【完結】濡れ衣聖女はもう戻らない 〜ホワイトな宮廷ギルドで努力の成果が実りました

冬月光輝

文字の大きさ
上 下
17 / 27

招かれざる客

しおりを挟む
 結婚式が始まった。
 アリシア殿下とレイナードが入場して、和やかな雰囲気で進行している。

「アリシア殿下、おきれいですね」
「んっ? ああ、そうだな」

 私がアークハルト殿下にそう声をかけると殿下は短く返事をした。
 どこか寂しそうな顔をしている。どうしたのだろうか。

「何かありましたか? どこか体の調子が悪いとか」

「えっ? 俺の体の調子が悪いだって? どうして?」

「いえ、何やら思いつめた顔をされていましたから」

 あまりにも晴れの日に似つかわしくない表情をしていた殿下に私は思いきってどういう訳なのか質問をした。
 体を壊しているなら大変だと思っていたから。

「そ、そうか。俺はそんなに酷い顔をしていたのか。まったく、妹の結婚式で何をしているのやら」

 私の言葉を聞いてアークハルト殿下は微笑みながら、項垂れる。
 うーん。どうやら、体調の問題じゃないみたいね。
 一体どうしたというのかしら。それなら尚更心配なんだけど。

「俺も婚約していたからな。式をするなら俺が先だったはずなんだ。そんなことを考えていただけだよ。顔に出ていたのなら迂闊だった」

 ――そうだったわね。
 エリスさんという方とアークハルト殿下は婚約をしていた。
 そんな話を以前、カールシュヴァイツ邸でお世話になったときにサーシャさんから聞いたわ。
 王太子である殿下が本当は一番先に結婚しなくてはならないのだろうけど、エリスさんを失って……。

「だが、こういうときに笑ってアリシアの門出を祝えなきゃ、エリスに叱られる。すまない、ルシリア。もう大丈夫だから」

 その笑顔は悲しかった。
 だけど、それ以上にアークハルト殿下の悲しみを乗り越えようとする強い意志が感じられ、私はそれ以上何も言えなかったわ。
 
 そして、結婚式も終盤に差し掛かる。  
 ルミリオン公爵が手紙を読み終えると、次はアリシア殿下がルミリオン家の歴史について、語り、その血塗られた歴史に終止符を打つというプログラムになっていると私は殿下より聞いていた。
 そう、聞いていたのだけど……。

「――っ!? アークハルト殿下、殺気を感じます。この会場の中に誰か悪意を孕んでいる者が紛れ込んだみたいです」

「なんだって……!?」

 それは私が垂れ流している魔力の網が察知したほんの少しの邪気。
 パーティーが始まる直前にロイドさんが万が一のために出席者たちの動向にも気を配ってほしいと頼まれていたのだ。
 彼が言うにはルミリオン家に恨みを持つ者たちが暗殺者を送り込んだかもしれないとのこと。
 裏の社会では彼らは随分と恨みを買っていたみたいだから……。

「ロイドからの伝令。会場内に三人、変装した暗殺者が紛れ込んでいる。既に他の賊は制圧した」
「フレメアか。君がここに来たということは、ルシリアが感じた気配は本当に招かれざる客のようだな」

 当然のように誰にも気付かれずに私たちの側に報告にくるフレメアさん。
 ということは、ロイドさんの掴んだ情報は本当だったんだ。
 これは荒れそうね。あの商人父娘の企みを阻止しておいて良かったわ。

「あ、あのう。アークハルト殿下、私も――」
「うむ。頼めるか? パーティーに付き合わせた上に悪いな。今度、必ず埋め合わせをする」
「はい。期待して待っていますね」

 この結婚式を台無しにさせるわけにはいかない。
 こんな使命感というものが芽生えるとは思わなかった。
 でも、この国は、アークハルト殿下は、追放されて行く宛がなくなった私の恩人だから……精一杯の恩返しがしたい!

風の結界エアカーテン……」

 室内を風の結界で覆い尽くし、怪しい動きをする人をいち早く察知する。
 フレメアさんだけじゃなくて、ロイドさんも会場の中に入ってきたみたいね。
 騒ぎを大きくすると、そのどさくさに紛れて、動きを察知しにくくなるからそれは悪手。だから、こうして少人数で探る他ない。

「「「――っ!?」」」

 その瞬間、私は誰かがルミリオン公爵や新郎新婦であるアリシア殿下とレイナードの元に近付こうとしているのを察知した。
 フレメアさんがまずはルミリオン公爵に近付く不審な男の腕を掴み、腹に拳をねじ込み昏倒させて動きを封じる。 
 そして、私とロイドさんはアリシア殿下とレイナードの元にゆらりと向かっている男たちの元に急ぐ。

「双氷燕《ダブルスワロ》ッ……!」
「……っ!? 魔術師か!?」
「クソッ! 足が……!?」

 足元を狙って氷の燕を飛ばした私。
 二人の男の足は燕の直撃を受けて、またたく間に凍る。しかしながら、この二人は暗殺者としてフレメアさんが捕まえた男よりも格上らしく、即座に靴を脱いで天井付近まで飛び上がる。

風翼ウィング!」
「「――っ!?」」
土巨人の腕ギガントアーム!」
「「あばっ!?」」

 いつでも魔法を発動出来るように準備していて良かったわ。
 風の結界エアカーテンのおかげで目をつむっても相手の位置も把握出来たし。
 風の翼で私も宙を舞い上がり、魔法陣から召喚した巨人の腕で二人を叩き落とす。

「お、おのれ~! うぐっ――!?」
「あの女、何者!? がっ――!?」

 普通の人からとっくに気絶してもおかしくないのに、勢いよく立ち上がる二人。すごくタフね……。
 あっ!? 倒れた……! どういうこと?

「また、お手柄ですねぇ。ルシリアさん」

 どうやったのか分からないが、ロイドさんが二人の男たちの背中をトンとついた瞬間に二人はその場に倒れる。今のは魔法、それとも……。
 流石は特務隊の隊長。普段は書類整理とか雑務をこなしているけど、現場に出るとこんな感じなんだ。

 静かに、何の騒ぎも起きずに、三人の招かれざる客は会場から排除された。
 アリシア殿下の結婚式が台無しにならないで良かったわ。

 この後、アリシア殿下はルミリオン公爵家の闇について話をして、少しだけ会場内はざわついたが、何事もなく式は終わった……。


「今日もご苦労だった。ルシリアがエルガイアに来てくれて本当に良かったと俺は思っているよ」

「賊を制圧したのはロイドさんとフレメアさんですが……お役に立てて何よりです。私もこの国に来ることが出来て良かったと思っています」

 アリシア殿下の結婚式を守ることが出来たのは誇らしいと思っている。
 そして、アークハルト殿下の言葉は何よりも誇らしい。
 この国に来てくれて良かったと殿下が微笑んでくれた。それは私にとって大きな活力になるだろう。

「ルシリア、君がもしもアーメルツに……」

「アーメルツに? 何のお話ですか?」

「……いや、何でもない。それはまた話すよ」

 白い歯を見せて微笑むアークハルト殿下は何か言葉を飲み込み、私を馬車へとエスコートされる。
 アーメルツ王国は私の故郷。殿下は何を言おうとしたのだろう。
 色んな疑問が頭に浮かんだけど、今日は疲れたし、考えるのは明日からにしよう――。
 
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

堅実に働いてきた私を無能と切り捨てたのはあなた達ではありませんか。

木山楽斗
恋愛
聖女であるクレメリアは、謙虚な性格をしていた。 彼女は、自らの成果を誇示することもなく、淡々と仕事をこなしていたのだ。 そんな彼女を新たに国王となったアズガルトは軽んじていた。 彼女の能力は大したことはなく、何も成し遂げられない。そう判断して、彼はクレメリアをクビにした。 しかし、彼はすぐに実感することになる。クレメリアがどれ程重要だったのかを。彼女がいたからこそ、王国は成り立っていたのだ。 だが、気付いた時には既に遅かった。クレメリアは既に隣国に移っており、アズガルトからの要請など届かなかったのだ。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

聖女を騙って処刑されたと言われている私ですが、実は隣国で幸せに暮らしています。

木山楽斗
恋愛
聖女エルトナは、彼女を疎む王女の策略によって捕まっていた。 牢屋の前でやって来た王女は、エルトナのことを嘲笑った。王女にとって、平民の聖女はとても気に食わない者だったのだ。 しかしエルトナは、そこで牢屋から抜け出した。類稀なる魔法の才能を有していた彼女にとって、拘束など意味がないものだったのだ。 エルトナのことを怖がった王女は、気絶してしまった。 その隙にエルトナは、国を抜け出して、隣国に移ったのである。 王国は失態を隠すために、エルトナは処刑されたと喧伝していた。 だが、実際は違った。エルトナは隣国において、悠々自適に暮らしているのである。

平民だからと婚約破棄された聖女は、実は公爵家の人間でした。復縁を迫られましたが、お断りします。

木山楽斗
恋愛
私の名前は、セレンティナ・ウォズエ。アルベニア王国の聖女である。 私は、伯爵家の三男であるドルバル・オルデニア様と婚約していた。しかし、ある時、平民だからという理由で、婚約破棄することになった。 それを特に気にすることもなく、私は聖女の仕事に戻っていた。元々、勝手に決められた婚約だったため、特に問題なかったのだ。 そんな時、公爵家の次男であるロクス・ヴァンデイン様が私を訪ねて来た。 そして私は、ロクス様から衝撃的なことを告げられる。なんでも、私は公爵家の人間の血を引いているらしいのだ。 という訳で、私は公爵家の人間になった。 そんな私に、ドルバル様が婚約破棄は間違いだったと言ってきた。私が公爵家の人間であるから復縁したいと思っているようだ。 しかし、今更そんなことを言われて復縁しようなどとは思えない。そんな勝手な論は、許されないのである。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。

偽者に奪われた聖女の地位、なんとしても取り返さ……なくていっか! ~奪ってくれてありがとう。これから私は自由に生きます~

日之影ソラ
恋愛
【小説家になろうにて先行公開中!】 https://ncode.syosetu.com/n9071il/ 異世界で村娘に転生したイリアスには、聖女の力が宿っていた。本来スローレン公爵家に生まれるはずの聖女が一般人から生まれた事実を隠すべく、八歳の頃にスローレン公爵家に養子として迎え入れられるイリアス。 貴族としての振る舞い方や作法、聖女の在り方をみっちり教育され、家の人間や王族から厳しい目で見られ大変な日々を送る。そんなある日、事件は起こった。 イリアスと見た目はそっくり、聖女の力?も使えるもう一人のイリアスが現れ、自分こそが本物のイリアスだと主張し、婚約者の王子ですら彼女の味方をする。 このままじゃ聖女の地位が奪われてしまう。何とかして取り戻そう……ん? 別にいっか! 聖女じゃないなら自由に生きさせてもらいますね! 重圧、パワハラから解放された聖女の第二の人生がスタートする!!

【完結】姉に婚約者を奪われ、役立たずと言われ家からも追放されたので、隣国で幸せに生きます

よどら文鳥
恋愛
「リリーナ、俺はお前の姉と結婚することにした。だからお前との婚約は取り消しにさせろ」  婚約者だったザグローム様は婚約破棄が当然のように言ってきました。 「ようやくお前でも家のために役立つ日がきたかと思ったが、所詮は役立たずだったか……」 「リリーナは伯爵家にとって必要ない子なの」  両親からもゴミのように扱われています。そして役に立たないと、家から追放されることが決まりました。  お姉様からは用が済んだからと捨てられます。 「あなたの手柄は全部私が貰ってきたから、今回の婚約も私のもの。当然の流れよね。だから謝罪するつもりはないわよ」 「平民になっても公爵婦人になる私からは何の援助もしないけど、立派に生きて頂戴ね」  ですが、これでようやく理不尽な家からも解放されて自由になれました。  唯一の味方になってくれた執事の助言と支援によって、隣国の公爵家へ向かうことになりました。  ここから私の人生が大きく変わっていきます。

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

処理中です...