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南の海岸へ
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大量の瘴気を地上に撒き散らしている穴を塞ぐために私たちは動き出した。
その穴を塞ぐための道具を開発したという宮廷ギルド所属の魔道具開発チーム。
私たちの仕事は彼らを魔物たちから守ることである。
「やぁやぁ、魔道具開発チームの皆さん。お待たせしました。リッケルさん、特務隊の精鋭を集めてきましたよ」
ロイドさんは魔道具開発チームのリーダーであるリッケルさんに挨拶をする。
この方は王都大学の教授も務めているエルガイア王国の頭脳と呼ばれている男だ。
「ロイドくん、ご苦労だった。これから我々は王都から南にある海岸へと向かう。そこから、船に乗り、あるポイントへと動く」
「ふ、船に、ですか?」
そっか、考えていなかったけど、その大きな瘴気孔とやらは海にあるんだ。
これは思った以上に危険な旅になりそうね。
私は船という言葉を聞いて気を引き締めた。
「調べによると瘴気孔は海底にあるらしくてね。海面から魔道具を使う必要があるのだよ。だが、予想するにその辺りにはとんでもない量の魔物がいる。君たちには船と我々の安全を守ってもらいたい」
そういうことになるわよね。
船とか乗ったことないけど、大丈夫かしら。
大量の魔物がいるんでしょう。近付けさせないためには相当手早く処理しなきゃだめよね。
「ミュ、ミュー!」
「マルル、静かになさい」
「――っ!? き、君、それは……!?」
「す、すみません。この子、今朝からずっと離れなくて。船には乗せませんから」
そう、マルルが何度言い聞かせても付いてくるから、仕方なく連れてきた。
ロイドさんには同行の許可を頂いたけど、リッケルさんを驚かしてしまったみたい。
「これは驚いた……! 生命を司る、光の精霊、“アポロプト”の幼体ではないか!? 四大精霊の上位で神に最も近い存在と言われる!」
「ま、マルルが“アポロプト”? そんなことって……!」
リッケルさんはマルルの正体は光の精霊“アポロプト”だと言い放つ。
精霊族ってことは知っていたけど、そんなにすごい精霊だったんだ。
そもそも、精霊族に関する情報って全然手に入らないから調べようがなかったんだけど、さすがは王都大学で教授をされているリッケルさん。
マルルの正体をすぐに言い当ててしまった。
「その様子だと知らなかったのだな。まぁ、無理もあるまい。この蕾が開花するとき、“アポロプト”は成体に至る。君に懐いているのは、君の魔力の波長がよほど合っているんだろう。もっとも、本来人に懐くような存在ではないのだが」
「魔力の波長?」
「人それぞれ魔力のもつ波が違うのだよ。微差ではあるのだがね。精霊族は万物からほんの僅かに放出されている魔力を吸って成長する。ゆえに飲み食いをしない、ことくらいは知っているだろう? 君から放出されている魔力が“アポロプト”の幼体にとっては好物ということだ」
へ、へぇ~~。そうだったんだ。
じゃあ、マルルが私にずっとくっついている理由って食欲が原因だったってことかしら。
納得出来たけど、この子って意外と食い意地が張っていたのね……。
「“アポロプト”については分かっておらんことが多い。もっと観察していたい、が――」
「はい。リッケルさん、そろそろ出発の時間です」
「うむ。ロイドくんの言うとおり、既に瘴気孔を塞ぐための魔道具、“アークバリア”は馬車に積み終わったみたいだ。それでは出発しよう」
マルルの正体が明らかになったが、それについてどうこうする時間はなかった。
私たちは馬車に乗り込み、エルガイア王宮から南の海岸を目指して出発したのである。
◆
馬車に乗って、数時間、そこから中継地点の村で一泊して、さらに南に進んで……私たちはようやく海が見えるところにまで到着した。
「うっひゃー! 海っすよ、海!」
「ヴォルニット、うるさい……」
ヴォルニットさんはどこまでも永遠に続いている青色の海に興奮していた。
仕事じゃなければ、私もはしゃいでいたかもしれないわ。
ここから見える風景だけだと魔物の姿も見えないし、平和的だったから。
「不安、ですか? ルシリアさん」
「……ええ、ちょっとだけ不安です。船の上での護衛なんて初めてですから」
「ははは、そうですよね。僕らも全員初めてです」
顔に出ていたのか、ロイドさんは私の仄かな不安を言い当てる。
全員が初めてか。護衛自体は何度も経験がある時点で私とは初めてのレベルが違うんだろうけど……。
「正直に申しますと、僕ァ迷いました。経験の少ないルシリアさんを護衛チームに入れるかどうか」
「えっ? そ、そうなんですか?」
ロイドさんは私を今回のこのチームに入れるかどうか迷ったのだという。
そりゃ、そうよね。私はまだまだ新人だし、こんな重要で失敗が許されないような任務、荷が重いと思われるに決まっている。
「ですが、結局はフラットな視線で能力の高い人間を優先的にチームに加えることにしました」
「の、能力の高い人間を? では、なんで――」
「ルシリアさんは魔術師としての能力の高さにおいて最も信頼出来る方です。僕ァ人を見る目に関しては自信がありますから、ルシリアさんも自信を持ってください」
ニカッと笑いながら、私に自信を持つように促すロイドさん。
そこまで私のことを買ってくださるなんて……。
気付けば海がより一層、澄んで見えるようになっていた。
不安とか、緊張とか、そういうのが消えたからかもしれない。
「自信、かぁ」
「ミュ、ミュー!」
落ちこぼれだった私には圧倒的に自信がない。
でも、宮廷ギルドに入って、何度か自身の力で任務をやり遂げることが出来た。
それは私にとって、大きな成功体験だったと思う。
もう、卑屈だったあの頃に戻りたくない。天才と比べられて惨めだったあの頃に……。
そうよ、何を日和っていたのよ。
自信を掴み取るためにあれだけ努力したんじゃない。
何としてでも、今回の依頼も達成してみせる。
そのために私の能力を必要とされているのなら、出来ることはただ一つ。
私は、私のベストを尽くす。それだけなんだから――。
その穴を塞ぐための道具を開発したという宮廷ギルド所属の魔道具開発チーム。
私たちの仕事は彼らを魔物たちから守ることである。
「やぁやぁ、魔道具開発チームの皆さん。お待たせしました。リッケルさん、特務隊の精鋭を集めてきましたよ」
ロイドさんは魔道具開発チームのリーダーであるリッケルさんに挨拶をする。
この方は王都大学の教授も務めているエルガイア王国の頭脳と呼ばれている男だ。
「ロイドくん、ご苦労だった。これから我々は王都から南にある海岸へと向かう。そこから、船に乗り、あるポイントへと動く」
「ふ、船に、ですか?」
そっか、考えていなかったけど、その大きな瘴気孔とやらは海にあるんだ。
これは思った以上に危険な旅になりそうね。
私は船という言葉を聞いて気を引き締めた。
「調べによると瘴気孔は海底にあるらしくてね。海面から魔道具を使う必要があるのだよ。だが、予想するにその辺りにはとんでもない量の魔物がいる。君たちには船と我々の安全を守ってもらいたい」
そういうことになるわよね。
船とか乗ったことないけど、大丈夫かしら。
大量の魔物がいるんでしょう。近付けさせないためには相当手早く処理しなきゃだめよね。
「ミュ、ミュー!」
「マルル、静かになさい」
「――っ!? き、君、それは……!?」
「す、すみません。この子、今朝からずっと離れなくて。船には乗せませんから」
そう、マルルが何度言い聞かせても付いてくるから、仕方なく連れてきた。
ロイドさんには同行の許可を頂いたけど、リッケルさんを驚かしてしまったみたい。
「これは驚いた……! 生命を司る、光の精霊、“アポロプト”の幼体ではないか!? 四大精霊の上位で神に最も近い存在と言われる!」
「ま、マルルが“アポロプト”? そんなことって……!」
リッケルさんはマルルの正体は光の精霊“アポロプト”だと言い放つ。
精霊族ってことは知っていたけど、そんなにすごい精霊だったんだ。
そもそも、精霊族に関する情報って全然手に入らないから調べようがなかったんだけど、さすがは王都大学で教授をされているリッケルさん。
マルルの正体をすぐに言い当ててしまった。
「その様子だと知らなかったのだな。まぁ、無理もあるまい。この蕾が開花するとき、“アポロプト”は成体に至る。君に懐いているのは、君の魔力の波長がよほど合っているんだろう。もっとも、本来人に懐くような存在ではないのだが」
「魔力の波長?」
「人それぞれ魔力のもつ波が違うのだよ。微差ではあるのだがね。精霊族は万物からほんの僅かに放出されている魔力を吸って成長する。ゆえに飲み食いをしない、ことくらいは知っているだろう? 君から放出されている魔力が“アポロプト”の幼体にとっては好物ということだ」
へ、へぇ~~。そうだったんだ。
じゃあ、マルルが私にずっとくっついている理由って食欲が原因だったってことかしら。
納得出来たけど、この子って意外と食い意地が張っていたのね……。
「“アポロプト”については分かっておらんことが多い。もっと観察していたい、が――」
「はい。リッケルさん、そろそろ出発の時間です」
「うむ。ロイドくんの言うとおり、既に瘴気孔を塞ぐための魔道具、“アークバリア”は馬車に積み終わったみたいだ。それでは出発しよう」
マルルの正体が明らかになったが、それについてどうこうする時間はなかった。
私たちは馬車に乗り込み、エルガイア王宮から南の海岸を目指して出発したのである。
◆
馬車に乗って、数時間、そこから中継地点の村で一泊して、さらに南に進んで……私たちはようやく海が見えるところにまで到着した。
「うっひゃー! 海っすよ、海!」
「ヴォルニット、うるさい……」
ヴォルニットさんはどこまでも永遠に続いている青色の海に興奮していた。
仕事じゃなければ、私もはしゃいでいたかもしれないわ。
ここから見える風景だけだと魔物の姿も見えないし、平和的だったから。
「不安、ですか? ルシリアさん」
「……ええ、ちょっとだけ不安です。船の上での護衛なんて初めてですから」
「ははは、そうですよね。僕らも全員初めてです」
顔に出ていたのか、ロイドさんは私の仄かな不安を言い当てる。
全員が初めてか。護衛自体は何度も経験がある時点で私とは初めてのレベルが違うんだろうけど……。
「正直に申しますと、僕ァ迷いました。経験の少ないルシリアさんを護衛チームに入れるかどうか」
「えっ? そ、そうなんですか?」
ロイドさんは私を今回のこのチームに入れるかどうか迷ったのだという。
そりゃ、そうよね。私はまだまだ新人だし、こんな重要で失敗が許されないような任務、荷が重いと思われるに決まっている。
「ですが、結局はフラットな視線で能力の高い人間を優先的にチームに加えることにしました」
「の、能力の高い人間を? では、なんで――」
「ルシリアさんは魔術師としての能力の高さにおいて最も信頼出来る方です。僕ァ人を見る目に関しては自信がありますから、ルシリアさんも自信を持ってください」
ニカッと笑いながら、私に自信を持つように促すロイドさん。
そこまで私のことを買ってくださるなんて……。
気付けば海がより一層、澄んで見えるようになっていた。
不安とか、緊張とか、そういうのが消えたからかもしれない。
「自信、かぁ」
「ミュ、ミュー!」
落ちこぼれだった私には圧倒的に自信がない。
でも、宮廷ギルドに入って、何度か自身の力で任務をやり遂げることが出来た。
それは私にとって、大きな成功体験だったと思う。
もう、卑屈だったあの頃に戻りたくない。天才と比べられて惨めだったあの頃に……。
そうよ、何を日和っていたのよ。
自信を掴み取るためにあれだけ努力したんじゃない。
何としてでも、今回の依頼も達成してみせる。
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