルロットがいたのだから。
僕は素直に喜べなかった。
彼女の目から恐れを感じ取ったからだ。
シャルロットは政略結婚の為に自分を偽って婚約者なっている――だから作り笑顔を浮かべながらも内心では僕を怖がっている。
ダメだった。彼女の恐れを感じ取った僕はシャルロットといる時間に耐えられなかった。
気付けば彼女を突き放すようなセリフを吐き、彼女を遠ざけていた。
そして、それを繰り返す度にシャルロットの気持ちが離れていくことに自己嫌悪に陥った。
――このままでは、この婚約は破綻する。
そんな未来を予感しても自分を変えることが出来ず、その上でシャルロットを諦めることが出来なかった。
『……魅了魔法? そ、そうだ。これだ!』
悩みに悩んでいたとき、僕は魅了魔法というものの存在を知ることとなる。
チャームとも呼ばれるそれは、何と意中の相手から好意を持ってもらえるという素晴らしい呪術なのだそうだ。
シャルロットからの好意を感じ取れることが出来れば、僕も自分を出すことが出来るかもしれない――。
僕はエリーシャに命じて、魅了魔法について調べさせた。
そこから僕は何度も彼女に魅了魔法をかけようとしたのだが――
結果は振るわず。シャルロットは相変わらず僕のことを恐れていた。
「素直な気持ちを伝えることがそんなに難しいのですか? ウォルフ様……」
「難しいなんてもんじゃない。好意を伝えて拒絶されたら、僕は生きる希望を無くすかもしれない。怖いんだ」
「拒絶などされるとは思えませんが……」
「はぁ……、お前はいつもポジティブで羨ましいよ」
今日も僕はシャルロットと食事をする。
いつものように時間を気にしている彼女に僕はきっと心無い言葉を吐くだろう。
我ながら最低な人間になったもんだ……。
◆ ◆ ◆
「ウォルフ様ぁ、ああ、ウォルフ様……。す、すみません。前の会食以来、ウォルフ様のことばかり考えてしまい、シャルロットは緊張してウォルフ様の目を見ることが出来ませんの……」
僕の嫌味な言葉を受けても何故か嬉しそうな顔をしていて変だな、とは思っていたが……まさかシャルロットの口からこのようなセリフが飛び出るとは。
何度も何度も失敗して、ようやく僕は魅了魔法に成功したらしい。
彼女は恥ずかしそうに目を伏せながら、僕のことをずっと考えていたと告白する。
「いや、失礼した。シャルロット、今日の君はいつもにも増して一段と美しいな。僕は君よりも可憐な女性を見たことがない」
気付けば僕は彼女の手を握っていた。
そして、びっくりするほどスラスラと素直な言葉が出てきたのである。
こんなにも変わるのか。彼女が僕に好意を向けてくれるだけで……。
そこから先は有頂天になって何を話したのかよく覚えていない。
とにかく、シャルロットの全てが愛おしくて。僕は彼女の顔や表情、声や仕草を感じることに夢中だったのだ。
「今日は随分と楽しそうでしたね」
「ああ。感謝するぞ、エリーシャ。君のおかげで見事にシャルロットに魅了魔法がかかった」
「……それは、何よりです」
エリーシャの表情が固いな。何か思うところがあるのか……?
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