27 / 27
自分らしく、素直に
しおりを挟む
「お疲れ様、今日もまた活躍したんだって?」
朗らかな笑みを浮かべ、アークハルト殿下は私の頑張りを自分のことのように嬉しがる。
それが私にとっては誇らしい。何よりも、それが私にとっての褒美だと思っている。
「魔物が減ったとはいえ脅威はなくなっていません。それに何かしらの事件も起こりますし」
「君らが楽をすることが出来る国家を作らねばならんのだが、つい君たちの優秀さに甘えてしまう。まったく、俺は自分の怠惰を呪いたいよ」
「そんな! 殿下は怠け者なんかではありません。こうして、私がここで過ごせるのは殿下のおかげなんですから」
そう、私は故郷には帰らなかった。
薄情者なのかもしれない。アーメルツの聖女になるために私は才能に抗って、努力し続けてきたのだから。
妹のエキドナが投獄された今、アーメルツには聖女はいないのだから。
ローエルシュタインの名を持ちながら、追放者という汚名を返上しても尚、この国にいることは故郷への裏切りになるのではと私は思い悩んだ。
でも、私は私の無実を信じて再起する機会を与えてくれたこの国への恩義に嘘をつけなかったのだ。
「まさか君がここに残りたいと、そういう選択をするとは思っていなかった。いや、俺はそう望んでいたが……」
「殿下には感謝しています。私がここに残っても気に病むことがないように、と。まさか、アーメルツと同盟を結ぶなんて」
「いや、どちらにしろ。あの同盟はオーウェンと俺で進めていた改革の一つだからな。互いに国力を上げるために足りない部分を国境を越えて補い合うことで、両国の発展を促す。我が国の聖女が守る範囲が二倍になったが、豊富な資源が得られたので生産力も増加したし……」
アークハルト殿下とオーウェン殿下が進めたという、両国の同盟。
互いに足りない要素を補い、発展していこうという趣旨らしいが、それに聖女としての務めも入っていた。
その同盟のおかげで私が戻らずともアーメルツはエルガイアの聖女による恩恵を受けることが可能となったのだ。
まぁ、アナスタシアさんがあちらでの生活を気に入ってくれているというのもあるみたいだけど……。
「ローエルシュタイン侯爵は君の言い分も聞かずに追い出したという一件が取り上げられて、爵位を剥奪されそうだと聞いた。だからこそ、君には戻ってきてほしかったみたいだな」
「アネッサがオーウェン殿下の補佐としての仕事を得られていなかったら、戻るという選択をしたかもしれませんね。でも、父には私は……」
「無理しなくていいよ。肉親だから必ずしも情を持って接しなくてはならないという法はない。最初に君を裏切ったのは侯爵とエキドナなのだ」
優しく肩を抱きながらアークハルト殿下は私のことを慰めてくれる。
一番悔しい思いをしていたとき、私の味方はアネッサしかいなかった。そんな彼女が窮地なら私は彼女のために故郷に戻ったと思うわ。
でも、父は違う。あのとき、私は父に信じて欲しかった。
天才であるエキドナと違って落ちこぼれだった私だけど、それに抗って結果を出したことを褒めてもらいたかった。
でも、父は私を信じるどころかエキドナの言葉しか飲み込んでくれなかったのだ。
このとき、私は父に見捨てられたと思った。だから、悲しいけど情とかそういう感情は一切沸かなかったのである。
「俺はルシリアのこと尊敬しているよ。弱音を吐かずに、その類稀なる努力で、よくここまで頑張ってくれた。正直に言って俺は君と離れたくなかった……!」
「アークハルト殿下……」
「ルシリア・フォン・ローエルシュタイン、俺と結婚してくれないか?」
時が止まったような、そんな錯覚がした。
今、アークハルト殿下は私にプロポーズされた? だって、殿下は亡くなった婚約者のことを……。
「あの、殿下はエリスさんのことを忘れられずにいて、今までずっと――」
「エリスのことは忘れられはしないだろうね。大切な人だったから。……だが、だからといって君に惹かれている自分の気持ちには嘘をつくつもりはない」
いつも以上に強い輝きを孕んでいるその瞳は、まっすぐに私の目を見つめている。
涼やかな風のように正直でストレートな告白に思わず私は息を呑んだ。
どうすればいいの? こんなとき、私はどんな言葉を……。
――何を悩んでいるのかしら。
アークハルト殿下が素直な気持ちを口にしてくれたんだから、私も思ったことをそのまま出せば良いだけじゃない。
「私などでよろしければ、喜んで殿下と共に未来を歩みたく存じます」
「ありがとう。この先、俺はこの国をもっと豊かにするために努力し続けると思う。君を見倣って、ね。だから、君は特等席で……、俺の隣でエルガイア王国の行く末を見守ってほしい」
腕に力を込めて、この国の未来を共に見てほしいと希望を伝えるアークハルト殿下のぬくもりを感じながら、私は自分の信念を貫いたことが間違いではなかったと実感した。
自分の才能のなさに絶望したことはあったけど、頑張り続ければいつかは報われる。
それを知ることが出来ただけでも私の人生は有意義だったのかもしれないわ――。
朗らかな笑みを浮かべ、アークハルト殿下は私の頑張りを自分のことのように嬉しがる。
それが私にとっては誇らしい。何よりも、それが私にとっての褒美だと思っている。
「魔物が減ったとはいえ脅威はなくなっていません。それに何かしらの事件も起こりますし」
「君らが楽をすることが出来る国家を作らねばならんのだが、つい君たちの優秀さに甘えてしまう。まったく、俺は自分の怠惰を呪いたいよ」
「そんな! 殿下は怠け者なんかではありません。こうして、私がここで過ごせるのは殿下のおかげなんですから」
そう、私は故郷には帰らなかった。
薄情者なのかもしれない。アーメルツの聖女になるために私は才能に抗って、努力し続けてきたのだから。
妹のエキドナが投獄された今、アーメルツには聖女はいないのだから。
ローエルシュタインの名を持ちながら、追放者という汚名を返上しても尚、この国にいることは故郷への裏切りになるのではと私は思い悩んだ。
でも、私は私の無実を信じて再起する機会を与えてくれたこの国への恩義に嘘をつけなかったのだ。
「まさか君がここに残りたいと、そういう選択をするとは思っていなかった。いや、俺はそう望んでいたが……」
「殿下には感謝しています。私がここに残っても気に病むことがないように、と。まさか、アーメルツと同盟を結ぶなんて」
「いや、どちらにしろ。あの同盟はオーウェンと俺で進めていた改革の一つだからな。互いに国力を上げるために足りない部分を国境を越えて補い合うことで、両国の発展を促す。我が国の聖女が守る範囲が二倍になったが、豊富な資源が得られたので生産力も増加したし……」
アークハルト殿下とオーウェン殿下が進めたという、両国の同盟。
互いに足りない要素を補い、発展していこうという趣旨らしいが、それに聖女としての務めも入っていた。
その同盟のおかげで私が戻らずともアーメルツはエルガイアの聖女による恩恵を受けることが可能となったのだ。
まぁ、アナスタシアさんがあちらでの生活を気に入ってくれているというのもあるみたいだけど……。
「ローエルシュタイン侯爵は君の言い分も聞かずに追い出したという一件が取り上げられて、爵位を剥奪されそうだと聞いた。だからこそ、君には戻ってきてほしかったみたいだな」
「アネッサがオーウェン殿下の補佐としての仕事を得られていなかったら、戻るという選択をしたかもしれませんね。でも、父には私は……」
「無理しなくていいよ。肉親だから必ずしも情を持って接しなくてはならないという法はない。最初に君を裏切ったのは侯爵とエキドナなのだ」
優しく肩を抱きながらアークハルト殿下は私のことを慰めてくれる。
一番悔しい思いをしていたとき、私の味方はアネッサしかいなかった。そんな彼女が窮地なら私は彼女のために故郷に戻ったと思うわ。
でも、父は違う。あのとき、私は父に信じて欲しかった。
天才であるエキドナと違って落ちこぼれだった私だけど、それに抗って結果を出したことを褒めてもらいたかった。
でも、父は私を信じるどころかエキドナの言葉しか飲み込んでくれなかったのだ。
このとき、私は父に見捨てられたと思った。だから、悲しいけど情とかそういう感情は一切沸かなかったのである。
「俺はルシリアのこと尊敬しているよ。弱音を吐かずに、その類稀なる努力で、よくここまで頑張ってくれた。正直に言って俺は君と離れたくなかった……!」
「アークハルト殿下……」
「ルシリア・フォン・ローエルシュタイン、俺と結婚してくれないか?」
時が止まったような、そんな錯覚がした。
今、アークハルト殿下は私にプロポーズされた? だって、殿下は亡くなった婚約者のことを……。
「あの、殿下はエリスさんのことを忘れられずにいて、今までずっと――」
「エリスのことは忘れられはしないだろうね。大切な人だったから。……だが、だからといって君に惹かれている自分の気持ちには嘘をつくつもりはない」
いつも以上に強い輝きを孕んでいるその瞳は、まっすぐに私の目を見つめている。
涼やかな風のように正直でストレートな告白に思わず私は息を呑んだ。
どうすればいいの? こんなとき、私はどんな言葉を……。
――何を悩んでいるのかしら。
アークハルト殿下が素直な気持ちを口にしてくれたんだから、私も思ったことをそのまま出せば良いだけじゃない。
「私などでよろしければ、喜んで殿下と共に未来を歩みたく存じます」
「ありがとう。この先、俺はこの国をもっと豊かにするために努力し続けると思う。君を見倣って、ね。だから、君は特等席で……、俺の隣でエルガイア王国の行く末を見守ってほしい」
腕に力を込めて、この国の未来を共に見てほしいと希望を伝えるアークハルト殿下のぬくもりを感じながら、私は自分の信念を貫いたことが間違いではなかったと実感した。
自分の才能のなさに絶望したことはあったけど、頑張り続ければいつかは報われる。
それを知ることが出来ただけでも私の人生は有意義だったのかもしれないわ――。
63
お気に入りに追加
3,832
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(54件)
あなたにおすすめの小説
【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません
との
恋愛
第17回恋愛大賞、12位ありがとうございました。そして、奨励賞まで⋯⋯応援してくださった方々皆様に心からの感謝を🤗
「貴様とは婚約破棄だ!」⋯⋯な〜んて、聞き飽きたぁぁ!
あちこちでよく見かける『使い古された感のある婚約破棄』騒動が、目の前ではじまったけど、勘違いも甚だしい王子に笑いが止まらない。
断罪劇? いや、珍喜劇だね。
魔力持ちが産まれなくて危機感を募らせた王国から、多くの魔法士が産まれ続ける聖王国にお願いレターが届いて⋯⋯。
留学生として王国にやって来た『婚約者候補』チームのリーダーをしているのは、私ロクサーナ・バーラム。
私はただの引率者で、本当の任務は別だからね。婚約者でも候補でもないのに、珍喜劇の中心人物になってるのは何で?
治癒魔法の使える女性を婚約者にしたい? 隣にいるレベッカはささくれを治せればラッキーな治癒魔法しか使えないけど良いのかな?
聖女に聖女見習い、魔法士に魔法士見習い。私達は国内だけでなく、魔法で外貨も稼いでいる⋯⋯国でも稼ぎ頭の集団です。
我が国で言う聖女って職種だからね、清廉潔白、献身⋯⋯いやいや、ないわ〜。だって魔物の討伐とか行くし? 殺るし?
面倒事はお断りして、さっさと帰るぞぉぉ。
訳あって、『期間限定銭ゲバ聖女⋯⋯ちょくちょく戦闘狂』やってます。いつもそばにいる子達をモフモフ出来るまで頑張りま〜す。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
完結まで予約投稿済み
R15は念の為・・
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
元聖女だった少女は我が道を往く
春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。
彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。
「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。
その言葉は取り返しのつかない事態を招く。
でも、もうわたしには関係ない。
だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。
わたしが聖女となることもない。
─── それは誓約だったから
☆これは聖女物ではありません
☆他社でも公開はじめました
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
「聖女はもう用済み」と言って私を追放した国は、今や崩壊寸前です。私が戻れば危機を救えるようですが、私はもう、二度と国には戻りません【完結】
小平ニコ
ファンタジー
聖女として、ずっと国の平和を守ってきたラスティーナ。だがある日、婚約者であるウルナイト王子に、「聖女とか、そういうのもういいんで、国から出てってもらえます?」と言われ、国を追放される。
これからは、ウルナイト王子が召喚術で呼び出した『魔獣』が国の守護をするので、ラスティーナはもう用済みとのことらしい。王も、重臣たちも、国民すらも、嘲りの笑みを浮かべるばかりで、誰もラスティーナを庇ってはくれなかった。
失意の中、ラスティーナは国を去り、隣国に移り住む。
無慈悲に追放されたことで、しばらくは人間不信気味だったラスティーナだが、優しい人たちと出会い、現在は、平凡ながらも幸せな日々を過ごしていた。
そんなある日のこと。
ラスティーナは新聞の記事で、自分を追放した国が崩壊寸前であることを知る。
『自分が戻れば国を救えるかもしれない』と思うラスティーナだったが、新聞に書いてあった『ある情報』を読んだことで、国を救いたいという気持ちは、一気に無くなってしまう。
そしてラスティーナは、決別の言葉を、ハッキリと口にするのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
マルルは、どうなったんですか?
オーウェン王子と相方のコラボ。
オーウェン出てくるたびにチラチラメガネがよぎります。よき
重要な場面でのセリフがぴぇじゃなかったら良かったのになぁ。