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瘴気
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「ミュー、ミュ、ミュウ!」
不機嫌そうなマルルの声に私は起こされる。
そういえば、最近は特務隊の仕事ばかりで殆ど構ってあげられなかったわね。
「おいで、マルル」
「ミュー!」
「あら?」
近付いてきたマルルの頭の双葉から蕾が顔を出していた。
これって、成長したってこと? ていうか、重い。
見た目は大して変わっていないのに、膝の上に乗った感覚が想定の二倍くらいに感じる。
「精霊族ってことしか分からないのよね。あなたは一体、何者なの?」
「ミュ~?」
全身を傾けて、首を傾げるような仕草をするマルル。
言葉、通じているのかしら? イマイチ、よくわからないわ。
まぁいいか。今度、休みが取れたらいっぱい遊んであげよう。
ようやく一人で仕度をすることになれた私は手早く鬱陶しい寝癖を直して準備を始める。
今日からの仕事はなかなか大がかりなものとなるらしい。
ロイドさんは成功させれば先日頂いた勲章以上の褒美が貰えるとか言っていたけど……。
どんな依頼が来たのやら。単純に不安だわ。
そんなことを考えながら私は特務隊の執務室へと向かった……。
「やぁ、ルシリアさん。今日もきっちり時間どおり感心ですねぇ」
「は、はい。今日はヴォルニットさんとフレメアさんも同じ依頼なんですか?」
「うっす。ルシリアさん、よろしくっす」
「まだあたしたちも詳しいこと聞いてない……」
指定した時間どおりに執務室に入ると、既にヴォルニットさんとフレメアさんが室内にいた。
フレメアさんとは何度か同じ依頼を受けて仕事したが、ヴォルニットさんは基本的に護衛を受け持っていると聞いていたので、一緒に業務にあたるのは初めてね。
二人とも詳しい話は聞いていないみたいだけど、何なのだろう? やっぱり王族の護衛関連とかかしら。
「では、皆さんがお揃いになったところで、本日の依頼をお話しましょう。皆さんは“瘴気”というものについてご存知でしょうか?」
「瘴気、ですか? 瘴気というのは、そのう。魔物の核を形成する因子と言われている、魔界の空気でしたっけ?」
「さすがはルシリアさん。聖女だけあって、よく勉強されていますねぇ」
この世界は二つの別世界と繋がっていると言われている。
一つは天界と呼ばれる神や天使の居住域。そして、もう一つが魔界。悪魔や魔物の居住域だ。
魔物が地上に出てくるのは、その魔物を創り出す瘴気というものが魔界から地上へと漏れているからだと言われている。
魔界から地上に繋がる小さな穴が無数にあり、そこから瘴気が僅かに放出されていて、魔物が発生するのだと。
こんなことは常識というか、何というか、この世の摂理に関することだから当然知っているわよ。
「それで、今回の依頼というのは瘴気が何か関連するのですか?」
「とっても関係あります。昨今の魔物の大量発生の要因がその瘴気量の増加なのですが、それが大地震によってある場所の瘴気孔が広がったことに由来するものだという研究結果が得られたのです」
瘴気の量が増えれば、それに比例して魔物が増える。
だから去年から魔物の量が格段に増えたのは瘴気が増えたからなのは間違いないと言われていたけど。
まさか、その増えている場所が特定出来るとはね。それは大きな研究結果だわ。
原因さえ分かれば、それを止めることが出来るのだから。
「ということは、今回の依頼というのは……」
「その瘴気っていうのを減らすってことっすね」
「でも、どうやって……」
その前置きなら、そうとしか考えられないわよね。
でも、フレメアさんの言うとおりどうやってそんなことを可能とするんだろう? まぁ、方法があるから呼び出されたんだろうけど。
「方法は宮廷ギルドの魔道具開発チームが考えてくれました。瘴気孔に蓋をする為の魔道具を開発したのです」
すごいわ。そんなの作ったんだ。
エルガイア王国の叡智の結晶。王宮に認められた知識人が多く在籍するという宮廷ギルド所属の研究チームの一つ、魔道具開発チームは画期的な発明をしたと聞いて私は素直に驚いた。
「じゃ、じゃあ、もう魔物が出てこない世の中になるってことっすか?」
「いえいえ、世界中に無数にある瘴気孔を塞ぐのは無理です。ただ、今回塞ぐのは普通の瘴気孔よりも数段大きなサイズですから。それを一つ塞ぐだけで世界中の魔物の出現率を大きく減らすことは可能でしょうね」
そっか。そうよね。
そんな都合のいい話はないってことか。
世界中の山や森、海や草原など目に見えないくらいの小さな穴があってそこから瘴気が漏れて魔物が住まうようになっているんだもん。
簡単にそれは止められないわよね。
人や動物が多く住んでいるところは核が出来上がる前に、知らない間に潰されたりして魔物が生まれることは稀みたいだけど……。
まぁ、最近は瘴気が増えすぎてそれも怪しくなっているから、減らせるだけでもかなり違うことは間違いないわ。
それにしても、世界中に影響するサイズって、かなりの大きさよね。
「数段大きなサイズってどのくらい?」
「平均の十兆四千億倍です」
「「「――っ!?」」」
大きな数字すぎてちょっと理解が出来ないわ。
そもそも、生きていて兆って単位を使ったことがないわよ。
国家予算でも億単位で済む話だし。
「隊長~、その何兆倍とかよくわかんないっすけど、ヤバいところそうっすね。その大穴あいているところ」
「ええ、とってもヤバいところです。だから、我々特務隊が護衛をするんですよ。魔道具開発チームが無事に穴を塞げるように」
ようやく話が繋がった。
そういうことか。なるほど。
瘴気が何兆倍とか溢れ出てくるポイントに魔物が少ないはずがない。
だから無事に魔道具を使うにしても護衛が必須というわけか。
「ロイドさん、今、我々と仰せになりましたか?」
「ええ、今回の指揮は僕が執りますよ~。僕ァ安全な場所でこんなに大きな仕事を皆さんに丸投げするほど、無責任じゃあありませんから」
「ギルド長選挙の票稼ぎね」
「間違いないっすね」
責任ある行動を示そうとするロイドさんに対して、フレメアさんもヴォルニットさんも冷ややかじゃない。
でも、この依頼を達成出来たら、魔物に苦しめられている世界中の人たちを助けられるわ。
私たちは巨大瘴気孔を塞ぐという大仕事に協力することとなった。
不機嫌そうなマルルの声に私は起こされる。
そういえば、最近は特務隊の仕事ばかりで殆ど構ってあげられなかったわね。
「おいで、マルル」
「ミュー!」
「あら?」
近付いてきたマルルの頭の双葉から蕾が顔を出していた。
これって、成長したってこと? ていうか、重い。
見た目は大して変わっていないのに、膝の上に乗った感覚が想定の二倍くらいに感じる。
「精霊族ってことしか分からないのよね。あなたは一体、何者なの?」
「ミュ~?」
全身を傾けて、首を傾げるような仕草をするマルル。
言葉、通じているのかしら? イマイチ、よくわからないわ。
まぁいいか。今度、休みが取れたらいっぱい遊んであげよう。
ようやく一人で仕度をすることになれた私は手早く鬱陶しい寝癖を直して準備を始める。
今日からの仕事はなかなか大がかりなものとなるらしい。
ロイドさんは成功させれば先日頂いた勲章以上の褒美が貰えるとか言っていたけど……。
どんな依頼が来たのやら。単純に不安だわ。
そんなことを考えながら私は特務隊の執務室へと向かった……。
「やぁ、ルシリアさん。今日もきっちり時間どおり感心ですねぇ」
「は、はい。今日はヴォルニットさんとフレメアさんも同じ依頼なんですか?」
「うっす。ルシリアさん、よろしくっす」
「まだあたしたちも詳しいこと聞いてない……」
指定した時間どおりに執務室に入ると、既にヴォルニットさんとフレメアさんが室内にいた。
フレメアさんとは何度か同じ依頼を受けて仕事したが、ヴォルニットさんは基本的に護衛を受け持っていると聞いていたので、一緒に業務にあたるのは初めてね。
二人とも詳しい話は聞いていないみたいだけど、何なのだろう? やっぱり王族の護衛関連とかかしら。
「では、皆さんがお揃いになったところで、本日の依頼をお話しましょう。皆さんは“瘴気”というものについてご存知でしょうか?」
「瘴気、ですか? 瘴気というのは、そのう。魔物の核を形成する因子と言われている、魔界の空気でしたっけ?」
「さすがはルシリアさん。聖女だけあって、よく勉強されていますねぇ」
この世界は二つの別世界と繋がっていると言われている。
一つは天界と呼ばれる神や天使の居住域。そして、もう一つが魔界。悪魔や魔物の居住域だ。
魔物が地上に出てくるのは、その魔物を創り出す瘴気というものが魔界から地上へと漏れているからだと言われている。
魔界から地上に繋がる小さな穴が無数にあり、そこから瘴気が僅かに放出されていて、魔物が発生するのだと。
こんなことは常識というか、何というか、この世の摂理に関することだから当然知っているわよ。
「それで、今回の依頼というのは瘴気が何か関連するのですか?」
「とっても関係あります。昨今の魔物の大量発生の要因がその瘴気量の増加なのですが、それが大地震によってある場所の瘴気孔が広がったことに由来するものだという研究結果が得られたのです」
瘴気の量が増えれば、それに比例して魔物が増える。
だから去年から魔物の量が格段に増えたのは瘴気が増えたからなのは間違いないと言われていたけど。
まさか、その増えている場所が特定出来るとはね。それは大きな研究結果だわ。
原因さえ分かれば、それを止めることが出来るのだから。
「ということは、今回の依頼というのは……」
「その瘴気っていうのを減らすってことっすね」
「でも、どうやって……」
その前置きなら、そうとしか考えられないわよね。
でも、フレメアさんの言うとおりどうやってそんなことを可能とするんだろう? まぁ、方法があるから呼び出されたんだろうけど。
「方法は宮廷ギルドの魔道具開発チームが考えてくれました。瘴気孔に蓋をする為の魔道具を開発したのです」
すごいわ。そんなの作ったんだ。
エルガイア王国の叡智の結晶。王宮に認められた知識人が多く在籍するという宮廷ギルド所属の研究チームの一つ、魔道具開発チームは画期的な発明をしたと聞いて私は素直に驚いた。
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「いえいえ、世界中に無数にある瘴気孔を塞ぐのは無理です。ただ、今回塞ぐのは普通の瘴気孔よりも数段大きなサイズですから。それを一つ塞ぐだけで世界中の魔物の出現率を大きく減らすことは可能でしょうね」
そっか。そうよね。
そんな都合のいい話はないってことか。
世界中の山や森、海や草原など目に見えないくらいの小さな穴があってそこから瘴気が漏れて魔物が住まうようになっているんだもん。
簡単にそれは止められないわよね。
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まぁ、最近は瘴気が増えすぎてそれも怪しくなっているから、減らせるだけでもかなり違うことは間違いないわ。
それにしても、世界中に影響するサイズって、かなりの大きさよね。
「数段大きなサイズってどのくらい?」
「平均の十兆四千億倍です」
「「「――っ!?」」」
大きな数字すぎてちょっと理解が出来ないわ。
そもそも、生きていて兆って単位を使ったことがないわよ。
国家予算でも億単位で済む話だし。
「隊長~、その何兆倍とかよくわかんないっすけど、ヤバいところそうっすね。その大穴あいているところ」
「ええ、とってもヤバいところです。だから、我々特務隊が護衛をするんですよ。魔道具開発チームが無事に穴を塞げるように」
ようやく話が繋がった。
そういうことか。なるほど。
瘴気が何兆倍とか溢れ出てくるポイントに魔物が少ないはずがない。
だから無事に魔道具を使うにしても護衛が必須というわけか。
「ロイドさん、今、我々と仰せになりましたか?」
「ええ、今回の指揮は僕が執りますよ~。僕ァ安全な場所でこんなに大きな仕事を皆さんに丸投げするほど、無責任じゃあありませんから」
「ギルド長選挙の票稼ぎね」
「間違いないっすね」
責任ある行動を示そうとするロイドさんに対して、フレメアさんもヴォルニットさんも冷ややかじゃない。
でも、この依頼を達成出来たら、魔物に苦しめられている世界中の人たちを助けられるわ。
私たちは巨大瘴気孔を塞ぐという大仕事に協力することとなった。
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