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招かれざる客
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結婚式が始まった。
アリシア殿下とレイナードが入場して、和やかな雰囲気で進行している。
「アリシア殿下、おきれいですね」
「んっ? ああ、そうだな」
私がアークハルト殿下にそう声をかけると殿下は短く返事をした。
どこか寂しそうな顔をしている。どうしたのだろうか。
「何かありましたか? どこか体の調子が悪いとか」
「えっ? 俺の体の調子が悪いだって? どうして?」
「いえ、何やら思いつめた顔をされていましたから」
あまりにも晴れの日に似つかわしくない表情をしていた殿下に私は思いきってどういう訳なのか質問をした。
体を壊しているなら大変だと思っていたから。
「そ、そうか。俺はそんなに酷い顔をしていたのか。まったく、妹の結婚式で何をしているのやら」
私の言葉を聞いてアークハルト殿下は微笑みながら、項垂れる。
うーん。どうやら、体調の問題じゃないみたいね。
一体どうしたというのかしら。それなら尚更心配なんだけど。
「俺も婚約していたからな。式をするなら俺が先だったはずなんだ。そんなことを考えていただけだよ。顔に出ていたのなら迂闊だった」
――そうだったわね。
エリスさんという方とアークハルト殿下は婚約をしていた。
そんな話を以前、カールシュヴァイツ邸でお世話になったときにサーシャさんから聞いたわ。
王太子である殿下が本当は一番先に結婚しなくてはならないのだろうけど、エリスさんを失って……。
「だが、こういうときに笑ってアリシアの門出を祝えなきゃ、エリスに叱られる。すまない、ルシリア。もう大丈夫だから」
その笑顔は悲しかった。
だけど、それ以上にアークハルト殿下の悲しみを乗り越えようとする強い意志が感じられ、私はそれ以上何も言えなかったわ。
そして、結婚式も終盤に差し掛かる。
ルミリオン公爵が手紙を読み終えると、次はアリシア殿下がルミリオン家の歴史について、語り、その血塗られた歴史に終止符を打つというプログラムになっていると私は殿下より聞いていた。
そう、聞いていたのだけど……。
「――っ!? アークハルト殿下、殺気を感じます。この会場の中に誰か悪意を孕んでいる者が紛れ込んだみたいです」
「なんだって……!?」
それは私が垂れ流している魔力の網が察知したほんの少しの邪気。
パーティーが始まる直前にロイドさんが万が一のために出席者たちの動向にも気を配ってほしいと頼まれていたのだ。
彼が言うにはルミリオン家に恨みを持つ者たちが暗殺者を送り込んだかもしれないとのこと。
裏の社会では彼らは随分と恨みを買っていたみたいだから……。
「ロイドからの伝令。会場内に三人、変装した暗殺者が紛れ込んでいる。既に他の賊は制圧した」
「フレメアか。君がここに来たということは、ルシリアが感じた気配は本当に招かれざる客のようだな」
当然のように誰にも気付かれずに私たちの側に報告にくるフレメアさん。
ということは、ロイドさんの掴んだ情報は本当だったんだ。
これは荒れそうね。あの商人父娘の企みを阻止しておいて良かったわ。
「あ、あのう。アークハルト殿下、私も――」
「うむ。頼めるか? パーティーに付き合わせた上に悪いな。今度、必ず埋め合わせをする」
「はい。期待して待っていますね」
この結婚式を台無しにさせるわけにはいかない。
こんな使命感というものが芽生えるとは思わなかった。
でも、この国は、アークハルト殿下は、追放されて行く宛がなくなった私の恩人だから……精一杯の恩返しがしたい!
「風の結界……」
室内を風の結界で覆い尽くし、怪しい動きをする人をいち早く察知する。
フレメアさんだけじゃなくて、ロイドさんも会場の中に入ってきたみたいね。
騒ぎを大きくすると、そのどさくさに紛れて、動きを察知しにくくなるからそれは悪手。だから、こうして少人数で探る他ない。
「「「――っ!?」」」
その瞬間、私は誰かがルミリオン公爵や新郎新婦であるアリシア殿下とレイナードの元に近付こうとしているのを察知した。
フレメアさんがまずはルミリオン公爵に近付く不審な男の腕を掴み、腹に拳をねじ込み昏倒させて動きを封じる。
そして、私とロイドさんはアリシア殿下とレイナードの元にゆらりと向かっている男たちの元に急ぐ。
「双氷燕《ダブルスワロ》ッ……!」
「……っ!? 魔術師か!?」
「クソッ! 足が……!?」
足元を狙って氷の燕を飛ばした私。
二人の男の足は燕の直撃を受けて、またたく間に凍る。しかしながら、この二人は暗殺者としてフレメアさんが捕まえた男よりも格上らしく、即座に靴を脱いで天井付近まで飛び上がる。
「風翼!」
「「――っ!?」」
「土巨人の腕!」
「「あばっ!?」」
いつでも魔法を発動出来るように準備していて良かったわ。
風の結界のおかげで目をつむっても相手の位置も把握出来たし。
風の翼で私も宙を舞い上がり、魔法陣から召喚した巨人の腕で二人を叩き落とす。
「お、おのれ~! うぐっ――!?」
「あの女、何者!? がっ――!?」
普通の人からとっくに気絶してもおかしくないのに、勢いよく立ち上がる二人。すごくタフね……。
あっ!? 倒れた……! どういうこと?
「また、お手柄ですねぇ。ルシリアさん」
どうやったのか分からないが、ロイドさんが二人の男たちの背中をトンとついた瞬間に二人はその場に倒れる。今のは魔法、それとも……。
流石は特務隊の隊長。普段は書類整理とか雑務をこなしているけど、現場に出るとこんな感じなんだ。
静かに、何の騒ぎも起きずに、三人の招かれざる客は会場から排除された。
アリシア殿下の結婚式が台無しにならないで良かったわ。
この後、アリシア殿下はルミリオン公爵家の闇について話をして、少しだけ会場内はざわついたが、何事もなく式は終わった……。
「今日もご苦労だった。ルシリアがエルガイアに来てくれて本当に良かったと俺は思っているよ」
「賊を制圧したのはロイドさんとフレメアさんですが……お役に立てて何よりです。私もこの国に来ることが出来て良かったと思っています」
アリシア殿下の結婚式を守ることが出来たのは誇らしいと思っている。
そして、アークハルト殿下の言葉は何よりも誇らしい。
この国に来てくれて良かったと殿下が微笑んでくれた。それは私にとって大きな活力になるだろう。
「ルシリア、君がもしもアーメルツに……」
「アーメルツに? 何のお話ですか?」
「……いや、何でもない。それはまた話すよ」
白い歯を見せて微笑むアークハルト殿下は何か言葉を飲み込み、私を馬車へとエスコートされる。
アーメルツ王国は私の故郷。殿下は何を言おうとしたのだろう。
色んな疑問が頭に浮かんだけど、今日は疲れたし、考えるのは明日からにしよう――。
アリシア殿下とレイナードが入場して、和やかな雰囲気で進行している。
「アリシア殿下、おきれいですね」
「んっ? ああ、そうだな」
私がアークハルト殿下にそう声をかけると殿下は短く返事をした。
どこか寂しそうな顔をしている。どうしたのだろうか。
「何かありましたか? どこか体の調子が悪いとか」
「えっ? 俺の体の調子が悪いだって? どうして?」
「いえ、何やら思いつめた顔をされていましたから」
あまりにも晴れの日に似つかわしくない表情をしていた殿下に私は思いきってどういう訳なのか質問をした。
体を壊しているなら大変だと思っていたから。
「そ、そうか。俺はそんなに酷い顔をしていたのか。まったく、妹の結婚式で何をしているのやら」
私の言葉を聞いてアークハルト殿下は微笑みながら、項垂れる。
うーん。どうやら、体調の問題じゃないみたいね。
一体どうしたというのかしら。それなら尚更心配なんだけど。
「俺も婚約していたからな。式をするなら俺が先だったはずなんだ。そんなことを考えていただけだよ。顔に出ていたのなら迂闊だった」
――そうだったわね。
エリスさんという方とアークハルト殿下は婚約をしていた。
そんな話を以前、カールシュヴァイツ邸でお世話になったときにサーシャさんから聞いたわ。
王太子である殿下が本当は一番先に結婚しなくてはならないのだろうけど、エリスさんを失って……。
「だが、こういうときに笑ってアリシアの門出を祝えなきゃ、エリスに叱られる。すまない、ルシリア。もう大丈夫だから」
その笑顔は悲しかった。
だけど、それ以上にアークハルト殿下の悲しみを乗り越えようとする強い意志が感じられ、私はそれ以上何も言えなかったわ。
そして、結婚式も終盤に差し掛かる。
ルミリオン公爵が手紙を読み終えると、次はアリシア殿下がルミリオン家の歴史について、語り、その血塗られた歴史に終止符を打つというプログラムになっていると私は殿下より聞いていた。
そう、聞いていたのだけど……。
「――っ!? アークハルト殿下、殺気を感じます。この会場の中に誰か悪意を孕んでいる者が紛れ込んだみたいです」
「なんだって……!?」
それは私が垂れ流している魔力の網が察知したほんの少しの邪気。
パーティーが始まる直前にロイドさんが万が一のために出席者たちの動向にも気を配ってほしいと頼まれていたのだ。
彼が言うにはルミリオン家に恨みを持つ者たちが暗殺者を送り込んだかもしれないとのこと。
裏の社会では彼らは随分と恨みを買っていたみたいだから……。
「ロイドからの伝令。会場内に三人、変装した暗殺者が紛れ込んでいる。既に他の賊は制圧した」
「フレメアか。君がここに来たということは、ルシリアが感じた気配は本当に招かれざる客のようだな」
当然のように誰にも気付かれずに私たちの側に報告にくるフレメアさん。
ということは、ロイドさんの掴んだ情報は本当だったんだ。
これは荒れそうね。あの商人父娘の企みを阻止しておいて良かったわ。
「あ、あのう。アークハルト殿下、私も――」
「うむ。頼めるか? パーティーに付き合わせた上に悪いな。今度、必ず埋め合わせをする」
「はい。期待して待っていますね」
この結婚式を台無しにさせるわけにはいかない。
こんな使命感というものが芽生えるとは思わなかった。
でも、この国は、アークハルト殿下は、追放されて行く宛がなくなった私の恩人だから……精一杯の恩返しがしたい!
「風の結界……」
室内を風の結界で覆い尽くし、怪しい動きをする人をいち早く察知する。
フレメアさんだけじゃなくて、ロイドさんも会場の中に入ってきたみたいね。
騒ぎを大きくすると、そのどさくさに紛れて、動きを察知しにくくなるからそれは悪手。だから、こうして少人数で探る他ない。
「「「――っ!?」」」
その瞬間、私は誰かがルミリオン公爵や新郎新婦であるアリシア殿下とレイナードの元に近付こうとしているのを察知した。
フレメアさんがまずはルミリオン公爵に近付く不審な男の腕を掴み、腹に拳をねじ込み昏倒させて動きを封じる。
そして、私とロイドさんはアリシア殿下とレイナードの元にゆらりと向かっている男たちの元に急ぐ。
「双氷燕《ダブルスワロ》ッ……!」
「……っ!? 魔術師か!?」
「クソッ! 足が……!?」
足元を狙って氷の燕を飛ばした私。
二人の男の足は燕の直撃を受けて、またたく間に凍る。しかしながら、この二人は暗殺者としてフレメアさんが捕まえた男よりも格上らしく、即座に靴を脱いで天井付近まで飛び上がる。
「風翼!」
「「――っ!?」」
「土巨人の腕!」
「「あばっ!?」」
いつでも魔法を発動出来るように準備していて良かったわ。
風の結界のおかげで目をつむっても相手の位置も把握出来たし。
風の翼で私も宙を舞い上がり、魔法陣から召喚した巨人の腕で二人を叩き落とす。
「お、おのれ~! うぐっ――!?」
「あの女、何者!? がっ――!?」
普通の人からとっくに気絶してもおかしくないのに、勢いよく立ち上がる二人。すごくタフね……。
あっ!? 倒れた……! どういうこと?
「また、お手柄ですねぇ。ルシリアさん」
どうやったのか分からないが、ロイドさんが二人の男たちの背中をトンとついた瞬間に二人はその場に倒れる。今のは魔法、それとも……。
流石は特務隊の隊長。普段は書類整理とか雑務をこなしているけど、現場に出るとこんな感じなんだ。
静かに、何の騒ぎも起きずに、三人の招かれざる客は会場から排除された。
アリシア殿下の結婚式が台無しにならないで良かったわ。
この後、アリシア殿下はルミリオン公爵家の闇について話をして、少しだけ会場内はざわついたが、何事もなく式は終わった……。
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アリシア殿下の結婚式を守ることが出来たのは誇らしいと思っている。
そして、アークハルト殿下の言葉は何よりも誇らしい。
この国に来てくれて良かったと殿下が微笑んでくれた。それは私にとって大きな活力になるだろう。
「ルシリア、君がもしもアーメルツに……」
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