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不十分な証人(オーウェン視点)
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我ながら自分の性格の悪さには辟易します。ですが、後で悔やむよりも先手を売っておいた方が良いと思ったのです。
エルガイアより、“最強の聖女”アナスタシアさんを派遣していただけたのは僥倖でした。
持つべきものは友。アークハルトさんには大変な借りが出来てしまいましたね。
どうやら、ルシリアさんは彼の計らいで宮廷ギルドに身を預けている模様。
アークハルトさんは公明正大な男です。
彼から見て、ルシリアさんは宮廷に欲しい人材だったということは、能力も人格も問題無しと捉えたのでしょう。
ルシリアさんという人材をエルガイアが得たことが、アナスタシアさんを借り受けるにあたって、プラスに働いたのは皮肉なお話かもしれませんねぇ。
「ローエルシュタイン家の様子はどうですか? アネッサさん」
「雰囲気は最悪と言っても良いでしょう。エキドナ様は荒れていますし、旦那様も憤慨しております」
「まぁ、そうなりますよねぇ」
新たな聖女を借り受けたという話はエキドナさんのプライドを著しく傷付けたみたいです。
これで、エキドナさんの主張が正しく、ルシリアさんが本当に杖を破壊した犯人ならば私は悪人では済まないでしょうね。
今でも証拠もなしに疑っているのですから業が深いと言われれば否定はしません。
真相の究明がしたい、というだけのことでこれだけのことをしたのですから。
「エキドナ様はオーウェン殿下のされたことが不当だとして、国王陛下に直談判すると言っていますが」
「ふーむ。エキドナさんには嫌われてしまったみたいですねぇ」
「それも致し方ないかと。あの方は自らの能力に絶対的な自信があり、他から見下されるのを何よりも嫌いますから」
アネッサさんの仰るとおり、エキドナさんにはそのような部分がありました。
生まれながらの強者ゆえの傲慢さ。力がある者は何をしても許されるという危険な思想。
私も何度かそれについて言及はしたのですが、彼女にとって私もまた弱者だったのでしょう。
王族という肩書をなくせば、魔法も使えぬ凡人。
私の言葉は決して彼女には響いてくれませんでした。
それでも、エキドナさんによってこの国は守られてきました。それは紛れもない事実です。
ですから、こればかりは私の予想は外れて欲しいと願っていました。
ルシリアさんに濡れ衣を着せたことが事実ならば、私は私の正義に基づいて動かなくてはならなくなりますから……。
「アナスタシアさん派遣の件は父上にも同意を得た話ですから心配は無用です。……それで、例の件はどうでしたか?」
「あの日のお昼過ぎにルシリア様が北の山に居たことを証明出来る人物は見つかりました。殿下の仰るとおり、あの場所を散歩コースにしている老人が何人か……。亜麻色の髪の魔術師を見たと」
「そうですか。やはり、“神託の杖”を破壊したのは……」
期待した答えを頂いて、私は少しだけ寂しい気持ちになりました。
あの北の山にはアークハルトさんと鷹狩に行ったことが何度かあるのですが、散歩をしている老人に会ったことが多かったので、それをルーティンにしている人が見つかるのでは、と思っていたのです。
――こんなにあっさりと証拠が見つかるとは。
エキドナさんの驕りですね。
絶対的な力を持つ聖女である自分が疑われることがないという自信がこのお粗末な結果を招いたのでしょう。
「アネッサさん、君はこれからどうします? 恐らく、ローエルシュタイン家は荒れますよ。エキドナさんの口車に乗せられたとはいえ、侯爵殿の罪も軽くはない……」
「実家に帰ります。ローエルシュタイン家の分家筋ですが、我が家にまでは罪は及ばないでしょうし」
「なるほど。君さえ良ければ私の側で執務をこなして欲しいと思うのですが。如何ですか?」
「えっ?」
アネッサさんは優秀な方です。
そして、何よりも情に厚い方です。
いち早くルシリアさんが不当に扱われたことに対して憤りを感じて動き、主人を裏切った上での制裁を覚悟しながら自分の意志を貫いたのですから。
それに証拠を集めるのも私の想定よりもかなり早かった。
複数人の証人を見つけるのは楽な仕事ではなかったでしょう。
「ありがたいお言葉です。すべてが上手く行けば、殿下の勧誘を慎んでお受けしましょう」
「上手く行けば、ですか。やはり不安ですか?」
「ルシリア様がこの場にいれば、老人たちも彼女がいたと口を揃えられるかと。ですが、当人がいないなら、似た別人であったと言い逃れが可能ではありませんか」
さすがですね。
アネッサさんは物事の本質をよく捉えています。
亜麻色の髪の魔術師を見た、というだけではルシリアさんがそこに居た、という証拠にはならない。
そのとおりですし、エキドナさんもそう言い逃れするでしょう。
「ルシリア様をアーメルツに呼び戻しますか? それならば、証人が顔を確認できますし」
「そうですねぇ。かなり手続きが難しいかもしれません。一度、追放処分していますから。彼女の冤罪が証明出来ないことには、こちらに戻すことは出来ないかと」
ルシリアさんに戻ってきてもらうのが本来、一番楽な方法です。
しかし、彼女の冤罪を証明しないと彼女は国に戻れない。何とも歯痒い話ですねぇ……。
「じゃあ、どうやってルシリア様の無罪を証明するんですか!? あの方は努力も全部踏みにじられて! やっと名誉を回復することが出来ると思ったのに!」
「アネッサさん。まぁ、落ち着いてください。要するにエキドナさんが自白してしまえば良いのです。私に考えがありますから。万事お任せあれ」
我ながら自分の性格の悪さに辟易がします。
ですが、エキドナさん。
あなたの犯した罪を、白日のもとに晒させて頂きますよ。
せっかく真相を究明したのですから、私は最後まで自分の正義を貫きます。
エルガイアより、“最強の聖女”アナスタシアさんを派遣していただけたのは僥倖でした。
持つべきものは友。アークハルトさんには大変な借りが出来てしまいましたね。
どうやら、ルシリアさんは彼の計らいで宮廷ギルドに身を預けている模様。
アークハルトさんは公明正大な男です。
彼から見て、ルシリアさんは宮廷に欲しい人材だったということは、能力も人格も問題無しと捉えたのでしょう。
ルシリアさんという人材をエルガイアが得たことが、アナスタシアさんを借り受けるにあたって、プラスに働いたのは皮肉なお話かもしれませんねぇ。
「ローエルシュタイン家の様子はどうですか? アネッサさん」
「雰囲気は最悪と言っても良いでしょう。エキドナ様は荒れていますし、旦那様も憤慨しております」
「まぁ、そうなりますよねぇ」
新たな聖女を借り受けたという話はエキドナさんのプライドを著しく傷付けたみたいです。
これで、エキドナさんの主張が正しく、ルシリアさんが本当に杖を破壊した犯人ならば私は悪人では済まないでしょうね。
今でも証拠もなしに疑っているのですから業が深いと言われれば否定はしません。
真相の究明がしたい、というだけのことでこれだけのことをしたのですから。
「エキドナ様はオーウェン殿下のされたことが不当だとして、国王陛下に直談判すると言っていますが」
「ふーむ。エキドナさんには嫌われてしまったみたいですねぇ」
「それも致し方ないかと。あの方は自らの能力に絶対的な自信があり、他から見下されるのを何よりも嫌いますから」
アネッサさんの仰るとおり、エキドナさんにはそのような部分がありました。
生まれながらの強者ゆえの傲慢さ。力がある者は何をしても許されるという危険な思想。
私も何度かそれについて言及はしたのですが、彼女にとって私もまた弱者だったのでしょう。
王族という肩書をなくせば、魔法も使えぬ凡人。
私の言葉は決して彼女には響いてくれませんでした。
それでも、エキドナさんによってこの国は守られてきました。それは紛れもない事実です。
ですから、こればかりは私の予想は外れて欲しいと願っていました。
ルシリアさんに濡れ衣を着せたことが事実ならば、私は私の正義に基づいて動かなくてはならなくなりますから……。
「アナスタシアさん派遣の件は父上にも同意を得た話ですから心配は無用です。……それで、例の件はどうでしたか?」
「あの日のお昼過ぎにルシリア様が北の山に居たことを証明出来る人物は見つかりました。殿下の仰るとおり、あの場所を散歩コースにしている老人が何人か……。亜麻色の髪の魔術師を見たと」
「そうですか。やはり、“神託の杖”を破壊したのは……」
期待した答えを頂いて、私は少しだけ寂しい気持ちになりました。
あの北の山にはアークハルトさんと鷹狩に行ったことが何度かあるのですが、散歩をしている老人に会ったことが多かったので、それをルーティンにしている人が見つかるのでは、と思っていたのです。
――こんなにあっさりと証拠が見つかるとは。
エキドナさんの驕りですね。
絶対的な力を持つ聖女である自分が疑われることがないという自信がこのお粗末な結果を招いたのでしょう。
「アネッサさん、君はこれからどうします? 恐らく、ローエルシュタイン家は荒れますよ。エキドナさんの口車に乗せられたとはいえ、侯爵殿の罪も軽くはない……」
「実家に帰ります。ローエルシュタイン家の分家筋ですが、我が家にまでは罪は及ばないでしょうし」
「なるほど。君さえ良ければ私の側で執務をこなして欲しいと思うのですが。如何ですか?」
「えっ?」
アネッサさんは優秀な方です。
そして、何よりも情に厚い方です。
いち早くルシリアさんが不当に扱われたことに対して憤りを感じて動き、主人を裏切った上での制裁を覚悟しながら自分の意志を貫いたのですから。
それに証拠を集めるのも私の想定よりもかなり早かった。
複数人の証人を見つけるのは楽な仕事ではなかったでしょう。
「ありがたいお言葉です。すべてが上手く行けば、殿下の勧誘を慎んでお受けしましょう」
「上手く行けば、ですか。やはり不安ですか?」
「ルシリア様がこの場にいれば、老人たちも彼女がいたと口を揃えられるかと。ですが、当人がいないなら、似た別人であったと言い逃れが可能ではありませんか」
さすがですね。
アネッサさんは物事の本質をよく捉えています。
亜麻色の髪の魔術師を見た、というだけではルシリアさんがそこに居た、という証拠にはならない。
そのとおりですし、エキドナさんもそう言い逃れするでしょう。
「ルシリア様をアーメルツに呼び戻しますか? それならば、証人が顔を確認できますし」
「そうですねぇ。かなり手続きが難しいかもしれません。一度、追放処分していますから。彼女の冤罪が証明出来ないことには、こちらに戻すことは出来ないかと」
ルシリアさんに戻ってきてもらうのが本来、一番楽な方法です。
しかし、彼女の冤罪を証明しないと彼女は国に戻れない。何とも歯痒い話ですねぇ……。
「じゃあ、どうやってルシリア様の無罪を証明するんですか!? あの方は努力も全部踏みにじられて! やっと名誉を回復することが出来ると思ったのに!」
「アネッサさん。まぁ、落ち着いてください。要するにエキドナさんが自白してしまえば良いのです。私に考えがありますから。万事お任せあれ」
我ながら自分の性格の悪さに辟易がします。
ですが、エキドナさん。
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