【完結】濡れ衣聖女はもう戻らない 〜ホワイトな宮廷ギルドで努力の成果が実りました

冬月光輝

文字の大きさ
上 下
18 / 27

不十分な証人(オーウェン視点)

しおりを挟む
 我ながら自分の性格の悪さには辟易します。ですが、後で悔やむよりも先手を売っておいた方が良いと思ったのです。
 エルガイアより、“最強の聖女”アナスタシアさんを派遣していただけたのは僥倖でした。
 持つべきものは友。アークハルトさんには大変な借りが出来てしまいましたね。

 どうやら、ルシリアさんは彼の計らいで宮廷ギルドに身を預けている模様。
 アークハルトさんは公明正大な男です。
 彼から見て、ルシリアさんは宮廷に欲しい人材だったということは、能力も人格も問題無しと捉えたのでしょう。

 ルシリアさんという人材をエルガイアが得たことが、アナスタシアさんを借り受けるにあたって、プラスに働いたのは皮肉なお話かもしれませんねぇ。

「ローエルシュタイン家の様子はどうですか? アネッサさん」

「雰囲気は最悪と言っても良いでしょう。エキドナ様は荒れていますし、旦那様も憤慨しております」

「まぁ、そうなりますよねぇ」

 新たな聖女を借り受けたという話はエキドナさんのプライドを著しく傷付けたみたいです。
 これで、エキドナさんの主張が正しく、ルシリアさんが本当に杖を破壊した犯人ならば私は悪人では済まないでしょうね。

 今でも証拠もなしに疑っているのですから業が深いと言われれば否定はしません。
 真相の究明がしたい、というだけのことでこれだけのことをしたのですから。

「エキドナ様はオーウェン殿下のされたことが不当だとして、国王陛下に直談判すると言っていますが」

「ふーむ。エキドナさんには嫌われてしまったみたいですねぇ」

「それも致し方ないかと。あの方は自らの能力に絶対的な自信があり、他から見下されるのを何よりも嫌いますから」

 アネッサさんの仰るとおり、エキドナさんにはそのような部分がありました。
 生まれながらの強者ゆえの傲慢さ。力がある者は何をしても許されるという危険な思想。
 私も何度かそれについて言及はしたのですが、彼女にとって私もまた弱者だったのでしょう。
 王族という肩書をなくせば、魔法も使えぬ凡人。
 私の言葉は決して彼女には響いてくれませんでした。

 それでも、エキドナさんによってこの国は守られてきました。それは紛れもない事実です。
 ですから、こればかりは私の予想は外れて欲しいと願っていました。
 ルシリアさんに濡れ衣を着せたことが事実ならば、私は私の正義に基づいて動かなくてはならなくなりますから……。

「アナスタシアさん派遣の件は父上にも同意を得た話ですから心配は無用です。……それで、例の件はどうでしたか?」

「あの日のお昼過ぎにルシリア様が北の山に居たことを証明出来る人物は見つかりました。殿下の仰るとおり、あの場所を散歩コースにしている老人が何人か……。亜麻色の髪の魔術師を見たと」

「そうですか。やはり、“神託の杖”を破壊したのは……」

 期待した答えを頂いて、私は少しだけ寂しい気持ちになりました。
 あの北の山にはアークハルトさんと鷹狩に行ったことが何度かあるのですが、散歩をしている老人に会ったことが多かったので、それをルーティンにしている人が見つかるのでは、と思っていたのです。

 ――こんなにあっさりと証拠が見つかるとは。

 エキドナさんの驕りですね。
 絶対的な力を持つ聖女である自分が疑われることがないという自信がこのお粗末な結果を招いたのでしょう。

「アネッサさん、君はこれからどうします? 恐らく、ローエルシュタイン家は荒れますよ。エキドナさんの口車に乗せられたとはいえ、侯爵殿の罪も軽くはない……」

「実家に帰ります。ローエルシュタイン家の分家筋ですが、我が家にまでは罪は及ばないでしょうし」

「なるほど。君さえ良ければ私の側で執務をこなして欲しいと思うのですが。如何ですか?」

「えっ?」

 アネッサさんは優秀な方です。
 そして、何よりも情に厚い方です。
 いち早くルシリアさんが不当に扱われたことに対して憤りを感じて動き、主人を裏切った上での制裁を覚悟しながら自分の意志を貫いたのですから。
 それに証拠を集めるのも私の想定よりもかなり早かった。
 複数人の証人を見つけるのは楽な仕事ではなかったでしょう。

「ありがたいお言葉です。すべてが上手く行けば、殿下の勧誘を慎んでお受けしましょう」

「上手く行けば、ですか。やはり不安ですか?」

「ルシリア様がこの場にいれば、老人たちも彼女がいたと口を揃えられるかと。ですが、当人がいないなら、似た別人であったと言い逃れが可能ではありませんか」

 さすがですね。
 アネッサさんは物事の本質をよく捉えています。
 亜麻色の髪の魔術師を見た、というだけではルシリアさんがそこに居た、という証拠にはならない。
 そのとおりですし、エキドナさんもそう言い逃れするでしょう。

「ルシリア様をアーメルツに呼び戻しますか? それならば、証人が顔を確認できますし」

「そうですねぇ。かなり手続きが難しいかもしれません。一度、追放処分していますから。彼女の冤罪が証明出来ないことには、こちらに戻すことは出来ないかと」

 ルシリアさんに戻ってきてもらうのが本来、一番楽な方法です。
 しかし、彼女の冤罪を証明しないと彼女は国に戻れない。何とも歯痒い話ですねぇ……。
 
「じゃあ、どうやってルシリア様の無罪を証明するんですか!? あの方は努力も全部踏みにじられて! やっと名誉を回復することが出来ると思ったのに!」

「アネッサさん。まぁ、落ち着いてください。要するにエキドナさんが自白してしまえば良いのです。私に考えがありますから。万事お任せあれ」

 我ながら自分の性格の悪さに辟易がします。
 ですが、エキドナさん。
 あなたの犯した罪を、白日のもとに晒させて頂きますよ。
 せっかく真相を究明したのですから、私は最後まで自分の正義を貫きます。


しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。 彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。 そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。 彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。 しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。 だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

平民だからと婚約破棄された聖女は、実は公爵家の人間でした。復縁を迫られましたが、お断りします。

木山楽斗
恋愛
私の名前は、セレンティナ・ウォズエ。アルベニア王国の聖女である。 私は、伯爵家の三男であるドルバル・オルデニア様と婚約していた。しかし、ある時、平民だからという理由で、婚約破棄することになった。 それを特に気にすることもなく、私は聖女の仕事に戻っていた。元々、勝手に決められた婚約だったため、特に問題なかったのだ。 そんな時、公爵家の次男であるロクス・ヴァンデイン様が私を訪ねて来た。 そして私は、ロクス様から衝撃的なことを告げられる。なんでも、私は公爵家の人間の血を引いているらしいのだ。 という訳で、私は公爵家の人間になった。 そんな私に、ドルバル様が婚約破棄は間違いだったと言ってきた。私が公爵家の人間であるから復縁したいと思っているようだ。 しかし、今更そんなことを言われて復縁しようなどとは思えない。そんな勝手な論は、許されないのである。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。

聖女を騙って処刑されたと言われている私ですが、実は隣国で幸せに暮らしています。

木山楽斗
恋愛
聖女エルトナは、彼女を疎む王女の策略によって捕まっていた。 牢屋の前でやって来た王女は、エルトナのことを嘲笑った。王女にとって、平民の聖女はとても気に食わない者だったのだ。 しかしエルトナは、そこで牢屋から抜け出した。類稀なる魔法の才能を有していた彼女にとって、拘束など意味がないものだったのだ。 エルトナのことを怖がった王女は、気絶してしまった。 その隙にエルトナは、国を抜け出して、隣国に移ったのである。 王国は失態を隠すために、エルトナは処刑されたと喧伝していた。 だが、実際は違った。エルトナは隣国において、悠々自適に暮らしているのである。

偽者に奪われた聖女の地位、なんとしても取り返さ……なくていっか! ~奪ってくれてありがとう。これから私は自由に生きます~

日之影ソラ
恋愛
【小説家になろうにて先行公開中!】 https://ncode.syosetu.com/n9071il/ 異世界で村娘に転生したイリアスには、聖女の力が宿っていた。本来スローレン公爵家に生まれるはずの聖女が一般人から生まれた事実を隠すべく、八歳の頃にスローレン公爵家に養子として迎え入れられるイリアス。 貴族としての振る舞い方や作法、聖女の在り方をみっちり教育され、家の人間や王族から厳しい目で見られ大変な日々を送る。そんなある日、事件は起こった。 イリアスと見た目はそっくり、聖女の力?も使えるもう一人のイリアスが現れ、自分こそが本物のイリアスだと主張し、婚約者の王子ですら彼女の味方をする。 このままじゃ聖女の地位が奪われてしまう。何とかして取り戻そう……ん? 別にいっか! 聖女じゃないなら自由に生きさせてもらいますね! 重圧、パワハラから解放された聖女の第二の人生がスタートする!!

【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます

よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」  婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。 「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」 「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」  両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。  お姉様からは用が済んだからと捨てられます。 「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」 「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」  ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。  唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。  ここから私の人生が大きく変わっていきます。

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

処理中です...